可憐な花は咲き乱れる

翠恋 暁

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受験生は忙しい

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 その噂は実に美しいものだった。
 純粋で、純潔で心地が良かった。
 でもそれと同時に皮肉がつきまとっているように思えた。
 『高嶺の花』そう称される人の話だ。
 誰の告白にも答えない、誰にもなびかない。
 入学すると同時に学校の男子生徒全員に告白され全員を振ったという武勇伝を持っているという人の話をでも、だから彼女はいつも一人だと。
 僕は友達に聞かされるがままに聞いていた。
 そして流していた。右から左に流していた。
 そんな人はいない、と思っていたからだ。
 中学3年の冬、受験シーズン真っ只中そんな噂に影響させられている余裕はなかった。そうやって自分を追い詰めていた。いや、追い込んでいたのだそうでもしないと頑張れないのだから。
のぞむ、どこの高校受けるんだ?」
「桜沢西、公ちゃんは?」
 鈴木公介、僕の少ない友人の一人だ。
「桜沢東」
 そう、彼は頭がいい。
 5教科250点満点で常に190点以上。
 俺は良くて180点くらいだ。
「桜沢西か、例の美人すぎる人がいるところだな。それが目当てだったりするのか?」
「そんなわけないだろ」
「どうだか?」   
「違うっつーの」
 軽く肩を殴り合う。
 こうやって友達と冗談を言い合えること、それが僕の日々。
 何の変哲も無い日常。
 忙しい受験勉強の中で心休まる数少ない時間だったりする。
 
 楽しい時とこないでほしいと思う時は時間は早く流れるようで。
 時は流れいよいよ受験当日。
 正直不安しかない。でも、おかしなことに大して緊張はしなかった。
 勉強を頑張ってて来た成果なのだろうか。
 テストの出来も良かった……と思う。
 あと残る問題は面接だよな。その面接は明日だ。
 その夜、公ちゃんから電話がかかってきた。
『どうだったよ望? 出来たか?』
『あぁ、結構良かった』 
『そうか』
『公ちゃんはどうだった……なんて聞く必要ないよな』
『あぁ、バッチリだ……そういえば明日面接だよな、頑張れよ』
 そういえば、東は1日で受験が終わるんだったな。
『おお、頑張るよ』
 ま、ここまできたら受かるしかないよな。
『それじゃ俺は寝るわ、流石に1日で全部やるのはきついわ』
『おう、おやすみ』
 電話を切るとドッと不安が押し寄せてきた。
 本当に明日は大丈夫なのだろうか。そうであってほしい。
 とりあえず明日の自分に期待しておこう。
 どんなに気に病んでも明日は来るのだ。なら、明日のことは明日の僕に任せよう。
 そう思って、僕は意識を手放した。

「……今何時だ?」
 時計を手に取り時間を確認する。
「なんだ、7時か。あと1時間ある」
 なぜか少し嫌な予感がしていた。
 面接に遅刻するなんて絶対にやっちゃいけないことだ。
 それも理由が寝過ごしたなんてもってのほかだ。
 笑って許されるのは漫画やアニメの世界だからだ。現実でなら間違いなく不合格だ。
 とりあえず朝ごはんを作り食べて、余裕を持って出発した。
「頑張りなさいよ」
 そういう母に手を振って応えた。
「ま、なるようにしかならないよな」
 そんな期待と不安を織り交ぜた感情で自転車をこぐのだった。 
 今思えばそれは期待ではなく諦めだったのかもしれない。
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