【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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13歳の沈着。

温泉地視察。

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 各領主が候補地の選定に入っているあいだ、マックスさんから提案があった。温泉地は湯だけで決めてはならない。受け入れの器の実力も見よう、と。そこでヤート調査商会の人員と領主家の文官を混成にし、仮面調査員として各領の宿を巡らせた。身なりは旅装、素性は伏せ、予約の有無や到着刻をずらし、病弱の老人という設定と、幼子連れという設定も混ぜる。帳面は要旨と点票、項目は寝具の清潔、段差、夜の静けさ、緊急時の導線、台所の柔らかい献立、湯の温度管理、言葉の通じ方の七つ。

 程なく戻ってきた仮面調査員たちが、広間で静かに票を置いていった。結果は明快だった。ニメイジ領が飛び抜けて良い。寝具は軽くて温かい。段差は枕木ひとつぶんに抑えられている。夜は笛の合図以外ほとんど音がしない。非常口の灯は小さく、しかし目に残る。柔らかい献立は昼夜に一品ずつ必ず用意があり、湯の温度は札に従って刻々と調整されていた。言葉も、旅人に合わせてゆっくり。マックスさんは票の束を撫でてうなずく。

「この評価も、候補地の選定に加味しよう」

「異論ありません」僕は承諾し、紙を束ねた。

 二巡りして各領の候補地が出そろい、視察が始まる。随行は土工、医師、司書、料理頭、庭師、棟梁、そして選定の領主とその家の者、マックスさんとローラン、僕。道々、評価票の束を配り、記入の拍を決める。反対は三呼吸、賛成は七呼吸。印象は二行で。

 最初は渓谷の湯。森が近く、湯気が縫うように木々の間を抜ける。水工は河床を叩いて耳を澄まし、地の固さを印で記す。医師は湯を掌で受け、香りと肌触りを見て、塩加減を紙に落とす。庭師は風の通り道に小枝を立てて、揺れ方を確かめた。僕は集落へ降り、湯屋から戻る老夫婦に声をかける。

「湯の音で夜は眠れますか」

「耳が慣れると、逆に眠りが深くなるよ。心配は、雨の強い日だね。谷が鳴る」

 戻って報告すると、棟梁が頷き、斜面の道に緩い回廊をかける図をその場で描いてみせた。音の帯を庭で受ける工夫が要りそうだ、と庭師が添える。票の欄には、静けさ四、避難導線四、光三と印が並んだ。

 二つ目は山腹の段丘。空がひらけ、霧が薄い。土工は湧き口の石の目を数え、湯量に安定の印を置く。医師は日向と日陰で温度の落ち方を見比べ、司書は遠くの音の地図を引く。僕は近くの茶店で女将に尋ねた。

「冬は道はどうですか」

「凍りはするけど、午の刻には解けるよ。風が南へ逃げるんだ」

 戻ると、棟梁が段差の少ない桟道の案を足し、料理頭は飲み水の味を「軽い」と評した。星の見え方が良い、と司書が目を細める。票は星四、風の抜け四、アクセス三。

 三つ目は平地の湯脈。馬車道が真っ直ぐに伸び、湧出量が豊富で湯蔵がいくつもある。長所は明らかだが、賑わいが近い。夜に屋台の声が残る。医師はそれを気にして首をひねり、庭師は垣の植え方で音を減らせると反論する。僕は露店の若い衆に聞く。

「静かな時間を守れますか」

「刻を決めれば守るさ。静養の家なら、俺たちも静けさの札を掲げる」

 票はアクセス五、静けさ二、調整余地四。賑わいとの距離をどう置くかが、鍵だとわかった。

 最後がニメイジ領。谷がゆるやかに開き、湯の匂いが淡い。足を踏み入れてすぐ、音が穏やかなのがわかる。土工は地の固さに太い印を置き、湯口の吐き出しが安定していると指で教える。医師は湯の当たりを確かめて「包む」と一言。料理頭は川の水で米を研ぎ、口に含んで「甘い」。庭師は風の筋を撫で、棟梁は回廊の曲がり角に座り込んで鉛筆を走らせる。司書は日中の光の角度を窓枠の形に置き換え、静かな読書室の位置を図に落とした。
 僕は村の寄り合い所に顔を出し、年寄りに伺う。

「大水の記憶は」

「昔は暴れたが、ここ二十年はない。あの堰から逃がすようにしてからだよ」

 若い母親は、乳呑み子を抱いて教えてくれた。

「夜は鳥の声と湯の音だけ。子もすぐ眠るの」

 戻って皆に伝えると、七呼吸の静けさが落ちた。票は静けさ五、避難導線四、光四、湯量四、言葉の通り三。全体に高い。

 視察の合間には、僕が先に配った設計課題の要件を、現場の姿に合わせて微修正した。段差の規定に車輪の径を追記し、湯の導線に涼み処の方角を縛り、医の間の位置に夜間搬送の導線を足す。庭の項には、音の帯を受ける植栽の例を図示した。棟梁たちは図の余白に自分の癖の線を残し、水工は地の弱い目に赤丸を置き、司書は文庫の候補地に薄い四角を重ねる。紙の上に、各自の仕事が立ち上がっていくのが見えた。

 夕刻、視察の初日が終わるたび、簡易の合評を開いた。要旨を読み上げ、三呼吸で異論、七呼吸で支え。熱のある反対は少なく、むしろ工夫の提案が次々に付け足される。庭師が平地の賑わい対策に香の低い樹種を示し、医師は渓谷の湯にとろみを足す食の案を出し、司書は山腹に小さな文庫の別室をと願い出た。ローランは記録だけに徹し、言葉は整える分だけ。票は紙箱に集まり、翌朝の審判へ備える。

 二巡の視察を終えた夜、マックスさんが静かに言った。

「場所は、票が導くだろう。ただ、票は神ではない。紙と風、湯と人の顔、その四つを一緒に見て決めよう」

「賛成です」

 紙は整った。あとは、風に聞く番だ。翌日の朝、僕らはもう一度だけニメイジの谷に入り、夜明け前の音と、初日の光を確かめることにした。静養の家にふさわしい拍が、そこにあるかどうか。湯気の向こうで鳥が一度鳴き、谷の空気がゆっくり動いた。

 
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