【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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13歳の沈着。

お爺様の終の仕事。

 呼び出しは朝の鐘が一つ鳴ったころに来た。差出人はお爺様、ナフェル騎士爵。僕が駆けつけると、古い木剣が壁に掛かる控え間で、お爺様は背筋を伸ばして座っていた。顔を見た瞬間、言いにくい用件だとわかった。

「お館様から話があった。ルステイン側の静養の家……あれの警備責任者を、わしにと」

「やはり来ましたか」

「受けかねておる。街の剣から外れて、門の番に移るのは、引退の合図とも取られる。わしはまだ、剣を置くつもりはない」

 お爺様の声に迷いはなかったが、誇りが引き止めているのが見えた。僕は一度だけ呼吸を整え、言葉を並べた。

「お爺様。これは門番ではありません。陛下の御身を守る態勢を、ゼロから設える仕事です。通い道、見張り台、合図、交代、非常の封鎖……剣一本では届かない守りを、仕組みとして残す。終わりのない稽古を、領に刻む。名誉のある仕事です」

「名誉、か」

「はい。お爺様が設えた守りは、僕らが死んでも残ります。弟子たちを連れて行き、向こうの若者に稽古をつけて、自警団を立ち上げる。数年後、名を聞かずとも『あの守りはナフェルの手』と分かるように」

 お爺様はしばし黙した。三つ数えて、木剣の柄にそっと触れる。

「……言うことは正しい。だが、わしが席を外せば、街の騎士たちが迷う」

「迷わせません。ルステインの騎士団には次を立てるべきです。お爺様の剣を受け継ぐ者がいるでしょう」

「レウフォか」

「はい。お爺様の息子、レウフォ叔父さんが適任です」

 お爺様はそこで初めて笑った。わずかに、悔しさと誇りの混じる笑いだった。

「よし。ならば剣の礼を通そう。わしはお前と城に上がる。身命を賭して務めると、お館様に申し上げる。そのうえで、弟子を連れて行くこと、向こうで自警団を起こすこと、これを約したい」

「一緒に行きましょう」

 その日のうちに、僕らはルステインの城へ向かった。執務の間にはマックスさんが待っていて、事情はすでに心得ているご様子だった。お爺様は一歩進み出て、膝を折る。

「ナフェル、拝命仕りました。身命を賭して静養の家を護ります。わが弟子数名を伴い、現地の若者を鍛え、自警団を立てます。合図、交代、封鎖の術、すべて教え残します」

 マックスさんは強くうなずいた。

「頼みたかったのは、それだ。ナフェル。ルステインは、お前の息子レウフォに次代の騎士団を任せる。これをこの場で確約する。お前には終の仕事として、ルステインの手となってくれ」

 お爺様の背が少し震えた。すぐに静まり、真っ直ぐに顔を上げる。

「拝命いたす。わしの剣は老いたが、礼は錆びぬ。紙に落とし、人に渡す。終の仕事として、必ず」

 場の拍が揃った。僕は用意してきた紙束を差し出す。静養の家の守りの骨子、詰所の配置、見張り台の交代刻、夜の合図、非常の封鎖、搬送路、そして自警団設立の行程。お爺様は一枚ずつ目を通し、短く頷いた。

「まず三十日の稽古場を設ける。朝は体、昼は合図、夕は実地。剣は最小限、棒を主に。走りは拍で、歩は静かに。……よいな」

「必要な器具はドワーヴンベースから手配します。棒、笛、旗、灯、訓練用の落とし縄、担架。紙は僕が整えます」

「よろしい」マックスさんが言う。「城の兵からも若いのを回そう。現地の若者と混ぜて組ませる。詰所は静養の家の外縁に二、内に一。見張り台は丘に一、谷に一。合図は昼が旗、夜が灯。反対は三呼吸、賛成は七呼吸、あの作法で行こう」

「承知しました」

 その足で、僕らは静養の家の予定地へ向かった。谷の風は柔らかく、湯の匂いが薄く漂う。お爺様は地を踏み、空を見上げ、耳を澄ます。それから棒を一本借り、回廊予定地の角に立って、ゆっくり素振りを始めた。風の筋に合わせて、拍を刻むように。

「ここはいい。風が急がぬ。非常の折も、歩幅が崩れにくい」

「合図塔はあの肩です」

 僕が指すと、お爺様は頷き、地面に小さく印をつけた。

「稽古の初日は、ここから始める。若者に教えるのは剣ではなく歩き方だ。歩を早めず、声を大きくせず、香りを濃くせず……守りの礼はまずここからだ」

 夕刻、城に戻ると、マックスさんが待っていて、書状を二通渡された。一通は任命の正式書。もう一通はレウフォ宛の辞令だ。

「ナフェル、明日付で赴任。レウフォには明後日、騎士団の指揮を移す。……これで街の剣は揺れん」

「感謝いたす、殿」

 お爺様は深く頭を下げ、書状を胸に収めた。顔にはもう迷いはなかった。

 別れ際、廊下の角でお爺様が僕の肩を軽く叩く。

「リョウ。お前の言う『仕組みの剣』、わしにも見せてもらおう」

「一緒に作りましょう。お爺様の剣と、僕の紙で」

「うむ。……三まで早く、七までゆっくり、だな」

「はい」

 庭に出ると、夕の光が回廊の影を長くした。静養の家の守りは、これで骨が通った。あとは、稽古で肉をつけ、紙に血を通わせる番だ。お爺様の歩はゆっくりで、しかし揺るぎなかった。
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