桜が散る頃に

翠恋 暁

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悪魔の微笑み

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「……すごいことになった」
 売れればいいと思っていたのだがそれどころではなかった。俺の予想の遥か上へと、難なく飛んで行ってしまった。よもやいきなりこんな大金が転がり込んでくるなんて誰が想像しただろうか。
「結果としては良かったですね」
 と、リーゼはいうのだが、よかったどころではない物凄く良かった。ただの石ころに見えるあの石にそんな価値があるなんて想像すらしていなかった。確かに宝石のような輝きは持っていた。
 ところでなのだが、さっきから気がかりなことがいくつかある。
「ベス? 生きてるか?」
 いつも元気でまさに天真爛漫てんしんらんまん静かさを寄せ付けない台風のようなハリケーンがおとなしい、というか消えている。意気消沈している。
「普通に灰になりかけてるな、ちょっと待ってろ」
 ベスの状態は思ったよりも深刻だった。そして改めて思った。吸血鬼って日に当たると灰になるんだなと、そして俺の予想のはなんの意味もなく、簡単に飛び越え塗り替えられてしまうんだなと。
 そういえば、台風もハリケーンも名前が違うだけで、同じ爆弾低気圧だったな。ちなみにサイクロンも同じなんだよな。と若干の現実逃避に走ったのもしょうがないと思う。

「ユウト様、ありがとうございました、助かりました」
 なんとか衣服を扱う店で帽子とマントとついでに傘を買ってきた。
店主一押しの日傘らしくすごくオススメされたので買ってきた。というか買わされた。押しが強くて引けなかったし何より断る勇気は存在しなかった。我ながら情けない。
 そんなことはともかくことのついでに魔力も少々与えておいた。けれど灰になりかかった部分の修復には時間がかかるらしくベスの体は全体的に薄くなっていた。
 これから、ベスは昼間に連れて行かないほうがいいかな。
「さて、時間が時間だし会議場に戻ろうか」
 とは言っても1時間はあるのだろうか。でも、遅刻は良くないしね、早めに行動しておいて損はないだろう。
「すいません、ユウト様。お願いがあのですが……」
 リーゼ自らのお願いなんて珍しい。これは聞くしかないよね、男なら可愛い女の子の言うことは聞いてあげないとね。
「なんでもいいぞ。多分なんでもできるから」
 当たり前だ。俺の懐は超がつくほど潤っている。それこそ城を立てろなんて言われない限りできないことはない。やっぱり基本的にどの世界でも貨幣っていうのは大事だなんだと思う。行き着くところは結局お金だ。なくて困ることはあってもあって困ることはない。
「はい、実は喫茶店というところに行ってみたいのです」
「喫茶店か、いいね。ベスは大丈夫か?」
「だいぶ良くなりました。ユウト様の魔力のおかげですね、喫茶店は私もいってみたかったんです」
「なら決まりだな、いざ喫茶店へ……誰か場所知ってる?」
 当然ながら満場一致で誰も知らなかった。
 仕方なく宝石店の店主にここらで一番オススメの喫茶店を聞いてきた。その情報を頼りに街を歩いていくと途中いくつかの屋台があった。まずその量の多さに驚いた。軽く30はあるだろうか。道路に面して設置されているそれは何を隠そう様々な音と匂いを漂わせていた。特に甘い匂いを出していた。こういうのを見ると日本の祭りを思い出す。別に大した思い入れがあるわけでもないのにな……というか最後に行ったのなんていつだったのかすら覚えていない。
「リーゼ、ベス、なんか食べるか?」
 ジーっと、焼き鳥の屋台の商品に視線を注いでいた2人にそう尋ねる。ベスに至ってはよだれが垂れかけていた。いやむしろ垂れていた。
「……い、いえ、私は」
「え、いいの? やったやった、ねこれにしよこれこれ」
 どうも調子はすっかりいつも通りになったらしい。とりあえずは一安心だ。とはいってもなにぶん素直なベスとは対照でリーゼはどうも一歩引いているところがある。もうちょっと遠慮しなくてもいいのにな。
 でもベスのように素直すぎるのもどうかと思うが。なんか簡単にだまされそうだな。そんな危惧が頭をよぎった。
 結局人数分の商品を買い、美味しくいただいた。この世界の味付けはシンプルに塩一本。確かにそれはそれでアッサリしていて食べやすかった、お酒のつまみにはぴったりなのだろう。読んだことがないからわからないが。
 でもどうも俺は醤油の方が好きらしい。
「さてと、喫茶店に行きますか」
 その後、大した苦労もなく喫茶店へ到着した。
 
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