【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

志金から護持金へ。

 また王都とルステインを往復する日々が戻った。今回はローランを王都に残し、僕とストーク、エメイラの三人で運河船に乗る。甲板を撫でる風はやわらかく、川面の反射が船底に揺れて、眠気を誘う。一日半の行程でルステインに着くと、その足で現場へ向かった。

 静養の家の敷地に入ると、木槌の音はもう遠い。寮と宿舎、公衆浴場、門番詰所、厩は外装がほぼ終わり、白い壁が光を返す。労志の人々は外構の仕上げに入っていて、排水の勾配を確かめながら砂利を敷き、道端の石を一つずつ据えている。棟梁は腕を組み、若い者の目線の高さで指示を飛ばし、ナフェルお爺様は広場の隅で若者たちの歩みを揃えさせていた。空気に漂うのは木と石と湯の匂い……いよいよだ、と胸の奥が静かに熱くなる。

「持ってきた帳面はここで開けますか」

 ストークが腰の鞄を叩く。

「頼む。今日はお金の話を片付けたい」

 外構の仮詰所に卓を据えて、僕らは腰を下ろした。志金の箱は三つ。王都、ルステイン、速文。いずれも紙札が軽くなっている。完成が近づくにつれ、物志と労志はなお増えているのに、志金だけは目的が達成に見えてきた分だけ、勢いが落ちる……当然だ。ここから先は、守るための力に形を変えなければいけない。

「志金は一度畳んで、護持金に切り替える」

 そう口に出すと、思考が机に落ち着いた。

「口は三つ。建物の維持、道と植栽の維持、湯守と運営の人。名は出さない。使い道だけ毎八日、二行で掲示する」

 ストークが筆を走らせる。エメイラは窓際で光の加減を見て、「掲示は直射を避けた方が紙が長持ちするわ」と助言をくれる。

 僕は速文板に向かい、ローランとサイスさん宛てに二通を作る。

「志金を護持金にするのはどうか。名称変更、掲示の文言、箱の看板差し替え、志券の廃止と護持券の新規発行。八日後の刻から切替希望。可否と修正意見を求む」

 押印して送る。刻が三つ過ぎる前に、返文が二通とも戻った。

……賛成。掲示板の文案を即時改める。箱の看板は工房に発注済み。志券は回収して護持券へ。切替は八日後で問題なし。

……賛成。護持は息の長い仕組みに。運用は役所に委ねる案を勧める。責任の所在を明確に。王家名義で監査線を通すのが良い。

 机の上で二通を並べる。エメイラが覗き込み、眉を少し上げた。

「良い返事ね。ただ……委ねる先の形を決めてから渡さないと、あなたの考えが薄まるわ」

「そうなんだ」

 悩みはそこだ。手を離すのは簡単だが、理念ごと薄くなった仕組みは、十年後に人を困らせる。

 僕は紙を新しく引き、骨子を書いた。

一、名を出さず、二行で使い道を掲げる。
二、三口の按分は定率ではなく、季と必要で移す。ただし移し替えは必ず紙に残す。
三、集金は三系統。王都掲示箱、商業ギルド窓口、現地窓口。
四、王家文庫と王都掲示板に八日ごとの集計を掲げる。
五、監査は年二回。王家、自治領、候補者から選んだ三名で行う。
六、護持を志した者は誰でも、労志の当番に名を記せる。

「これを『護持会』の規約として、役所に渡す。運用と日々の判断は役人に委ねる。僕は二つだけ握る。理念と監査線」

 言い切ると、胸の中の引っかかりが一つほどけた。ストークが頷いて、文の角を揃える。

「ならば名称は『王室静養所護持会』が良さそうでございます。長く、間違えようのない名」

「良い名だ」

 外構の道の端で、年配の男が帽子を脱いで頭を下げた。近くの村の代表で、初日から黙々と石を運んでくれている人だ。

「もうすぐ出来上がりでございますな。金は、もう要らんのですか」

「形が変わります。これからは護持金。建物を傷ませないため、道を保つため、湯を守る人のために。名は出しませんが、使い道は二行で必ず掲げます」

「名は要らんですよ」

 彼は笑って、手のひらの豆を見せた。

「ここに残るんで」

 その笑顔に、僕は深く礼をした。

 昼過ぎ、ナフェルお爺様が訓練を切り上げてこちらへ来る。

「護持の当番制、入営希望の若いのを混ぜてよいか」

「もちろん。月に一度の見回りと、掃除と、道の補修。手順は紙にする」

「よし。腕だけでなく背中も使わせる」

 刻が落ち、影が長くなる。僕は詰所で護持券の見本を描き、券面に二つの印を用意した。王家印と護持会印。数字は小さく、文は大きく。買い物に使える券ではない。手元に残して、誰かに渡せる証。渡された誰かがまた護持に加わる……そんな繋がりを想像しながら、紙の手触りを確かめる。

 夕刻、速文がもう一度到着した。ローランからは、商業ギルドの本部長ターニャが掲示板の差し替えに即応、箱の看板は二日で出来るとの報。サイスさんからは、役所の所管を「王城家政局・保全課」に置く提案、監査文言の修正案が添えられていた。

「委ねる……か」

 紙を眺めながら呟く。エメイラは微笑んで肩に手を置いた。 

「委ねることは、捨てることじゃないわ。あなたは道筋を置いていく人。歩くのは、皆」

「うん。じゃあ、歩き方の目印だけは、濡れても消えない墨で」

 その夜、僕はランプの下で最後の二行をしたためた。

「志金は本日まで。八日後より護持金に改む。建物、道、湯を守るため、使い道を必ず掲ぐ」
「名を求めず、礼を紙に残す。王家文庫と掲示板に毎八日、二行の報せを」

 翌朝、労志の人々が石を置き、若い役人が掲示の板を拭く。紙が貼られ、風が一度だけなで、静かに収まる。完成は近い。ここから先の長い時間を、紙と人で支える準備が、今はじまったのだと思った。
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