【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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13歳の沈着。

見せ物から道具へ。

 王家の大舞踏会は今年、花火なし。かわりに王家の屋上で「星の数え方」の観測会をやる。王妃様の意向、納期は十五日、予算は舞踏会縮小分の範囲内、子ども(王立学園生)も扱える安全設計。そこで、僕は長年の相棒を呼んだ。

「ダンスさんを、工廠部から」

 翌朝、扉が開く。真鍮の匂いと手の油の匂いをまとった、背の広い職人。王国工廠部のダンスさん。僕とは、照明の絞りから舞台吊り、花火の導線まで、何年も大舞踏会を一緒に作ってきた。

「リョウエスト様、要件、三行で」

 挨拶より前に、それだ。相変わらず無駄がない。敬語はないが、名前に“様”だけは付くのが彼の流儀。

「屋上で、誰でも星を数えられる道具を、十五日で」

「無茶だな。……無茶はいつも通りか」

 机に草案を広げる。回転二枚盤——上盤に星の等級と星座線、下盤に時刻と方位。外周は真鍮の視度目盛リング。指示針に青い燐で夜目対応。芯材は摩耗しにくい硬質木で受ける。

「重さ、少年の片手で持てるくらいに」

「なら金属は外周だけ。紙で芯を積む。反りはどうする」

「繊維交差のラミネートで戻す。湿度の戻し、ニカワ配合、僕のレシピで」

「“反らない”は言うな。反っても戻せる、だ」

 ダンスさんは親指の爪で紙をコンと叩く。層の音を聞き、頷く。真鍮リングの厚みを指で作った円で示した。
「外輪0.6。0.8は重い、0.5は撓む。目盛りはレーキで刻む。墨は最後」

「芯は竹目を合わせる」

「そう。——やる」

 革袋から、細身の小刀を一本取り出し、すっと僕に渡す。

「紙を道具にするなら、刃は泣くほど薄いのがいい。借りじゃない、渡す。仕事に責任が付く」

「受け取る。責任も」

 そこへ女官が控えめに告げる。「王家より。王立学園の生徒も混ぜてと」
「安全の段取り、増えるな」ダンスさんが短く言う。

「柵は二段、足元に油砂。それと“使い方”の小冊子。文字は大きく、挿絵多め」

「印刷はお前の領分だ。納期の敵は印刷所、俺はよく知ってる」

 仕事は分かれた。工廠部でダンスさんが真鍮リングと刻み、アトリエで僕がラミネートと活版。貼り、乾かし、反りを戻し、また貼る。王家からは途中で注文が入る。

「盤の枚数を増やせないか」

 ダンスさんは即答だ。

「増やすなら精度が落ちる。王家の名入りで粗は出せない」

「なら貸出制に変える」

 僕が口を挟む。

「今回は屋上で十枚、後日学園と図書室に貸出票を置く。数は少なくても誰でも順番に使える」

 王妃様は頷かれた。「見せるより、残す。いい」

     

 試作一号が上がった夜、屋上で星合わせ。空はよく抜けている。ダンスさんが方位を取り、僕が視度を読む。

「北極星、一度強ずれてる」

「この屋根、鉄釘が多い。磁針が引かれる。目印は煙突に振れ」

 指示針がカチと止まり、上盤の“春の大曲線”が空に重なる。ダンスさんが短く言う。

「段取り、確認。子どもでも迷わないやつ」

「了解。まず明るい星を“点”に五つ。同じ明るさを束に二つ。最後に束を“輪”にする。数え歌は五→十→百」

「歌?」

「祖父が言ってた。覚え方が制度を支えるって」

「聞かせろ」

 僕は小声で歌ってみせる。星座線をなぞり、五、十、百。ダンスさんは顎を引き、短く。

「悪くない。音で段取りを刻むのは現場で効く」

     

 観測会当日。低い柵、足元の油砂。楽士は四名、音量は控えめ。王妃様と第一王子ウルリッヒ殿下、そして第二王子ルマーニ殿下。学園の生徒が十名、息が弾んでいる。

「本当に、星が“数えられる”の?」と殿下。
「数は段取りで掴めます」僕は盤を配り、ダンスさんが最後の一言。

「落とすな。壊れる。壊れるから大事にする。大事にするから使える。それが道具」

 数え方を始める。

「一番明るい星を五つ。“指で触れない”。指示針で指す。束を二つ作って、輪にする。輪を数える」

「いーち輪、にー輪……」

 小さな声が重なり、ルマーニ殿下も器用に針を合わせる。王妃様の横顔が緩む。やがて、
「できた! 百!」と編入したばかりの少年。
「正確だ」ダンスさんが即答。「目盛りを信じたからだ」

 拍手はしない。代わりに、息が揃う音が広がる。王妃様が殿下へ囁く。

「見せるより、残す。今夜の輪は、あなたのもの」

 僕は王家刻印入りの星図盤“壱号”を差し出す。

「殿下の最初の輪です」

「ありがとう。静かなのに、胸が騒ぐ」

 そこでダンスさんが珍しく前に出る。

「殿下。星は逃げないが、時間は逃げる。使い方はかぞえ歌。忘れたら、歌えば戻る。道具と歌は、友だち」

 殿下は真面目に頷いた。片付けは一時間で。盤は貸出帳に名前を書いて回収。階段で、学園の少女が勇気を出す。

「工廠部って、女でも入れますか」

「腕があれば誰でも。腕がなければ、作る。手は嘘をつかない」

     

 夜風が強まり、人が引けた屋上に、僕とダンスさんだけが残った。真鍮リングのエッジを親指で撫で、彼がぽつり。

「花火は派手だ。けど、星は人の中で燃える」

「うまくいったね」

「段取りが勝っただけだ。いつも通り」

「ダンスさん。長年、舞踏会を一緒にやってきて今日は、少し違う」

「見世物から、道具になった。お前はそういう方向に舵を切ってる。俺は目盛りを刻むだけだ」

「紙の仕事、工廠部にも残していい?」

「残せ。紙を道具にできるなら、この国の測るが強くなる」

 僕は深く頭を下げる。

「ありがとう」

「礼はいい。次の仕事で返せ。度量衡の擦り合わせ、やるなら呼べ。目盛りは一度、国で揃えておくべきだ」

「呼ぶ。必ず」

 風に指示針がわずか震え、また止まる。落とさず、壊さず、大事に使う。単純な約束が、今夜はやけに頼もしい。舞踏会の照明を一段落として、輪を増やす夜。王都の空は暗く、高く、よく数えられた。僕らは見せ物のかわりに、段取りと道具を置いて帰る。そこから先は、歌でいつでも戻れる。
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