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十八
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十八
俺とスグミの力の暴発に、照準と出力調整を加えた技術は、「霊砲」と名付けた。
今、霊砲は通常の二倍の出力で、初めて、実戦で放たれた。
橋まで一直線に光が走り、逸脱霊を貫通する。
「やった!」
スグミが大声を上げる。しかし、俺の感覚は、スグミとは違う言葉を頭の中で喚いている。
「外れだ!」
俺はスグミを突き飛ばし、自分も横に倒れる。
まるで霊砲のような逸脱霊の攻撃が、一瞬前まで俺とスグミのいた地点を貫く。
くそ、スグミと離れてしまった。一緒の方向に逃げられたかもしれないが、しかし、一瞬の遅れが生じただろう。その遅れを攻撃されていたら、負けていた。
俺は即座にスグミと力のやりとりを再開する。逸脱霊を見ると、右足を失ってるが、それだけだ。強過ぎる視線が、こちらを向いている。
相手の攻撃の気配。俺は拳を前に繰り出す。
逸脱霊の強烈過ぎる遠距離攻撃が、逸れる。道に面した建物の壁がビリビリと震える。
続けざまの攻撃を、俺は小刻みに拳を繰り出して、逸らしていく。
力では圧倒的に逸脱霊が有利だ。射程距離も、向こうはこちらの倍はある。今も、俺の通常攻撃は逸脱霊には届かない。
しかし、俺には精密なコントロール力、そして鋭敏な感覚がある。
その二つが、長い訓練の結果として、この場の均衡を生んでいた。
逸脱霊の遠距離攻撃に対して、俺の弱い攻撃がぶつかっていく。ぶつかる位置と力加減で、逸脱霊の攻撃が逸れるのだ。もちろん、大きくは逸れないが、しかし、こちらにはほとんど影響がないように弾ける。
「スグミ、距離を詰めるぞ! 霊砲は精度が甘すぎる!」
俺は言いながら、走り出す。スグミも立ち上がって、すぐに後追ってきた。
「横に並べ! ここから先は普通の攻撃じゃ、防御不可能だからな! 気をつけろ!」
スグミが俺と並走し、俺は彼女の手を握った。
霊砲が発射される。逸脱霊が防御行動、障壁のようなものを展開した。
霊砲の光の線が、逸脱霊の障壁にぶつかり、相殺。両者が消える。
クソ、貫通しないか。
今の霊砲は、通常の二倍程度だった。ケイスケの計算は正しかったようだ。四倍での一撃必殺を狙うべきか。
そんなことを思っているうちに、逸脱霊が反撃として、三連撃を見舞ってくる。
「うわっ!」
スグミの手を掴んだまま、俺は浮遊し、スグミを引っ張り上げる。
同時に、霊砲を発砲して、一発だけで逸脱霊の二発の攻撃を弾く。最後の一発は回避した。
地面に戻り、再び、間合いを詰める。
すでに霊砲の撃ち過ぎで、疲労が大きい。一瞬、スグミをうかがうと、彼女も汗を流し、息を切らせている。そこまで消費する運動ではないが、霊砲からくる疲労は避けられないし、戦闘という緊張状態もまた、疲労を生む。
短期決戦しかない!
「スグミ、四倍で行くぞ」
よ、四倍? 着地したスグミが喘ぐ。
「二連撃だ」俺は早口で言う。「牽制の二倍と本命の四倍。これで決める」
喘ぐような声でスグミが返事をする。
二人の繋いだ手で、力が爆発する。
一撃目、通常の二倍の霊砲が、宙を駆ける。
吸い込まれるように、逸脱霊に飛んだ。
逸脱霊が鬼の形相で、障壁を展開し、弾き飛ばした。
行け!
そこに本命の、四倍の強さの霊砲が突き刺さる。
像が歪むほど、強力な障壁が、四倍増しの霊砲を受け止める。
くそ、ダメか?
「もう一発!」
スグミが怒鳴る。
俺は反射的に照準を定め、霊砲を放出する。
四倍増しの、必殺の一撃。
それが着弾すると、逸脱霊の障壁は、粉々に砕け、一瞬で消え去った。
光跡を残し、霊砲が逸脱霊の中心を捕える。
やった。
俺はぼんやりと思った。
表情をゆがめた逸脱霊は、すでに胸から下を失っている。両腕も、指の先から崩れ、溶けて行く。
俺はそれをじっと眺めていた。
母が、消えて行く。
表情を、じっと見ていた。苦しそうな気配は徐々に薄れる。しかし、穏やかな様子でもなかった。未練とでも言うべきか、そういうものが、感じ取れた。
「タクミ!」
突然、スグミが俺に抱きついてきた。
な、なんだ?
スグミが体重を駆けてきたので、俺の体が傾く。
そこに突然の衝撃が加わって、やっと気付いた。
逸脱霊の最後の攻撃を、俺は見逃していた。
スグミと一緒に吹っ飛ばされ、地面に転がる。
息が詰まったが、どうにか身体を起こし、状況を確認する。
逸脱霊は微笑みを一瞬見せると、そのまま消滅した。橋の上には、もう何も残っていない。
スグミを探した。すぐ隣に倒れている。
「スグミ!」
額を一筋、血が流れている。声に返事はない、体も反応しない。
気を失っている?
それとも――?
「スグミ! おい! スグミ!」
俺は彼女の体を揺する。
「起きろ!」
起きてくれ!
その瞬間に、背筋がゾクッとした。
視線を、橋へ向ける。
そこに、光の粒子が集まり、母の姿が蘇っていた。
いや、母だったのは一瞬で、様々な人間の顔に変化し、形も人間から、よく分からない物体へと膨れ上がっていく。
「な、なんだ……?」
呆然とするしかない俺は、隣に立った人間に気づいた。いや、気付いた時には、腕を引かれて、引きずられている。
「しっかりしろ、水瀬タクミ! スグミを連れてこい!」
俺を引っ張っていたのはカンナだった。俺は慌てて、スグミのわきに頭をねじ込み、その体を抱え、カンナに引っ張られて、その場を離れようとする。
「せ、先生、あれは? あれはなんですか?」
「力の暴走だ」カンナの声には緊張が滲んでいる。「力が元から強大な逸脱霊だったが、お前たちの力がそこに過剰に供給された。そのせいで、力が独り歩きを始めたんだよ。止めるには、もっと応援が必要だ」
暴走? 応援?
「待ってください」
そう言ったのは、俺じゃない。
スグミが、意識を取り戻していた。額から流れる血は顎から地面に落ちている。それを、スグミの腕が拭う。
「応援を呼ぶ必要は、ありません。この場の三人で、処理するべきです」
「冗談を言っている場合じゃない」
カンナの口調は厳しかった。
「どうやってもこの場の三人では――」
「倒せます!」
スグミが自分の脚で立った。
「このまま、あの逸脱霊を放置すると、大きな被害が出ます。先生も気づいているでしょう? あの逸脱霊の力は、霊管理者が処理を行う時の、隠蔽と閉鎖の呪術の結界を容易に破綻させてしまうのに、充分な力を持っている」
「それは……」
カンナが言葉に詰まった。俺はスグミの横で、立ちつくす。スグミが、振り返る。逸脱霊を正面にするように。
「先生の力で」スグミが言う。「霊砲で狙う地点を、ガイドしてください。目印をつけてもらうだけで良いんです。そこを狙って、全力で、吹き飛ばします」
スグミが、俺とカンナを振り返る。
そして、笑って見せる。額からまた血が流れているのが、より、その笑みの凄みを際立たせていた。
「出来ます。やってみせます。ね? タクミ」
俺は、反射的に、大きく頷いていた。
◆
橋を前にして、カンナが拳銃を取り出した。
「この霊的な処理が施された弾丸で」カンナが照準を定める。「目印をつける。そこを、狙いなさい」
私とタクミは、強く手を握った。
緊張していないわけではない。でも、不思議と、失敗するイメージはわかなかった。
うまく行く、と思っている自分がいる。
タクミが、手をより強く、握る。
力の気配がする。力は私とタクミの間で、触れあう手と手で交換され、より強く、増幅していく。
「行くよ」
カンナがそう言って、引き金を引いた。
軽い銃声の後、弾丸が飛翔した。着弾した気配はあるが、詳細な位置は、私には分からない。でも、タクミには分かるのだ。タクミの感覚は、私とは比べ物にならない。
タクミの感覚と私の感覚が瞬間、共有されるのが分かる。狙いべき地点も、分かる。
タクミが「やるぞ」と呟く。私は頷く。
力が手と手の間で弾ける。
もっと、もっと強い力が必要だ。
タクミが制御してくれる。だから、全部を放出して良い。
瞬間、胸にあるものが引っ張られるような、心が引きずられるような感覚。
それを感じた時には、今までとは比べ物にならない、全力の霊砲が、発射されていた。
巨大な光の帯が、迸った。
橋へと一直線に飛んだ光が、巨大な光の塊となっていた逸脱霊だったものに、直撃する。
さきほどの逸脱霊の障壁とは比べ物にならない、強靭過ぎる障壁が、霊砲の一撃を受け止める。霊砲の力が弾かれ、四散していく。
突破、できない?
「悪い、スグミ」
タクミが謝る。
その一言で、理解できた。タクミが何を望んでいるのか。
私は頷く代わりに、返事の代わりに、タクミに残っている全ての力を預けた。
もう一度、霊砲が発射される。
その瞬間、私は気を失った。
◆
俺は二度目の、全力の霊砲の発射と、その軌跡を確かめ、そっとスグミを受け止めた。
俺たちの隣で、カンナが呆然としている。
橋に視線を移せば、そこでは光が渦巻き、微かに唸り声が聞こえている。
逸脱霊が、粉々に分散し、そのまま消えて行く。
今度はもう、蘇らないはずだ。
二度も、全力で射撃することは、考えていなかった。スグミに無理をさせたことが、少し、申し訳ない。
俺が抱えているスグミは、穏やかな顔で、気を失っていた。深刻な状況ではないとは感じられるけれど、それは医師に見せてからだ。
「学生とは」カンナが呆れたように言う。「思えないね」
「捨て身ですよ」
俺はそう言って、もう一度、スグミを見た。
感謝しなくちゃ、いけないな。スグミは俺のために、無理をしてくれたのだから。
俺に、母親に引導を渡す機会を、与えてくれた。
俺、成仏するのかな。
そんなことを思ったけれど、成仏する雰囲気はない。なら、スグミが目を覚ました時、俺はまた、スグミと話ができるはずだ。
俺はスグミを抱えあげた。
「帰りましょう、先生」
カンナが頷く。そして橋の方を彼女は確認し、「綺麗ね」と言う。
俺もまた、橋を見た。
大量の光が、夜空へと昇っていく。そのきらめきは、確かに心を打つ光景だった。
人の命の光だ、と俺は思っていた。
俺とスグミの力の暴発に、照準と出力調整を加えた技術は、「霊砲」と名付けた。
今、霊砲は通常の二倍の出力で、初めて、実戦で放たれた。
橋まで一直線に光が走り、逸脱霊を貫通する。
「やった!」
スグミが大声を上げる。しかし、俺の感覚は、スグミとは違う言葉を頭の中で喚いている。
「外れだ!」
俺はスグミを突き飛ばし、自分も横に倒れる。
まるで霊砲のような逸脱霊の攻撃が、一瞬前まで俺とスグミのいた地点を貫く。
くそ、スグミと離れてしまった。一緒の方向に逃げられたかもしれないが、しかし、一瞬の遅れが生じただろう。その遅れを攻撃されていたら、負けていた。
俺は即座にスグミと力のやりとりを再開する。逸脱霊を見ると、右足を失ってるが、それだけだ。強過ぎる視線が、こちらを向いている。
相手の攻撃の気配。俺は拳を前に繰り出す。
逸脱霊の強烈過ぎる遠距離攻撃が、逸れる。道に面した建物の壁がビリビリと震える。
続けざまの攻撃を、俺は小刻みに拳を繰り出して、逸らしていく。
力では圧倒的に逸脱霊が有利だ。射程距離も、向こうはこちらの倍はある。今も、俺の通常攻撃は逸脱霊には届かない。
しかし、俺には精密なコントロール力、そして鋭敏な感覚がある。
その二つが、長い訓練の結果として、この場の均衡を生んでいた。
逸脱霊の遠距離攻撃に対して、俺の弱い攻撃がぶつかっていく。ぶつかる位置と力加減で、逸脱霊の攻撃が逸れるのだ。もちろん、大きくは逸れないが、しかし、こちらにはほとんど影響がないように弾ける。
「スグミ、距離を詰めるぞ! 霊砲は精度が甘すぎる!」
俺は言いながら、走り出す。スグミも立ち上がって、すぐに後追ってきた。
「横に並べ! ここから先は普通の攻撃じゃ、防御不可能だからな! 気をつけろ!」
スグミが俺と並走し、俺は彼女の手を握った。
霊砲が発射される。逸脱霊が防御行動、障壁のようなものを展開した。
霊砲の光の線が、逸脱霊の障壁にぶつかり、相殺。両者が消える。
クソ、貫通しないか。
今の霊砲は、通常の二倍程度だった。ケイスケの計算は正しかったようだ。四倍での一撃必殺を狙うべきか。
そんなことを思っているうちに、逸脱霊が反撃として、三連撃を見舞ってくる。
「うわっ!」
スグミの手を掴んだまま、俺は浮遊し、スグミを引っ張り上げる。
同時に、霊砲を発砲して、一発だけで逸脱霊の二発の攻撃を弾く。最後の一発は回避した。
地面に戻り、再び、間合いを詰める。
すでに霊砲の撃ち過ぎで、疲労が大きい。一瞬、スグミをうかがうと、彼女も汗を流し、息を切らせている。そこまで消費する運動ではないが、霊砲からくる疲労は避けられないし、戦闘という緊張状態もまた、疲労を生む。
短期決戦しかない!
「スグミ、四倍で行くぞ」
よ、四倍? 着地したスグミが喘ぐ。
「二連撃だ」俺は早口で言う。「牽制の二倍と本命の四倍。これで決める」
喘ぐような声でスグミが返事をする。
二人の繋いだ手で、力が爆発する。
一撃目、通常の二倍の霊砲が、宙を駆ける。
吸い込まれるように、逸脱霊に飛んだ。
逸脱霊が鬼の形相で、障壁を展開し、弾き飛ばした。
行け!
そこに本命の、四倍の強さの霊砲が突き刺さる。
像が歪むほど、強力な障壁が、四倍増しの霊砲を受け止める。
くそ、ダメか?
「もう一発!」
スグミが怒鳴る。
俺は反射的に照準を定め、霊砲を放出する。
四倍増しの、必殺の一撃。
それが着弾すると、逸脱霊の障壁は、粉々に砕け、一瞬で消え去った。
光跡を残し、霊砲が逸脱霊の中心を捕える。
やった。
俺はぼんやりと思った。
表情をゆがめた逸脱霊は、すでに胸から下を失っている。両腕も、指の先から崩れ、溶けて行く。
俺はそれをじっと眺めていた。
母が、消えて行く。
表情を、じっと見ていた。苦しそうな気配は徐々に薄れる。しかし、穏やかな様子でもなかった。未練とでも言うべきか、そういうものが、感じ取れた。
「タクミ!」
突然、スグミが俺に抱きついてきた。
な、なんだ?
スグミが体重を駆けてきたので、俺の体が傾く。
そこに突然の衝撃が加わって、やっと気付いた。
逸脱霊の最後の攻撃を、俺は見逃していた。
スグミと一緒に吹っ飛ばされ、地面に転がる。
息が詰まったが、どうにか身体を起こし、状況を確認する。
逸脱霊は微笑みを一瞬見せると、そのまま消滅した。橋の上には、もう何も残っていない。
スグミを探した。すぐ隣に倒れている。
「スグミ!」
額を一筋、血が流れている。声に返事はない、体も反応しない。
気を失っている?
それとも――?
「スグミ! おい! スグミ!」
俺は彼女の体を揺する。
「起きろ!」
起きてくれ!
その瞬間に、背筋がゾクッとした。
視線を、橋へ向ける。
そこに、光の粒子が集まり、母の姿が蘇っていた。
いや、母だったのは一瞬で、様々な人間の顔に変化し、形も人間から、よく分からない物体へと膨れ上がっていく。
「な、なんだ……?」
呆然とするしかない俺は、隣に立った人間に気づいた。いや、気付いた時には、腕を引かれて、引きずられている。
「しっかりしろ、水瀬タクミ! スグミを連れてこい!」
俺を引っ張っていたのはカンナだった。俺は慌てて、スグミのわきに頭をねじ込み、その体を抱え、カンナに引っ張られて、その場を離れようとする。
「せ、先生、あれは? あれはなんですか?」
「力の暴走だ」カンナの声には緊張が滲んでいる。「力が元から強大な逸脱霊だったが、お前たちの力がそこに過剰に供給された。そのせいで、力が独り歩きを始めたんだよ。止めるには、もっと応援が必要だ」
暴走? 応援?
「待ってください」
そう言ったのは、俺じゃない。
スグミが、意識を取り戻していた。額から流れる血は顎から地面に落ちている。それを、スグミの腕が拭う。
「応援を呼ぶ必要は、ありません。この場の三人で、処理するべきです」
「冗談を言っている場合じゃない」
カンナの口調は厳しかった。
「どうやってもこの場の三人では――」
「倒せます!」
スグミが自分の脚で立った。
「このまま、あの逸脱霊を放置すると、大きな被害が出ます。先生も気づいているでしょう? あの逸脱霊の力は、霊管理者が処理を行う時の、隠蔽と閉鎖の呪術の結界を容易に破綻させてしまうのに、充分な力を持っている」
「それは……」
カンナが言葉に詰まった。俺はスグミの横で、立ちつくす。スグミが、振り返る。逸脱霊を正面にするように。
「先生の力で」スグミが言う。「霊砲で狙う地点を、ガイドしてください。目印をつけてもらうだけで良いんです。そこを狙って、全力で、吹き飛ばします」
スグミが、俺とカンナを振り返る。
そして、笑って見せる。額からまた血が流れているのが、より、その笑みの凄みを際立たせていた。
「出来ます。やってみせます。ね? タクミ」
俺は、反射的に、大きく頷いていた。
◆
橋を前にして、カンナが拳銃を取り出した。
「この霊的な処理が施された弾丸で」カンナが照準を定める。「目印をつける。そこを、狙いなさい」
私とタクミは、強く手を握った。
緊張していないわけではない。でも、不思議と、失敗するイメージはわかなかった。
うまく行く、と思っている自分がいる。
タクミが、手をより強く、握る。
力の気配がする。力は私とタクミの間で、触れあう手と手で交換され、より強く、増幅していく。
「行くよ」
カンナがそう言って、引き金を引いた。
軽い銃声の後、弾丸が飛翔した。着弾した気配はあるが、詳細な位置は、私には分からない。でも、タクミには分かるのだ。タクミの感覚は、私とは比べ物にならない。
タクミの感覚と私の感覚が瞬間、共有されるのが分かる。狙いべき地点も、分かる。
タクミが「やるぞ」と呟く。私は頷く。
力が手と手の間で弾ける。
もっと、もっと強い力が必要だ。
タクミが制御してくれる。だから、全部を放出して良い。
瞬間、胸にあるものが引っ張られるような、心が引きずられるような感覚。
それを感じた時には、今までとは比べ物にならない、全力の霊砲が、発射されていた。
巨大な光の帯が、迸った。
橋へと一直線に飛んだ光が、巨大な光の塊となっていた逸脱霊だったものに、直撃する。
さきほどの逸脱霊の障壁とは比べ物にならない、強靭過ぎる障壁が、霊砲の一撃を受け止める。霊砲の力が弾かれ、四散していく。
突破、できない?
「悪い、スグミ」
タクミが謝る。
その一言で、理解できた。タクミが何を望んでいるのか。
私は頷く代わりに、返事の代わりに、タクミに残っている全ての力を預けた。
もう一度、霊砲が発射される。
その瞬間、私は気を失った。
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俺は二度目の、全力の霊砲の発射と、その軌跡を確かめ、そっとスグミを受け止めた。
俺たちの隣で、カンナが呆然としている。
橋に視線を移せば、そこでは光が渦巻き、微かに唸り声が聞こえている。
逸脱霊が、粉々に分散し、そのまま消えて行く。
今度はもう、蘇らないはずだ。
二度も、全力で射撃することは、考えていなかった。スグミに無理をさせたことが、少し、申し訳ない。
俺が抱えているスグミは、穏やかな顔で、気を失っていた。深刻な状況ではないとは感じられるけれど、それは医師に見せてからだ。
「学生とは」カンナが呆れたように言う。「思えないね」
「捨て身ですよ」
俺はそう言って、もう一度、スグミを見た。
感謝しなくちゃ、いけないな。スグミは俺のために、無理をしてくれたのだから。
俺に、母親に引導を渡す機会を、与えてくれた。
俺、成仏するのかな。
そんなことを思ったけれど、成仏する雰囲気はない。なら、スグミが目を覚ました時、俺はまた、スグミと話ができるはずだ。
俺はスグミを抱えあげた。
「帰りましょう、先生」
カンナが頷く。そして橋の方を彼女は確認し、「綺麗ね」と言う。
俺もまた、橋を見た。
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