【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

鉄の街の答え。

 朝段取りをし終えて、それぞれが持ち場へ散っていく頃だった。鍛冶場の梁の上から、煤で真っ黒な親方がどすんと飛び降りる。腕を組んで僕らをぐるりと見回し、声を張った。 

「お前達はドワーフ心がわかるもの達だ。お前ら後に続くぞ」

 その一言で、歯車に一気に油が回ったように街が加速した。やりすぎの始まりである。

 規格工房では鋲打ちの音が高まり、半日で組めるはずの仮設骨組みが、午前のうちに三連アーチへ拡張された。試作室では小人たちが灯りの笠に反射板を足し、夜目にも眩しくない柔らかな光量に調整する。匠の間からは飾り梁が運び出され、エルフの若者が蔦の意匠を彫ってはめ込む。火の民は樽台の周りに火避けの土塁を築き、水竜人は給水路から臨時の水場を二つ引いた。獣人の力自慢は滑車の綱を引き、重い鉄枠を空に持ち上げる。ローランは腕章を巻き、露店と搬入口の導線を最短に切り替える。トーマスは安全の見張りを配置し、縄と手旗の合図を決めた。ストークは里親工房の若いのを呼び集め、腰掛け場に長椅子を増やしていく。リディアは樽を三種叩き分け、香る順、酔いの回り方、食の合わせまで看板に三行で書かせた。

「わらわの役は喧嘩を水で割ることじゃ。水は真ん中、酒は左右、よいな」

「了解です」とスキットル職人が胸を張る。

 昼からは子どもたちの持ち場だ。耳箱の横に初めての「失敗帳」展示。折れた刃、潰れた鋲、曲がった軸……一つひとつに短い理由と次の工夫が書かれている。笑いながら読む大人の背中を、子どもが覗き込む。「失敗しても、直せばいいんだよ」と僕が言うと、親方が横でうんうん頷いた。
 夕刻には舞台が立ち上がった。金床を並べた簡易ステージの脇に、歌の番札。反対側には「手の値」と「機械の値」を掲げた見本棚。段位札の大板も吊られ、初回七人の名が刻まれている。市場の女将連は鍋と釜を持ち込み、森の娘は香る葉のサラダを山盛りに。辛い豆の鍋、魚のゼリー寄せ、肉汁を受け止める固いパン。香りが重なり、光が重なり、鉄の街に祭りの輪郭が現れる。
 陽が落ちる直前、最後の綱が結ばれ、最後の看板が上がった。誰ともなく拍手が起き、あちこちで肩が叩かれ、笑いが弾ける。親方がぼそりと言った。
「……感無量だ」
 僕もうなずく。やりすぎだ。だが、ここではそれが正しい。

 翌日。空は早起きの鉄色、空気は清んでいる。アールが舞台に立ち、胸の前で手を合わせて深く礼をした。

「鉄に感謝する日、始めます。今日ここにある道具、柱、鍋、鍵、釘。全部、誰かの手が作り、誰かの暮らしを守ってきました。ありがとうから、始めましょう」

 短い。だが、届く言葉だった。金床が一斉に叩かれ、低い音が広場を満たす。リディアが杯を掲げる。

「まずは水で乾杯じゃ。長く働くには、長く生きねばならぬ」

 水の杯が回り、次に酒。三種の酒が順に注がれ、樽台の前では水竜人が静かに水を差す。喉が笑い、目が柔らかくなる。

 午前は匠の実演。玉鋼の親方が刃文の違いを見せ、小人の検査役がゲージを差し込み、エルフの研ぎが光を貼る。機械の帯では旋盤が瓶の口金を削り、規格値が板に刻まれる。段位札の前で若いのが胸を張り、落ちた二人は試作室の治具に群がる。笑いが起きるたびに、舞台の金床が拍子を取る。
 昼は各種族の一皿の時間。辛い豆は列を作り、魚のゼリーは涼やかな目を引き、森の葉のサラダは香りで人を呼ぶ。肉汁パンは子どもに人気で、親方が皿を持って並ぶ姿に広場がどっと沸いた。耳箱の横では合唱が始まり、子どもたちが前に習った歌を短く重ねる。アールがうまく受け、曲を繋ぎ、次の案内へ滑らかに移していく。渉外の顔が育っていた。
 午後、里親工房に募集した若者が舞台に呼ばれる。見知らぬ街で過ごした日々を、短い言葉で話す。「飯はうまい」「風呂は熱い」「困ったら戸を叩け」。拍手が起き、グラドが親指を立てる。ローランは時間の札を入れ替え、トーマスは縄の位置をこっそり調整し、ストークは人の流れを途切れさせない。カレルは共済の受付で忙しく、包帯と温いスープを手際よく配る。
 日が傾く頃、最後の合唱。金床の音に、森の歌と炉の歌が重なり、広場の空が少しだけ赤く見えた。アールが深く礼をして締める。
「今日の『ありがとう』は、明日の仕事に変わります。また働いて、また感謝しましょう」
 歓声と拍手。やりすぎなくらい盛り上がったが、片付けもやりすぎに速かった。縄が解かれ、樽が転がり、看板が包まれ、灯りが下ろされる。片付けの列は、組み立ての列と同じくらい美しかった。

 祭りの終わりを見届け、僕らは鉄の街を発とうとした。陽炎隊が荷を括り、ナビが僕の肩に移り、リディアが名残惜しそうに樽を撫でる。そこで、背中にグラドの声が飛んだ。
「バァン、待て」
 振り向くと、彼は顎で合図した。「おい、出せ」
 工房の奥から、ごう、と低く響く車輪の音。真新しい馬車が引き出されてくる。黒鉄の骨組みに、積層木の肌。車体の要に鍛えた枠、要所にステンレスの金具。車輪は厚革で覆われた鉄輪、軸受けは僕の旋盤寸法、板ばねは火の民がしならせ、水竜人の水で最後の歪みを抜いてある。側面の底近くには、六種族標準の底印が控えめに刻まれていた。

「工業と手仕事の両立、だ」とグラド。「お前の馬車と同じ考え方で、街の答えを作った」

 扉を開けると、内装はため息の出る造りだった。床は掃除しやすい板張り、壁には調理道具の標準ラック。天井には通気の路、窓は光を散らす彫り。小さな折り畳みの作業台、短い休憩用の腰掛けが三種の高さで備えられている。隅には小さな水場と、魔道具の火口、緊急時の医薬箱。要の部材には職人たちの名札が埋め木され、控えの紙袋には保証書が入っていた。

「どうだ、これが街の答えだ」

 胸が熱くなった。言葉がうまく出ない。僕は扉の縁を撫で、床を叩き、最後にグラドの両手を握った。

「……ありがとう。大切に使う」

「使ってくれ」とグラドは笑う。「傷を増やせ。傷が誇りになる」

 タウンハウス用の馬車は新しい馬車に入れ替えられ、積み荷は驚くほど自然に収まった。トーマスが車軸の鳴りを聞き、ローランが書類の棚を確かめ、カレルが共済の箱の位置を変え、アールが窓の開け方を覚え、ストークが緊急手順を貼る。リディアは内壁を一巡して頷いた。
「良き器じゃ。旅が楽しくなる」
 僕らは御者台に上がり、グラドと街に手を振った。金床の音が遠のき、煙の匂いが薄れていく。後ろで新しい車体が小さく軋み、前で馬が鼻を鳴らす。ナビが肩で小さく鳴き、リディアが笑った。

「さて、次へ行こうぞ」

「うん。次の街でも、ありがとうから始めよう」

 鉄の街は背に、道は前へ。やりすぎの仕事とやりすぎの友情が詰まった馬車に揺られながら、僕らはまた旅に出た。
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