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14歳の助走。
最後の石。
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それから何日か、僕は朝のうちに王都へ速文を送り、昼前には現場に顔を出す暮らしを続けた。木槌の音は日に日に少なくなり、代わりに砂利を均す木杓子の音や、刷毛で埃を払うささやきが増えていく。ある日、外構の最後の石が運び込まれた。川面の陽を受けて白く光る四角い石。若い者が二人で肩に担ぎ、年配の者が手で向きを正し、棟梁が膝をついて水平を確かめる。
「よし、置くぞ」
息を合わせて石が地に座る。とん、と柔らかな音がして、道の縁が一本につながった。次の瞬間、誰かが拍手をし、それが輪になって広がった。汗だくの腕、粉だらけの頬、笑顔。建物の下地、道の普請、外構……ずっと石を運んできた手が、ようやく役目を終えたのだと思うと、胸の奥が熱くなった。
「みんな、本当にありがとう」
僕は深く頭を下げた。
「最後まで丁寧にしてくれて、これで通る人が足を取られない」
「まだ掃除が残ってますぜ」
誰かが冗談を飛ばし、場が和らぐ。彼らはまだ動き足りない顔をしている。
「だったら、頼みたいことが山ほどある。窓と桟の拭き上げ、扉の蝶番に油、溝の小石拾い、植樹の穴掘り、標識板の柱立て、浴場の床の塩抜き……段取りを紙にした。分けていこう」
紙を掲げると、皆が一斉に手を挙げた。労志の力は最後までまっすぐだ。
午後には役人がまたやって来る。ここ数日は毎日のように誰かが訪ねてきた。書記官、文官、技官。彼らは現地を歩いて図面と照らし合わせ、労志の当番表や掲示板の紙を見て、静かに頷く。そして帰り際に、決まって同じように言うのだ。
「見に来てよかった」
僕はいつも同じだけ付け加える。
「ここでうまくいったやり方が、どこでもそのまま効くとは限りません。真似るなら、形ではなく、約束の方を」
彼らはそれをちゃんと書き留めていった。
そんなある日、「また役人だ」と思ったら、今度は王城家政局の保全課の一団だった。濃い色の上衣に簡素な徽章、足音は軽いが目はよく動く。
「王室静養所護持会の件で参りました。保全課筆頭補佐、ルアムと申します」
「ようこそ。骨子と雛形はここに」
詰所の卓を空け、護持会の規約案、掲示の雛形、護持券の見本、監査の段取り、当番表の原稿を並べる。ルアムは一枚ずつ目を通しながら、隣の書記に短く指示を出した。
「掲示は八日ごと二行。名は求めず、礼は紙で残す……良い。集金は王都掲示箱、商業ギルド、現地窓口の三系統。箱の封緘は二人立ち会いで、鍵は別々に預かる。監査は年二回、王家・自治領・候補者の三名で巡回……ここは書式を一つに統一しましょう。番号と年月日で追える形に」
「お願いします。移し替えが出た時は、必ず理由を二行で残してもらう。濡れても読める墨で」
「承知しました。夜間の見回りは?」
「月ごとの当番制。お爺様が訓練した若い者を芯にして、湯守、宿舎、門番の詰所で一組ずつ」
「では巡回簿を三冊、すぐに用意します。印は護持会印と保全課印の二つ。押されていない記入は無効とする……この通り、成立させてみせます」
きっぱりと言うので、僕は条件を二つだけ重ねた。
「進捗は必ず知らせてください。八日ごとに二行、問題が出たら即日速文で。そして、現地の顔が見えるよう、責任者の名を掲示板に」
「はい。筆頭担当者と当番者の名を明記します。責任の所在を曖昧にしません」
打ち合わせの後、彼らは現場を歩き、蝶番の音を確かめ、湯の温を手で測り、排水の流れに目を落とした。労志の人々にも話を聞き、当番表の掲示の前で、紙の端が風でめくれないよう小さな釘を打っていく。書記の一人が呟く。
「八日ごとの報せ……続けやすい長さですね」
「長いと誰も読めなくなる。短いと、皆が覚える」
ストークが横で頷いた。
「続けるものの強さは、続けやすさで決まりますから」
夕方、日が浴場の屋根にうす金色の帯を置いた。労志の人々は道具を拭き、手洗いの水で顔を洗って笑い合う。最後の石を置いた日の達成感は、まだ場に温かく漂っていた。ナフェルお爜様は訓練を終えた若者に肩紐の直し方を教え、エメイラは窓から差す光の角度を見て、掲示板の位置を少し移した方が紙が長持ちすると助言した。
「委ねるの、少し怖い?」
エメイラが僕の横に立って聞く。
「うん。でも、捨てるわけじゃない。歩き方の目印は置いた。歩くのは、皆」
「なら大丈夫よ」
ストークが帳面を閉じた。
「八日後、護持金に切り替わります。王都は掲示板の文言を改め、箱の看板も間に合うとローランから。サイス殿は所管を保全課に確定、監査の文も通りました」
「よし。明日の段取りは……掃除の分担と、植樹の位置出し。当番簿を貼り直して、道具を軽くしておく」
灯がともり始めた詰所で、僕は二行だけ紙に残した。
「外構、完了。護持会、保全課と立ち上げ準備」
「当番表を掲げ、八日後の切替を告知。問題あれば即日速文」
筆を置いて深呼吸をする。道は一本になった。足裏に馴染む硬さで、これから来る多くの足を受け止める。最後の石は、ただの一つの石だけれど、皆で運び、皆で置いた。それが良い。明日は掃除、あさっては植樹。その次は、静かに扉を開ける日だ。
「よし、置くぞ」
息を合わせて石が地に座る。とん、と柔らかな音がして、道の縁が一本につながった。次の瞬間、誰かが拍手をし、それが輪になって広がった。汗だくの腕、粉だらけの頬、笑顔。建物の下地、道の普請、外構……ずっと石を運んできた手が、ようやく役目を終えたのだと思うと、胸の奥が熱くなった。
「みんな、本当にありがとう」
僕は深く頭を下げた。
「最後まで丁寧にしてくれて、これで通る人が足を取られない」
「まだ掃除が残ってますぜ」
誰かが冗談を飛ばし、場が和らぐ。彼らはまだ動き足りない顔をしている。
「だったら、頼みたいことが山ほどある。窓と桟の拭き上げ、扉の蝶番に油、溝の小石拾い、植樹の穴掘り、標識板の柱立て、浴場の床の塩抜き……段取りを紙にした。分けていこう」
紙を掲げると、皆が一斉に手を挙げた。労志の力は最後までまっすぐだ。
午後には役人がまたやって来る。ここ数日は毎日のように誰かが訪ねてきた。書記官、文官、技官。彼らは現地を歩いて図面と照らし合わせ、労志の当番表や掲示板の紙を見て、静かに頷く。そして帰り際に、決まって同じように言うのだ。
「見に来てよかった」
僕はいつも同じだけ付け加える。
「ここでうまくいったやり方が、どこでもそのまま効くとは限りません。真似るなら、形ではなく、約束の方を」
彼らはそれをちゃんと書き留めていった。
そんなある日、「また役人だ」と思ったら、今度は王城家政局の保全課の一団だった。濃い色の上衣に簡素な徽章、足音は軽いが目はよく動く。
「王室静養所護持会の件で参りました。保全課筆頭補佐、ルアムと申します」
「ようこそ。骨子と雛形はここに」
詰所の卓を空け、護持会の規約案、掲示の雛形、護持券の見本、監査の段取り、当番表の原稿を並べる。ルアムは一枚ずつ目を通しながら、隣の書記に短く指示を出した。
「掲示は八日ごと二行。名は求めず、礼は紙で残す……良い。集金は王都掲示箱、商業ギルド、現地窓口の三系統。箱の封緘は二人立ち会いで、鍵は別々に預かる。監査は年二回、王家・自治領・候補者の三名で巡回……ここは書式を一つに統一しましょう。番号と年月日で追える形に」
「お願いします。移し替えが出た時は、必ず理由を二行で残してもらう。濡れても読める墨で」
「承知しました。夜間の見回りは?」
「月ごとの当番制。お爺様が訓練した若い者を芯にして、湯守、宿舎、門番の詰所で一組ずつ」
「では巡回簿を三冊、すぐに用意します。印は護持会印と保全課印の二つ。押されていない記入は無効とする……この通り、成立させてみせます」
きっぱりと言うので、僕は条件を二つだけ重ねた。
「進捗は必ず知らせてください。八日ごとに二行、問題が出たら即日速文で。そして、現地の顔が見えるよう、責任者の名を掲示板に」
「はい。筆頭担当者と当番者の名を明記します。責任の所在を曖昧にしません」
打ち合わせの後、彼らは現場を歩き、蝶番の音を確かめ、湯の温を手で測り、排水の流れに目を落とした。労志の人々にも話を聞き、当番表の掲示の前で、紙の端が風でめくれないよう小さな釘を打っていく。書記の一人が呟く。
「八日ごとの報せ……続けやすい長さですね」
「長いと誰も読めなくなる。短いと、皆が覚える」
ストークが横で頷いた。
「続けるものの強さは、続けやすさで決まりますから」
夕方、日が浴場の屋根にうす金色の帯を置いた。労志の人々は道具を拭き、手洗いの水で顔を洗って笑い合う。最後の石を置いた日の達成感は、まだ場に温かく漂っていた。ナフェルお爜様は訓練を終えた若者に肩紐の直し方を教え、エメイラは窓から差す光の角度を見て、掲示板の位置を少し移した方が紙が長持ちすると助言した。
「委ねるの、少し怖い?」
エメイラが僕の横に立って聞く。
「うん。でも、捨てるわけじゃない。歩き方の目印は置いた。歩くのは、皆」
「なら大丈夫よ」
ストークが帳面を閉じた。
「八日後、護持金に切り替わります。王都は掲示板の文言を改め、箱の看板も間に合うとローランから。サイス殿は所管を保全課に確定、監査の文も通りました」
「よし。明日の段取りは……掃除の分担と、植樹の位置出し。当番簿を貼り直して、道具を軽くしておく」
灯がともり始めた詰所で、僕は二行だけ紙に残した。
「外構、完了。護持会、保全課と立ち上げ準備」
「当番表を掲げ、八日後の切替を告知。問題あれば即日速文」
筆を置いて深呼吸をする。道は一本になった。足裏に馴染む硬さで、これから来る多くの足を受け止める。最後の石は、ただの一つの石だけれど、皆で運び、皆で置いた。それが良い。明日は掃除、あさっては植樹。その次は、静かに扉を開ける日だ。
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