キツネの女王

わんころ餅

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最期の挨拶……

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 コムギ、チュータローは死んでしまった。
 その事実がふくの心を抉る。
 ヴォルフは泣き崩れたふくの手を取るが、力なくすり抜けていく。

「ふく……少しだけいいか?」

「……」

 顔もむけず、二人の苦しそうな表情の亡骸を見続けていた。
 返事がないのはヴォルフでもわかっていたことなのでそのまま話を続ける。

「これからネズミたちを集めて弔ってやろうと思う。ふくにも協力してほしい。このまま死ぬとネズミ族は悪意や後悔、憎悪に満ち溢れ、冥骸獣となってしまう。そうしないために霊体を呼び出す。最後の挨拶をふくにやってもらいたい。」

 冥骸獣という聞いたことのない単語が出てくるが、それよりももう一度ネズミ族たちと挨拶できるということから顔をヴォルフの方へ向ける。
 涙でぐしゃぐしゃになったその表情は、少しだけ明るくなる。
 
「できるのか……?」

「オレは神だよ!それくらいできるさ!……悲しいけれど、早く弔ってあげよう?」

 ふくはよろよろと立ち上がり、並べられたネズミ族の死体を目の当たりにする。
 ヴォルフはコムギとチュータローをふくの目の前に並べる。
 二人は長と守り人という立場であり、ヴォルフなりに配慮したものだった。
 運び終えたヴォルフは「フーッ」と息をつくと、ふくの方へ向く。

「頑張ってみんなと話しができるくらいの時間は作るけど、そのあとはオレはしばらく動けなくなる。それまではふく一人で生活することになるけれど、大丈夫かい?」

「……ここまでしてくれるのじゃ、それくらいやって見せるのじゃ。」

「わかった。それじゃあ始めるよ。」

 ヴォルフは狼の姿に戻り、詠唱を始める。
 ヴォルフの詠唱を聞くのは初めてであり、不思議な感じがした。

「『迷える死者の魂よ、今ここに集いわれの魔力にてその姿を顕現せよ。その魂に安寧と安らぎを与え、地の呪縛から解放せよ』」

 詠唱が終わると同時にヴォルフは力を失ったのかその場に伏せ動かなくなった。
 同時に白い靄がヒトの形を取り始める。
 うっすらとだが顔の形、表情などが見え始め、先ほどまで一緒にいたコムギとチュータローと認識する。
 ほかの民たちも生前と変わらない姿をし、ふくの周りに集まる。
 ネズミ族の姿を見て、泣き崩れる。
 コムギとチュータローは目を合わせ、頷くと、ふくの背中をゆっくりと優しくなでる。
 霊体ではあるのだがヴォルフの力で、多少ものに触れることができ、ふくにその感触が伝わる。

『ふく様ごめんなさい。』

「なぜじゃ!?なぜわしを責めぬのじゃ!?わしのせいでお前たちは死んだのじゃ……。わしが……わしが……」

『アンタのせいじゃないさ。オレたちが弱かったから、今まで何もしなかったから、きっと罰が当たったんだ』

「そのようなことはないのじゃ!民を……弱き者を助けるのが、上に立つ者のやるべきことじゃ……。わしはそれができなかった……」

『ふく様。あちらをご覧ください』

 コムギの指をさす方向にはネズミ族一同が並んでいた。
 誰もふくに対し、怒りや恨みの表情はなく、ニコニコとしていた。

『ふくさまが頑張って風を止めてくれたの嬉しかったよ!』
 
『畑づくり教えてくれてありがとう!』

『お肉焼いたのとっても美味しかったよ!』

『最初服を着ていない変なヒトだと思ったけど、いっぱいお話してくれたの嬉しかった!』

 ネズミ族たちは思い思いにふくに感謝の言葉を投げかける。
 ふくは抑えていた感情があふれ出し、号泣した。
 その姿を見たコムギはふくのことを抱きしめる。

『わたくしの可能性を見つけてもらい本当にありがとうございました。ふく様がいなければただ、野垂れ死んでいただけでしたが、最期にふく様に出会えて幸せでしたよ?』

 コムギの胸の中でわんわんと泣き、涙が止まらないふくの頭をチュータローはポンポンと叩く。

『アンタを嫁にできなかったことが未練だが、あの邪神が守ってくれるってなら、安心して逝けるわ。ボクもふくと出会えてボコボコにされたけど、楽しかったし……その、大好き……だよ』

 未だに泣き続けるふくを見て二人は困った様子をするが、段々と体が薄くなっていることに気が付く。

『こんなに長く話せるなんて、邪神だけどやっぱりすごいねヴォルフ様は』

『アイツ嫌いだけど、ふくと最期に話す機会をくれたんだ。ふく、礼を言っておいてくれ。それと、この世界はまだまだオレたちと同じように困っている人がいるはずだから、助けてあげてくれよな』

 二人はふくから離れ、一族が集まる。

『『『ふくさま!ありがとう……』』』

 ネズミ族は笑顔のまま消えていき、亡骸も一緒に霧散していった。
 叫びにも似たふくの鳴き声は、外に響くことはなく、自身の作った森の木々に吸いこまれていった。


 夜が明け、太陽と思われるものが辺りを照らし、元ネズミ族の集落に日を照らす。
 緑豊かな木とどす黒くなった木が半分半分の森の中で蹲っている狐の女性がいた。
 彼女は散々泣きはらしたであろう顔をあげ、辺りを確認する。
 ネズミ族は最期に彼女と話をすることで成仏し、亡骸とともに消えてしまったが、きらりと輝く石が二つ落ちていた。
 よろよろと四つん這いのまま、石の元へ這い、それを手にする。
 薄暗い太陽とは違い、非常にきれいな輝きを放つ石を見て呟く。

「小麦……忠太郎……。お前たちはこんなに小さくなりおって……」

 石を大事そうに抱え、ヴォルフの元へ行く。
 あれから目を覚ます気配がなく、呼吸が非常に浅く弱弱しくなっていた。
 いつもは暖かい体毛も氷のように冷たく、硬くなっていた。
 土の魔法を利用し、洞穴状の隠れ家を作り、石になったネズミたちと氷のように冷たく動かなくなったヴォルフと同じ空間で塞ぎこむように眠りに就いたのだった。
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