【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

披露宴の料理番。

 王城の大広間は白い花で縁取られ、入口脇では給仕たちが銀盆を整えている。昔はただのパーティーだった披露宴も、今は入場、挨拶、乾杯、食事、祝辞……と段が決まった。六歳のとき、サテラージャの皇太子ハミル様とルディス様の婚礼で試しに提案して組んだ式次第が、ここまで流行るとは思わなかったけれど。

 裏口から厨房へ戻る。ムーヤさんとロマさんが短い言葉だけで火口を回し、天使たちは持ち場に散っている。氷菓は器を冷やし直し、スープは二路とも湯気が立ちすぎない温度帯。アラカルトの台は三手に分けて、一気に組み上がる算段だ。侍従が合図を取りに来る。

「入場は五十呼吸後。ウェルカムドリンクは柑の水、麦茶の二種」

「承知。王族席は一拍遅らせ、氷菓は動線を確保して」

 扉が開き、ゲストが流れ込む。給仕が盆をすべらせ、グラスにしずくが一つずつ灯る。最後に、ウルリッヒ王太子と王妃様が入られる。広間の空気が一度だけ張り、やわらかく落ち着く。司会の卓に立つのは、友人のナータリア伯爵の長子ビッター様。声の通りがいい。

「ただいまより、ストラスト・スサン、マリーダ・スクワンジャー、メリン・ゼローキア、三人の結婚披露宴を始めます」

 最初の挨拶は父だ。父は一歩進み、深く礼をしてから口を開く。

「本日はまことにおめでたい日。両家の皆様、そして王家のご臨席に感謝申し上げます。息子は幼い頃から家族の中でもよく笑う子でして……」

 広間が柔らかく笑う。厨房側の合図が来る。僕は頷き、指を鳴らす。

「前菜、出ます」

 銀盆が走り、二段に組まれた小皿が卓上に広がる。白身魚の湯引きに香草の香りを一滴、根菜のムースを薄いコンソメで包んだもの、柔らかな豆のテリーヌに葛、蒸した青菜のあえもの、そして小さな卵の茶わんもの。塩は軽く、香りは短く。杯の邪魔をしない。王妃様の卓に視線をやれば、匙が滑らかに進んでいた。よし。

 お父さんの挨拶が結びに入る。

「……二人、いえ三人のこれからに、皆さまのお力添えを。どうぞよろしくお願いいたします」

 拍手の波。続けて、王太子の乾杯。ウルリッヒ殿下は杯を高くせず、目の高さで止める。

「本日のこの結びは、家と家、人と人のあいだにある壁を、静かに低くするものだ。どうか皆で見守ってやってくれ。乾杯」

 杯が触れ合い、小さな音がいくつも重なる。僕は手元の札を一枚返す。

「スープ、用意」

 湯飲み型の器が並び、澄ましと薄い野菜のポタージュが静かに配られる。祝辞が一本入る。長くなれば湯気が落ち、短ければ香りだけが残る温度帯。王城の火口は今日も嘘をつかない。

 魚は香草で包んだ蒸し。骨は一切残さず、上掛けの柑と出汁のソースで香りを結ぶ。甲殻アレルギーの卓は完全分離。器の縁が乾く前に揃って配り切る。広間の奥で、スクワンジャー公爵夫人とゼローキア侯爵夫人の目が細く笑ったのが見えた。さっき尋ねられた「今日の料理はどうかしら?」への答えは、この一皿で十分伝わる。

 肉は薄切りの仔牛を二枚。火入れは浅く、香草のソースは塩を立てない。噛む力の弱い席には野菜の皿に差し替え。ここで一呼吸、口直しの氷菓を一匙。甘さは控えめで、香りだけ舌に残す。動線が詰まらないよう、氷の盆は別線で回す。侍従の合図と僕の目の合図が噛み合い、誰も待たない。誰も急がない。

 祝辞の合間、広間ではささやきが増える。大聖堂での神像の光が、もう噂になっているのだ。厨房の天使が僕の袖を引き、小さな声で言う。

「奇跡、見たかったです」

「皿でやろう。温かくて眩しすぎないやつを」

 青年は笑って、次の盛り付けに戻った。

 メインは穀の炊き合わせ。麦と粟を鶏のだしでやわらかく炊き、小さな茸と季節の根菜を散らす。形を保ったまま、舌で崩れる柔らかさ。肉を控えたい席でも主役になる皿だ。サラダは直前に和えた柔らかな葉と香草、柑と少しの油。遅い席でもしなびない配合。王妃様の卓では、王妃様が隣の方に何かを囁いてから、そっと親指を立てた。胸の奥で小さく息がほどける。

 デザートは二つ。果実の盛り合わせを薄いシロップで香り付けしたものと、柔らかな練り焼き。木の実が苦手な方には乳を使わないゼリーも別口で。配り終えると、広間の空気が一段落ち着く。音楽がやわらかく変わり、輪がいくつか立つ。新郎新婦は順に挨拶を受け、父母の卓に向かって頭を下げ、王族席にも礼を尽くす。僕は厨房の入口からその様子を見守り、合間に給仕頭と立て札を確認する。

「進行、予定通り。祝辞あと一本、花束、結びの言葉、退場」

「了解。賄いは二番火が落ちてから」

「天使たち、あと少し。笑って、でも走らない」

 花束贈呈が始まる。マリーダさんとメリンさんがそれぞれ母へ花を渡し、父たちと固く握手を交わす。お兄さんは肩をすくめて笑い、母の肩にそっと手を置く。王妃様が椅子をわずかに引き、二人の退場の通り道を空けた。最後の言葉は、ストラ兄さんらしく短い。

「皆さま、ありがとうございました。僕は必ず、二人を幸せにします」

 拍手が立ち上がり、天井に広がって、静かに降りてくる。三人が退場し、扉が閉まる。その余韻の中で、僕は深く息を吐いた。火を落とし、包丁を置き、手を洗う。

 披露宴参加者で客席から戻ってきた侍従長が厨房に顔を出す。

「見事でした。誰も取り残さず、誰も急がせず」

「皆さんのおかげです。お疲れさま」

 ムーヤさんが白衣の袖をたくし上げ、短く頷く。ロマさんは器の数を指で数えながら、笑った。

「皿も人も、いい呼吸でしたね」

「神像が光ったって聞いて、焦りましたが」

 若い天使が言う。

「奇跡の分だけ、火を静かにすればいい。皿は眩しすぎない方が、記憶に残る」

 裏口の風が少し冷たい。広間では最後の談笑が続き、王太子がお父さんに挨拶をし、王妃様がお母さんの手を包む。ロイック兄さん達、お爺さん、ミシェ姉さんは輪を作って話をしている。スクワンジャー公爵夫人とゼローキア侯爵夫人が並んでこちらに目礼を寄越し、僕は軽く頭を下げた。料理は言葉を持たないけれど、届くときははっきり届く。
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