【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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13歳の沈着。

回らない会議を回す。

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 評議館の会議室は、書見台と帳簿がずらりと並んでいた。内務・財務・衛生・商務・市場監・教育。担当書記官が顔をそろえる。席次表はあるのに、司会の札だけが空(から)。紙の山が高くなるほど、言葉は細く、牽制の目つきだけが濃くなる。

「……定額食籠(じきろう)のパイロットについて、本日は各所の見解を……」
 内務が言い出せば、財務がすぐに被せる。「原資の枠が確定していません」
 衛生は手を上げる。「衛生指針が先です。対象食材の限定と、調理手順の掲示を」
 市場監は指で卓をとん、と叩く。「登録店舗の実地検査は当方の所掌です。無断で現場を動かされるのは困る」
 教育がため息をつく。「掲示枠の取り置きには文面の確定が要ります」

 紙魚が走るみたいに、話はあっちへこちらへ。誰も杭を打たない。時計の針が一周に近づいたところで、僕は椅子を引いた。

「議長が不在ですので、私が進行します」

 視線が一斉に上がる。反論は飛ばない。僕は立ち、黒板に三本線を引いた。

「話を三つに割ります。
 一つ目、対象と配布の単位・区域・期間。
 二つ目、券の設計と不正の抑え方。
 三つ目、換金と監(み)る仕組み。
 この順に、今日中に一枚紙へ落とします」

 扉の隙間の風が止み、炭筆の音だけが響く。

「まず一つ目。対象は『寡婦世帯』『孤児院』『失業者の待機期間』。区域は王都南市場圏/寡婦宿/孤児院群の三ブロック。期間は九十日。配布の単位は『一口=パン十斤/煮豆五鍋に相当』で、当日の市場価格に合わせて価値を揃える。基準価格の朝の公示は市場監、遅れた日は前日据え置き」

 財務が手を挙げる。「差損が出た場合は?」
「財務が予備費で受ける。その代わり、日々の公示を落とさないでください」

「二つ目。券の設計は紙でやります。水印・透かし糸・浮き彫りの印・連番・日付穴。券は半分を切り離せるようにして、店舗側の帳面へ貼る。書き手の名前は任意、匿名でも使える。換金は商会ではなくギルドの窓口に集める。塗り直しや貼り合わせを見破るため、二層貼り合わせで作る。活版は私の印刷所で回します」

 市場監が短くうなずく。「現場の検査は当方が出ます。異常は内務へ送ります」
「衛生違反については?」と僕。
「衛生はその場で指導・罰金まで切れます」と衛生書記官。「厨房の掲示図は、わかりやすい絵で」
 教育が続ける。「掲示・回覧・読み書き支援は教育で請けます。文面が固まれば、図書室の書生を挿絵に回せます」

「三つ目。換金は店舗→ギルド→財務で週の〆。月に一度、件数・口数・金額・違反件数を公示します。人名は出しません。監(み)る側は内務の主査に外部ひとり加えて二人組。横流しと抱き合わせ売りは、市場監と衛生の合同巡回で潰します」

 そこでいったん振り返った。「以上を十五日で回します。逆算します。三日後に試刷り、七日後に登録店舗の受付、十五日目に初回配布。異議のある方は、今、言ってください」

 沈黙。紙の擦れる音だけが返ってくる。やがて内務が、少し笑って肩を落とした。

「……こういうふうに話がまとまるの、久しぶりです」
 財務も苦笑する。「正直、ここ最近は会議が空回りしてましてね」
「いつも、こんなに決まらないのですか」と僕。
 衛生が言いにくそうに目を伏せた。「前は“間を取る人”がいたんです。言うべきことを言わせ、欲張りを引かせ、落としどころを示す人が」

「どなたです?」
 内務が声を落とす。「前の内務大臣が秘密結社に連なっていた件はご存知でしょう。処刑のあと、筆頭補佐官が残りまして。切れ者でした。貴族側の顔も立てられる。こういう場では仕切ってくれた。……けれど、『影響の刷新』の名目で記録庫に回されたのです。閑職です」

 空気が少し冷たくなる。紙の山が、いっそう高く見えた。

「人柄や仕事は?」

「文句のつけようがない。それだけに、前体制の匂いを嫌う者がいて……」と内務。

 僕は頷いた。「わかりました。今日の役割は暫定で回します。落ちた穴は私が拾います。パイロットは走らせながら整える」

 教育が勢いよく手を挙げた。「掲示文案、今夜まとめて明朝回覧します」
 市場監が続く。「基準価格は毎朝九時に掲示。遅れたら前日据え置きで」
 衛生も。「調理図は三枚。『洗う』『火を通す』『置かない』の三原則だけにして、文字は最小で」

「ありがとうございます。では散会。質問は紙で。返事も紙で返します」

 椅子が引かれ、羽根ペンがひとしきり鳴り、扉が閉まる。静かになった会議室に、僕とストークだけが残った。ストークが恭しく頭を垂れる。

「リョウ様、見事でございます」

「穴の話、聞いたね。筆頭補佐官」

「ええ。私が探ってまいりましょうか。名前は出ませんでしたが、記録庫に回された筋の良い者は多くありません。貴族に顔が利き、現場の段取りを知る者となれば、さらに絞れます。今夜、さりげなく」

「危険は?」

「会うだけです。こちらから誘うのではなく、『定額食籠の監査手順への助言を賜りたい』とだけ。口実はいくらでも」

 僕は一枚紙の草案を束ね、紐で括った。

「頼む。それと、今日の決め事は二組作っておいて。ひとつは各省へ、もうひとつは王家文庫に納める」

「承りました。残すものが増えましたね」

 窓外に西日が斜めに入り、黒板の三本線が金色に縁取られた。会議中はただの線だったものが、今は道に見える。対象を決め、紙を作り、受け渡しを記し、あとから見直せる跡を残す。やることは単純だ。単純なものほど、誰かが最初の杭を打たねば動かない。

「ストーク」

「はい」

「家の外を預けられる大人を探している。法に通じ、王都の文官に顔がきき、私事に汚れがなくて、今日みたいな場で段取りを決められる人。……たぶん、今の“記録庫”に近い」

「肝に銘じます。目星をつけて、ご報告いたします」

 ストークが退出し、扉が静かに閉じる。誰もいない会議室で、僕は黒板の三本線をもう一度見た。線の端に、日付と—三つの期日を小さく書き添える。三日、七日、十五日。短いけれど、走れば届く距離だ。

 廊下に出ると、使いの少年が駆けてきた。

「南市場の組合から、登録の仮申請が三件来ています!」

「受けて。控えをこちらへ。いい流れだ」
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