【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
523 / 806
14歳の助走。

王様のプレゼント。

 王城の謁見用小ホールは午前の光が静かに差していた。ひざまずいて到着の挨拶を述べると、王様は手短に、しかし確かな声音でねぎらってくださる。

「よく働いた。紙も現場も、どちらも息をしておる」

 王妃様は一歩近寄り、目を細めて言う。

「あなたのことはいつでも見ています。困ったらすぐ言いなさいね」

「畏れ入ります。静養の家は本体が上がり、現地の人員訓練に入っております。寮と随員宿舎、厩と公衆浴場は次の段取りに」

 王様は何度もうなずき、短く結ばれた。

「そのまま進めよ。それからな、今後の事、これからもアドバイスを頼むぞ」

 辞去して、ローランとストークと共に回礼に移る。学寮の先生方には今季の受講のお願いと礼を述べ、司書長には要旨の束の増刷を頼む。午後、商業ギルドで刻のすり合わせをしていると、扉口に影が立つ。

「本部長がお呼びです」

 案内された本部長室で、ターニャ本部長が椅子から立ち上がった。

「王様からのご下命です。財務に明るい人材を、あなたに紹介せよと。募集をかけましたところ応募が殺到しましてね。面接に少し時間がかかりましたが……なんとか、陛下の仰せのとおり、誕生日の贈り物としてご用意できました」

 本部長が呼ぶと、落ち着いた紺の上着を纏った女性が入ってきた。

「カレル・アレキシスと申します。商業ギルド財務室で十年。勘定、監査、投資、信用札の運用……一通りやってまいりました」

 ローランが手帳を閉じ、視線だけで合図する。

「あなたにお願いしたいのは三つ。第一に、志勘定と本勘定の峻別。第二に、資産防衛の基本線。第三に、報告の型の統一。名は薄く、使途は明確に、という作法を崩せません」

「承知しました。志勘定は独立簿冊、三者監査、八日サイクルの掲示。資産防衛は短期の流動枠を厚く、長期は分散で。公的事業に関わる分は利得より安定を優先、利益は紙で跡が追える形に。報告は要旨と明細の二枚組で提出します」

「利益を追い過ぎる提案が来た時は」

「拒みます。理由は『安寧に資するか否か』の一行で足ります」 

「利益相反の疑いが向けられた時は」

「自分の取引先を公示して外します。疑いは最初に切るのが早い」

 言葉の刃が立たず、要所がすっと揃う。僕は口を開いた。

「僕個人の資産運用も相談に乗ってほしい。発明の権利料と商会の分配で余剰が出る。急ぎ増やす必要はないが、痩せさせない工夫はいる」

「春から秋にかけての季節資金を切らさず、冬の底で買える余裕を残す……それが第一です。次に、信用札の流れが重なるところに細く置きます。顔の見える先に限ります」

 ローランが頷いた。

「仮採用としよう。社交シーズン明けにもう一度話す。最初は志勘定の一部を任せ、次に本体の流動枠。それで互いに手の跡を見よう」

「光栄です」

 席を辞し、夕刻は装いを整える。エメイラをパートナーに、ゼローキア侯爵家の小さな集まりへ。広間は騒がしくない灯りで、絨毯の踏み心地が柔らかい。入ってすぐ、ストラ兄さんの背が見えた。侯爵が肩を抱いて笑っている。

「婿殿、よく来た。……おお、リョウエストも。顔を見せに来る律義さ、嫌いではない」

「お招きありがとうございます」

 侯爵は杯を傾け、顎で合図を投げる。

「運河は貴族派にも大いに益をもたらした。商いの流れが変わると、人の顔つきが変わるものだ。感謝する。次は空の船だ、頼むぞ」

「停留場の標準化と講習の枠は紙に落ちています。増やす先は、風の筋と地の事情を見ながら慎重に。急がせれば事故になり、事故は人と紙を壊します。侯爵家の領内の候補地があれば、まずは図と現地の声を見せてください」

「言い回しが王都らしくなってきたな。静養の家は?」

「本体は出来上がり、現地の人員が訓練中です。寮と随員宿舎、厩と公衆浴場を順に。騒がせず、使う人の体に合うよう、角を落としています」

「民の志とかいうものは、続いておるのか」

「箱と志券と速文、三本立てで。名は出さず、使い道だけ掲げております」

「名が出ないのに、よく集まる」

「名の代わりに、手で覚える物を選べるようにしました。手すり半間、文庫の本、医の布、匙……誰に届くかが目に浮かぶと、志は続きます」

「なるほどな。婿殿、聞いたか。あの顔でこういう言い回しをする。人は集まるはずだ」

 ストラ兄さんが笑って肩をすくめる。

「兄の目から見ても、弟は弟なりに働いております」

「頼もしきことだ」

 席を変え、立食の卓で幾人かと挨拶を交わす。空の船の話は広がりやすいので、技術より運用の標準を先に。静養の家は作法の話を短く。質問が長くなる前に、相手の事情を聞き返す。エメイラは横で言葉を足しすぎない。目が合うたび、小さくうなずいてくれる。

 侯爵が帰り際、耳元でささやいた。

「貴族派は、結果を見て静かに頷く。約束を一つ。派手にしないことだ。静かに、確かに」

「肝に銘じます」

 外に出ると、夜気が冷たい。馬車のステップに足をかけたとき、エメイラが小声で言った。

「新しい人材、よかったわね」 

「うん。言葉が短い人は、長持ちする」

「あなたも、今日は短かった」

「明日も短くするよ」

 屋敷に戻ると、ストークが火を落としに来た。

「本日の礼状は二十通まで。残りは明日でよろしいですか」

「頼む。ローラン、カレルに渡す紙の束、三種類の雛形を」

「明朝までに」

 灯を消す前、机の引き出しに今日の二行要旨を仕舞う。社交の季は始まったばかり。来年の成人へ向けて、足りないものを拾い集める。顔、橋、紙。焦らず、背を伸ばして、順に。静養の家は現地で息をし、運河は夜も低く流れている。王都の空は晴れて、星は細かく瞬いていた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます! 七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。 しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。 食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。 孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。 これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。