491 / 806
13歳の沈着。
運河船就航。
まずは三通の手紙から始めた。エフェルト公爵、商業ギルド本部、そしてラジュラエン翁へ。本文は短く、同封の条件票を厚くする。月一回・半刻/守秘/議事は二行要旨+押印/退出自由/饗応なし。言った言わないが起きないように、末尾には双方の拒否条件欄も設けた。
三日で返書が揃う。三通とも快諾。公爵筋から法衣貴族が一名、ギルドから上席が一名、翁の紹介で政治学者が一名。僕は順に面接へ向かい、その場で条件票を契約書に起こし、三者の印を受けた。
法衣は第一声がそれだった。「“慈善”は施し手の満足に堕ちやすい。規範文では“扶助”に」赤で一線。
ギルド上席は「数を三つだけ」と笑った。枚数・金額・待ち時間、それ以外は捨てる。
政治学者は「制度は反対者のために設計」と書き、反対者地図の凡例と、塗り直し日=月3回の夕刻を指定した。
窓枠の日程表に赤い丸が三つ増える。王都とルステインを毎月三往復……と眉をひそめたところで、エメイラが半眼で刺す。
「何のために運河に投資したのよ。1日半で来られるじゃない」
目から鱗が落ちた。僕はすぐ運河管理局に航行許可を出し、社交シーズン中だが急いで獣人隊商に乗り込みルステイン・ドワーヴンベースへ向かった。ここはリョウエスト商会の拠点だ。工房長のヂョウギが図面台の前で一礼する。
「リョウ様、要件を賜れますか」
「通い舟を作る。小型推進器(二重反転・囲い)を載せたい。規定波高は厳守。それから名誉貴族の単独乗船は禁止、必ず帯同者を」
「承知いたしました。乗員構成は」
「船頭一・機関一・護衛二・書記一・監督(僕)で常時六。交代要員はベースから」
ヂョウギはすぐに仕様をまとめ上げる。
• 船型:細長平底・浅喫水、全長八間半/梁二間。
• 推進:囲い輪付二重反転×2(左右独立)。低渦モードと巡航モードを足ペダルで切替。
• 操舵:片手操縦桿+小卓、幌付。
• 乗員席:後部二列四座、舳左右立ち台。安全帯・速脱係留具あり。
• 整備:推進軸は油槽窓で即点検、絡み止め枠は手払い可能。
• 規制:閘門・市街は人歩き、巡航区間のみ加速。追い越し禁止。
「収納で全ては御身に。したがって貨物室は不要、で相違ございませんね」
「相違ない。盗難は僕の側で潰す」
「では、通いの靴として仕立てます。十五日で叩き上げます」
丁重な口ぶりの中に、ヂョウギの仕事の早さが滲む。僕は安心して社交に戻る為獣人隊商にのりこんだ。
◇
進水と同時に試験航行。船頭は水竜人のエイミル、機関はドワーフのブロム、護衛アインスとフィア、書記はストーク、僕を含めて六名。出航前にストークが帯同名簿を回し、全員が時刻と印を二行で残す。名誉貴族の単独旅行禁止は、紙で担保する。
囲い輪の中で逆回りの二枚羽が低く唸り、舟は波を立てない。閘門前で人歩き、速脱の係留、昇降待ちの間に小卓で二行要旨を一本仕上げ、扉が開けば足で低渦モードのまま滑る。巡航に移れば河心のみ標準速、土手の草は揺れない。対向の曳舟とすれ違うときは左右推進を微妙にずらし、舟体を筆先のように捌く。規程内、合格。
◇
初便で王都入り。第一日目の最初は法衣。
「“扶助”を先に置く」赤で二行、押印。
正午前に商業。枚数・金額・待ち時間の板を見せると、「三つ以外は捨てる」と印。
夕刻手前に政治。反対者地図の凡例と塗り直し日=8日毎夕刻、合意。どれも半刻で切れた。
舟へ戻り、操舵席の小卓でローランへの診療案件三本を束ね、ストークが清書する。護衛は交代で立ち台、機関は囲い輪の耳を傾け「異音なし」。収納から必要書類を出し入れしつつも、二行要旨+押印を舟外に必ず残す。見せるより、残す。
◇
その夜、進捗報告をローランへ。
【借りる眼・運用開始/運河便】
・合議:法衣・商業・政治、三件とも半刻で完了。要旨二行・押印済み。
・舟:囲い輪付二重反転×2、規定波高内。帯同6名(名誉貴族の単独移動禁止遵守)。
・行程:ルステイン、王都間=一昼夜+半日(閘門待ち含)。
・備考:帯同名簿(出航前)を毎便作成・保存。
返札は短い。「翌日の速度が上がった。帯同名簿の写しを診療に持参せよ。……R.D.」
◇
ルステインへ戻ると、ヂョウギが待っていた。
「リョウ様、航行はいかがでございましたか」
「上々だ。靴として最高だよ。替えの“底”も用意を」
「承りました。浅瀬用の囲い縁と、流れ強い区間用の縁を差し替え式に。推進器本体は触らずに済みます」
「助かる。次は五日後の診療。昨日印の版木二丁と印影照合票、舟で王都に持っていく」
「版木は本日中に仕上げます。台帳にも製作番号を記入させます」
工房の灯が増え、槌音が続く。借りる眼は月三度。そして診察は八日毎。借りる眼は基本的に診察の日をお願いしている。舟は通いの靴として動き、収納が要を守る。
僕は新しい帯同名簿の紙束を収納へ滑らせ、ストークに一言。
「記録は国の血だ、と彼は言った。だから紙が先だ。台帳を増やしておいて」
「はい、リョウ様」
水面は静かに流れ、時刻は守られる。僕は操舵席の幌を畳み、次の診断日に向けて、舟を靴のまま磨いた。
三日で返書が揃う。三通とも快諾。公爵筋から法衣貴族が一名、ギルドから上席が一名、翁の紹介で政治学者が一名。僕は順に面接へ向かい、その場で条件票を契約書に起こし、三者の印を受けた。
法衣は第一声がそれだった。「“慈善”は施し手の満足に堕ちやすい。規範文では“扶助”に」赤で一線。
ギルド上席は「数を三つだけ」と笑った。枚数・金額・待ち時間、それ以外は捨てる。
政治学者は「制度は反対者のために設計」と書き、反対者地図の凡例と、塗り直し日=月3回の夕刻を指定した。
窓枠の日程表に赤い丸が三つ増える。王都とルステインを毎月三往復……と眉をひそめたところで、エメイラが半眼で刺す。
「何のために運河に投資したのよ。1日半で来られるじゃない」
目から鱗が落ちた。僕はすぐ運河管理局に航行許可を出し、社交シーズン中だが急いで獣人隊商に乗り込みルステイン・ドワーヴンベースへ向かった。ここはリョウエスト商会の拠点だ。工房長のヂョウギが図面台の前で一礼する。
「リョウ様、要件を賜れますか」
「通い舟を作る。小型推進器(二重反転・囲い)を載せたい。規定波高は厳守。それから名誉貴族の単独乗船は禁止、必ず帯同者を」
「承知いたしました。乗員構成は」
「船頭一・機関一・護衛二・書記一・監督(僕)で常時六。交代要員はベースから」
ヂョウギはすぐに仕様をまとめ上げる。
• 船型:細長平底・浅喫水、全長八間半/梁二間。
• 推進:囲い輪付二重反転×2(左右独立)。低渦モードと巡航モードを足ペダルで切替。
• 操舵:片手操縦桿+小卓、幌付。
• 乗員席:後部二列四座、舳左右立ち台。安全帯・速脱係留具あり。
• 整備:推進軸は油槽窓で即点検、絡み止め枠は手払い可能。
• 規制:閘門・市街は人歩き、巡航区間のみ加速。追い越し禁止。
「収納で全ては御身に。したがって貨物室は不要、で相違ございませんね」
「相違ない。盗難は僕の側で潰す」
「では、通いの靴として仕立てます。十五日で叩き上げます」
丁重な口ぶりの中に、ヂョウギの仕事の早さが滲む。僕は安心して社交に戻る為獣人隊商にのりこんだ。
◇
進水と同時に試験航行。船頭は水竜人のエイミル、機関はドワーフのブロム、護衛アインスとフィア、書記はストーク、僕を含めて六名。出航前にストークが帯同名簿を回し、全員が時刻と印を二行で残す。名誉貴族の単独旅行禁止は、紙で担保する。
囲い輪の中で逆回りの二枚羽が低く唸り、舟は波を立てない。閘門前で人歩き、速脱の係留、昇降待ちの間に小卓で二行要旨を一本仕上げ、扉が開けば足で低渦モードのまま滑る。巡航に移れば河心のみ標準速、土手の草は揺れない。対向の曳舟とすれ違うときは左右推進を微妙にずらし、舟体を筆先のように捌く。規程内、合格。
◇
初便で王都入り。第一日目の最初は法衣。
「“扶助”を先に置く」赤で二行、押印。
正午前に商業。枚数・金額・待ち時間の板を見せると、「三つ以外は捨てる」と印。
夕刻手前に政治。反対者地図の凡例と塗り直し日=8日毎夕刻、合意。どれも半刻で切れた。
舟へ戻り、操舵席の小卓でローランへの診療案件三本を束ね、ストークが清書する。護衛は交代で立ち台、機関は囲い輪の耳を傾け「異音なし」。収納から必要書類を出し入れしつつも、二行要旨+押印を舟外に必ず残す。見せるより、残す。
◇
その夜、進捗報告をローランへ。
【借りる眼・運用開始/運河便】
・合議:法衣・商業・政治、三件とも半刻で完了。要旨二行・押印済み。
・舟:囲い輪付二重反転×2、規定波高内。帯同6名(名誉貴族の単独移動禁止遵守)。
・行程:ルステイン、王都間=一昼夜+半日(閘門待ち含)。
・備考:帯同名簿(出航前)を毎便作成・保存。
返札は短い。「翌日の速度が上がった。帯同名簿の写しを診療に持参せよ。……R.D.」
◇
ルステインへ戻ると、ヂョウギが待っていた。
「リョウ様、航行はいかがでございましたか」
「上々だ。靴として最高だよ。替えの“底”も用意を」
「承りました。浅瀬用の囲い縁と、流れ強い区間用の縁を差し替え式に。推進器本体は触らずに済みます」
「助かる。次は五日後の診療。昨日印の版木二丁と印影照合票、舟で王都に持っていく」
「版木は本日中に仕上げます。台帳にも製作番号を記入させます」
工房の灯が増え、槌音が続く。借りる眼は月三度。そして診察は八日毎。借りる眼は基本的に診察の日をお願いしている。舟は通いの靴として動き、収納が要を守る。
僕は新しい帯同名簿の紙束を収納へ滑らせ、ストークに一言。
「記録は国の血だ、と彼は言った。だから紙が先だ。台帳を増やしておいて」
「はい、リョウ様」
水面は静かに流れ、時刻は守られる。僕は操舵席の幌を畳み、次の診断日に向けて、舟を靴のまま磨いた。
あなたにおすすめの小説
異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~
夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する!
農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。
逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。
これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。
最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~
gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。
なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。
一人称視点、独り言多め、能天気となっております。
なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。
ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A
ご指摘あればどんどん仰ってください。
※2017/8/29 連載再開しました!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~
九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!
七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。
しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。
食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。
孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。
これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。