あの約束を、もう一度

夕凪

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第三章

狂い始めた運命

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「・・・さっきからなんで全然喋んないの?」



向かい合って湯船に浸かっている智也を見ながら言う。



セックスが終わった後にお互い体を綺麗にしてから、こうして一緒に温かいお湯を張った湯船に2人で浸かっていた。



檜の香りがする黄色のお湯は、昨日からずっと続いていた行為のせいで固まっていた体をじんわりと解してくれるような気がした。



「・・・いや、その───」



必死に言葉を探しているが、結局気の利いた言葉は思い浮かばなかったようで、智也はまた黙り込んでしまった。



先に述べたように、智也は俺を抱き終わってから一言も言葉を発しなかった。



セックスの最中はあんなに饒舌に言葉を並べていたのに、急にいつもの寡黙な感じで接せられると逆に居心地が悪い。



「───先に上がるな」



この空気に耐えられなくなった俺はバシャリと音を立てて立ち上がった。



幾分か軽くなった脚を上げて湯船を跨ごうとすると智也に腕を掴まれる。



「もう少し、・・・一緒にいてくれ」



「・・・」



俺は返事を返すことなく再び湯船に浸かる。



「「・・・・・・・」」



浴室に響くのは、俺がお湯を転がして遊ぶ音だけ。



チャプン、チャプンと意味もなく黄色いお湯を弄ぶ。



ちらっと智也を見てみるが、当の本人はお湯を睨んでいるだけ。



そうだった。



───こういう時、智也は自分から言葉を発するのが苦手なのだった。



「・・・智也は家でお湯に浸かんの?それともシャワーだけ?」



どうでもいいようなことを聞いてみる。



「・・・」



俺の声が届いていないようだ。



「おーい」



「・・・!───な、なんだ?」



「俺の話聞いてる?」



「すまん。聞いてなかった」



「だろうと思った」



俺は少し笑う。



「なに考えてた?」



俺はちゃんとした答えが返ってくることを期待せずに聞いた。



きっといつもみたいに適当にはぐらかすだろう、と。



智也はあまり自分の気持ちとか感情を表に出さない男だ。



『もしお前が俺の子供を孕んだら野球も高校も辞めて、お前と子供のために働いて……。俺、マジで頑張れるから───』



『龍、好きだ……。───愛してる』



───じゃあ、あの言葉は?



セックスの最中は理性なんてものはどこか遠くに吹っ飛んでしまうものだ。



きっと智也もそうだったに違いない。



今思い出せばこっぱずかしくなるようなセリフを口にしたことは、智也も覚えてはいないだろう。



そうでなければ俺が困る───の、かな?



雄大と諒太に抱かれたときは媚薬の効果もあったから話は変わってくるが、智也とのセックスの時、俺の体は媚薬の効果から解放されていた。



その上で───ひいては自分の意志で。



俺は智也に抱かれることを選んだのだ。



抗う術はいくらでもあったはずだ。



智也を振り切って浴室から飛び出してもよかったのだ。



じゃあ、俺はどうして───?



正直、智也とのセックスは嫌ではなかった。



むしろ俺の体で気持ち良くなってくれて嬉しいとさえ思っていた。



どうやら媚薬のせいで頭がおかしくなったようだ。



───そういうことにしておこう。



「・・・なあ」



智也が口を動かした。



「ん?」



俺は言葉少なく返事を返す。



「俺───。無防備なお前を抱いたこと申し訳ないとは思ってるけど、・・・後悔はしてない」



「・・・」



「あんなことしておいてこんなこと言うと疑われるかもしれねえけどさ」



「・・・」



「俺、お前のことほんとに好きなんだ。俺がセックスの最中に口にしたことに・・・。嘘偽りはない」



・・・!!!



潤の顔が脳裏に浮かぶ。



楽しそうにキラキラした笑顔で智也の事を話す潤の顔が───。



「俺と、これから先・・・。ずっと一緒にいて欲しい」



だめだ。



やめてくれ。



それ以上言わないでくれ・・・!



「龍。俺と付き合ってください」



どうして───。



こんなことに・・・。



狂い始めた歯車は、もう元には戻らない。


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