【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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13歳の沈着。

ジェン姉さんの出産。

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 王都にていつものように八日毎の出勤をした僕は、借りた眼との面談後タウンハウスの執務室で執務していた。ローランが来てからルステインでやっていた執務は王都でやるようになっていた。

「リョウエスト様、速文です」

 扉が叩かれ、ストークが滑り込んできた。書類の紋で胸が跳ねる。あらかじめ決めていた家族が関係している事を表す紋。僕は立ったまま速文を読む。紙は短い。ジェン姉さんが産気づいた。

「……来たか」

「はい。ラジュラエン様、ストラスト様には連絡にいかせています。ラクラ薬師は待機、産婆二名が入っています。ご指示を」

「まず僕から詫びの返書。『王都に足を止められている。無事を祈る。終わり次第すぐ戻る』。それから物資。温湯の箱、清布、甘露水、軽いスープをアトリエから回して」

「承知しました」

 机に手をつく。長かった。水竜人のジェン姉さんと人間のロイック兄さん。ふたりの赤ん坊は、この世界ではなかなか授かれない。妊娠の長さも“決まっていない”とラクラ師匠は言っていた。「難産の目も、少しある」と。僕は紙を握りしめ、リーリシアに短く祈る。
(どうか、母子ともに守ってください)

 ストークが机上の書類を指で整える。

「本日の案件、切り詰めましょう。外政は二件に、内の回覧は二行で返答、残りは明朝に回します」

「うん。今日中に片付ける。僕の不在でも流れるように」

「王都出立の段取りは、八刻後を最速として組みます」

「頼む」

 呼吸を整える。いちど目を閉じると、ジェンの声が耳に蘇った。
『……リョウくん、無理はしないでね』
 いつも語頭に“……”をつける、あの柔らかい話し方。台所でケリィ姉さんと笑っていた顔。マリカ姉さんに刺繍を習いながら、指をつついて痛がっていた顔。ロイック兄さんが不器用に薬草茶を淹れて、渋い、と眉をしかめていた顔。全部、胸の奥に灯る。

 ペンに指をかける。ひと息で返書を書く。
『王都で詫びる。必ずすぐ戻る。姉さん、頑張れ。兄さん、手を握っていてあげて。ラクラ師匠、どうか頼みます。スサン家一同で祈っています』
 紋を押し、ストークに渡す。

「これを至急」

「はい。速文で」

 仕事に戻る。借りた眼からの照会は三件。即答できる二件は「可」「条件付き可」で返し、悩む一件は“次巡に再提示”の札を付けて流す。エフェルト公爵家の研修日程は、代官所からの確認に「予定通り」の一語で押し返す。空の船の監修は図面に朱を二本。度量衡の問い合わせは、語を柔らかくして『待て』の紙。机の左に積み上がる紙の山が低くなるたび、胸の焦りが少しずつ静かになる。

 ふと、窓の外へ目がいく。王都は晴れていた。ルステインの空も、きっと。あの川の光、別邸の庭の木陰、石段のあたりで、今ごろロイック兄さんが狼狽えている。

「ストーク、兄さんに余計なことは言うなって言って」

「はい?」

「うろたえるのは普通だって。立ってるだけでいいからって」

「承知しました。ラクラ薬師からの所感が入れば、すぐ」

「頼む」

 次の束。タウンハウスからローランの控え。『外の面会、二件繰上げ可。融資の候補一件は見送り。今日は家のことを優先せよ』。短くて、胸に効く。

「ローランが家って書くなんて、珍しいね」

「右腕殿は、殿にも家族があると、よくご存じです」

 ストークが淡々と答え、微かに笑った。

「ローランに伝えて。二件は会うって。運河船に向かうまで時間があるから会う事は問題ない。向こうが都合を合わせてくれてるのにいきなりキャンセルはしたくないんだ。というか、何かしてないと落ち着かないから」

 と笑いながら筆は止めない。合間に、想像がどうしても顔を出す。どんな子が生まれてくるだろう。水に強い子だろうか。指の間に薄い膜があるだろうか。瞳は兄さんに似るだろうか、姉さんに似るだろうか。泣き声は大きいといい。小さい声でもいい。健康なら、それでいい。
 胸がまた熱くなる。僕は祈りの言葉を、心の中でゆっくり繰り返した。
(リーリシア、どうか。どうか)

 扉がまた叩かれた。

「中報です」

 ストークが短文を差し出す。『陣開く。呼吸安定。進行中』

「……よし」

 短く息を吐く。紙をそっと机の中央に置き、最後の束に手を伸ばした。今日やる分は今日やる。あとは外政二件を片付け終わったらすぐに馬車で運河発着場に行くのだ。王都~ルステインの距離は、今までで一番遠く、そして一番近い。僕は背筋を伸ばし、ペン先を落とした。

「ジェン姉さん、頑張れ」

 しばらく後、書類仕事が終わる。ちょうどストークから客の来訪を告げられる。ここで焦ってしまってはダメだ。落ち着いて段取りを確認してローランとの打ち合わせを思い出す。僕は何事もなかったようにお客様を迎える。

「遠くからわざわざありがとうございます」
 

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