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第3章
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三
トールの働きかけと同時に、他の三軍団の長もそれぞれに運動を始め、結果、四人の軍団長と、それぞれの部下の指揮官が一堂に会する場が設けられることになった。
指揮官不在の部隊の運用が問題視されたが、人類軍全体の方針を考える必要が優先された。
トールと僕も、他の指揮官に部隊を任せ、会合の場所へと向かった。他にも数人の有力な指揮官が従っている。
会合場所は戦線への移動も考えて、それほど離れてはいない。
僕たちの到着は、三番目だった。会場になったホールには、円卓が置かれ、そこでは二人の男が話し合っている。空席は二つ。
そこにいる二人が、第一軍団と第二軍団の軍団長だった。僕は顔も知っているし、話したことも数回だがある。
トールが二人に声をかける。そして空席に座り、三人で話を始めた。
僕は僕で、部屋のそこここで話をしている連中の輪にさりげなく加わる。知っている顔は多い。昔からの知り合いもいた。
「ラグーン!」
昔馴染みが抱きついてくる。こちらも軽く腕を回した。
「お前さんが死んだとは聞かなかったが、生きているのも不思議なもんだ」
「意外にしぶといのさ」
軽口を返しつつ、この場の五人で知らないものとは自己紹介をし、ゆっくりと本題へ移る。
これから行われる会合では、四つの軍団の今後が話し合われるが、僕たちも無関係ではない。それぞれに自分の所属する軍団や軍団長のために、情報を集め、かつ、工作する必要もある。
その点に関しては、トールは僕にいくつか指示を出した。
トールが最も知りたいのは、他の三人の軍団長の意図であり、具体的には、三人のうちに、自分に権力を集中させる意図を持つ者がいるか、そこを探るように指示された。
僕は今、軍団長に近い副官や指揮官たちの話から、その真意を推し量る必要がある。
ただ、彼らも同じようなものだろう。
「それで、第四軍団長はどういう考えかな」
馴染みの男が話題を振ってくる。僕は別に口止めされていない。
「合議制を目指しているんだ。それは他の軍団にも通信を送ったはずだけど」
「第四軍団は」別の男が言う。「だいぶ兵士が離脱したと聞いているけど、どれくらい?」
「一個大隊が消えたよ」
短い沈黙。
「それは大きいな。合議制の理由は兵力の補填かな」
これはカマかけ。
「第四軍団の強さを知るために、観戦に来ればいいよ」
僕の冗談で、場が和んだ。即座に質問。
「それで他の軍団はどうなっている?」
「第一軍団も実は、そちらさんと大差ない兵力が逃げたよ。大きいというのは、こちらも同じ。第四大隊はもっと少ない、と考えていた。すまんな」
「第二軍団も同じく」
第三軍団の指揮官たちは到着していない。それでも同数の兵が離脱しているとすると、全部で四個大隊が在野に下ったことになる。これが統合されると、ほとんど一個軍団になる。
これは非常に危険な気がするが、しかし、もはや手遅れだ。
そのことを匂わせてみると、この場の数人もそのことを気にしているようだ。
僕はその輪を離れて、別の会話に加わった。ここにも知り合いはいる。
しばらくそんなことを繰り返し、情報を集めていたが、結局、その日は第三軍団の軍団長が戦線が騒がしかったせいで一日遅れると連絡があり、解散になった。
解散の後も交流というか、情報交換は必要になる。僕も近場の酒場へ知り合いと繰り出すつもりだった。
そこへトールがやってきて、「ちょっと来い」と腕を引いた。
そのまま僕たち二人は共も連れずに、野営用のテントへ移動した。トールに理由を聞いたが、はっきりした返事はなかった。
テントの前に来て、そのテントの幕に、異国の宗教のエンブレムが確認できた。
「待ってください、トール」
僕は反射的に踏ん張った。
「僕は宗教はちょっと、よくわからないんですよ」
「俺だって知らん」
トールは平然としている。
「お前の体を見てもらえ。それだけだ」
「医者に見せていますよ」
「それだけでは不足だろう」
そう言うなり、トールが僕の服の袖をめくり上げた。腕にある傷跡の周りが、黒ずんでいる。
「これは普通の怪我ではないだろう」
「悪魔の間での伝染病かもしれないですよ」
息を吐いたトールは、僕の腕を握り直すと、もう何も言わずにテントの中へ僕を引きずり込んだ。
出ようと思えば出られただろう。でもそのためにはトールの手を振りほどく必要があった。
でもその動きができない気配が、テントの中に満ちていた。
テントの奥にシンボルが安置され、それに向かって、テントを埋めるほどの人が跪いて、頭を垂れている。誰も声を発さず、身じろぎさえしない中、打楽器の発する小さな高い音だけが鳴っていた。
僕は流石に雰囲気に飲まれて、口をつぐみ、動きを止めて、その場を観察した。
隣にいるトールも黙って立ち尽くし、いつの間にか僕の腕を解放した。
しばらくそのまま立っていると、打楽器が強く打たれ、その瞬間にまるで解けるように、全員が動き出した。めいめいに立ち上がり、テントを出ようとする。僕とトールは道を開け、最後の一人が出て行くまで待っていた。
残ったのは僕とトールだけだ。そしてテントに、法衣を着た男が入ってくる。いや、法衣だけど、それは上着だけで、その下には鎧を着ている。
「第四軍団長のトール様ですね?」
男が低い声で言う。トールは頭を下げ、
「そうです、異国人隊のダイアン殿」
「我々は自分たちのことを教徒隊、と呼んでいます」
「それは、失礼しました」
トールが頭を下げ、それから俺を前に引っ張る。
「こいつの体を診てもらえませんか?」
ダイアンが僕を見る。僕は軽く頭を下げた。トールは「任せます」と言って、テントを出て行ってしまった。
ダイアンと二人きりになると、やけに沈黙を重く感じる。
「体を診るとは」ダイアンが首から下げているシンボルを手に取る。「どういった意味でしょうか? 病ですか? 怪我ですか?」
「いえ、その……」
ここまで勢いに飲まれていたけど、しかし、僕は宗教をよく理解できない。
「しかしあなたには」
ダイアンが僕をじっと見据えた。
「何やら、異質な気配がしますね。失礼して」
ダイアンが僕の手を手に取る。しばらく、僕の手に触れていた。
「多くの悪魔を切って来ましたね。しかし、それでは説明できない、何かを感じます」
わけがわからない。悪魔を数多く切ったのは、わかりきっている。それで説明できない、ってなんのことだろう?
「我々は教徒になる人間を祝福して、神の守護を受けることができるように祈ります。あなたにもそれを受ける資格はある。いえ、全ての人間に、等しく、資格はあります。ですが……」
手を離して、ダイアンが頭を下げた。
「あなたには、それも及ばないと感じます」
僕は思わずダイアンをまじまじと見た。彼は目を伏せている。
声をかけようとした時、テントに誰かが入ってきた。
「あ、神官様、申し訳ありません」
赤い長い髪を結んだ女性だ。頭を下げて、すぐに去っていく。
ダイアンも気を取り直したようだ。
「ラグーン様。あなたの肉体を蝕むものは、おそらく、あなたの心を蝕んでいるのです」
「あなたには、何が、わかるのですか?」
「何もわかりません。私は神ではありません。しかし、あなたの気配からそんな気がするのです。希望があると我々はどんな時でも考えます。あなたにもおそらく、それはあるはずです。その希望こそが、あなたを生かすでしょう」
僕はもう何も言えなかった。
ダイアンは深く頭を下げ、テントを出て行った。入れ違いに小姓のような少年が入ってきて、テントの中を掃除し始めた。
今更、酒場に行く気にもなれず、僕は自分たちの宿舎に戻った。
翌日、早朝から例の円卓をトールも含めた三人が囲み、雑談なのか議論なのか、わからないことをしている。第三軍団の司令官はまだやってこない。
僕は昨夜のこともあり、建物の外に出て、玄関でぼんやりと立っていた。
宗教に病気を治す力があるとは思えないが、しかし、彼らの考える奇跡さえも効果のない病気とは、さすがに、心が重くなる。
馬が駆けてくる音がして、視線を向けると、こちらへ乗馬で向かってくる女性が見えた。羽織っているコートは軍服のそれだ。その女性のはるか向こうに、馬の群れが見えた。
女性が馬を降り、こちらへ歩いてくる。ゆっくりとした歩みだ。
そのコートにある意匠が、第三軍団のそれだとわかった時、僕は反射的に敬礼していた。
女性もラフに敬礼し、通り過ぎようとするが、その足が止まる。こちらを見ていた。
「君の名前は?」
突然の質問。
「第四軍団長補佐官、ラグーンです」
「ラグーン?」
女性が僕の様子を仔細に観察し、頷く。
「どこかで聞いた名前だ。悪魔の武器を奪ったんだったな」
「過去のことです」
「だが、その剣がその戦利品だろう? 悪くなく見えるぞ。君の腕には見合いの品だろう」
冗談だろうか……? しかし、この人は誰だ?
「軍団長!」
女性の後から来ていた馬の群れが到着し、そこから降りた男たちが駆け寄ってくる。
軍団長?
「あなたが」僕は恐る恐る聞いた。「第三軍団の……」
「そうだ」
女性が敬礼。
「第三軍団長アリスだ。以後、よろしく、ラグーン補佐官」
女性が建物に入っていく。つまり、もう会合が始まる。僕はアリスの補佐官たちの後を追うようにして、建物に戻った。
「すまない、遅くなった!」
アリスが円卓に着く。部屋に散っていた補佐官や指揮官たちは、それぞれに自分の上官の背後に控える。空気が緊張し、誰の指示もないのにしんと静まり返った。
その空気に最初の言葉を投げかけたのは、トールだった。
「ここに人類軍の実戦指揮官がおおよそ揃ったことになります」
トールが部屋を見回す、その背中を僕は見ていた。
彼は政治には興味はない、と常々、言っている。
その彼が今、政治を始めようとしている。
僕は集中を高めた。
トールの働きかけと同時に、他の三軍団の長もそれぞれに運動を始め、結果、四人の軍団長と、それぞれの部下の指揮官が一堂に会する場が設けられることになった。
指揮官不在の部隊の運用が問題視されたが、人類軍全体の方針を考える必要が優先された。
トールと僕も、他の指揮官に部隊を任せ、会合の場所へと向かった。他にも数人の有力な指揮官が従っている。
会合場所は戦線への移動も考えて、それほど離れてはいない。
僕たちの到着は、三番目だった。会場になったホールには、円卓が置かれ、そこでは二人の男が話し合っている。空席は二つ。
そこにいる二人が、第一軍団と第二軍団の軍団長だった。僕は顔も知っているし、話したことも数回だがある。
トールが二人に声をかける。そして空席に座り、三人で話を始めた。
僕は僕で、部屋のそこここで話をしている連中の輪にさりげなく加わる。知っている顔は多い。昔からの知り合いもいた。
「ラグーン!」
昔馴染みが抱きついてくる。こちらも軽く腕を回した。
「お前さんが死んだとは聞かなかったが、生きているのも不思議なもんだ」
「意外にしぶといのさ」
軽口を返しつつ、この場の五人で知らないものとは自己紹介をし、ゆっくりと本題へ移る。
これから行われる会合では、四つの軍団の今後が話し合われるが、僕たちも無関係ではない。それぞれに自分の所属する軍団や軍団長のために、情報を集め、かつ、工作する必要もある。
その点に関しては、トールは僕にいくつか指示を出した。
トールが最も知りたいのは、他の三人の軍団長の意図であり、具体的には、三人のうちに、自分に権力を集中させる意図を持つ者がいるか、そこを探るように指示された。
僕は今、軍団長に近い副官や指揮官たちの話から、その真意を推し量る必要がある。
ただ、彼らも同じようなものだろう。
「それで、第四軍団長はどういう考えかな」
馴染みの男が話題を振ってくる。僕は別に口止めされていない。
「合議制を目指しているんだ。それは他の軍団にも通信を送ったはずだけど」
「第四軍団は」別の男が言う。「だいぶ兵士が離脱したと聞いているけど、どれくらい?」
「一個大隊が消えたよ」
短い沈黙。
「それは大きいな。合議制の理由は兵力の補填かな」
これはカマかけ。
「第四軍団の強さを知るために、観戦に来ればいいよ」
僕の冗談で、場が和んだ。即座に質問。
「それで他の軍団はどうなっている?」
「第一軍団も実は、そちらさんと大差ない兵力が逃げたよ。大きいというのは、こちらも同じ。第四大隊はもっと少ない、と考えていた。すまんな」
「第二軍団も同じく」
第三軍団の指揮官たちは到着していない。それでも同数の兵が離脱しているとすると、全部で四個大隊が在野に下ったことになる。これが統合されると、ほとんど一個軍団になる。
これは非常に危険な気がするが、しかし、もはや手遅れだ。
そのことを匂わせてみると、この場の数人もそのことを気にしているようだ。
僕はその輪を離れて、別の会話に加わった。ここにも知り合いはいる。
しばらくそんなことを繰り返し、情報を集めていたが、結局、その日は第三軍団の軍団長が戦線が騒がしかったせいで一日遅れると連絡があり、解散になった。
解散の後も交流というか、情報交換は必要になる。僕も近場の酒場へ知り合いと繰り出すつもりだった。
そこへトールがやってきて、「ちょっと来い」と腕を引いた。
そのまま僕たち二人は共も連れずに、野営用のテントへ移動した。トールに理由を聞いたが、はっきりした返事はなかった。
テントの前に来て、そのテントの幕に、異国の宗教のエンブレムが確認できた。
「待ってください、トール」
僕は反射的に踏ん張った。
「僕は宗教はちょっと、よくわからないんですよ」
「俺だって知らん」
トールは平然としている。
「お前の体を見てもらえ。それだけだ」
「医者に見せていますよ」
「それだけでは不足だろう」
そう言うなり、トールが僕の服の袖をめくり上げた。腕にある傷跡の周りが、黒ずんでいる。
「これは普通の怪我ではないだろう」
「悪魔の間での伝染病かもしれないですよ」
息を吐いたトールは、僕の腕を握り直すと、もう何も言わずにテントの中へ僕を引きずり込んだ。
出ようと思えば出られただろう。でもそのためにはトールの手を振りほどく必要があった。
でもその動きができない気配が、テントの中に満ちていた。
テントの奥にシンボルが安置され、それに向かって、テントを埋めるほどの人が跪いて、頭を垂れている。誰も声を発さず、身じろぎさえしない中、打楽器の発する小さな高い音だけが鳴っていた。
僕は流石に雰囲気に飲まれて、口をつぐみ、動きを止めて、その場を観察した。
隣にいるトールも黙って立ち尽くし、いつの間にか僕の腕を解放した。
しばらくそのまま立っていると、打楽器が強く打たれ、その瞬間にまるで解けるように、全員が動き出した。めいめいに立ち上がり、テントを出ようとする。僕とトールは道を開け、最後の一人が出て行くまで待っていた。
残ったのは僕とトールだけだ。そしてテントに、法衣を着た男が入ってくる。いや、法衣だけど、それは上着だけで、その下には鎧を着ている。
「第四軍団長のトール様ですね?」
男が低い声で言う。トールは頭を下げ、
「そうです、異国人隊のダイアン殿」
「我々は自分たちのことを教徒隊、と呼んでいます」
「それは、失礼しました」
トールが頭を下げ、それから俺を前に引っ張る。
「こいつの体を診てもらえませんか?」
ダイアンが僕を見る。僕は軽く頭を下げた。トールは「任せます」と言って、テントを出て行ってしまった。
ダイアンと二人きりになると、やけに沈黙を重く感じる。
「体を診るとは」ダイアンが首から下げているシンボルを手に取る。「どういった意味でしょうか? 病ですか? 怪我ですか?」
「いえ、その……」
ここまで勢いに飲まれていたけど、しかし、僕は宗教をよく理解できない。
「しかしあなたには」
ダイアンが僕をじっと見据えた。
「何やら、異質な気配がしますね。失礼して」
ダイアンが僕の手を手に取る。しばらく、僕の手に触れていた。
「多くの悪魔を切って来ましたね。しかし、それでは説明できない、何かを感じます」
わけがわからない。悪魔を数多く切ったのは、わかりきっている。それで説明できない、ってなんのことだろう?
「我々は教徒になる人間を祝福して、神の守護を受けることができるように祈ります。あなたにもそれを受ける資格はある。いえ、全ての人間に、等しく、資格はあります。ですが……」
手を離して、ダイアンが頭を下げた。
「あなたには、それも及ばないと感じます」
僕は思わずダイアンをまじまじと見た。彼は目を伏せている。
声をかけようとした時、テントに誰かが入ってきた。
「あ、神官様、申し訳ありません」
赤い長い髪を結んだ女性だ。頭を下げて、すぐに去っていく。
ダイアンも気を取り直したようだ。
「ラグーン様。あなたの肉体を蝕むものは、おそらく、あなたの心を蝕んでいるのです」
「あなたには、何が、わかるのですか?」
「何もわかりません。私は神ではありません。しかし、あなたの気配からそんな気がするのです。希望があると我々はどんな時でも考えます。あなたにもおそらく、それはあるはずです。その希望こそが、あなたを生かすでしょう」
僕はもう何も言えなかった。
ダイアンは深く頭を下げ、テントを出て行った。入れ違いに小姓のような少年が入ってきて、テントの中を掃除し始めた。
今更、酒場に行く気にもなれず、僕は自分たちの宿舎に戻った。
翌日、早朝から例の円卓をトールも含めた三人が囲み、雑談なのか議論なのか、わからないことをしている。第三軍団の司令官はまだやってこない。
僕は昨夜のこともあり、建物の外に出て、玄関でぼんやりと立っていた。
宗教に病気を治す力があるとは思えないが、しかし、彼らの考える奇跡さえも効果のない病気とは、さすがに、心が重くなる。
馬が駆けてくる音がして、視線を向けると、こちらへ乗馬で向かってくる女性が見えた。羽織っているコートは軍服のそれだ。その女性のはるか向こうに、馬の群れが見えた。
女性が馬を降り、こちらへ歩いてくる。ゆっくりとした歩みだ。
そのコートにある意匠が、第三軍団のそれだとわかった時、僕は反射的に敬礼していた。
女性もラフに敬礼し、通り過ぎようとするが、その足が止まる。こちらを見ていた。
「君の名前は?」
突然の質問。
「第四軍団長補佐官、ラグーンです」
「ラグーン?」
女性が僕の様子を仔細に観察し、頷く。
「どこかで聞いた名前だ。悪魔の武器を奪ったんだったな」
「過去のことです」
「だが、その剣がその戦利品だろう? 悪くなく見えるぞ。君の腕には見合いの品だろう」
冗談だろうか……? しかし、この人は誰だ?
「軍団長!」
女性の後から来ていた馬の群れが到着し、そこから降りた男たちが駆け寄ってくる。
軍団長?
「あなたが」僕は恐る恐る聞いた。「第三軍団の……」
「そうだ」
女性が敬礼。
「第三軍団長アリスだ。以後、よろしく、ラグーン補佐官」
女性が建物に入っていく。つまり、もう会合が始まる。僕はアリスの補佐官たちの後を追うようにして、建物に戻った。
「すまない、遅くなった!」
アリスが円卓に着く。部屋に散っていた補佐官や指揮官たちは、それぞれに自分の上官の背後に控える。空気が緊張し、誰の指示もないのにしんと静まり返った。
その空気に最初の言葉を投げかけたのは、トールだった。
「ここに人類軍の実戦指揮官がおおよそ揃ったことになります」
トールが部屋を見回す、その背中を僕は見ていた。
彼は政治には興味はない、と常々、言っている。
その彼が今、政治を始めようとしている。
僕は集中を高めた。
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