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五章
「情報と影響と熱気」その⑤
しおりを挟む「じゃあ先に入らせてもらおうかな。二人は部屋に戻って休んでていいよ。出たら声かけるから」
脱衣所へ行きリュックから着替えとバスタオル、ボディタオルを取り出す。てか自分の出さなくても棚にタオルとかいっぱい置いてある。使っていいみたいだし、これはありがたいね。
裸になって風呂場に入ったらまず頭と体を洗った。この世界にちゃんとした石鹸やシャンプーがあって良かった。バトルや旅で汚れていたので凄く気持ちいい。しかし使うたびに魔法の便利さには驚かされる。温度が調整されたシャワーが使えるんだもん。風呂場のランプ照明も当然魔法であり、少し薄暗く設定されている。
「さてと、お湯につかるか」
銭湯のように大きな湯船で思い切り手足を伸ばしリラックスした。因みに湯船の深さは少し浅めだ。
ここは南の暖かい国だからシャワーだけで終わらせるのが普通で湯舟がない家も多い。本当にこの家は当たりだ。やっぱり日本人はお湯につからないと。
「おおぉぉっ、い~湯加減……最高だな」
「えぇ、お風呂は最高ですね」
えっ⁉ すぐ隣から声が。
「おわっ⁉ セっ、セセ、セバスチャン⁉」
ビックリした。声がするまでまったく気付かなかった。何故にセバスチャンがここに居るんだよ。しかも当然、全裸でお湯につかってるし。っていつからだよ。気配しなかったんだけど、やはり植物だからか?
「お湯に入って大丈夫なの?」
まだ驚きで心臓がバクバクしている。頼むからBL的流れはやめてくれよ。
「はい。問題ありません。わたくし、お茶と同じぐらいお風呂も大好きなんです」
「そ、そう」
ちょっとセバスチャン、喋りながら近付いてくるのやめて。いやホンとガチムチのマッチョと美形男子が裸で近付いてきたら超怖いからね。
「マスターもお風呂が大好きで、よく一緒に入っていました」
なるほど、だから南国の家なのに立派な風呂があるんだな。そのマスターは北の寒い地方の出身かもしれない。
「今日は久しぶりに誰かと入れて嬉しいです。ここにマスターが居ればもっと楽しかったのですが、本当に残念です。アキト殿、早くマスターを見付けてくださいね」
「分かってるって。さっき情報屋にロイって奴のこと頼んできたから」
「それはありがたい。どうやらアキト殿は仕事が早いできる男のようですね。好きですよ、わたくしはそういう人」
「そ、そう」
だから怖いっての。超美形のその顔で少女漫画風のキラキラオーラ全開でそういうセリフ止めて。
また近付いてるんですけど。あと数センチしか離れてないからね。でも気になっていることを確かめるチャンスだ。それは謎の植物で人間の姿をしているセバスチャンの股間がどうなっているかだ。
パンツの上からは外人級に盛り上がってたけどその中はどうなってんだか。かなり怖いが好奇心に押され、恐る恐るセバスチャンの股間をチラ見する。
ってやっぱあるぅぅぅぅぅっ‼
超立派なのついてるぅぅぅぅぅっ‼
でも毛は無くてツルツルぅぅぅぅぅっ‼
もう完全に人間だよ。ロイって奴はどこまでリアルに造ってんだ。職人根性は凄いけど、何故女の子にしなかったバカヤローが‼
しかしロイ・グリンウェルって奴は天才だ。ここまで人間そっくりな生命体を作ってしまうとは。
「どうかなさいましたか、アキト殿。なにやら動揺しているように見えますが」
「ははっ、べ、別に大丈夫だけど」
けっして自分のと比べて動揺したわけじゃないからね。羨ましくないんだからね。
「お疲れのようですね。ではわたくしめがマッサージをいたしましょう」
「マ、マッサージ」
「はい、マッサージです」
「いやいやいやいや、ぜんっぜん疲れてないし」
「まあそう言わずに、身を任せてみてください。こう見えてセバスは色々と得意ですから」
色々って何が得意なの、ただただ怖いんですけどぉ。とか思ってる間に後ろに回られて抱き締められてるぅぅぅっ‼
「おわっ⁉ やっ、やめろっての」
セバスチャンは透かさず手の平で俺の上半身を舐めるように優しくまさぐる。
「あふぅ……」
ってコラぁぁぁっ‼ 変な声出してしまったじゃねぇかよ。絶妙なタッチやめろ‼ このままじゃ未知なる世界へ連れて行かれる。なんとか回避しなければ。
で、逃げようとしてもがくと肘が偶然セバスチャンの頭にヒットする。
鈍い音がしたと同時にセバスチャンの腕の力が抜けたので、跳ねるように湯船から出て脱衣所まで逃げた。一瞬だけ振り返って確認したが、超人パワーを食らったセバスチャンはお湯に倒れ浮いていた。
浅いし植物だから大丈夫だろ。このタイミングで助ける気にはならない。もしも成仏したならそれまでだ。
急いで白のTシャツに黒のボクサーパンツを穿いて、荷物をウエストポーチの魔法空間に入れて自分の部屋へ逃げる。
でもやはり気になるので、風呂に戻ってそっとドアを開けて大きな湯船を見ると、セバスチャンは目を回して仰向けで湯船にプカプカ浮かんでいた。
よし、まだ生きてる。このまま放置でもよさそう。頭にデカいたんこぶできてるだろうけど大丈夫そうだ。
「あっぶねぇ。もう少しで覚醒させられるところだった。異世界恐るべし」
部屋に戻り安心したら、誰に言うでもなく独り言を発していた。
「そうだ、脱ぎたてパンツをスカーレットにあげる約束だった」
鞄の魔法空間からパンツを取り出しスカーレットの部屋に向かう。
スカーレットは無頓着なタイプなので部屋のドアは開けっ放しであり、ノックだけしてそのまま部屋に入った。
「スカーレット、約束のパンツ持ってきたぞい」
「あわわわわっ、ご、ご主人のパ、パンツ」
スカーレットは赤面し、壊れたぜんまい仕掛けのおもちゃのようにオタオタと同じ動きを繰り返している。
「さあ、思う存分クンクンするがいいさ」
パンツを手渡すとスカーレットはブルブルと震えながら慌てふためく。まあ落ち着けっての。
きっと今晩はクンクンした後、パンツを抱き締めて寝るんだろうな。
「風呂に入ってこいよ。疲れとれるぞ。湯船に変な植物浮いてるかもしれないけど気にしないように」
いまだパンツを握り締め挙動不審状態の愛犬を放置して、次はクリスの部屋へ向かう。
クリスの部屋に入ると、体操服と赤色のブルマ、白の靴下と上履き風シューズを既に着ていた。
「見て見てご主人様、ピッタリなのにゃ。裁縫道具も家にあったので尻尾の穴も上手くできたのにゃ」
やはりクリスの裁縫の腕前は本物だったようだ。ってそんな事はどうだっていいんだよ。その姿だよ姿、超絶萌えるぅぅぅっ、なんなのもうこの可愛い生物は‼
幻想生物と絶滅種のコラボレーションの破壊力たるや、もう表現できないぐらい凄い。それにブルマってスゲー。昔はこれを体育の時間に女子が全員普通に穿いてたんだよな。ムチムチの太もも丸出しなんですけど。
「気に入ったようだな。似合ってるぞ、クリス」
「にゃは。ご主人様に褒めてもらえてクリスチーナは嬉しいのにゃ。下着もご主人様に買ってもらったのを穿いているのにゃ」
クリスはいきなりブルマを膝の辺りまで下げて下着を見せてくれた。
「おおっ⁉ 一番派手なヒョウ柄Tバックかよ」
出やがったな、天才いいね職人が。いくらでもいいねつけてやんよ。ってこのムラムラどうしてくれんだよまったく。
「も、もう分かったから、クリスもお風呂に入ってこい。それで今日はベッドでゆっくり寝て、旅の疲れをとろう」
「はいにゃ」
用事を済ませた後は自分の部屋へ帰り、ふかふかベッドに寝転がった。
セバスチャンがやったのかは分からないが、全ての部屋が本当に綺麗でベッドメイキングまでされており、すぐに寝れる状態だ。
「え~っと、家の中で履く用のサンダルが必要だな。クロックスみたいなの売ってるかなぁ」
家で靴を履きっぱなしというのは物凄く疲れる。でもこの家は西洋風だし裸足で生活するのは変だ。だから学校みたいに上履きに履き替えるようにしよう。そしたら泥や土で汚れないし。
「三人分、買わないと……」
相変わらず色々ありすぎて疲れていたのもあり急激に眠たくなってくる。この時、走馬灯のように異世界に来てからの事を思い出す。まだ数日なのに摩訶不思議なことばかりだった。
「ははっ、ついこの間まで引きこもりだったのに、なにやってんだろ」
そんな独り言を小さく発した後、深い眠りに落ちた。
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