出会った英雄と僕 〜眠れる獅子が目覚めたら〜

和泉茉樹

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第八章 悪魔共闘激動編

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 部屋はどこか人間のインテリアに近いな。
 そんなことを思いつつ、僕はシリュウに従いながら、こっそり観察した。
 大きなデスクが二つあり、そこに二人の悪魔がいる。
 金髪で、男性と女性。瞳はもちろん、赤い。
 その二人の前で、メリトが敬礼のような動きをした。人間のそれとは違う。
「こちらがシリュウ殿と、アルス殿です」
「ご苦労様」女性の方が答えた。「苦労したようね、報告が来ているわ」
「連合軍の契約者の攻撃を受けました。我々の行動も、向こうの計画のうちだったかもしれません。少なくとも、シリュウ殿とアルス殿は、こうして本当の通敵行為を犯すに至りました」
「いずれ晴らせましょう。下がっていい、メリト」
 再び敬礼し、メリトが退出した。
「さて、初めまして、シリュウ、アルス」
 女性の方が席を立ち、歩み寄る。もう一人も席を立ち、後に続いた。
「私はレム」
 女性の方がそう言ってシリュウと握手した。僕も握手する。
「メムだ」
 そう男性の方も名乗り、握手。
 こちらへ、と部屋の隅のソファに導かれたので、そこで四人で向かい合う。
「私たちの役職は、西方軍総合管理者、となっています」
 どうやらレムがリードするようだ。
「二人で同じ職なのか? 混乱しないか?」
 雑談のようにシリュウが問いかけると、二人の悪魔は微笑んだ。
「そこが人間とは違う点ね」
「そうかい。まず聞いておきたいが、俺たちはあんたたちをなんと呼べばいい? 悪魔じゃ、嫌だろう?」
 シリュウもなかなか鋭いことを言う。
「我々には自身を呼ぶ呼称がありません。悪魔で構いません。ここにいる我々はその程度のことに怒りを催したりはしません」
 僕は感心していた。人間とはまるで度量が違う。
「では、本題に入りましょう」
 レムが姿勢を正した。
「順序が最初から前後しますが、まずこれだけは確認したい。シリュウ、あなたは契約者になりたいと思いますか?」
「思わんね」
 即答だった。それにレムとメムが微笑を見せる。
「そう言うと思っていました。契約者がお嫌い?」
「自力でやっていけるんだ、悪魔の助けを借りる必要はない」
「力強い言葉です」
 頷いたレムが話を進める。
「今回、ここにあなたたちを招くに至った背景を説明します。連合軍の契約者はご覧になりましたね?」
「ご覧も何も、切って捨てたよ」
「強力だったでしょう? 連合軍は密かに契約者を生み出し、それを訓練し、運用しています。人間の限界を超えた、一騎当千の兵士です。そして契約者の部隊も存在するほどなのですよ」
 それで? とシリュウが促す。
「連合軍に協力している悪魔が大勢います。もちろん、同じ悪魔でも、私たちとは異なる考えを持ち、行動しています。彼らの動向を、我々はつぶさに観察し、分析してました。その中で、重要な事態が到来したと知ったのです」
「俺が連合軍に引っ張られることが、それか?」
 レムがじっとシリュウを見た。
「連合軍は、あなたを一つの検体として扱おうとしています」
 シリュウが目を白黒させているのを横目に、僕は次の言葉に集中した。
「連合軍は、新しい形の契約者を生み出した、とはっきりした情報がありました。この契約者は、様々な人間、契約者、悪魔を取り込み、無制限に力を内包する仕組みです。あなたはその部品に選ばれているのです」
「信じられないな」答えたのは僕だった。レムとメムがこちらを見る。「その契約者がいくら力を持っても、一個体じゃ戦争では使えないんじゃないかな」
「まだ詳細は分かりませんが、生物としては破格の能力という情報です。警戒するに越したことはないと思います」
 はぁ、っとシリュウが息を吐いた。
「俺を取り込んで、どうなる?」
「そこに一つの可能性があるのです」レムが身を乗り出す。「シリュウには、契約者としての素質がある、という報告を我々も受けていますし、連合軍に参加している悪魔も、察知しているでしょう。あなたを強引に契約者にし、その上で取り込ませる。これでより強力な個体が出来上がる。筋は通ります」
「そこでさっきの打診になるわけだ。俺を契約者にして、そちらさんの側で力を使ってほしいわけだ」
 頷いて、レムが慎重さをうかがわせる口調で言う。
「そこまでは望みませんが、もし連合軍があなたを手にすれば、強引に契約者にするでしょう。それなら我々の仲間が契約し、あなたに少しでも力を与えておきたい。傲慢でしょうか?」
「いや、正常だ」
 シリュウが天を仰ぐ。
 しばらく沈黙が降りた。
「ここに来ていただけたということは」
 メムが口を開いた。
「あなたにも戦う意思があるということですね?」
「その通りだ」
 渋い顔のシリュウが応じる。
「俺には俺の正しいと信じる道がある、それを否定されたくない」
「私たちの道と、それは近いと思います」
 シリュウとメムが視線を交わし、シリュウがもう一度、天を仰ぐ。
「今度の相手は、連合軍か。それも契約者ときた。呆れるしかない」
 ぼやきながらも、いつの間にかシリュウの口元には不適な笑みが浮かんでいる。
「良いだろう、あんたたちに協力するよ。その連合の秘密をどうにかしたいんだな?」
 二人の悪魔が、少し、安堵したようだった。
「我々は連合軍の研究所へ奇襲をかける計画を立てています。これに難しい問題がありまして」
 レムが一度、ソファーを離れ、何かの地図を持ってきた。ソファーの前のテーブルにそれが広げられる。
「研究所は連合首都にあります。転移魔法で研究所内部に転移することも可能です。ただ、連合軍側の悪魔に察知されるのを避けられない」
「遠い地点に転移して、忍び込めばいい」
「連合首都の警備には穴がありません。むしろ、直接に強襲するべき、という考えです」
 シリュウと僕はテーブルの上の地図に見入る。地図は二枚。一枚は連合首都の地図だ。もう一枚は、どこかの建物の見取り図だった。
「悪魔に察知されないために、我々の突入部隊は、可能な限り、存在を隠します」
「存在を隠す?」
「悪魔としての力を封印する薬物があるのです。これを飲めば、連合の悪魔たちも悪魔として我々を察知することはできません。その代わり、悪魔としての体力、魔法などはほとんど使えなくなる」
 とんでもないことだ、これは。
「つまり人間並みってことですか?」
 僕が質問すると、レムが簡潔に、
「そうです」
 と、応じた。
 やれやれ……。
「こういうことか?」シリュウが地図を見ながら発言。「悪魔の部隊に紛れて俺とアルスも飛び込む。相手の悪魔は、侵入してきたのが悪魔とわかり、それを掃討する。だけど、俺とアルスは人間だから、察知されない。その隙に、研究所の中枢を破壊する。そうだな」
 ……重要な役目じゃないか。
「その通りです、まるで知っていたようですね?」
「昔、悪魔と戦う時、似たような展開があってな」
 懐かしそうに言ったが、シリュウはすぐに集中を取り戻す。
「精鋭が集められるんだろうな?」
「もちろんです。西方軍の中から、選りすぐりの人員で部隊を作ります。総勢で二十名ほどになります」
「悪くない数字だな。連中にこの地図を徹底的に叩き込んでおいてくれ」
 それからシリュウはいくつか指示を出した。
「何かの拍子に捕虜になったり、武器を奪われる可能性がある。こちらが悪魔とわかっていいのか?」
「構いません。まさか同盟軍に偽装するわけにもいきません」
 それもそうだ、とシリュウは納得したようだった。
 話し合いが終わり、場の空気がやっと緩んだ。
「シリュウ、感謝します。我々の味方の一部も、また連合に参加しています。いずれ、あなたを赦免できるでしょう」
「赦免ね。何年待てばいい?」
 レムもメムも苦笑いしているし、シリュウも似たような表情だ。
 つまり、赦免があるとしてもかなり先なのだ。
 それまで、ここで生活するしかない。
「しばらく世話になるよ、悪いがな」
「気にしないでください。部屋を用意させています。アルスの分も」
 しかしなぁ、とシリュウがぼやく。
「悪魔が平和を願うとか、悪魔同士が戦うとか、人間の世界では考えられない。人間が望む平和とは、つまり、統一のようなものなのかもな」
「それが人間の強みですよ、シリュウ」
 レムが微笑む。
「人間は大勢が一つの目的のために、死力を尽くします。それが我々には恐ろしい。私たちにはそこまでの集合意識はありません。もちろん、目的を持つことはありますし、使命を持つこともある。それでも、自分の信念を第一にしますし、役目もまた、その信念に反することがないように割り振られます」
「面白いな。そう思わないか? アルス」
 そうだね、と僕は応じた。
 未だに、僕にはよく悪魔が理解できないし、シリュウほどすぐに順応できてもいない。
 それからしばらく雑談の後、悪魔が一人部屋に入ってきて、僕とシリュウの部屋の用ができたことを告げた。
「では、明日にでも部隊と一緒に作戦会議を開きます。今夜はゆっくり休んでください」
 僕とシリュウはレムたちの部屋を出て、通路を進む。
 案内をしている悪魔が声をかけてきた。
「あなたがシリュウ殿ですか?」
「そうだが、変な噂があるかな?」
「最近では六花騎士団を退けられたと聞いています」
 これは、ちょっと雰囲気がきな臭いな。
 僕がそう思っているのと同じように、シリュウも注意深そうな気配。
「素晴らしい剣の腕と聞いています。いずれ、見せてください」
 それで話は終わった。助かった、と正直、思った。
 僕たちはそれぞれの部屋に着き、隣り合った部屋にそれぞれ入る。
 室内はちょっとした宿泊施設で、清潔、快適そうだった。クローゼットがあるので確認すると、服が何着か入っていた。もちろん、悪魔の衣類なので、人間のものとは違う。
 表にしたり裏にしたりして、なんとか着る方法がわかった。
 ドアがノックされたので開けると、そこにシリュウがいた。目を丸くしている。
「もう着替えたのか?」
「うん、まぁ……」なんて言えばいいんだ?「そういう気分だったから」
 呆れたようなシリュウが、「飯に行こうぜ」と誘ってくる。僕は頷いて、鍵を手にして部屋を出た。
「どんな料理が食えるんだろうなぁ、食えればいいんだが」
 そんなことを言っているシリュウに、僕はちょっと真面目な顔で言った。
「連合首都への奇襲、うまくいくと思う?」
「やってみないとわからないな。連中も安全を確保するだろう」
 あっけらかんとした返事だ。
 僕はどこか不安だったけど、しかし、言葉にできない。
 そのまま食堂に行って、食事を取った。悪魔たちが不思議そうにこちらを見る中、シリュウは次々と料理を平らげた。
 全く、強い精神だな。
 僕はなかなか、食が進まなかった。
 緊張するだろ、普通……。

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