【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

獣人伯との会談。

 隊商許可の窓口は市場の外れ、風の通る土間にあった。木の扉を押すと、革の匂いと紙の匂いがまじる。列の先頭で、若い狼族の御者が眉間に皺を寄せて用紙とにらめっこしていた。欄は多く、文字は小さい。書いては消し、消してはため息をつく。横で小人の書記が静かに手を差し出し、口述を促すと、御者は肩の力を抜いて話し始めた。書記は要点をとり、読み上げて確認し、印の場所を指さす。終わると御者は安堵の息を吐き、窓口の獣人職員が受領と指示を短く告げた。流れ自体は良い。しかし、壁の掲示は文字だらけで、初めての者には一歩目が重い。僕は列の脇に立ち、紙の顔つきと人の表情を順に確かめた。ここは、まだ良くできる……そう思いながら館に戻る。

 会談は獣人伯の執務の間。丸い卓を囲み、獣人伯が開口一番に切り込む。
「今日は率直に問おう。まず、学びだ。全体に遅い。これは大丈夫か。知性でも他種族と肩を並べたい。次に書類だ。獣人は書くのが苦手だ。あれはどうしたらいい。他種族を入れれば解決するのか。三つ目、規格だ。わが領は獣人規格で進めてきた。このままでよいのか。他種が不満を持たぬか。最後に頼みだ。お前の伯爵領が立ち上がったら、官吏を預けたい。修業に出したい」
 言い切ってから、伯は僕の目を見る。僕は頷き、順に答えを置いていく。

「一つ目。学びの速度について。特殊学級……獣を扱う授業はこのまま丁寧に。焦らず、再現性を積むほうが良い。代わりに混成授業を改革しましょう。獣人と他種が同じ机で学ぶ時間を増やし、段階的に速度を上げます。やり方は三つ。共同教員制……獣人の先生と他種の先生で一組に。見える目標……二十六日ごとの目標表を教室に張り、到達を皆で確認。身体を使う授業を挟む……歌と短い体操で集中の波を作り、長い座学を小分けにする。『遅い』を『確か』に変え、確かさの幅を少しずつ広げる作戦です」
 ローランが補足する。「進捗は記録で見えます。学期ごとに目標表を差し替えましょう。子が自分の足で速度を上げている実感が大切です」
 獣人伯は腕を組み、短く頷いた。

「二つ目。書類仕事。窓口は獣人の顔のままにしましょう。そこが安心の入口です。ただし口述から書類を起こす『書記』は別種族に任せる。小人やエルフの得意分野です。口で話す……書記が書く……読み上げて確認……獣人職員が受け、判断する。この三拍で回す。加えて絵札を用意します。更新、初申請、割引、罰金、積載、護衛……頻出の用件を絵で示す札を掲示し、札を指差すだけで話が早くなるように。列も二本に分けましょう。更新などの短い手続きは『早い列』、初申請や相談は『長い列』。色違いの木札を入口で渡せば、迷いが減ります」
 僕は窓口で見た狼族の顔を思い出しながら続けた。「最後に、確認の読み上げを標準に。文字が苦手でも間違いが減る。これは誇りを守る仕組みにもなります」

「三つ目。規格。獣人規格は内側の誇りです。崩さなくていい。ただし外に向けては六種族共通規格と王都規格を必ず併記する。帳面、看板、標識、秤、荷札……全部です。内側は獣人の単位、外側は共通の単位。二つが並ぶ板を作り、どちらでも仕事ができるようにする。荷車のボルトにも底印と規格印を併せて打つ。これで外の者も迷わず、内の者も胸を張れる」
 アールがうなずく。「交易先で『読める』が増えれば、渉外の出鼻が軽くなります」

「四つ目。官吏の預かり。受け入れは喜んで。ただ、今は立ち上げの只中です。伯爵家が立ち上がり切ったら、すぐに受け入れます。それまで一年ほど、待ってください。その間に名簿と志の短い書付をいただければ、到着順ではなく適性順に配置できます」
 獣人伯は口角を上げる。「正直でよい。一年は待てる。名簿はすぐに整えよう」

 伯は椅子の背にもたれ、しばし沈黙。やがて、もう一歩踏み込む。
「他種を入れた窓口は、うちの誇りを薄めぬか」
「薄めません。顔は獣人のまま。決裁も獣人。書く手だけ、得意な者に頼るのです。道具を使うのと同じです」
「絵札は子ども扱いに見えぬか」
「誇りは結果で守られます。早く正確に終わる列は、侮られない。絵札は言葉ではなく合図です。獣人の現場は、もともと合図が強い」

 伯はふっと笑う。「なるほど、合図か」
 そこで僕は窓口の模型を卓上に描き、導線と札の場所、読み上げの位置を示した。ストークが頷き、安全の死角を二つ指摘する。ローランは掲示文の字の大きさと並びを提案し、カレルは手続き料の端数を切る案を示す。「端数は喧嘩の芽です。丸くしましょう」

「学びの混成は、いつから動かす」
「準備二十六日、実施二十六日で第一段。特殊学級は触らず、混成の国語と計数から始めます。先生の研修は先に。授業の最初と最後に短い歌と体操を入れるのは、獣人の子の体に合います」
 獣人伯は手元の小槌で卓を軽く叩く。「よし。校長と教頭を呼ぼう。明日の朝から動かす。窓口の札は今日から作らせる。絵は子どもに描かせて、書記が清書せよ。自分たちの道具は、自分たちの手で形にする」

 会談は次の段へ。規格併記の板は、まず市場、訓練場、窓口から。標識はエルフの工房と共同で、森道の矢印に共通の印を刻む。荷車の底印は鍛冶場で型を作り、来月の整備日から順次打ち直す。書記の採用は小人とエルフに呼びかけ、口述の練習は窓口で。更新と初申請の列を分ける衝立は、ドワーフが今日中に簡易のものを組む。決まるたびに伯の小槌が鳴り、走る人の名前が増えていった。

 締めに、獣人伯が静かに言う。
「わが領の道は、走るためにある。だが、走るだけでは道は細る。読む者がいて、書く者がいて、待つ者がいて、初めて太る。……お前の言う入口、作っていこう」
「はい。入口は明るく、誰にでも見える場所に」
「官吏の件は一年後だな。名簿と志を送る。誇りを薄めず、広げる旅にしてくれ」
「約束します」

 会談が終わると同時に、外は夕方の色に変わっていた。窓口へ戻ると、絵札の試し描きがもう壁に貼られている。荷車、盾、水、矢印、巻物……子どもの線は少し丸いが、驚くほど伝わる。列の狼族の御者がそれを見て、迷いなく札を指さした。窓口の獣人職員が短く頷き、横の小人の書記が筆を走らせる。流れが一段、滑らかになる。僕は小さく息をつき、獣人伯に会釈した。伯は腕を組み、大きく頷く。ここから先は、この領の足で速くなる。僕は胸の内で印を押し、明日の学校と市場の掲示板の位置を頭の中で並べ直した。
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