【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

14歳の誕生日。

 運河船が王都の船着きに滑り込むと、白い舷側に同じような紋章がいくつも並んでいた。どの船も、磨かれた木箱や衣装の入った長持を積み、飾り紐だけ控えめに揺らしている。社交の季は、どうしてこうも匂いが似るのだろう。見知った顔もいた。対岸の桟で手を振る人影に頭を下げると、こちらの船からも何人かが応じた。

 石畳に降りると、待っていたのはマックスさんの馬車だった。御者台から軽く手を上げた御者が、さっと扉を開ける。中にはレイアムさんとアルフォンス君。久しぶりの再会に、自然と笑みがこぼれた。

「今年も賑やかになるぞ」マックスさんが言う。「だが、お前は騒がんでよい。必要な時に必要なだけ、顔を出せ」

「はい。静かに動きます」 

「空の船と静養の家の件で、『話を聞きたい』という家は多い」レイアムさんが続ける。「けれど、こちらから厚く押す必要はないわ。来る者に丁寧に返す。それで十分」 

「アルフォンス、座りなさい。ほら、挨拶」

「リョウ兄さん、今年剣の試合、一緒に見られる?」

 アルフォンス君は目を輝かせている。王都で開催される剣術大会のことだろう。毎年なかなか時間が合わずに行けなかったものだ。

「時間が合えばね。まずは陛下に顔を出して、それから学校の先生方にも挨拶に行くよ」

 貴族街に入ると、街路樹の影が馬車の内側を涼しく撫でていく。タウンハウスの列はどこも掃き清められ、玄関の花は控えめに整えられていた。マックスさんの家で茶を一服。近況を手短に交わし、今季の夜会の大枠だけ確認する。僕は礼を述べ、用意してくれていた自分の馬車に乗り換えた。

 自分のタウンハウスに入ると、まずは屋敷の点検を早足で一巡。厨房の火加減、詰所の帳面、開け放つ窓と閉めておく窓。ストークが既に一通り整えてくれているのがわかる。荷を部屋に置くと、久しぶりに中庭で槍をとった。柄の感触、足の運び、肩の回り。汗が一筋、耳の後ろを流れて落ちる。動かしておけば、考えが素直になる。

 稽古を切り上げ、仕事に戻ろうと書斎へ入った瞬間、思わず足が止まった。机の上と棚の上、そして床にまで、包みと箱と花。視界が色で埋まる。リボンをほどき、カードを一枚ずつ拾い上げる。丸い字、きれいな字、長い言葉、短い言葉。応援している、健康であれ、無理をするな、あなたの紙は読んでいる……読み進めるうち、頬が勝手にゆるんだ。

「ああ、そうか。僕、今日、誕生日か」

 独り言みたいに言うと、ストークが扉の向こうで咳払いひとつ。

「お忘れだろうと思い、台所には甘いものを少し。保存の利くものです。お祝いは夜、皆で」
「助かる」

 夕刻、ローランとエメイラ、ミザーリが到着した。小さな卓に茶と軽い菓子を並べる。僕は立ったまま、今年の社交シーズンの方針を口にした。

「今年は、来年の成人に向けての足がかりを作りたい。静養の家は動き始めたけど、僕自身にまだ足りないものがある。何が足りないのかを、この季の中で探る。派手なことはしない。けれど、集めるべき縁と技と約束は、逃さない」

 ローランが静かに手帳を開く。

「足りないもの、三つに分けて見ます。一つ目、渉外の『顔』の層。私だけに寄せず、若いひとたちの窓を育てる。二つ目、現場と王都の橋。人と紙の交換が滞る場所を見つけ、詰所のような小さな結節を置く。三つ目、記名しない援助の継続枠。志券と箱の運用が都でも安定するよう、商業ギルドと刻を合わせる」

「日程は私が押さえます」ストークが続ける。「夜会の招きは八割、昼の茶会は半分ほど。ご希望が多いのは、空の船と静養の家の話です。お返事は短く、先方の聞きたいことを先に」

「護りは任せて」ミザーリは腰の短剣に手を置き、目だけで笑った。「陽炎隊は持ち回りで付ける。移動の道筋は三通り。気配の悪い筋は避ける」

「あなたは、焦らないこと」エメイラが湯飲みをそっと置く。「足りないものは、向こうからあなたに触れてくる。こちらから引っ張れば、形が崩れることもあるわ。勉強は続けなさい。歴史と礼法と、もう少し政治の言葉を。体は……そうね、その槍の汗を毎日一筋」

 僕は頷いた。言葉がどれも短く、現実に触れているのがありがたい。

「まずは明日、陛下にご挨拶して許される範囲で進捗を報告。次に王妃様に先王妃様の件のお礼を。その後、学寮の先生方、商業ギルド、工務、内務の順に回る。夜はゼローキア侯爵家の小さな集まりに顔を出して、終わったら戻る。ローラン、必要な紙は?」

「二行要旨の束を三種。挨拶用、技術用、運用用。すぐ整えます」

「ストーク、贈り物の礼状は?」

「今から書ける分を先にお出しします。手書きで、短く。お返しは焦らず、季の終わりにまとめて」

「ミザーリ、身の回りは軽くする。荷は最小限」

「了解」

 エメイラがふと笑った。

「誕生日なのに、働く話ばかりね」

「じゃあ、ひと口だけ甘いものを」

 ストークが運んできたのは素朴な焼き菓子。蜂蜜の香りがほんの少し。みんなで一つずつ手に取り、黙って噛む。甘さが舌の上で静かにほどけて、体がゆるむ。

「おめでとう」エメイラが言う。「来年のあなたが、今年のあなたを見て、よくやったと思えますように」

「……そうなるよう、やるよ」

 夜更け、皆が引き上げた後、机に向かった。贈り物の山からカードを数枚取り、短い礼を書いて封をする。窓の外では、遠い街の灯が細かく瞬いている。成人まで、あとひと巡りと少し。足りないものは、きっと見えてくる。見えたら、手を伸ばす。手が届かない時は、誰かに頼む。そのための季だ。

 ペン先を拭い、封蝋を押した。蝋の印が冷えるのを待って、椅子にもたれる。胸の内で数を数え……いや、やめておこう。ただ、深く息をして目を閉じた。明日は朝から忙しい。けれど、急がない。背筋を伸ばして、相手の言葉を聞く。その繰り返しで十分だ。僕は灯を落とし、静かな寝室に入った。誕生日は静かに終わり、社交の季が始まる。
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