人形探偵セシル

陽翔

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37-人形探偵セシルⅠ

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都市から大分離れた郊外の洞窟に、ティベリオは足を踏み入れていた。
いつものチョコレート色のスーツ姿ではなく、今日は動きやすさを重視した作業着姿。
背には採掘道具などを詰めたリュックを背負い、片手には明かり取りのランタンを掲げている。

ランタンの揺らめく光が、湿った岩肌を照らし出す。
足元は泥にまみれて滑りやすく、一歩ごとに靴底へ重さがまとわりつく。ティベリオは慎重に足場を確かめながら進んでいった。

(……足場が悪いな。ラッジはこんな場所で人形造りのアイディアを探していたのか)

長い付き合いのティベリオでも、時折ラッジの感性は理解不能だ。
自然からインスピレーションを得る作家がいるとは聞いたことがあるが、洞窟にまで足を延ばすのはラッジくらいだろう。

(だが、そのおかげでセシルが生まれたんだよな……)




ティベリオが初めてセシルと会ったのはもう五年も前だ。
ラッジが『特別な人形を生み出したからぜひ見に来て!!君にも紹介したいんだ!!』と呼び出され、尋ねてみるとそこにいたのはどう見ても人間にしか見えない存在だった。
唯一人形らしいところと言えば、表情がぴくりとも動かないところだ。

『ティベリオ、この子が特別な人形だよ。名前はセシル!とても綺麗だろう?』

満面の笑みでそう告げたラッジの言葉に反応するように、セシルが顔を上げた。

『う、動いた!?』

驚いて声を上げたティベリオに、ラッジは笑う。

『そう!この子は生きてるんだ!話も出来るんだよ?……セシル、彼はティベリオ。俺の親友で、幼馴染なんだ。ご挨拶できるかい?』

子供に言い聞かせる様な口調で話しかけるとセシルは数回瞬きをした後、ティベリオを見つめて口を開いた。

『……父さんと幼馴染なのに老けてるね。仕事に疲れ切った中間管理職のおじさんみたい』
『…………は?』

綺麗な顔からは想像していなかった毒舌にティベリオは絶句した。
吹き出したラッジを軽く睨みつけ、怒鳴る。

『ラッジ!!なんだこの失礼な人形は!!』
『人を指さすのは失礼じゃないわけ?それにすぐ怒鳴るなんて心に余裕がない証拠だ、そんな男はモテないよ』
『なっ!?』

怒りと困惑で言葉を失うティベリオを見て、ラッジは笑いをこらえながら弁解する。

『ふふっ、ごめんごめん。セシルの学習の力が高すぎてね、いろんな本や新聞を読み聞かせたんだよ。そしたらこうなってしまったんだ』
『いったいどんな読み聞かせしたらこうなるんだよ!?』

その日から、ティベリオはセシルの性格を修正しようと何度も会いに行った。だが結局、セシルは変わらなかった。
もっとも、昔に比べれば彼への態度は幾分かマイルドになった気もする。ただ他人への毒舌は健在のようだが。


セシルとの距離が一気に縮まったのは、ラッジが行方不明になってからだ。

『父さんが帰ってこないんだ……!ティベリオ、君は警察官だろ!?父さんを探して!』

必死に縋るように訴えたセシルに、ティベリオはすぐにうなずいた。
ラッジの安否も心配だったが、それと同じくらいに一人になってしまったセシルを支えてやらなければと思ったのだ。
だからこそ、どんなに口が悪くても、ふざけた呼び方で呼ばれても、ティベリオは相棒としてセシルの隣に立ち続けてきた。

(……まったく、手のかかる相棒だよな)

心の中でそう呟きながら洞窟の中を捜索していると、ふと前方にある石壁の片隅に結晶化した魔石を見つけた。
透明度は申し分なく、大きさも成人男性の手のひらほど。これならセシルを修復するには十分だろう。

リュックの中から採掘道具を取り出し、ティベリオは慎重に採掘を始めた。
魔石を傷つけないように、欠けたりひびが入ったりしないように、周囲の岩を少しずつ削り落としていく。
やがて、パキリと小さな音を立てて魔石は石壁から離れ、ごろりとごろりとティベリオの手の中に納まった。
ランタンの明かりを受けた透明な結晶は淡くきらめいている。
それを布で包み、そっとリュックへしまい込む。

(これで、セシルが助けられる……)

一刻も早くラッジの元へ魔石を届けるため、ティベリオは迷いなく帰路を急いだ。
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