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12歳の疾走。
我が家から始まる外交の形。
ルステインに帰ってきたのは、ちょうど朝霧が立ち上る頃だった。
僕は軽く伸びをしながら、自分のアトリエに戻る。
「お帰りなさいませ、リョウ様」
執事のストークが深々と頭を下げた。
「ただいま、ストーク。……ん? これ全部……?」
僕が目を疑ったのは、執務室の机の上。文書、文書、文書。山のような封蝋付きの外交文書がずらりと並んでいた。
「全部……各国からの公式文書でございます。リョウエスト様への会談申し入れ、謁見要請、公式な感謝状、その他親書が……合計42通」
「よんじゅう……!? え? なんで!?」
「ご活躍が王都にも広まり、各国に伝わっておりますから」
僕は頭を抱えて座り込んだ。
外交なんて、王都で見てるだけだったのに。今度は自分に向かってきてる。
「どうしたらいいか、さっぱりわからない……!」
数時間後、僕はルステイン領主マックスさんの執務室にいた。
マックスさんは書類をまとめながら、僕の話を聞いていた。
「というわけで、どうすればいいのか、全然……」
「なるほどな。で、リョウ。お前、全部の国に会いに行く気か?」
「……できるなら……でも、そんな時間、ないですよね」
「そりゃそうだ。しかもお前はまだ12「」歳だ。お前が国外を飛び回ったら、周囲がどう見る?」
僕は黙った。
子供が出向いて外交するなんて、悪目立ちしかねない。王様の許可も出ないかもしれない。
「だから、こういうのはな……」
マックスさんは背もたれに寄りかかって、ふっと笑った。
「『来てもらえ』ばいいんだよ」
「え?」
「リョウエストはルステインにいていい。相手を迎えればいい。相手のほうが会いたがってるんだから、来てくれるさ」
「でも……そんな勝手なこと、できるかな?」
「できる。むしろ、そっちのほうが『名誉伯爵』としての格が上がる。お前が動かず、皆が来る。そういう立場になってきてるんだよ」
「…………」
なんだか、すごく背筋が伸びた。
「よし。じゃあ、外交部門を臨時でアトリエに作ろう。小さい応接室を改装して、客間も整えて……」
「早いな!?」
「お前が悩んでる間に、俺はもう三部屋用意したぞ」
「準備済み!?」
マックスさんは、ちょっと得意げにニヤリと笑った。
「だから、安心して『家にいる』外交官でいろ。お前にしかできないやり方でな」
僕はゆっくりうなずいた。
「……わかりました。ルステインに来てもらって、僕のやり方で会います」
「よし、その顔だ。外交ってのは、まず『会ってもらう』ことから始まるんだ」
アトリエ外交……僕にしかできない、少し不思議なやり方の扉が、今開こうとしていた。
アトリエの応接室に、最初の客がやってきた。
大国フェリシアの使節団だ。僕は緊張しつつも、いつも通り笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ、フェリシア公使殿。ここが私のアトリエです。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
「おお、リョウエスト君。噂に違わぬ立派な場所だな」
公使は僕の手作りのパンとワインを喜んでくれた。
「いやはや、これがあのリョウエストの腕か。見事だ!」
僕は照れながら、「まだまだですが」と答えた。
しばらくして、別の国の特使たちが続々と訪れるようになった。
人間、獣人、エルフ、ドワーフ。それぞれが国を代表している。
みんな最初は緊張していたけれど、やがて笑い声が響く。「ここはまるで我が家にいるようだ」と言ってもらえたのが、何より嬉しかった。
僕は外交の形を、自分なりに変えたのだ。会うために国々を回るのではなく、ここルステインで迎える。
おもてなしは、料理であり、会話であり、笑顔であり。
エメイラがにっこり言った。
「リョウ、あなたのやり方はきっと、これからの外交のモデルになるわ」
「そうであればいいな。だって、遠い場所に行くより、来てくれた人を大切にしたいから」
ある時、僕はこう考えた。
「外交って、難しく考えすぎてたけど、実は“人と人の繋がり”なのかもしれない」
お客さんたちと一緒に囲む食卓は、国の垣根を越えた交流の場になっていた。
その日も夕暮れが迫り、笑い声と共に杯が重なる。
「リョウエスト様、また来ます。次は我が国の酒もお持ちしましょう」
「楽しみにしています。皆さんのお越しをいつでも歓迎しますよ」
そんな約束を交わしながら、僕は少しずつ外交の意味を知っていった。
僕はカリム国の特使、ナディアと申します。
任務はただ一つ、ルステインの名高い蒸留酒を、我が国へ持ち帰ること。
王都を離れ、長い旅路の末にリョウエスト様のアトリエに到着した時、正直胸は高鳴った。
「これが、あのリョウエスト様のもてなしの場か」
案内された応接室は、威圧感はなく、まるで自分の家のように落ち着く場所だった。
「ナディア様、ようこそお越しくださいました」
リョウエスト様は笑顔で迎えてくださった。
「どうぞおくつろぎください。まずは我が自慢の蒸留酒をどうぞ」
最初の一口を口に含んだ瞬間、華やかな香りが広がり、疲れがすっと消えていく気がした。
会話は和やかに続いた。
「我々カリムでは蒸留酒はまだ希少で、もっと多くの技術と材料が必要です。ぜひ、その秘密を教えていただけませんか」
リョウエスト様は謙虚に答えた。
「まだまだ未熟なものですが、皆様の助けがあれば、さらに良いものを生み出せると信じています」
その時だった。隣の部屋からふわりと香る新作のワインとチョコレートの香りが漂い、思わず顔を上げた。
「どうぞ、ご一緒に」と手を差し伸べられる。
僕は思わず微笑み返した。
「外交とは、単に取引ではないのだな」と、心から思った。
蒸留酒の技術を求めてやってきた僕たちが、今は心からの交流を楽しんでいる。
リョウエスト様の言葉が印象的だった。
「我が家に来るみなさんに、少しでも喜んでもらいたい。それが僕の願いです」
任務の成否は別として、僕は確信した。
この若き名誉伯爵は、未来の外交の形を築いているのだと。
帰路につく僕の心は軽く、そして希望に満ちていた。ルステインでのひとときは、忘れられない宝物になった。
僕は軽く伸びをしながら、自分のアトリエに戻る。
「お帰りなさいませ、リョウ様」
執事のストークが深々と頭を下げた。
「ただいま、ストーク。……ん? これ全部……?」
僕が目を疑ったのは、執務室の机の上。文書、文書、文書。山のような封蝋付きの外交文書がずらりと並んでいた。
「全部……各国からの公式文書でございます。リョウエスト様への会談申し入れ、謁見要請、公式な感謝状、その他親書が……合計42通」
「よんじゅう……!? え? なんで!?」
「ご活躍が王都にも広まり、各国に伝わっておりますから」
僕は頭を抱えて座り込んだ。
外交なんて、王都で見てるだけだったのに。今度は自分に向かってきてる。
「どうしたらいいか、さっぱりわからない……!」
数時間後、僕はルステイン領主マックスさんの執務室にいた。
マックスさんは書類をまとめながら、僕の話を聞いていた。
「というわけで、どうすればいいのか、全然……」
「なるほどな。で、リョウ。お前、全部の国に会いに行く気か?」
「……できるなら……でも、そんな時間、ないですよね」
「そりゃそうだ。しかもお前はまだ12「」歳だ。お前が国外を飛び回ったら、周囲がどう見る?」
僕は黙った。
子供が出向いて外交するなんて、悪目立ちしかねない。王様の許可も出ないかもしれない。
「だから、こういうのはな……」
マックスさんは背もたれに寄りかかって、ふっと笑った。
「『来てもらえ』ばいいんだよ」
「え?」
「リョウエストはルステインにいていい。相手を迎えればいい。相手のほうが会いたがってるんだから、来てくれるさ」
「でも……そんな勝手なこと、できるかな?」
「できる。むしろ、そっちのほうが『名誉伯爵』としての格が上がる。お前が動かず、皆が来る。そういう立場になってきてるんだよ」
「…………」
なんだか、すごく背筋が伸びた。
「よし。じゃあ、外交部門を臨時でアトリエに作ろう。小さい応接室を改装して、客間も整えて……」
「早いな!?」
「お前が悩んでる間に、俺はもう三部屋用意したぞ」
「準備済み!?」
マックスさんは、ちょっと得意げにニヤリと笑った。
「だから、安心して『家にいる』外交官でいろ。お前にしかできないやり方でな」
僕はゆっくりうなずいた。
「……わかりました。ルステインに来てもらって、僕のやり方で会います」
「よし、その顔だ。外交ってのは、まず『会ってもらう』ことから始まるんだ」
アトリエ外交……僕にしかできない、少し不思議なやり方の扉が、今開こうとしていた。
アトリエの応接室に、最初の客がやってきた。
大国フェリシアの使節団だ。僕は緊張しつつも、いつも通り笑顔で迎える。
「いらっしゃいませ、フェリシア公使殿。ここが私のアトリエです。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
「おお、リョウエスト君。噂に違わぬ立派な場所だな」
公使は僕の手作りのパンとワインを喜んでくれた。
「いやはや、これがあのリョウエストの腕か。見事だ!」
僕は照れながら、「まだまだですが」と答えた。
しばらくして、別の国の特使たちが続々と訪れるようになった。
人間、獣人、エルフ、ドワーフ。それぞれが国を代表している。
みんな最初は緊張していたけれど、やがて笑い声が響く。「ここはまるで我が家にいるようだ」と言ってもらえたのが、何より嬉しかった。
僕は外交の形を、自分なりに変えたのだ。会うために国々を回るのではなく、ここルステインで迎える。
おもてなしは、料理であり、会話であり、笑顔であり。
エメイラがにっこり言った。
「リョウ、あなたのやり方はきっと、これからの外交のモデルになるわ」
「そうであればいいな。だって、遠い場所に行くより、来てくれた人を大切にしたいから」
ある時、僕はこう考えた。
「外交って、難しく考えすぎてたけど、実は“人と人の繋がり”なのかもしれない」
お客さんたちと一緒に囲む食卓は、国の垣根を越えた交流の場になっていた。
その日も夕暮れが迫り、笑い声と共に杯が重なる。
「リョウエスト様、また来ます。次は我が国の酒もお持ちしましょう」
「楽しみにしています。皆さんのお越しをいつでも歓迎しますよ」
そんな約束を交わしながら、僕は少しずつ外交の意味を知っていった。
僕はカリム国の特使、ナディアと申します。
任務はただ一つ、ルステインの名高い蒸留酒を、我が国へ持ち帰ること。
王都を離れ、長い旅路の末にリョウエスト様のアトリエに到着した時、正直胸は高鳴った。
「これが、あのリョウエスト様のもてなしの場か」
案内された応接室は、威圧感はなく、まるで自分の家のように落ち着く場所だった。
「ナディア様、ようこそお越しくださいました」
リョウエスト様は笑顔で迎えてくださった。
「どうぞおくつろぎください。まずは我が自慢の蒸留酒をどうぞ」
最初の一口を口に含んだ瞬間、華やかな香りが広がり、疲れがすっと消えていく気がした。
会話は和やかに続いた。
「我々カリムでは蒸留酒はまだ希少で、もっと多くの技術と材料が必要です。ぜひ、その秘密を教えていただけませんか」
リョウエスト様は謙虚に答えた。
「まだまだ未熟なものですが、皆様の助けがあれば、さらに良いものを生み出せると信じています」
その時だった。隣の部屋からふわりと香る新作のワインとチョコレートの香りが漂い、思わず顔を上げた。
「どうぞ、ご一緒に」と手を差し伸べられる。
僕は思わず微笑み返した。
「外交とは、単に取引ではないのだな」と、心から思った。
蒸留酒の技術を求めてやってきた僕たちが、今は心からの交流を楽しんでいる。
リョウエスト様の言葉が印象的だった。
「我が家に来るみなさんに、少しでも喜んでもらいたい。それが僕の願いです」
任務の成否は別として、僕は確信した。
この若き名誉伯爵は、未来の外交の形を築いているのだと。
帰路につく僕の心は軽く、そして希望に満ちていた。ルステインでのひとときは、忘れられない宝物になった。
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