14 / 39
14-人体切断連続殺人事件Ⅹ
しおりを挟む
「僕は、生まれたときから――人形なんだ」
セシルの無機質な笑みとともに、地下室の空気が一瞬凍りついた。
シャルウッドが血も流れないその腕にわずかに怯んだ、その時。
轟音とともに石壁の一部が吹き飛ぶ。
隠し扉が破壊され、煙の中からティベリオが飛び込んでくる。
その後ろには武装した警官たちが数名、銃を構えて雪崩れ込んだ。
「セシル!」
ティベリオの叫びに、セシルは小さく笑みを浮かべる。
そして落ちた自らの腕を、さり気なく後ろに隠した。
「……なぜここが……!」
シャルウッドが顔を引きつらせる。
ティベリオは冷ややかな目で彼を射抜いた。
「そいつには高性能の発信機と通信機が取り付けられてたんだ。この部屋のこと、お前のやったことも、全部聞かせてもらったぞ」
「あぁ……本当に残念です。私の創作活動がこんなところで幕引きだなんて」
そう呟く様子は罪を悔いているというよりも、これ以上人形が作れなくなるということを残念がっているようだ。
一方、警官たちは地下室を見回し、血の気を失っていた。
「……なんだ、この部屋は……」
「人形……?いや、これは……」
壁際に並ぶ異様な人形と被害者達に息を呑みながらも、シャルウッドに組みつき腕を背中にねじ上げ抑え込む。
「本当に残念だ。人形ほど崇高で美しい存在はないというのに……」
「黙れ!いったいどれだけの人間を手にかけたんだ、この人殺しめ」
床に押さえつけられ、手錠をかけられるシャルウッド。
その狂気に満ちた笑みが狭い地下室に虚しく響き渡った。
ティベリオはすぐにセシルの元へ駆け寄り、自分の上着を肩にかける。
「……よく耐えたな。あとは俺達警察に任せろ」
セシルは小さく頷き、そっと息を吐いた。
事件から二日後。
ティベリオは数部の新聞を抱えて、セシルの屋敷を訪れた。
「どこの新聞社もこぞって取り上げているぞ、今回の事件をな」
セシルが入り浸っている本棚のある部屋で、ティベリオは新聞を広げて見せる。
紙面には「優秀と言われた医師の狂気」「名門の醜聞」「美を追う殺人鬼」などと大きな見出しが並んでいた。
記事には、犯人であるシャルウッドはその罪の重さから公開処刑にされることや、彼の両親であるハドン伯爵夫妻が親戚に爵位を譲って田舎に引っ越したことなどが記されている。
「当然だろうね。それだけの事をしたんだから」
セシルが新聞を覗き込みながら言う。
「取り調べも大変だったんだろ?」
「……なんで知ってる」
「鑑識の眼鏡くんがわざわざ知らせを寄越してね」
「あぁ、モルスか」
そこでティベリオは新聞をめくるセシルの腕に視線を止めた。
確かに切り落とされたはずの腕が、何事もなかったかのようにそこにある。
「ところで……その腕、どうやって治したんだ?すっぱり切られてたはずだろ」
セシルは新聞を折りたたみ、軽く肩を竦めて見せる。
「父さんの工房から道具を借りて、予備を取りつけたんだよ。僕のボディパーツは万が一に備えて、いくつか予備があるんだ。壊れたら付け替えられる……人形の便利なところだよねぇ」
あまりに淡々とした口ぶりに、ティベリオは何とも言えない表情だ。
「せっかく小型防御装置持たせてくれたのに、使う余裕なかったよ」
「そうか……」
しばしの沈黙のあと、ティベリオは重い声で口を開いた。
「セシル……実はな、取り調べであの院長が気になることを言っていた」
「気になること?」
「……人形の作り方を、ラッジから教わったそうだ」
「父さんが!?」
思わず声を上げたセシルにティベリオは小さく頷く。
「ラッジは一年前、馬車と車の事故に巻き込まれてハドン伯爵家の病院に運ばれたらしい。写真を見せたところ、特徴も一致した。怪我のせいで記憶を失っていたが……人形作りは体が覚えていたんだろうな。リハビリ代わりに人形を作り他の入院患者に配っていたそうだ」
セシルの脳裏に、作業台に向かうラッジの背中がよぎる。
ティベリオは続ける。
「それに目を付けたのが院長――シャルウッドだ。やつはラッジの作る人形に魅了されたそうだ。ラッジに頼み込んで人形造りを教わったまでは良かったが、元から精神が歪んでいたのか、途中で歪み始めたのかは……ラッジの作る人形に少しでも近づける為、人間を素材にするという狂気に行きついたらしい」
セシルの指先がわずかに震える。
「それで父さんは……?」
「事故から三か月後、『記憶の一部を思い出した』と言い残して退院したそうだ。それきり行方は分かっていない」
「……そう」
一歩前進したと思ったがラッジの捜索はまた振り出しに戻ったようだ。
「また、コツコツと手掛かりを集めるしかないのか……」
セシルのその声はどこか寂しそうに響いた。
セシルの無機質な笑みとともに、地下室の空気が一瞬凍りついた。
シャルウッドが血も流れないその腕にわずかに怯んだ、その時。
轟音とともに石壁の一部が吹き飛ぶ。
隠し扉が破壊され、煙の中からティベリオが飛び込んでくる。
その後ろには武装した警官たちが数名、銃を構えて雪崩れ込んだ。
「セシル!」
ティベリオの叫びに、セシルは小さく笑みを浮かべる。
そして落ちた自らの腕を、さり気なく後ろに隠した。
「……なぜここが……!」
シャルウッドが顔を引きつらせる。
ティベリオは冷ややかな目で彼を射抜いた。
「そいつには高性能の発信機と通信機が取り付けられてたんだ。この部屋のこと、お前のやったことも、全部聞かせてもらったぞ」
「あぁ……本当に残念です。私の創作活動がこんなところで幕引きだなんて」
そう呟く様子は罪を悔いているというよりも、これ以上人形が作れなくなるということを残念がっているようだ。
一方、警官たちは地下室を見回し、血の気を失っていた。
「……なんだ、この部屋は……」
「人形……?いや、これは……」
壁際に並ぶ異様な人形と被害者達に息を呑みながらも、シャルウッドに組みつき腕を背中にねじ上げ抑え込む。
「本当に残念だ。人形ほど崇高で美しい存在はないというのに……」
「黙れ!いったいどれだけの人間を手にかけたんだ、この人殺しめ」
床に押さえつけられ、手錠をかけられるシャルウッド。
その狂気に満ちた笑みが狭い地下室に虚しく響き渡った。
ティベリオはすぐにセシルの元へ駆け寄り、自分の上着を肩にかける。
「……よく耐えたな。あとは俺達警察に任せろ」
セシルは小さく頷き、そっと息を吐いた。
事件から二日後。
ティベリオは数部の新聞を抱えて、セシルの屋敷を訪れた。
「どこの新聞社もこぞって取り上げているぞ、今回の事件をな」
セシルが入り浸っている本棚のある部屋で、ティベリオは新聞を広げて見せる。
紙面には「優秀と言われた医師の狂気」「名門の醜聞」「美を追う殺人鬼」などと大きな見出しが並んでいた。
記事には、犯人であるシャルウッドはその罪の重さから公開処刑にされることや、彼の両親であるハドン伯爵夫妻が親戚に爵位を譲って田舎に引っ越したことなどが記されている。
「当然だろうね。それだけの事をしたんだから」
セシルが新聞を覗き込みながら言う。
「取り調べも大変だったんだろ?」
「……なんで知ってる」
「鑑識の眼鏡くんがわざわざ知らせを寄越してね」
「あぁ、モルスか」
そこでティベリオは新聞をめくるセシルの腕に視線を止めた。
確かに切り落とされたはずの腕が、何事もなかったかのようにそこにある。
「ところで……その腕、どうやって治したんだ?すっぱり切られてたはずだろ」
セシルは新聞を折りたたみ、軽く肩を竦めて見せる。
「父さんの工房から道具を借りて、予備を取りつけたんだよ。僕のボディパーツは万が一に備えて、いくつか予備があるんだ。壊れたら付け替えられる……人形の便利なところだよねぇ」
あまりに淡々とした口ぶりに、ティベリオは何とも言えない表情だ。
「せっかく小型防御装置持たせてくれたのに、使う余裕なかったよ」
「そうか……」
しばしの沈黙のあと、ティベリオは重い声で口を開いた。
「セシル……実はな、取り調べであの院長が気になることを言っていた」
「気になること?」
「……人形の作り方を、ラッジから教わったそうだ」
「父さんが!?」
思わず声を上げたセシルにティベリオは小さく頷く。
「ラッジは一年前、馬車と車の事故に巻き込まれてハドン伯爵家の病院に運ばれたらしい。写真を見せたところ、特徴も一致した。怪我のせいで記憶を失っていたが……人形作りは体が覚えていたんだろうな。リハビリ代わりに人形を作り他の入院患者に配っていたそうだ」
セシルの脳裏に、作業台に向かうラッジの背中がよぎる。
ティベリオは続ける。
「それに目を付けたのが院長――シャルウッドだ。やつはラッジの作る人形に魅了されたそうだ。ラッジに頼み込んで人形造りを教わったまでは良かったが、元から精神が歪んでいたのか、途中で歪み始めたのかは……ラッジの作る人形に少しでも近づける為、人間を素材にするという狂気に行きついたらしい」
セシルの指先がわずかに震える。
「それで父さんは……?」
「事故から三か月後、『記憶の一部を思い出した』と言い残して退院したそうだ。それきり行方は分かっていない」
「……そう」
一歩前進したと思ったがラッジの捜索はまた振り出しに戻ったようだ。
「また、コツコツと手掛かりを集めるしかないのか……」
セシルのその声はどこか寂しそうに響いた。
0
あなたにおすすめの小説
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる