20 / 20
終章
しおりを挟む
終
剣聖ラグーン、暗殺される。
その情報はあっという間に世間に広まった。ラグーンの遺体は遺書の存在により、その遺言に従い、人類軍が未だに悪魔と戦う防御陣地の、その後方にある名高い決戦の地にある霊廟に遺骨だけが収められた。
暗殺された村で村人たちが遺体を荼毘に付したからだ。
ラグーンの愛剣の二本もまた、霊廟に収められた。
大勢の国民が押し寄せ、さらに大規模な追悼式典が終わり、数日が過ぎた。
廟は静けさを取り戻していた。
その地下にある、戦果の多かった英霊の碑にラグーンのものが加えられている。この空間は一般人は立ち入り禁止である。
今、その碑の前に、二人の男がいた。
一人はダイアン。今、彼はこの廟の管理者の一人である。
そしてもう一人は、ローブをまとい、フードを目深に被っている。周りの暗さもあり、容貌は見えない。
「せっかく、書状をいただいたのに、申し訳ありません」
「そんなことはありません。こちらこそ、お手数をおかけして、申し訳ない」
フードの男は、ラグーンだった。
「私から剣聖の称号の返上の意思を、政府に伝えようとしたのですが、軍部にはねのけられ、何もできませんでした」
そう、ラグーンは二通の書状を送った。一通はシグナル、一通はダイアンだった。
既にその時点で、誰かしらが強硬手段に出る、ということをラグーンは推測していたし、もしそれが杞憂に終わっても、それはそれでいいと考えていた。
実際はシグナルの方が、早かった。剣聖の返上の前に、ラグーンを消そうした。
そのために、旧知のスカルスを送り込んだ。何を考えてのことだったのか、実際のところは、シグナルにしかわからない。あるいはラグーンが、スカルスを切れない、と考えたのかもしれない。しかし実際は、ラグーンが生き残った。
ラルクと打ち合わせをして、ラグーンの骨として、スカルスの骨がラグーンの二本の剣とともに首都に送られた。そして今、その骨は霊廟に収められている。
碑の前に、ある剣をダイアンがそっと撫でる。
「それで、ここに置いていくのですか?」
「今は、必要がないものです」
ラグーンは石碑を見上げ、それから、深く頭を下げた。
廟を出て、ダイアンが尋ねた。
「どちらへ行かれるのですか? あの村へは帰れないでしょう?」
「しばらく、旅でもしますよ。まだ知らないことも多い」
強がりを言ってはいけません。ダイアンが即座に応じた。
「あなたには、帰る場所が必要でしょう。あの村が、そうなのではないですか?」
ラグーンは小さく笑い声を漏らすと、そうですね、と遠くに視線を向けた。
「いずれは戻るつもりです。今すぐは、無理ですが」
「旅の無事を、祈っています」
ダイアンがシンボルを握って、頭を下げた。ラグーンは、もう一度、頭を下げて、身を翻した。
◆
この話を僕に伝えてくれた人は、語り終えてから僕に微笑みかけた。
「それで」
僕はその微笑みに問いかけた。
「彼のその後は?」
その人は何も言わず、ただ笑むだけだ。
僕は質問を変えた。
「アリスという司令官のことですが」
「彼女は人間ではなかった、守護女神のようなものだった」
なるほど、と僕は思った。
「悪魔のように強い剣聖と、その守護女神。悪くないですね」
「そういう存在がいなければ、勝ち抜けなかった。彼らがどういう結末を迎えたとしても」
その言葉を手帳に書き取ってから、僕はその手帳をゆっくりと閉じた。
少しの世間話の後、 僕は汽車の時間になり、その場を辞することになった。
「そうだ」
思い出したように、玄関口で僕は質問した。
「あなたは、大戦における英雄を一人、挙げるとしたら、誰を挙げますか?」
返ってきたのは淡々とした声だった。
「英雄が戦争を終わらせたわけではないと思う」
僕はなんとなく軽く頷いて、その場を立ち去った。
英雄が戦争を終わらせたわけではない。
なるほど。
では、誰が終わらせたんだ?
もしかして、終わっていないのか?
そんなことを僕は帰りの汽車の車窓から、遠くを眺めながら考えていた。
(了)
剣聖ラグーン、暗殺される。
その情報はあっという間に世間に広まった。ラグーンの遺体は遺書の存在により、その遺言に従い、人類軍が未だに悪魔と戦う防御陣地の、その後方にある名高い決戦の地にある霊廟に遺骨だけが収められた。
暗殺された村で村人たちが遺体を荼毘に付したからだ。
ラグーンの愛剣の二本もまた、霊廟に収められた。
大勢の国民が押し寄せ、さらに大規模な追悼式典が終わり、数日が過ぎた。
廟は静けさを取り戻していた。
その地下にある、戦果の多かった英霊の碑にラグーンのものが加えられている。この空間は一般人は立ち入り禁止である。
今、その碑の前に、二人の男がいた。
一人はダイアン。今、彼はこの廟の管理者の一人である。
そしてもう一人は、ローブをまとい、フードを目深に被っている。周りの暗さもあり、容貌は見えない。
「せっかく、書状をいただいたのに、申し訳ありません」
「そんなことはありません。こちらこそ、お手数をおかけして、申し訳ない」
フードの男は、ラグーンだった。
「私から剣聖の称号の返上の意思を、政府に伝えようとしたのですが、軍部にはねのけられ、何もできませんでした」
そう、ラグーンは二通の書状を送った。一通はシグナル、一通はダイアンだった。
既にその時点で、誰かしらが強硬手段に出る、ということをラグーンは推測していたし、もしそれが杞憂に終わっても、それはそれでいいと考えていた。
実際はシグナルの方が、早かった。剣聖の返上の前に、ラグーンを消そうした。
そのために、旧知のスカルスを送り込んだ。何を考えてのことだったのか、実際のところは、シグナルにしかわからない。あるいはラグーンが、スカルスを切れない、と考えたのかもしれない。しかし実際は、ラグーンが生き残った。
ラルクと打ち合わせをして、ラグーンの骨として、スカルスの骨がラグーンの二本の剣とともに首都に送られた。そして今、その骨は霊廟に収められている。
碑の前に、ある剣をダイアンがそっと撫でる。
「それで、ここに置いていくのですか?」
「今は、必要がないものです」
ラグーンは石碑を見上げ、それから、深く頭を下げた。
廟を出て、ダイアンが尋ねた。
「どちらへ行かれるのですか? あの村へは帰れないでしょう?」
「しばらく、旅でもしますよ。まだ知らないことも多い」
強がりを言ってはいけません。ダイアンが即座に応じた。
「あなたには、帰る場所が必要でしょう。あの村が、そうなのではないですか?」
ラグーンは小さく笑い声を漏らすと、そうですね、と遠くに視線を向けた。
「いずれは戻るつもりです。今すぐは、無理ですが」
「旅の無事を、祈っています」
ダイアンがシンボルを握って、頭を下げた。ラグーンは、もう一度、頭を下げて、身を翻した。
◆
この話を僕に伝えてくれた人は、語り終えてから僕に微笑みかけた。
「それで」
僕はその微笑みに問いかけた。
「彼のその後は?」
その人は何も言わず、ただ笑むだけだ。
僕は質問を変えた。
「アリスという司令官のことですが」
「彼女は人間ではなかった、守護女神のようなものだった」
なるほど、と僕は思った。
「悪魔のように強い剣聖と、その守護女神。悪くないですね」
「そういう存在がいなければ、勝ち抜けなかった。彼らがどういう結末を迎えたとしても」
その言葉を手帳に書き取ってから、僕はその手帳をゆっくりと閉じた。
少しの世間話の後、 僕は汽車の時間になり、その場を辞することになった。
「そうだ」
思い出したように、玄関口で僕は質問した。
「あなたは、大戦における英雄を一人、挙げるとしたら、誰を挙げますか?」
返ってきたのは淡々とした声だった。
「英雄が戦争を終わらせたわけではないと思う」
僕はなんとなく軽く頷いて、その場を立ち去った。
英雄が戦争を終わらせたわけではない。
なるほど。
では、誰が終わらせたんだ?
もしかして、終わっていないのか?
そんなことを僕は帰りの汽車の車窓から、遠くを眺めながら考えていた。
(了)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる