桜が散る頃に

翠恋 暁

文字の大きさ
13 / 17

悪魔の微笑み

しおりを挟む
「……すごいことになった」
 売れればいいと思っていたのだがそれどころではなかった。俺の予想の遥か上へと、難なく飛んで行ってしまった。よもやいきなりこんな大金が転がり込んでくるなんて誰が想像しただろうか。
「結果としては良かったですね」
 と、リーゼはいうのだが、よかったどころではない物凄く良かった。ただの石ころに見えるあの石にそんな価値があるなんて想像すらしていなかった。確かに宝石のような輝きは持っていた。
 ところでなのだが、さっきから気がかりなことがいくつかある。
「ベス? 生きてるか?」
 いつも元気でまさに天真爛漫てんしんらんまん静かさを寄せ付けない台風のようなハリケーンがおとなしい、というか消えている。意気消沈している。
「普通に灰になりかけてるな、ちょっと待ってろ」
 ベスの状態は思ったよりも深刻だった。そして改めて思った。吸血鬼って日に当たると灰になるんだなと、そして俺の予想のはなんの意味もなく、簡単に飛び越え塗り替えられてしまうんだなと。
 そういえば、台風もハリケーンも名前が違うだけで、同じ爆弾低気圧だったな。ちなみにサイクロンも同じなんだよな。と若干の現実逃避に走ったのもしょうがないと思う。

「ユウト様、ありがとうございました、助かりました」
 なんとか衣服を扱う店で帽子とマントとついでに傘を買ってきた。
店主一押しの日傘らしくすごくオススメされたので買ってきた。というか買わされた。押しが強くて引けなかったし何より断る勇気は存在しなかった。我ながら情けない。
 そんなことはともかくことのついでに魔力も少々与えておいた。けれど灰になりかかった部分の修復には時間がかかるらしくベスの体は全体的に薄くなっていた。
 これから、ベスは昼間に連れて行かないほうがいいかな。
「さて、時間が時間だし会議場に戻ろうか」
 とは言っても1時間はあるのだろうか。でも、遅刻は良くないしね、早めに行動しておいて損はないだろう。
「すいません、ユウト様。お願いがあのですが……」
 リーゼ自らのお願いなんて珍しい。これは聞くしかないよね、男なら可愛い女の子の言うことは聞いてあげないとね。
「なんでもいいぞ。多分なんでもできるから」
 当たり前だ。俺の懐は超がつくほど潤っている。それこそ城を立てろなんて言われない限りできないことはない。やっぱり基本的にどの世界でも貨幣っていうのは大事だなんだと思う。行き着くところは結局お金だ。なくて困ることはあってもあって困ることはない。
「はい、実は喫茶店というところに行ってみたいのです」
「喫茶店か、いいね。ベスは大丈夫か?」
「だいぶ良くなりました。ユウト様の魔力のおかげですね、喫茶店は私もいってみたかったんです」
「なら決まりだな、いざ喫茶店へ……誰か場所知ってる?」
 当然ながら満場一致で誰も知らなかった。
 仕方なく宝石店の店主にここらで一番オススメの喫茶店を聞いてきた。その情報を頼りに街を歩いていくと途中いくつかの屋台があった。まずその量の多さに驚いた。軽く30はあるだろうか。道路に面して設置されているそれは何を隠そう様々な音と匂いを漂わせていた。特に甘い匂いを出していた。こういうのを見ると日本の祭りを思い出す。別に大した思い入れがあるわけでもないのにな……というか最後に行ったのなんていつだったのかすら覚えていない。
「リーゼ、ベス、なんか食べるか?」
 ジーっと、焼き鳥の屋台の商品に視線を注いでいた2人にそう尋ねる。ベスに至ってはよだれが垂れかけていた。いやむしろ垂れていた。
「……い、いえ、私は」
「え、いいの? やったやった、ねこれにしよこれこれ」
 どうも調子はすっかりいつも通りになったらしい。とりあえずは一安心だ。とはいってもなにぶん素直なベスとは対照でリーゼはどうも一歩引いているところがある。もうちょっと遠慮しなくてもいいのにな。
 でもベスのように素直すぎるのもどうかと思うが。なんか簡単にだまされそうだな。そんな危惧が頭をよぎった。
 結局人数分の商品を買い、美味しくいただいた。この世界の味付けはシンプルに塩一本。確かにそれはそれでアッサリしていて食べやすかった、お酒のつまみにはぴったりなのだろう。読んだことがないからわからないが。
 でもどうも俺は醤油の方が好きらしい。
「さてと、喫茶店に行きますか」
 その後、大した苦労もなく喫茶店へ到着した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...