【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

エルフ伯との会談。

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 昼下がり。森の光が床板の木目をゆっくり撫でていた。小会談室の丸卓には、エルフ伯と僕、ローラン、ストークが座り、壁際にアールとミレイユ。扉の外にトーマス。リディアは庭の古木の根元で子ども達に囲まれているらしく、窓の外から時おり笑い声が届く。

「今朝は、よいお供えでした」と伯が切り出す。「森が機嫌を直した顔をしていた」
「あなたの酒のおかげだそうです」と僕が返すと、伯は目を細めた。「さて……会談といこう」

 香草茶が置かれ、書板が配られる。ローランが短く頷き、議題を読み上げた。
「一、学房の今後。二、異種族集落の連絡と調停の仕組み。三、新工房群の産業化と流通。四、旅の安全と礼式、特にリディア殿について。五、次の訪問への紹介状」

「順でよい」と伯。

 まずは学房。伯は両手を組んで言った。
「子が増えた。教師も増やしたが、歩みを揃えるのは容易ではない。今は棟を分けたが、合同授業に踏み出す時期を見ている」
「なら、試行から」と僕。「八日ごとに一度、歌と体操、数、地図の三つを合同で。教具は僕が持ち込む。王家後援の小冊子を森言葉版に直したい。印刷は僕のところでやるので、言い回しの監修を」
 伯が頷く。「監修は学房の長老に。教師の研修も必要だ」
「ドワーヴンベースから巡回講師を二人、二十六日ごとに派遣します。逆にこちらからも教師を二人、ルステインに見学に来てもらえれば」
「出す。若いのを選ぼう」

 ローランが書板に走り書きをして、顔だけ上げる。
「合同の評価は『混ざって笑えたか』『指示が一度で伝わったか』の二つを簡易に。数値でなく印で構いません」
「印で十分だ」と伯は微笑む。

 二つ目、異種族集落。伯は地図を指でなぞった。
「暮らしは違う。だが、互いに助けたい場面は増えた。問題は、誰に声をかけるかがまだ曖昧だ」
「窓口を一本にしましょう」と僕。「『連携小屋』を各集落の境に置く。そこに日番を据える。日番は種を替えて三人。相談、伝言、借り物の帳面、全部そこ。衝突の時の調停役は伯の任命で二人。選び方は集落ごとの推薦に印を添える」
 伯は顎に手を当てた。「選び方が肝要だな」
「『選ぶ権利は家にある』の原則は崩さず、ただ記録は整える。導入した道具や作法は『選択書』にして家ごとに控えを持つ。後で揉めた時の土台に」
「記録……よい。森の記録は散りやすいから、集める器がいる」
「記録庫の分室を学房の裏に置きます。秘匿が要る記録は二枚書いて一枚を僕の記録庫へ。盗みに弱い紙は複数で守る」

 伯は静かに笑う。「あなたの『紙の城』は頼もしい」

 三つ目、産業と流通。新しい工房群の図が卓上に広がる。香りの薄い紙に、瓶の絵がいくつも並ぶ。
「森の化粧品は手応えがある」と伯。「ただ、外に出すほど、森を削りたくはない」
「採集は輪伐の計画内だけ。瓶はドワーヴンベースから定数で納める。六種族標準度量衡の印を底に刻印して、容量のごまかしを防ぐ。品質は『森の葉印』で一括認証して、真似を防ぐ」
 カレルが横から加える。「売上の一部を『学房の奨学金』に回す枠を。森に戻すと消費者も納得します」
「良い」と伯。「働く若者の見習い枠を五人、ルステインの工房へ送れないか」
「受けます。代わりにこちらの調香見習いを五人、八日から十三日の短期でこちらに置かせてください。往来が混ざりを生みます」
「約した」

 四つ目、旅の安全と礼。伯が視線だけで窓外を示す。庭で子らに囲まれたリディアが、肩のナビを撫でている。
「彼女は森の子らに好かれた。だが、森にも触れてほしくない場所がある」
「禁足の古木と、聖泉の上空は飛行禁止。門から出入りを徹底。飛ぶ時は必ず先触れを立て、梢より高い高度は取らない。護衛の隊列と速度は地の兵に合わせます」
 伯はほっと息をついた。「あなたはいつも、森にひと呼吸分の余白を残してくれる」
「僕は旅人ですから。森のやり方に乗るのが礼」

 最後、紹介状。伯は机の引き出しから厚い紙束を三通取り出した。
「獣人伯と小人伯、それに火の民伯へ。あなたの名はすでに通じる。だが、森からの手はあった方がよい」
「ありがたい。僕からはドワーフ伯グラドへの近況と、共同研究の相談状を返礼に。瓶や道具の共通規格は、どの領にも有益だから」
「森の外の友は、森の中を豊かにする」と伯は静かに言った。

 そこで一息。伯は視線を落として、ほんの少しだけ言いにくそうに続ける。
「最後に、個人的な礼を。出生のことだ」
 僕は首を振った。「礼は要りません。ここで笑い声が増えたなら、それがいちばんです」
「そうだな……それでも礼を言う。ありがとう。森は長く、寂しかった」

 ローランが書板を閉じる。
「合意は以上。覚書は私が草案を起こし、今夜のうちに清書します。明日、伯の印とこちらの印で二通」
「急がせるな」と伯は微笑む。「だが、あなたの速さは気持ちがよい」

 席を立つ前、伯が窓の外を見た。
「あなたは成人したら伯爵家を興すと聞いた」
「はい。もう王にも申し上げました」
「その時、森から八人、若い官吏を預ける。紙と人を動かす経験を積ませたい」
「喜んで。『選ぶ権利』を忘れない官吏に育てます」

 会談は柔らかく終わった。廊下に出ると、アールが小声で弾む。
「先触れ、今日のは自分でも満足です」
「よかったよ」と僕。「明日も頼む」
 ミレイユは手許の紙片を重ね、目だけで合図した。要点はすでに二行に詰まっている。ストークは無言で頷き、トーマスは戸口の陰に消えて巡回に戻った。

 庭に出ると、リディアがこちらを振り向いた。
「話は終わったか。腹が減ったぞ」
「終わった。いい話だった」
「ならば良い。よい話は、腹も減らす」
 伯も笑って僕の肩に手を置いた。
「森は今、よく息をしている。あなたが吹き込んだ風が、行き場を得た」
「風はすぐ消えます。消えた後に残る形を、ここで作ってください」
「任せよ」

 夕陽が斜めに差し、廊下の影が長く伸びる。会談で積んだ約束は、紙にすれば薄い。けれど、森の中ではそういう紙が一番強い。僕は胸の内で静かに印を押し、次の扉の方角を確かめた。明日の朝、学房で最初の合同の歌を試す。それから国境道へ向かおう。旅は続く。森の呼吸に合わせて。
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