サクリファイス -とある戦いの記録-

和泉茉樹

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終章

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     終

 剣聖ラグーン、暗殺される。
 その情報はあっという間に世間に広まった。ラグーンの遺体は遺書の存在により、その遺言に従い、人類軍が未だに悪魔と戦う防御陣地の、その後方にある名高い決戦の地にある霊廟に遺骨だけが収められた。
 暗殺された村で村人たちが遺体を荼毘に付したからだ。
 ラグーンの愛剣の二本もまた、霊廟に収められた。
 大勢の国民が押し寄せ、さらに大規模な追悼式典が終わり、数日が過ぎた。
 廟は静けさを取り戻していた。
 その地下にある、戦果の多かった英霊の碑にラグーンのものが加えられている。この空間は一般人は立ち入り禁止である。
 今、その碑の前に、二人の男がいた。
 一人はダイアン。今、彼はこの廟の管理者の一人である。
 そしてもう一人は、ローブをまとい、フードを目深に被っている。周りの暗さもあり、容貌は見えない。
「せっかく、書状をいただいたのに、申し訳ありません」
「そんなことはありません。こちらこそ、お手数をおかけして、申し訳ない」
 フードの男は、ラグーンだった。
「私から剣聖の称号の返上の意思を、政府に伝えようとしたのですが、軍部にはねのけられ、何もできませんでした」
 そう、ラグーンは二通の書状を送った。一通はシグナル、一通はダイアンだった。
 既にその時点で、誰かしらが強硬手段に出る、ということをラグーンは推測していたし、もしそれが杞憂に終わっても、それはそれでいいと考えていた。
 実際はシグナルの方が、早かった。剣聖の返上の前に、ラグーンを消そうした。
 そのために、旧知のスカルスを送り込んだ。何を考えてのことだったのか、実際のところは、シグナルにしかわからない。あるいはラグーンが、スカルスを切れない、と考えたのかもしれない。しかし実際は、ラグーンが生き残った。
 ラルクと打ち合わせをして、ラグーンの骨として、スカルスの骨がラグーンの二本の剣とともに首都に送られた。そして今、その骨は霊廟に収められている。
 碑の前に、ある剣をダイアンがそっと撫でる。
「それで、ここに置いていくのですか?」
「今は、必要がないものです」
 ラグーンは石碑を見上げ、それから、深く頭を下げた。
 廟を出て、ダイアンが尋ねた。
「どちらへ行かれるのですか? あの村へは帰れないでしょう?」
「しばらく、旅でもしますよ。まだ知らないことも多い」
 強がりを言ってはいけません。ダイアンが即座に応じた。
「あなたには、帰る場所が必要でしょう。あの村が、そうなのではないですか?」
 ラグーンは小さく笑い声を漏らすと、そうですね、と遠くに視線を向けた。
「いずれは戻るつもりです。今すぐは、無理ですが」
「旅の無事を、祈っています」
 ダイアンがシンボルを握って、頭を下げた。ラグーンは、もう一度、頭を下げて、身を翻した。

     ◆

 この話を僕に伝えてくれた人は、語り終えてから僕に微笑みかけた。
「それで」
 僕はその微笑みに問いかけた。
「彼のその後は?」
 その人は何も言わず、ただ笑むだけだ。
 僕は質問を変えた。
「アリスという司令官のことですが」
「彼女は人間ではなかった、守護女神のようなものだった」
 なるほど、と僕は思った。
「悪魔のように強い剣聖と、その守護女神。悪くないですね」
「そういう存在がいなければ、勝ち抜けなかった。彼らがどういう結末を迎えたとしても」
 その言葉を手帳に書き取ってから、僕はその手帳をゆっくりと閉じた。
 少しの世間話の後、 僕は汽車の時間になり、その場を辞することになった。
「そうだ」
 思い出したように、玄関口で僕は質問した。
「あなたは、大戦における英雄を一人、挙げるとしたら、誰を挙げますか?」
 返ってきたのは淡々とした声だった。
「英雄が戦争を終わらせたわけではないと思う」
 僕はなんとなく軽く頷いて、その場を立ち去った。
 英雄が戦争を終わらせたわけではない。
 なるほど。
 では、誰が終わらせたんだ?
 もしかして、終わっていないのか?
 そんなことを僕は帰りの汽車の車窓から、遠くを眺めながら考えていた。
 



(了)
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