桜が散る頃に

翠恋 暁

文字の大きさ
2 / 17

突然の告白

しおりを挟む
「……どうなってるんだ」
 再び目を覚ました俺はそうつぶやくしかなかった。
 いくら目をこすっても、頬をつねっても引っ叩いても、景色が風景が変わることはなかった。
 俺は、さっきと同じところで寝ていたのだ。
 状況は何も変わっていない。
 何もしていないから当然といえばそれまでなのだが……
 ただ一つ、違うことがあるというなら日が傾いているということだ。
 空と同様、綺麗な夕焼けが広がっていた。
 それからわかることは一つだ。
「……夢じゃないのか」
 多分俺が初めて目を覚ました時、ここは朝だった。
 少なくとも露があったのだ。
 そして今は夕方だ。
 どんなに少なく計算したとしても5時間以上は経っている。
 つまり、こっちの世界で時間が進んでいるのだ。
 俺は地球とは違う世界に来てしまったようだ。
 一体どういう経緯でここへと来てしまったのだろうか。
 突然、視界がいや、空が暗く曇り始めた。
 それは、何かを中心に渦巻いているようだった。
 蛇のようにトグロを巻いているのだ。
 全ての雲が中心に集まった時、空が光った。
 それと同時に稲妻のようなものが四方へ走った。
 そして、さっきの何倍もの光を発して、地面に落ちてきた。
 俺は、さっきの何倍もの光のせいで目が見えなくなっているので、爆発音とともに地面が揺れているのでそう感じ取ったのだが、それは間違いじゃなかったようだ。
 ようやく視力が回復してきたところで、その状況に絶句した。
「なんだこれ……」
 目の前にクレーターができていた。
 そして、空は何事もなかったように晴れ渡っている。
 少し遅れたように、砂埃すなぼこりが巻き起こる。
 その砂埃でむせていると
「魔王様、お迎えにあがりました」
 クレーターの中心から声が聞こえた。
 目を凝らして見てみると、一人の悪魔が立っていた。
 立派な角が生えている。
 堕天使のごとく真っ黒な翼。
 長身で眼鏡をかけている。
 魔王か、俺とは縁もゆかりもない話だな。
 てか、まるでファンタジーの世界じゃん。
 というかそのものだ。
「さ、魔王様。帰りましょう」
 そして俺はようやく悟った。
 この悪魔は他の誰でもない俺に話しかけているという事実に。
 何かの冗談だろう。
「……誰が魔王だって?」
 悪魔は顔を傾け、疑問を隠せないようだ。
「あなた様にございます」
 この場で俺以外に話せるものは悪魔の他にいない。
 どうやら冗談を言っているようではなかった。
 少なくとも、冗談を言う状況ではなかったし、嘘をついている時の不自然さもなかった。
「ちょっといいか、俺は人間だよな?」
 少しの希望を信じて、そう質問した。
「何を仰いますか。その立派な翼、立派な角をもってして、ご自分が人間であるなど」
は? 角、翼?
「何を言っ……」
 角が付いているとおぼしき場所、同様に翼のついていると思しき場所を手探りで探ってみる。
 確かにそこにはあった。
 本来、人間にはないもの。
 あってはいけないものが、そこにはあった。
 それからわかることは、ただ一つだ。
 俺は人間ではないということだ。
「冗談きついな……」
 そう言いながら立ち上がった。
 その時、一つ、違和感を覚えた。
 自分が人間ではないことはさておき、一つ疑問が、不自然な点が明確になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...