あの約束を、もう一度

夕凪

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第三章

教師としての責務と誇り

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栗林についていき、案内されたのは生徒指導室。



大きめの机を挟んでパイプ椅子がそれぞれ3脚づつ並んでいる。



「座れ」



命令するような口調で高圧的に言われ、俺はなにも言わず静かに座った。



栗林も反対側に俺と向かい合うようにして勢いよく座った。



栗林は眼鏡を外して机にゆっくりと置き、目頭を掻くように押さえる。



「体調はもう大丈夫か?・・・指にまだ絆創膏を貼っているようだが」



まさか体調の心配をされると思っていなかった俺は拍子抜けしてしまった。



「うん。もう大丈夫。指はもうほとんど治ってきたよ」



「そうか」



沈黙が広がる。



栗林は俺に聞こえるように息を吐いた。



「本題だ。・・・なんであんな軽率な行動を取ったのか、俺が納得できるような説明をしろ」



きた。



この手の質問をされることは予測していた。



だが、母親から貰ったネックレスを失くしてしまって、それを探していたがためにいろんな人を心配させ、迷惑をかけてしまったなどと言えない。



「そ、それは・・・」



かと言って他に言い訳も見つからなかった俺は黙り込んでしまった。



「お前は生意気ではあるがバカじゃない。・・・意味もなく人様に迷惑かけたりするような人間じゃないはずだ」



筋肉で太くなった腕を組んで俺に冷たい視線を浴びせる。



依然として高圧的な口調ではあったが、その言葉の中には俺を信じようとする栗林の気持ちが感じ取れた。



それに、本当のことを言わないと栗林はこのままずっとここで俺に問い質し続けるだろう。



俺はゆっくりと言葉を並べていく。



「・・・ネックレスを探してたんだ」



「ネックレス?」



栗林の眉間に皺が寄る。



俺は身に付けたネックレスを触りながら続ける。



自宅療養の間に壊れたチェーンを新しいものに変えたのだ。



「・・・このネックレスは母親が家を出て行く前に俺にくれたものなんだ。ゴミ拾いしてていつの間にかどっかにいっちゃって・・・。ずっと・・・探してました」



「この大バカ野郎が!!!」



そう言って栗林は怒声を俺に浴びせながら握った拳を机に勢いよく叩きつけた。



大きな音に反射的に体がびくっと反応する。



・・・超怖い。



やっぱり馬鹿正直に言うんじゃなかった。



きっと次に栗林は『そんなもののために迷惑をかけたのか!』とか言い出すだろう。



だが、栗林が口にした言葉は、俺が想像していたものとは違っていた。



「今回は遭難することなく無事に帰って来ることができたからよかったものの、もしお前が遭難でもして無事に戻って来れなかった時のことを考えてみろ!その理由を知った時、お前のお父さんとお母さんはどう思う!?」



「・・・!」



そんなこと考えてもいなかった。



栗林は立ち上がり、窓の外の夕焼けを見ながら続けた。



「知らないかもしれないが、お前が転校してくる前にお父さんと面談をしたんだ。『息子には辛い思いをさせてしまった。しかし息子は道を外すことなく元気に成長してくれました。生意気なところもありますが根は優しくて素直な子です。息子の事、どうぞよろしくお願いします』・・・そう言って頭を下げていた」



父親からはそんなこと聞いていなかった。



「・・・俺はな、お父さんとお母さんが命を懸けて守ってきたお前の命を預かっているんだ」



「・・・」



「そのネックレスがお前にとって代わりの利かない大事なものだということはわかる。でもな、それのために自分を危険に晒すのは違うってのがなんでわからねえんだお前は!もし取り返しのつかないことになったら元も子もねえだろうが!」



ひと際大きな声で怒鳴り、再び机をドンドンと叩きつけた。



栗林は俺の隣に静かに座る。



「久保田、これからはこんなことがないよう約束してくれ。・・・頼むから」



そう言って俺の肩に大きな手を乗せる。



その瞳は相変わらず鋭い眼光を放ってはいたが、教師としての責務を果たさなければいけないという強い意志が感じられた。



それは頼もしくもあり、それでいて慈悲深く優しいものだった。



「・・・ごめん・・・なさい・・・」



嫌でも父親と母親の顔を思い浮かべてしまった俺は、鼻の奥が痛くなり涙声になりながら言う。



「・・・バカが。男が簡単に泣いてんじゃねえよ」



そう言って栗林は俺のおでこを指で弾いた。



「・・・泣いてなんかない」



鼻をすすりながら言う俺。



栗林は外していた眼鏡をかけてから、再び机を挟んで正面に座った。



「よし。じゃあ今からペナルティー課題をやれ。今日は俺がずっとここにいてやるから」



そう言っていつの間に持って来ていたのだろうか、何冊もの問題集を俺の前に広げた。



国語、数学、英語、理科、社会などはもちろん、保健体育、情報A、美術まである。



今度は違う意味で泣きそうになった。



「も、もしかして・・・、これ全部?」



「お前は罰を体に叩き込んで覚えないとちゃんと俺の気持ちを理解しないだろう?」



「今日はもう遅いから帰って家でやらせていただきます。そういうことで・・・」



俺は立ち上がって逃げ出そうとした。



「座れ」



冷たく凄んだ声が聞こえた瞬間、俺は降参した。



もう逃げられない。



俺は栗林の監視の元、休憩を与えられることもなく、20時過ぎまで問題集を解いていったのだった。


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