【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

ストラ兄さん達のお願い。

 お茶会と夜会が本格化して、同じ日でも午前に紅茶、午後に立食、夜は音楽付きの集まりと、王都の時が少しだけ速く進むように感じられた。そんな夜会の一つで、背中を軽く叩かれる。振り向くとストラ兄さんだった。

「明日、空いてるか?」

「昼は書類、夜は夜会だけ。夕刻なら大丈夫」

「じゃあ明日、お前のところへ行くわ」

 翌日、タウンハウスの応接間に涼しい布を掛け、来客用に用意しておいたチョコレートアイスを氷室から上げさせる。扉が開く音、足音が二つ重なってから三つになる。ストラ兄さんの後ろに、マリーダさんとメリンさん。二人とも淡い色の衣装で、笑顔が光っていた。
「お邪魔します」ぽわぽわとした声が先に届き、メリンさんが続けて丁寧に礼をする。

「ようこそ。冷たいものですが、よろしければ」

 小ぶりの器に丸く盛り、すっと溶けないよう皿を重ねて出す。マリーダさんは最初のひと口で目を丸くして、舌先でゆっくり味を確かめる。 
「おいしい……」

「濃いのに軽いね」メリンさんは匙を置いて短く評した。ストラ兄さんは肩を揺らし、子どものころから変わらない顔で笑う。
「相変わらず、うまい」

 近況をひとしきり。王太子の相談役と商会幹部としての兄の忙しさ、二人の礼法と舞の稽古のこと、双方の家の調整が驚くほど滑らかに進んでいること。話が落ち着いたところで、三人は同時に姿勢を正した。

「実はね」

 メリンさんが封蝋の入った封筒を差し出す。マリーダさんの封筒は花の小さな模様。ストラ兄さんは黙って頷いた。

「結婚式の招待状です。社交シーズンが終わったあと、王都の大聖堂で式を挙げます。披露宴は王城の小広間で」

 封を割ると、紙は厚手で、字は凛としている。日にちと刻、参列の作法、連名の印。胸の奥に温かいものが満ちた。

「もちろん、喜んで参加するよ。二人とも、本当におめでとう」

 マリーダさんは頬を染め、メリンさんは短く、でもどこか誇らしげに会釈した。ストラ兄さんはひと呼吸おいて、少しだけ真面目な声になる。

「それで、忙しいだろうが頼みがある。披露宴の料理、監修してくれないか。王城のキッチンをお借りする。スサンの天使の選りすぐりを組むから、メニューを考えてほしい」

「わかった。やろう。王城の流れは身体が覚えてる。大聖堂の式から移動、整列、祝辞の長さ……提供の刻は調整できる。二人の希望は?」

 マリーダさんが指を折る。

「お年を召した方にも食べやすくて、でも華やかなのがいいな……」

「派閥や家格が違う方々が一つの卓で同じ速さで楽しめること。香りは上品に、塩はきつくしない。食後に重く残らない構成」

 メリンさんの言葉は要点だけが並ぶ。

「任せて。前菜は小さく多彩にして、杯と会話の邪魔をしない。例えば、湯引きの白身に香草を薄く。根菜のムースは口当たりを軽く。温菜は季節の青菜を上品な出汁で。主菜は肉と魚を二路用意する。魚は蒸して香を閉じ込め、肉は薄切りを短く火を通す。重さが気になる方には野菜の皿で引けるように。パンは柔らかいタイプと少し噛み応えのあるものを半々。甘味は二品、果実の氷菓と、柔らかい焼き菓子の小片。終わりに温かい湯を回す」

 ストラ兄さんが目を細めた。

「華やかすぎず、寂しくもない。俺たちらしい」

「つけ合わせや器の高さ、匙の長さは王城規格に合わせて微調整しておく。立つ方、座る方、どちらにも合うようにね。挨拶が長引いた時の控えの皿、短かった時の追い皿も用意する。余白を必ず残す」

「当日の流れは私が刻を押さえます。祝辞の順、乾杯の合図、演奏の入り……」

 メリンさんがメモを取る。

「厨房の段取りは僕が組む。天使たちの担当、持ち味、相性はわかってる。火口の配置は王城の頭と確認する。衛生と導線は厳格に。アレルギーの確認票は招待状の返信に入れておいてくれる?」

「入れてある。返信は俺の方で集約して渡す」

 ストラ兄さんが即答した。

「ありがとう。席順は両家と王城の侍従に預けて、料理側は歩幅に合わせる。広間の隅に柔らかな席を用意しておくと良い。お年寄りと幼い子が安心できる場所だ」

「わかった。父上にも伝えておく」

 話がまとまり、再びアイスを少しだけ。器の底に残ったものを掬いながら、ふっと実感が押し寄せる。

「いよいよ、兄さん達も結婚かぁ……」

 思わず漏れた独り言に、ストラ兄さんが照れくさそうに笑った。

「時間は勝手に進む。けど、進め方は選べる。お前が用意してくれてきた紙と道具に、俺たちも乗るだけだ」

「二人を幸せにします。約束します」

 メリンさんの声は短く強い。

「私も、幸せにしてもらいます」マリーダさんは笑い、すぐに「違う、二人で幸せになります」と言い直した。

 別れ際、玄関で三人と握手を交わす。扉が閉まる前に、ストラ兄さんが顔だけ近づけて小声で言う。

「当日のまかないも、頼むぞ」

「もちろん。厨房の人たちが一番うまいものを食べられるようにするよ」

 扉が静かに閉まり、廊下の空気が少し軽くなる。応接の花の香りが薄く流れ、机の上には招待状が二通並んでいる。僕は席に戻って、紙を取る。披露宴監修、台所段取り、食材の調達、アレルギー集計、まかない計画。二行ずつの要旨が並んでいく。最後に小さく一行だけ足した。兄の婚礼、全力。
 灯を一つ落とす。胸の奥に、誇らしさと少しの寂しさと、期待がきれいに混ざっている。来年、成人。その前に、家族の大事。よし。やるべきことは、はっきりしている。
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