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僕の四月は君のせい
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四月の僕は彼女のせいで変わった。
僕はある喫茶店で働いている。
でも、僕はここで仕事をするにあたって面接をしたわけでもない。というか彼女が無理やり僕をここで働かせているのだ……いや、それは正しくないか。僕自身がここで働きたいと思ってしまっていたのもあるから、結局は僕が負けただけなのか。
今日も彼女は僕に語りかけてくる。それが普通だと言わんばかりに。いや、嫌なんじゃない、逆に嬉しいくらいだが。
ともあれそれが僕の日常。
そして彼女の日常。
もうこんな生活が1年以上も続いている。
そういえばもう少しで2年になるのか。終わることもなく、ただ流れていった。いつ終わってもおかしくない。でも、僕には終わるようには感じられなかった。いや、終わらせたくないのだろう、変えたくないのだろう。
「すいません、コーヒーをいいですか」
と、さっき入ってきた会社員が言う。
「はい、ただいま」
そう言って、コーヒーも淹れ始める。もうこの作業にも慣れてしまった。お客さんの接待をし、コーヒーを淹れる、ランチを作る、材料の買い出しをする。
慣れて仕舞えばなんてことない。
2年近くもやっていれば自然と体が動く。
「お客様、砂糖とミルクはどうします?」
そうやってお手本通りに尋ねる。
でもこのお客さんは砂糖もミルクも入れない。
でも、彼は甘党だ。
毎回、追加でケーキなどを注文する。いつのまにかそんなことまで覚えてしまっているのだ。
慣れ、とは少し違うけれど、これもまた仕事の中で身についたものだ。いわゆる経験というものだ。
「どうしたんだ? そんなに改まって、わかっているだろう。私が何を頼むか」
何も変化のない、いつも通りのやりとり。いや、いつもはこんな冗談は言わないな。
「軽いジョークですよ。砂糖もミルクもなしですよね。今日はショートケーキとフルーツタルトがありますけど、どちらにします?」
「悩むなぁ……オススメは?」
「そうですね……個人的にはフルーツタルトがいいです。旬の果物が詰め込まれてますから」
「ではフルーツタルトを頼む」
「わかりました」
こんなやり取りをしていればそれは店員のように見えることだろう。当たり前だ、エプロンをつけてカウンターにいるのだから。そもそもここの店員なんだし。何でそんなことを思っているのかなんてもう僕には分からない。
「どうぞ」
「ありがとう、望君の入れるコーヒーはやっぱり美味しいね」
「ありがとうございます。一ノ瀬さん、それはそうとどうですか?」
「そうだね、千春ちゃんの言った通りだったよ」
つい先日、少し相談に乗ったのだ。世の中を生きる会社員は大変である。そんな感想を受けた。
とはいってもここは街角にある一軒の喫茶店。いわゆるカフェだ。
まぁ、それなりに繁盛している。
そして、カフェとは別の側面を持っていたりもする。ただ唯一そこだけが変わっている点。
「望君チョコレートを買ってきてくれるかしら」
僕と同じエプロンをかけた女子が店内のソファーに腰をかけながらそんなことを言ってくる。
「はい、わかりました」
彼女はまた読書へと、その世界の中に入ってしまった。
彼女は僕の雇い主。
小鳥遊千春僕の通う学校の一個上の先輩だ。
才色兼備な女性で誰にでも好意的で、親切で優しい。
でも、彼女は誰の告白にも振り向かない。
例えそれがどんなにイケメンだとしても彼女は振り返りすらしない、見向きもしない。
彼女はまさしく誰の手にも届かない高嶺の花だ。
よじ登ることもできない断崖絶壁に身を構える一輪の花だ。
勿論落ちてくるわけなんてない。
落とそうものなら自分が落ちる……はずだった。
僕はある喫茶店で働いている。
でも、僕はここで仕事をするにあたって面接をしたわけでもない。というか彼女が無理やり僕をここで働かせているのだ……いや、それは正しくないか。僕自身がここで働きたいと思ってしまっていたのもあるから、結局は僕が負けただけなのか。
今日も彼女は僕に語りかけてくる。それが普通だと言わんばかりに。いや、嫌なんじゃない、逆に嬉しいくらいだが。
ともあれそれが僕の日常。
そして彼女の日常。
もうこんな生活が1年以上も続いている。
そういえばもう少しで2年になるのか。終わることもなく、ただ流れていった。いつ終わってもおかしくない。でも、僕には終わるようには感じられなかった。いや、終わらせたくないのだろう、変えたくないのだろう。
「すいません、コーヒーをいいですか」
と、さっき入ってきた会社員が言う。
「はい、ただいま」
そう言って、コーヒーも淹れ始める。もうこの作業にも慣れてしまった。お客さんの接待をし、コーヒーを淹れる、ランチを作る、材料の買い出しをする。
慣れて仕舞えばなんてことない。
2年近くもやっていれば自然と体が動く。
「お客様、砂糖とミルクはどうします?」
そうやってお手本通りに尋ねる。
でもこのお客さんは砂糖もミルクも入れない。
でも、彼は甘党だ。
毎回、追加でケーキなどを注文する。いつのまにかそんなことまで覚えてしまっているのだ。
慣れ、とは少し違うけれど、これもまた仕事の中で身についたものだ。いわゆる経験というものだ。
「どうしたんだ? そんなに改まって、わかっているだろう。私が何を頼むか」
何も変化のない、いつも通りのやりとり。いや、いつもはこんな冗談は言わないな。
「軽いジョークですよ。砂糖もミルクもなしですよね。今日はショートケーキとフルーツタルトがありますけど、どちらにします?」
「悩むなぁ……オススメは?」
「そうですね……個人的にはフルーツタルトがいいです。旬の果物が詰め込まれてますから」
「ではフルーツタルトを頼む」
「わかりました」
こんなやり取りをしていればそれは店員のように見えることだろう。当たり前だ、エプロンをつけてカウンターにいるのだから。そもそもここの店員なんだし。何でそんなことを思っているのかなんてもう僕には分からない。
「どうぞ」
「ありがとう、望君の入れるコーヒーはやっぱり美味しいね」
「ありがとうございます。一ノ瀬さん、それはそうとどうですか?」
「そうだね、千春ちゃんの言った通りだったよ」
つい先日、少し相談に乗ったのだ。世の中を生きる会社員は大変である。そんな感想を受けた。
とはいってもここは街角にある一軒の喫茶店。いわゆるカフェだ。
まぁ、それなりに繁盛している。
そして、カフェとは別の側面を持っていたりもする。ただ唯一そこだけが変わっている点。
「望君チョコレートを買ってきてくれるかしら」
僕と同じエプロンをかけた女子が店内のソファーに腰をかけながらそんなことを言ってくる。
「はい、わかりました」
彼女はまた読書へと、その世界の中に入ってしまった。
彼女は僕の雇い主。
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才色兼備な女性で誰にでも好意的で、親切で優しい。
でも、彼女は誰の告白にも振り向かない。
例えそれがどんなにイケメンだとしても彼女は振り返りすらしない、見向きもしない。
彼女はまさしく誰の手にも届かない高嶺の花だ。
よじ登ることもできない断崖絶壁に身を構える一輪の花だ。
勿論落ちてくるわけなんてない。
落とそうものなら自分が落ちる……はずだった。
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