可憐な花は咲き乱れる

翠恋 暁

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とある道端の記念硬貨

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 無事面接を乗り切ることができた。
 緊張のせいか自分がいった内容をあまり覚えていない。
 支離滅裂なことを言ってなければいいんだけど。
 とはいえ終わったことを後悔してもどうにもならない。
「……公ちゃんと遊ぼ」
 するとあろうことか向こうから電話がかかってきた。
『面接終わったろ、カラオケでも行かない?』
 これが以心伝心ってやつか?
『うん、いいよ。何時くらいにする?』
『1時半でいいか?』
『うん、大丈夫』
 とりあえず、やることはやった。
 受かってなかったらそれはそれだ。
 気にしても仕方ないよな。
 今を精一杯楽しもう。
 学校からの帰り道。
 何の変哲も無い道を歩いていた時だった。
 キラっと何かが太陽光に反射した。
 何かと思って寄ってみる。
「……記念硬貨?」
 それは、金色をしていて五輪のエンブレムがデザインされていた。
「オリンピックの記念硬貨か……ん?」
 硬貨に違和感があることに気づいた。
 この硬貨まるで10円玉のように側面はツルツルなのだ。
 でも、傷が付いている箇所がある。
 てか、なんでこんなところに記念硬貨が落ちてるんだ?
 こういうものって家で飾っておくものだよな。
 これは、名前だろうか。
 どうやら傷には名前が書かれているようなのだ。
 手探りで傷をなぞってみる。
 「……ち……は……る……ちはる?」
 この硬貨の持ち主はちはるというらしい。
 そして、今更ながらにケースと思しきものが落ちていることに気がついた。
 半透明のケースの中に脱脂綿らしきものが入っている。
 間違いなく記念硬貨のケースだろう。
 そこにも、名前が書いてあった。
 それもフルネームで。
小鳥遊千春たかなしちはる?」
 どこかで聞いたような名だな。
 どこで聞いたんだっけ?
 思い出せない。
 そういえばカラオケに行く約束してたんだった。
 この落し物はとりあえず交番にでも届ければいいのかな。
 でも、何か思い出せそうな気がする。
「でもまぁとりあえず、カラオケだ」
 また、なんの変哲もなかった道を歩き始めた。
 多分この時から僕の人生は大きく変わった。
「ただいま、今日公ちゃんとカラオケ行ってくる」
「はいはい、行ってらっしゃい。昼はラーメンでも作って食べて、私も出かけてくるから」
「わかった、行ってらっしゃい」
 そう行って母は出て行った。
 今れた通りにラーメンを作る。
 カップ麺の他にもご飯をレンジで温めておく。
 出来上がるのを待っている間に机の上で硬貨をクルクル回す。
「何かが引っかかるんだよな……」
 多分そんな名前の人に会っていたら忘れるはずないのだ。
 だとすれば僕が覚えているのは人の名前じゃないってことか。
 物の名前とかどこかの場所とか、どこかの建物とか。
 一体なにがこんなに引っかかるのだろうか。
 覚えてる限りの情報を頭の中から叩き出す。
 いつのまにかレンジが止まり3分を知らせるタイマーも鳴り響いている。
「のびる前に食べないと」
 テレビの前に移動してカップ麺のふたを開ける。
 醤油の匂いが熱い湯気と一緒に飛んでくる。
 テレビの電源をつけた時、突然頭にある映像が流れ込んできた。
 テレビの映像ではない、記憶の映像だ。
「そういうことだったのか……」
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