【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
544 / 688
14歳の助走。

内輪で宣言。

しおりを挟む
 その夜、タウンハウスの小広間に皆を呼んだ。壁の燭台に火が入り、長机の上には白紙と印箱、封蝋、薄い地図。僕は立って一礼する。

「今しがた王城の謁見で、成人後に伯爵家を興すと王様の前で表明した。ここに宣言する。皆の力を借りたい」

 最初に頷いたのはローランだった。目だけが明るい。

「承りました。では、当面の役割をここで仮決めしましょう。異論は、今、出してください」

 ストークが手帳を開く。

「家政と儀礼、移動と宿営、来客応対は、私が一括でお受けします。王城との連絡線もこちらで。『二行要旨』は全員、これまで通り徹底で」

 カレルが控えめに挙手した。

「財務は仮受任のまま、もう半歩先へ。志勘定は護持会会計と完全に切り分け、伯爵家の基礎台帳を新設します。資産棚卸、口座統一、予算編成……最初の一巡に十日ください」

 アールが姿勢を正す。

「自分は渉外を学びながら現場で覚えます。夜会、お茶会、視察の随行。礼法の再訓練は毎日、半刻でお願いします」

「僕が見る。言葉と沈黙の長さを体に入れるところからね」とローラン。

 トーマスは短く首を傾けた。

「警護は私が。陽炎隊を芯に、行軍と儀仗を兼ねる隊組を編成します。最小で十二名、最大で二十名。移動経路と宿営地の下見を、十日間で」

 レラサンスが一歩出て、丁寧に会釈した。

「邸内の執務動線、応接、会食、衣装と馬車、文房具の補充は、執事としてお任せください。来客台帳は新帳に統一いたします」

「書記は?」と僕。

 ローランが少しだけ間を置いた。

「……一人、どうしても入れたい者がいます。記録の作法が抜群に良く、沈黙の扱いも心得ている。四日後、ここで面を」

「わかった。面接の場は僕が用意する」

 役割が一巡したところで、話題を外交に移す。

「近々、六種族の自治領を回って、各伯と話したい。異種族協働の実地例と、伯爵家の構えを直接伝える」

 すぐにストークが筆を走らせる。

「では十日後の出立で段取りを。順は……エルフ、自主調整を得意としますので先に。次にドワーフ伯グラド様、獣人伯、水竜人伯、小人伯、最後に火の民伯。運河と陸路の併用で、無理のない行程に」

 トーマスが地図を覗き込む。

「要所ごとに連絡点を置きます。陽炎隊は四組に分け、前衛、側衛、後衛、護衛長。合図は視認旗、音は最小限」

 カレルが挟む。

「随行費は私が別袋を。贈答は全て同じ等級で揃えます。書付で由来を添える。現地での臨時支出は、当座金の上限を決めてください」

「一行で足りる理由を付けること」とローランが補足する。「現地判断は尊重するが、紙を残す」

 アールがおずおずと手を上げた。

「渉外の実戦、最初の挨拶は、私にやらせてください。失敗したら、すぐローランさんに繋ぎます」

「いい心だ」とローラン。「では君は『最初の一礼と一言』を。そこで場を整え、必要なら私が受ける。礼法は明日から毎八刻、半刻ずつ」

 僕は皆の顔を一人ずつ見る。
「旅の目的は、約束を持ち寄って、約束を置いてくること。形は土に合わせて変える。焦らない。二行を積むだけでいい」

 そこでローランが軽く咳払いした。

「外交の骨子を三つ。ひとつ、伯が誇る現場を必ず見る。紙だけで判断しない。ふたつ、耳を先に貸す。こちらの話は半分だけに。みっつ、帰り際に約束を明文化する。『次に誰がいつ何をするか』を二行で卓上に残す」

「異論なし」とストーク。「儀礼の配りを、私が合わせます」

 レラサンスが盆を置いた。

「出立十日前から、衣装と贈答の準備に入ります。馬具は新調分を。寝具は折りたたみの軽量品を、人数分。書類箱は防水加工のものを」

「氷室からの氷は?」とアール。

「行軍では贅沢。氷は宴の時だけ」と僕。

 カレルがページをめくる。

「財務は、旅の前に四つ資料を用意します。移動費、贈答、当座金、予備費。すべて上限を設定。リョウエスト様は旅先では財布を持たないで。支払いは私かストークさん経由に」

「了解。それでいこう」

 トーマスが一礼する。

「陽炎隊の規律の一行は、今夜中に作って配布します。『走らず、叫ばず、揺らさず』。護衛の基本はこの三つから」

 アールが小さく復唱した。

「走らず……叫ばず……揺らさず。覚えます」

「では最後に、皆に一つずつお願いを置く」と僕。

「ローラン、書記の面接、頼む。作法は任せる」

「承知。あなたは人柄を見るだけでいい」

「ストーク、十日後の出立に向けた全体工程表を。八日刻の区切りで」

「すでに引いております。明朝、回します」

「カレル、財務の四表、出立七日前に一度見せて」

「間に合わせます」

「アール、明日からの礼法と渉外の稽古、休まずに」

「はい」

「トーマス、陽炎隊の訓練、明日から連日で。装備の軽量化も検討を」

「抜かりなく」

「レラサンス、応接と台所、旅と留守の二系統で回せるように」

「承りました。人の配りを改めます」

 席を立つ前に、ローランが机の白紙を指で叩いた。

「宣言の文を、ここにも置いておきましょう。あなたの言葉で」

 僕は短く頷き、二行をしたためる。

「成人後、伯爵家を興す。働く場を増やし、異種族が並んで働ける形を刻む」
「旅に出て、約束を持ち寄り、約束を置く。形は土に合わせ、二行で残す」

 墨が乾くのを待つあいだ、誰もしゃべらなかった。静けさは重くない。ただ、良い重みだ。レラサンスがそっと紙を掲げ、皆が一礼する。小広間の灯は柔らかく、外の風は穏やかだった。出立まで十日。やることは多い。けれど、やる人がいる。僕は胸の奥をきゅっと結んで、机を叩いた。

「動こう!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

ペットになった

ノーウェザー
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...