【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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12歳の疾走。

水路の開通。

 運河の開通式を前に、ルステインは朝からうわついた。通りには幟が渡り、屋台が角ごとに湧き出す。油の匂い、炙り肉の煙、出汁の湯気。ルステイン料理振興会の旗のもと、僕の考案メニューを出す屋台はどこも行列で、鍋の音が鳴り止まない。そこへ新顔……ラーメンの屋台が一際長い列を作っていた。

「並んで吸う食べ物なんて初めてだ!」

「麺は噛むよりすするのが粋、って坊が言ってた」

「坊じゃない、“名誉伯爵”だっての」

 笑いが広がり、湯切りの音が高く響いた。

 街道からは商隊(キャラバン)が次々と到着し、商人たちが目を光らせる。「これを機にルステインに店を」と口々に。父ハッセルエンもロイック兄さんも帳場と席を行き来して、商談に追われていた。

 その喧噪を割るように、水の鈴の音がする。僕は城門で、潮と水の街からの使節団を出迎えた。先頭に立つのは、鱗を陽に光らせる水竜人伯。背後には、長い紺のマントを揺らすティルシェードの姿も見える。ルステインで働く水竜人たちが、いつの間にか広場に集まっていて、一帯が潮と水の街の方言でざわめいた。そこへ、小人族が肩に工具袋を引っかけて混じる。

「殿下(小人伯)が言ってた“吸って食う麺”、どこだ!」

「ボク先頭! 水竜人伯、味見は国家間の礼儀だから!」

「そんな礼儀があるのか?」

 と水竜人伯が笑う。

 屋台街で長卓を押さえ、即席の宴が始まった。水竜人伯は湯気を吸って目を細め、箸を器用に操って麺を啜る。

「……いい水だ。出汁に川が映っておる」

「スープは鶏と香味野菜、仕上げに海藻。潮の香りは“懐かしさ”の分量で決めます」

「ほう。潮と水の街でも育つ味だな」

 小人伯は丼を抱え、「麺の腰が好き!」と跳ねる。ティルシェードは静かに頷き、同郷の水竜人たちが「こりゃ店が要る」と顔を見合わせた。

 午後、僕と小人伯は水竜人伯を街に案内した。まずはドワーヴンベースへ。巨大なプレス機の唸り、真鍮の磨き、ノーム材の香り。工房の一角では「空の船」用の尾翼の改良が進んでいる。

「陸の骨が、空を持ち上げるのか」

「骨だけでは飛びません。手と手順が必要です」

「手順……潮の流れと同じことだな。読み、合わせ、待つ」

 工業地区では冷蔵の倉を見せる。反転皮のパネルに触れて、水竜人伯は感嘆の笛を鳴らした。

「冷たい。これなら魚も走らせられる」

「魚は走らない」

 と小人伯。

「市場では走るのだ」

 街角では異種族の職人が混在し、広場では紡ぎ手のおばあさんが若い子らの指を見ている。水竜人伯は足を止め、目を細めた。

「坩堝、だな。溶け合って、混ざりすぎない。……この街の暮らしと技を、潮と水の街にも入れたい」

「なら運河を仕上げるだけです」

「うむ。残り区間、わが方も舟と手を出そう」

 夕刻、城の広間ではパーティー。王国からウルリッヒ王太子が駆けつけ、僕はいつものようにエメイラをパートナーに伴った。灯が揺れ、音楽がほどける。

 壇上にマックスさんが立つ。

「諸君、これは世紀の偉業だ。道が開けば、人が行き、物が行き、思いが行く。ここはもはや“辺境”ではない。王都に近い都市であり、王国の新たな玄関である!」

 拍手が広がり、旗が震える。

 続いて王太子。

「ルステインは、手で国を広げた。酒や料理でみなの腹の中を、針目で布を、竜骨で空を、水路で大地を。この街のますますの発展を、王家は期待し、支える」

 水竜人伯が隣で僕の腕を軽く叩く。「いい言葉を言う若者だ」と。

エメイラが耳元で囁く。

「あなた、緊張してる?」

「少し。明日、船を出すからね」

「じゃあ、今は笑うの。肩の力、ここ」

 人差し指で肩を軽く押されて、息がほどけた。

 宴は遅くまで続いた。ラーメンの屋台は会場端に臨時出店し、王太子も一口すすって目を丸くした。「熱い、うまい、忙しい味だ」と言ったのが妙に可笑しかった。


 そして翌朝。運河の起点には、朝露の光が残る。両岸に旗が渡り、紡ぎ手もドワーフも小人も水竜人も、住民も旅人も肩を寄せ合って並んだ。青の技は静かに警備につき、ストークが進行の合図を王都側に送る。

「第一便出船!」

 王太子の号令が水面を渡り、舳先の紐が解かれる。ゆっくり、まっすぐ。新造の小型商船が水を掴む。岸から歓声が上がり、どこかで誰かが泣いた。たぶん僕も、泣いた。

「行け!」

 水竜人伯が胸の奥から声を投げ、ティルシェードが水面へ指を走らせる。水は素直に道を開け、舵が応える。小人伯は両手でサムアップ、ドワーフは槌で拍子、紡ぎ手は手を合わせ、エメイラは目を細め、風を撫でた。

「リョウ」

 横で王太子が小さく言う。「次は空と水の交差だ。君の街で、それが始まる」

「うん。僕らのやり過ぎ注意で」

 船は新しい曲がり角を曲がり、旗の影が水に溶けた。岸の屋台では、朝のお椀が次々に満ち、湯気が立つ。父は次の商談へ、兄は帳場へ、商人の声が重なる。ルステインはもう、立ち止まらない。

 僕は深く息を吸って、掌を運河の風に晒した。冷たい、けれど、熱がある。

 この街は今日から、もっと遠くへ行く。
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