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六章
「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その④
しおりを挟むそれから俺たちは強いモンスターを求め更に奥へと通路を進む。するとすぐに下層へと続く階段があり用心しながら下りた。
「ご主人、奇跡ですね」
「あぁ、奇跡だな」
「にゃん?」
クリスとレオンは会話の意味が分からずポカンとしてたが、本当に奇跡だ。だってこの階段、けっこうな長さだったよ。なのに何事もなく下りきれたんだぜ。これを奇跡と呼ばずになんという。こっちはトラップ発動すると思って一段目から心の準備してたからね。
だがしか~し、そんな奇跡が続かないことを俺は知っている。さあバッチこいやトラップ。どんなお約束でも跳ね返してやる。
「にゃん? この壁に押したくなるようなでっぱりがあるのにゃ」
おっ、さっそくドジっ子スキル発動ですかクリスさん。ってそれ絶対に押すなよ。
「はははっ、そんなの罠に決まっているだろ。触るんじゃないぞ」
レオンはイケメン特有のキラキラオーラを放出しながら爽やかなスマイルを見せて言った。
実際にはオーラなんて見えないが、ひがみのせいかはっきり見える気がするんだよ、少女漫画のイケメンが背景に纏う煌びやかな効果が。
「こっちの壁のでっぱりだが、これはいかにも罠に見えるが実はそうではないのだ」
「凄いのにゃ。見ただけで分かるなんて天才なのにゃ。レオン様はベテラン冒険者なのにゃ」
我が家の猫はなかなかにおだて上手だ。レオンは褒められて嬉しそうな顔してやがる。
「まあ見ていなさい」
レオンはドヤ顔で壁のでっぱりを押して見せた。
おいおい大丈夫かよ、と思った瞬間、そのでっぱりはガコンっと音を出し押し込まれる。
「えっ⁉」
レオンは鳩が豆鉄砲を食ったように、きょとんとして俺の方を見た。
って「えっ」じゃねぇよ。やっちゃうのお前かぁぁぁいっ‼ もう一人ドジっ子いたぁぁぁぁぁっ‼
なんなのこいつら、どんな思考してんだよ。ホンと天才って理解不能だよ。
「グラグラ揺れてきたんですけど。確実にトラップ発動したんですけど」
お約束すぎるだろコノヤローが。どっちにしても覚悟してたからいいんだけど、これはヤバめのやつがきそうな予感。
それにしてもレオンは、これでここまで生き抜いてきたとはな。どんな冒険をしてきたんだろ。自叙伝が出たらマジで買って読むよ。
「アッキー、どうしよう」
「これもうどうにもならないやつでしょ」
「にゃははははっ、レオン様は面白いのにゃ」
「そ、そこの猫、わ、笑うな‼」
レオンは顔を真っ赤にして大きな盾ごと腕をバタバタさせた。その照れ隠しの動き面白いけど今はそれどころじゃない。
このトラップ地震みたいに揺れているけど何が起こるんだ。間があるのが気味悪い。
「アッキー、なぜ君はそんなに普通なんだ、怖くないのかい?」
「いやまあ、普通に焦ってますよ」
砂漠のダンジョンがトラップ地獄だったし、それで慣れたから平然としてるように見えるのかも。
それよりレオンさん焦りすぎの汗かきすぎ。自分でトラップ発動させといて、どんだけビビってんだよ。なんか腹立ってきた。
「ご主人、奥の方から凄い地響きが」
「この揺れと音、巨大な扉が開いた、そんな感じだな。上級の強いモンスター来るんじゃないの」
間違いなく何かが襲ってくる。正面からのプレッシャー半端ない。
通路全体が揺れ、壁の岩が削られるような音が迫ってくる。もしかして巨大モンスターなのかも。
「クリス、ちょっとこっちへ」
「はいにゃ」
クリスに持たせているウエストポーチの魔法空間からゲットしたトロールハンマーを一本取り出した。迫ってくるモンスターが巨大なら、ナイフよりハンマーの方が戦いやすいはずだ。
右手で大きなハンマーを持ち、何度か素振りしてみる。本当なら凄く重くて扱えないだろうが、超人にとっては剣道の竹刀程度だ。
「よし、これ使える」
「す、凄い力だね。そのハンマーを片手で軽々と扱うなんて」
「えっ、別に軽々ってわけじゃないですよ。普通に重いかな……」
あまり超人パワーを見せない方がいいんだが、そんなこと言っている場合じゃないよね。今は仮面で顔を隠しているから良しとしよう。
「うわっ、でたっ⁉」
通路の奥にモンスターの姿が見えた。やはりギガとかメガ系の巨大モンスターだ。
「ご主人、あれはダンジョン・ワームです。でもあんなに巨大なものは見たことありません」
そのワームは名前の通りミミズみたいな感じで通路を埋め尽くすほど巨大だ。
ボディーは紫色で赤く光る丸い目が左右に三つずつあり、正面には大きく開いた口が見える。その口にはホホジロザメみたいな鋭い歯が剥き出していた。
いくら超人でもあの歯に噛まれたら終わりだ。これは今までのように簡単にはいかないかも。ただ巨大モンスターを見ても恐怖で体が動かないなんてことはなく、不思議と冷静だ。
「大丈夫、俺がやる。三人とも階段の真ん中あたりまで逃げろ」
「御意」
「はいにゃ」
「お、お前たちは何故そんなに普通でいられるんだ。あれはどう見ても、上級かそれ以上のモンスターだぞ、おかしいだろ」
「ご主人が大丈夫と言ったら大丈夫なのです」
「レオン様、早く逃げるのにゃ」
レオンは戸惑いと恐怖で少し体が固まったようだが、素直に命令に従い階段まで避難した。
ワームはその巨体で壁を削りながら猛然と迫り眼前まで来た。こりゃ凄い迫力だ。鋭い歯とか関係なく丸飲みにされそう。この位置で戦ったら正面に口があるわけだし本当に食われてしまうかも。
こいつの頭に一撃入れるには大ジャンプすればいいが天井が邪魔だ。ここは階段を利用しよう。
「さあついてこい」
その場から階段まで猛ダッシュしたら作戦通りワームは追ってくる。階段を十段ほど駆け上がり透かさず方向転換した。
ワームは階段のすぐ下まで迫っており、計算通り頭上に空間ができている。よし、このタイミングだ。
「一撃勝負‼」
自分の方が高い位置からジャンプして巨大ワームの頭の辺りにハンマーを叩きこむ。
逃げ場がないのでこの一撃で倒せなかったら食われてしまう。なので最大出力ではないが少し強めに叩いた。
シリコーンゴムの塊を攻撃したようなグニャリという感触だが、同時に打撃特有の手応えもあった。その証拠にワームは断末魔の叫びをあげた。
ワームの頭部は地面を陥没させてめり込み、すぐにボンっと爆発するようにモクモクと大量の煙を出して消滅した。
「ははっ、このハンマー気に入ったかも」
売ってよし使ってよしだな。しかしトロールハンマーぐらいでこの威力なら魔剣とか使ったらどうなるんだろ。借りて使ってみようかな。
「お見事です、ご主人」
「ご主人様は凄いのにゃ。ここからはクリスチーナのお仕事なのにゃ」
クリスはそう言った後にワームの原料を拾いに行った。偉いぞクリス、言われなくても仕事をするとは。
「す、凄すぎる。勇者の力がこれほどとは……」
レオンは小刻みに震えながら俺を見て驚愕している。
ちょっとやりすぎたか。やはり力を見せすぎると後で面倒だ。噂ってすぐ広がるし尾ひれがつくからな。
「レオンさん、俺の強さの事は秘密ですよ。誰にも言わないように」
「あ、あぁ……分かった」
まだ放心状態なんだがそこまで驚くことなのかよ。上級冒険者の戦いはもっとトンでもなく派手なんじゃないの。攻撃魔法とか必殺技的な剣技があるわけだし。
「いくらなんでも驚きすぎですよ。レオンさんも一応はレベル30の戦士で魔剣使いなんだから、本気だしたら凄いはずでしょ」
「そうかなぁ。だといいんだけど」
レオンは人が良さそうなのでペラペラ喋ったりはしないと思うけど、問題なのは後方で隠れている奴だ。何者か分からないけど、どうにかして撒けないものか。
「ご主人様、金貨三枚あったのにゃ」
「マジで⁉」
やったね。あの程度で金貨三枚かよ。いきなり九万円ゲットだぜ‼ もっと出てきてくれ。てかトラップ発動させたレオンに感謝だな。ホンとグッジョブですよ。
ただこれだけの額ってことは巨大ワームが上級ってことだよな。やはりこのダンジョンで何か悪巧みが起こってる可能性大だ。
あまり関わり合いになりたくないけど、金になるなら今は有り難い。なんといっても貧乏だから。
「よしっ、テンション上がってきた。次だ次、どんどん狩りまくるぞ」
「御意」
「はいにゃー」
「…………」
一人元気なく沈黙しているが、ハンマーを装備したままでワームが来た通路を奥へと進む。
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