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第六章 聖都陰謀画策編
五
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女性が僕たちを連れて行ったのは、大聖堂に近い位置にある喫茶店だった。もちろん、市民が大半だ。その店の店員に断って二階へ上がると、そこはいくつかの個室に分かれていた。
三人で一つの部屋に入る。
「ここでは東方の料理をアレンジしたものが出るのよ。私のお気に入り」
店員が注文を聞きに来ると、女性が素早く三人分の注文をした。
「それであんたの名前は?」
シリュウが尋ねると女性はニコニコと笑う。
「リアよ」
「騎士だな?」
リアが目を丸くする。
「この通り、武器は身につけていないけど?」
「見ればわかる」
にべもない。
微笑んでみせるリアにシリュウも追求するのをやめたようだ。
店員がお茶を運んでくる。ミルクティーのようだが、しかし緑色だ。緑茶か?
「あなたの武勇譚を聞きたいの」
勢い込んで、リアが言った。シリュウはやはり、
「噂で我慢してくれ」
と、そっけない。
僕はお茶に口つけた。悪くない味だ。緑茶にミルクを混ぜたようだった。そうか、緑茶の茶葉もお土産になるな。日持ちもするだろう。
シリュウは結局、リアのごり押しに耐えきれなかったようで、リーンでの生活について話し始めた。リアが武勇譚といったのに、シリュウが話している内容は、リーンでの生活が主だった。
僕はほとんど同じ経験をしているはずが、シリュウの感覚は僕とは違うようだ。
シリュウにとって、リーンは平和そのものらしい。
それも、奇跡的な平和。
僕が自分の感覚を意識しているうちに、話は連合軍との揉め事の話になった。
「連合軍ねぇ」リアが目を丸くする。「よくそんな無謀ができるわね」
「別にこっちだって、悪いことはしていない。ちょっと地下を見せてほしいだけだ」
「それが嫌がらせだと思うけど」
そんなことをリアが言った。ごもっとも、僕と同じ意見の人がいて助かった。
そのまま話していると、また店員が来て、今度はパンケーキを持ってきた。フルーツとソースで飾り付けられている。リーンでは見られないような芸術性だった。
「いつか私もリーンに行ってみたいわ」
「何もないぞ」
「それはそれで楽しそう。黒の領域も見てみたい」
その一言で、彼女が生粋の聖都育ちとわかった。
「ここの方が面白いと思うけどね」
僕がなんとなく口を挟むとリアがこちらに微笑みを向けた。
「人にはそれぞれの目線、価値観があるわね」
「まったく」
シリュウが首を振る。
しばらく三人で雑談して、夕方になったので別れた。また会いましょう、とリアは言ったけど、はっきり約束はしなかった。
彼女は大聖堂で働いているんだろうけど、どこにいるのかは、わからない。
まぁ、また大聖堂に行けば、会えるのかな。どうだろう。
宿舎に戻り、建物に入ったところで、喫茶コーナーのテーブルにファルカの姿があった。こちらに気づいて歩み寄ってくる。
「お疲れ様でした。夕飯はどうされますか?」
「ここの食堂で済ますよ」
そういったシリュウに、ファルカがカードを手渡した。僕にも一枚、差し出してくる。
「このカードで食堂が無料で利用できます。食堂は朝の四時半から夜の十一時半まで開いています」
「便利だな。ありがとう」
素直に礼を言うシリュウに、ファルカが恐縮したように頭をさげる。
「七人委員会は、三日後の午後、あなたの模擬戦の場を設定しました。それまではとりあえず、自由です。詳細は明日にでもお伝えできると思います」
「どこかで剣の稽古はできるかな?」
ファルカが頷く。
「お一人が良いですか? それとも、どなたか、お相手が必要ですか?」
「一人で体が動かせれば良い」
「それなら」
ファルカは何箇所か、シリュウが実際に体を動かせる場所を口にして、その場所の位置を詳細に説明した。シリュウも真剣に聞いていた。
「では、明日、この時間にお訪ねします」
「ああ、わかった。ありがとう」
頭を下げたファルカが、去って行った。
僕とシリュウは一緒に食堂へ行き、そこで食事を済ませた。
料理の評価を口にしつつ、二人で部屋に戻ると、ドアの前に誰かが立っていた。
細身で、背が高い。短い髪の毛は灰色だ。眩しいほどの真っ青な服を着ている。
こちらに気づいて、軽く頭を下げた。
「シリュウ殿ですか?」
低い声で、男性が言った。シリュウは歩み寄りつつ、
「俺がそうだ。そちらも、誰だかわからなくもない」
足を止めて、シリュウが男性と向かい合った。
「そちらさんが、クルルギスかな」
僕はさすがに驚いた。
クルルギスだって?
男性が微笑み。武骨な笑みだ。
「その通りです。少しお話し、できますか?」
「立ち話というわけにもいくまいよ。中で話そう」
こうして妙なことに、宿舎の部屋の中で、シリュウとクルルギスが椅子に座って向かい合った。僕はシリュウの横に腰掛けている。
「思ったよりも若いですね」
クルルギスが言うと、シリュウは珍しく微笑んで、
「長く眠っていてね。そういうそちらさんも、噂では老人のようなことを言われていたが、そうは見えない」
と、応じた。これにはクルルギスも笑みを見せた。
「これでももう五十を越えています、老人扱いもやむをえないでしょう」
「しかし剣は冴えているとも聞いた」
これにはクルルギスは答えなかった。ただ笑みを見せている。悠然とも言える笑みだ。
「試してみたい気もするな」
僕はシリュウの言葉に、少なからず驚いた。
試してみたい? つまり、模擬戦をあれだけ嫌がっていたのに、やりたい、と言っているようなものだ。
どうもこのところ、シリュウの発言は落ち着きがないな。
僕がそんなことを思ってシリュウを見ていると、彼は微笑みを向けてくる。
気にするな、というようにも見えるし、何かの意図があるのかもしれない、と思わせるような笑みだ。
「私を倒せば、自然と太天位を受けることになりますな」
「いや、それはない。受けるつもりはないんだ」
一瞬、クルルギスの瞳が光った気がした。
「受けるつもりはない? 何故です?」
「天位騎士の称号に興味はないからだ」
「理解しづらいですね……」
クルルギスが何かを考えているようだった。
「まず」
シリュウが理由を挙げ始めた。
「聖都で生活するのは好きじゃない。七人委員会が進退を決めるのも不愉快だ。行動の自由がなくなる。儀式が面倒くさい。挑戦者に挑まれつのもしんどい。何よりも、自分はそこまで尊敬される人間ではない」
またクルルギスの瞳が光ったように見える。
「あなたは八英雄の一人ではないのですか?」
シリュウがため息を吐く。
「そんな称号にどんな意味がある? 疑う奴がなかなか目の前に現れないが、八英雄の時代から五十年は過ぎている。つまり、俺はただ名前が同じだけの、別人かもしれない。そうは思わないか?」
「卓抜した剣技を使うと聞いています」
「八英雄だから剣技が使えるわけじゃない、そこをはっきりさせよう」
なるほど、と僕は思った。
今の会話で、七人委員会がシリュウを八英雄の一角の、まさに本人だと認識しているのはわかった。シリュウはその認識をどうにかして覆そうとしているのだ、と今になって僕は気づいた。そのために七人委員会の前で右へ左への会話を展開したわけだ。
「あなたの剣を見てみたいものです」
視線をシリュウの二振りの剣に向けつつ、クルルギスが言った。
「近いうちに見ることになるさ」
「まさか、手を抜いたりはしないでしょうな」
「しないつもりだが、そちらは、本気でくるのかな?」
ニコニコと笑うクルルギスの声は真剣だった。
「当然です」
空気が少し張り詰める気配。
僕はクルルギスの剣を見たことは一回もない。剣を構えたところさえ見ていない。
でもこうして目の前にいるこの初老の男を見ていると、一般人とは全く違うのがわかる。
気配だけでも人を圧倒する、強者の雰囲気を発散していた。
「本気での立ち合いを所望しますよ、シリュウ殿」
「楽しみにしているよ」
立ち上がったクルルギスが礼を言って、部屋を出て行く。僕はドアまで見送った。
部屋に戻ると、シリュウが腕を組んで、難しい顔をしていた。
「いい人だったね」
「善人だな、あれは」シリュウが頷く。「それでいて、強い」
「剣の話?」
「人間としても強いだろうな。まっすぐで、恐れを知らない、という感じだ」
シリュウが立ち上がって、床に腰を下ろすと、ストレッチを始めた。
「どうやら、あまり甘い相手ではなさそうだ」
「負けそうってこと?」
シリュウが体を伸ばしつつ、こちらを見る。
「真剣でやれば、どちらかが絶対に死ぬ。やるのは真剣での立ち合いじゃない。つまり、勝とうが負けようが関係ないさ。ただ痛い思いをするのと、惨めなだけだ」
苛烈と言ってもいい内容だな。
惨めなだけか。つまり真剣で斬り合えば、負けても、惨めではないということ。死んでしまうから気にしてもしょうがないといえば、しょうがない。
なかなかそうは思えないような、強い意見だった。
その日は結局、早めに休んで、僕が翌朝、目覚めると、すでにシリュウの寝台に彼の姿はなかった。
身支度を整えていると、部屋のドアが開いて、シリュウが戻ってくる。走ってきたようで、汗にまみれている。聖都に来ても訓練は休まないつもりらしい。
シリュウらしい。
僕はシリュウの服を洗濯しに行き、シリュウ自身は着替えて、風呂に向かった。
部屋で合流して食堂へ行く。シリュウは遠慮なく、ガツガツと食べている。僕はまだ聖都の料理には慣れない。食べたことのない香辛料が、どうも苦手だ。
食事が終わって、シリュウは剣技の訓練をするというので、僕とは別行動になった。
「図書館に一日いるから、お昼は自由に食べておいて」
そんなことを言って、僕は図書館へ向かった。
図書館はリーンの図書館とは比べ物にならない利用者がいる。その中に混ざって、僕は調べごとを進めた。
お昼ご飯は図書館の近くでパン屋を見つけたので、そこで済ませた。
夕方になって、宿舎に戻る。ちょうどファルカと玄関口で一緒になった。
「今日はどちらへ?」
「図書館です」
二人で階段を上がる。
「シリュウ殿は」ファルカが尋ねてくる。「模擬戦をやるお気持ちがあるようですか?」
「ええ、それは、やると思います」
「そうですか、助かります」
僕たちは部屋に到着し、中に入る。
シリュウが飲み物を片手に、自分の剣を眺めていた。
「おう、おかえり。ファルカも」
彼は剣を鞘に戻し、姿勢を正した。
「今後の予定を聞こう」
三人で一つの部屋に入る。
「ここでは東方の料理をアレンジしたものが出るのよ。私のお気に入り」
店員が注文を聞きに来ると、女性が素早く三人分の注文をした。
「それであんたの名前は?」
シリュウが尋ねると女性はニコニコと笑う。
「リアよ」
「騎士だな?」
リアが目を丸くする。
「この通り、武器は身につけていないけど?」
「見ればわかる」
にべもない。
微笑んでみせるリアにシリュウも追求するのをやめたようだ。
店員がお茶を運んでくる。ミルクティーのようだが、しかし緑色だ。緑茶か?
「あなたの武勇譚を聞きたいの」
勢い込んで、リアが言った。シリュウはやはり、
「噂で我慢してくれ」
と、そっけない。
僕はお茶に口つけた。悪くない味だ。緑茶にミルクを混ぜたようだった。そうか、緑茶の茶葉もお土産になるな。日持ちもするだろう。
シリュウは結局、リアのごり押しに耐えきれなかったようで、リーンでの生活について話し始めた。リアが武勇譚といったのに、シリュウが話している内容は、リーンでの生活が主だった。
僕はほとんど同じ経験をしているはずが、シリュウの感覚は僕とは違うようだ。
シリュウにとって、リーンは平和そのものらしい。
それも、奇跡的な平和。
僕が自分の感覚を意識しているうちに、話は連合軍との揉め事の話になった。
「連合軍ねぇ」リアが目を丸くする。「よくそんな無謀ができるわね」
「別にこっちだって、悪いことはしていない。ちょっと地下を見せてほしいだけだ」
「それが嫌がらせだと思うけど」
そんなことをリアが言った。ごもっとも、僕と同じ意見の人がいて助かった。
そのまま話していると、また店員が来て、今度はパンケーキを持ってきた。フルーツとソースで飾り付けられている。リーンでは見られないような芸術性だった。
「いつか私もリーンに行ってみたいわ」
「何もないぞ」
「それはそれで楽しそう。黒の領域も見てみたい」
その一言で、彼女が生粋の聖都育ちとわかった。
「ここの方が面白いと思うけどね」
僕がなんとなく口を挟むとリアがこちらに微笑みを向けた。
「人にはそれぞれの目線、価値観があるわね」
「まったく」
シリュウが首を振る。
しばらく三人で雑談して、夕方になったので別れた。また会いましょう、とリアは言ったけど、はっきり約束はしなかった。
彼女は大聖堂で働いているんだろうけど、どこにいるのかは、わからない。
まぁ、また大聖堂に行けば、会えるのかな。どうだろう。
宿舎に戻り、建物に入ったところで、喫茶コーナーのテーブルにファルカの姿があった。こちらに気づいて歩み寄ってくる。
「お疲れ様でした。夕飯はどうされますか?」
「ここの食堂で済ますよ」
そういったシリュウに、ファルカがカードを手渡した。僕にも一枚、差し出してくる。
「このカードで食堂が無料で利用できます。食堂は朝の四時半から夜の十一時半まで開いています」
「便利だな。ありがとう」
素直に礼を言うシリュウに、ファルカが恐縮したように頭をさげる。
「七人委員会は、三日後の午後、あなたの模擬戦の場を設定しました。それまではとりあえず、自由です。詳細は明日にでもお伝えできると思います」
「どこかで剣の稽古はできるかな?」
ファルカが頷く。
「お一人が良いですか? それとも、どなたか、お相手が必要ですか?」
「一人で体が動かせれば良い」
「それなら」
ファルカは何箇所か、シリュウが実際に体を動かせる場所を口にして、その場所の位置を詳細に説明した。シリュウも真剣に聞いていた。
「では、明日、この時間にお訪ねします」
「ああ、わかった。ありがとう」
頭を下げたファルカが、去って行った。
僕とシリュウは一緒に食堂へ行き、そこで食事を済ませた。
料理の評価を口にしつつ、二人で部屋に戻ると、ドアの前に誰かが立っていた。
細身で、背が高い。短い髪の毛は灰色だ。眩しいほどの真っ青な服を着ている。
こちらに気づいて、軽く頭を下げた。
「シリュウ殿ですか?」
低い声で、男性が言った。シリュウは歩み寄りつつ、
「俺がそうだ。そちらも、誰だかわからなくもない」
足を止めて、シリュウが男性と向かい合った。
「そちらさんが、クルルギスかな」
僕はさすがに驚いた。
クルルギスだって?
男性が微笑み。武骨な笑みだ。
「その通りです。少しお話し、できますか?」
「立ち話というわけにもいくまいよ。中で話そう」
こうして妙なことに、宿舎の部屋の中で、シリュウとクルルギスが椅子に座って向かい合った。僕はシリュウの横に腰掛けている。
「思ったよりも若いですね」
クルルギスが言うと、シリュウは珍しく微笑んで、
「長く眠っていてね。そういうそちらさんも、噂では老人のようなことを言われていたが、そうは見えない」
と、応じた。これにはクルルギスも笑みを見せた。
「これでももう五十を越えています、老人扱いもやむをえないでしょう」
「しかし剣は冴えているとも聞いた」
これにはクルルギスは答えなかった。ただ笑みを見せている。悠然とも言える笑みだ。
「試してみたい気もするな」
僕はシリュウの言葉に、少なからず驚いた。
試してみたい? つまり、模擬戦をあれだけ嫌がっていたのに、やりたい、と言っているようなものだ。
どうもこのところ、シリュウの発言は落ち着きがないな。
僕がそんなことを思ってシリュウを見ていると、彼は微笑みを向けてくる。
気にするな、というようにも見えるし、何かの意図があるのかもしれない、と思わせるような笑みだ。
「私を倒せば、自然と太天位を受けることになりますな」
「いや、それはない。受けるつもりはないんだ」
一瞬、クルルギスの瞳が光った気がした。
「受けるつもりはない? 何故です?」
「天位騎士の称号に興味はないからだ」
「理解しづらいですね……」
クルルギスが何かを考えているようだった。
「まず」
シリュウが理由を挙げ始めた。
「聖都で生活するのは好きじゃない。七人委員会が進退を決めるのも不愉快だ。行動の自由がなくなる。儀式が面倒くさい。挑戦者に挑まれつのもしんどい。何よりも、自分はそこまで尊敬される人間ではない」
またクルルギスの瞳が光ったように見える。
「あなたは八英雄の一人ではないのですか?」
シリュウがため息を吐く。
「そんな称号にどんな意味がある? 疑う奴がなかなか目の前に現れないが、八英雄の時代から五十年は過ぎている。つまり、俺はただ名前が同じだけの、別人かもしれない。そうは思わないか?」
「卓抜した剣技を使うと聞いています」
「八英雄だから剣技が使えるわけじゃない、そこをはっきりさせよう」
なるほど、と僕は思った。
今の会話で、七人委員会がシリュウを八英雄の一角の、まさに本人だと認識しているのはわかった。シリュウはその認識をどうにかして覆そうとしているのだ、と今になって僕は気づいた。そのために七人委員会の前で右へ左への会話を展開したわけだ。
「あなたの剣を見てみたいものです」
視線をシリュウの二振りの剣に向けつつ、クルルギスが言った。
「近いうちに見ることになるさ」
「まさか、手を抜いたりはしないでしょうな」
「しないつもりだが、そちらは、本気でくるのかな?」
ニコニコと笑うクルルギスの声は真剣だった。
「当然です」
空気が少し張り詰める気配。
僕はクルルギスの剣を見たことは一回もない。剣を構えたところさえ見ていない。
でもこうして目の前にいるこの初老の男を見ていると、一般人とは全く違うのがわかる。
気配だけでも人を圧倒する、強者の雰囲気を発散していた。
「本気での立ち合いを所望しますよ、シリュウ殿」
「楽しみにしているよ」
立ち上がったクルルギスが礼を言って、部屋を出て行く。僕はドアまで見送った。
部屋に戻ると、シリュウが腕を組んで、難しい顔をしていた。
「いい人だったね」
「善人だな、あれは」シリュウが頷く。「それでいて、強い」
「剣の話?」
「人間としても強いだろうな。まっすぐで、恐れを知らない、という感じだ」
シリュウが立ち上がって、床に腰を下ろすと、ストレッチを始めた。
「どうやら、あまり甘い相手ではなさそうだ」
「負けそうってこと?」
シリュウが体を伸ばしつつ、こちらを見る。
「真剣でやれば、どちらかが絶対に死ぬ。やるのは真剣での立ち合いじゃない。つまり、勝とうが負けようが関係ないさ。ただ痛い思いをするのと、惨めなだけだ」
苛烈と言ってもいい内容だな。
惨めなだけか。つまり真剣で斬り合えば、負けても、惨めではないということ。死んでしまうから気にしてもしょうがないといえば、しょうがない。
なかなかそうは思えないような、強い意見だった。
その日は結局、早めに休んで、僕が翌朝、目覚めると、すでにシリュウの寝台に彼の姿はなかった。
身支度を整えていると、部屋のドアが開いて、シリュウが戻ってくる。走ってきたようで、汗にまみれている。聖都に来ても訓練は休まないつもりらしい。
シリュウらしい。
僕はシリュウの服を洗濯しに行き、シリュウ自身は着替えて、風呂に向かった。
部屋で合流して食堂へ行く。シリュウは遠慮なく、ガツガツと食べている。僕はまだ聖都の料理には慣れない。食べたことのない香辛料が、どうも苦手だ。
食事が終わって、シリュウは剣技の訓練をするというので、僕とは別行動になった。
「図書館に一日いるから、お昼は自由に食べておいて」
そんなことを言って、僕は図書館へ向かった。
図書館はリーンの図書館とは比べ物にならない利用者がいる。その中に混ざって、僕は調べごとを進めた。
お昼ご飯は図書館の近くでパン屋を見つけたので、そこで済ませた。
夕方になって、宿舎に戻る。ちょうどファルカと玄関口で一緒になった。
「今日はどちらへ?」
「図書館です」
二人で階段を上がる。
「シリュウ殿は」ファルカが尋ねてくる。「模擬戦をやるお気持ちがあるようですか?」
「ええ、それは、やると思います」
「そうですか、助かります」
僕たちは部屋に到着し、中に入る。
シリュウが飲み物を片手に、自分の剣を眺めていた。
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