【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

二つの計画書。

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 助言会の紙を束ね、耳箱の最初の読み上げ日を定め、海市の席割り図に最後の線を引いた。潮衛と水門番の初回訓練は若い者の笑い声に満ち、記録庫には「潮の自治章」の草案が新しい匂いを放っている。数日、僕はただ手と紙で寄り添い、決めるべきことをこの街の人々と一緒に決めていった。僕が口を挟むのは要らない所だけ。最後に印と針を渡し、針が布に落ちる音を見届けるような日々だった。

 旅立ちの日の朝、伯からリディア以外の者が呼びがかかった。執務室に入ると、伯と家令、それに顔馴染みになった家臣たちが整然と待っている。窓から入る水の光が、紙の端をやさしく撫でた。

「説明せよ」

 伯の一言で、家令と家臣が二つの皮袋から分厚い計画書を取り出す。表紙には簡潔に、二つの題。

 一つは「沿岸」。もう一つは「内陸」。

 家令が沿岸の方を開き、指で要点をなぞった。

「リョウエスト様の伯爵領がもし沿岸に立つなら、我らが同盟講で『港の核』を贈ります。港の基本設計一式、潮の見張り台、冷庫、見本棚、海市の席。初動の船は二隻、こちらで用意。四十肘の浅喫水船を一隻、遠洋仕様の中船を一隻。乗り手は水竜人十、陸の水番五を添えましょう」

 家臣が内陸の巻を開く。

「内陸に立つならば、運河の筋を通す計画です。王都へ上申し、王国の資金を付ける段取りは整えてございます。水門三基、低落差の水車二十、冷庫、保全小屋、通関の小さな関所まで。測量の目は我らが出すが、掘りは現地講に任せる形。年数は二年を見込みます」

 室内が静かになった。ローランもストークもみなも、言葉を失っている。僕も同じだ。喉の奥が熱くなる。伯がゆっくり続けた。

「これは、その場の思いつきではない。陛下に掛け合い、王国の資金も提供される正式な計画だ。お前がどこに旗を立てようと、海からでも、水の道からでも、我らは繋ぐ」

 気づけば、僕は深く頭を垂れていた。

「ありがとうございます。言葉が見つかりません……必ず、良い形で返します」

「返すと思うな。繋げ。お前と我らの道は、これからだ」

 伯はいつもの穏やかな笑みを浮かべ、卓を軽く叩いた。

「この領にも、これからも知恵を貸せ。潮は変わる。だが道は残る」

 会はそれで締めくくられた。廊下に出た時、家令がそっと耳打ちする。

「耳箱、今日から四つ置かれます。読み上げ役に、子らが志願しておりましたよ」

「うれしい報せです。帰ったら、掲示の紙を見に来ます」

 港へ下ると、運河貨物船の甲板は朝の光で白く光っていた。船腹に据えた斜路を、馬車が一台、また一台とゆっくり上がっていく。新しいタウンハウス用の馬車はドワーフの手の仕事が光り、キッチンエンジェル号の横で誇らしげに車輪を休めた。獣人伯から贈られた馬たちは耳を立て、鼻を鳴らしながらも、御者の声に落ち着いて従う。アレクとボルクが手綱をさすり、陽炎隊は最終の点検をしている。アールは荷綱の結び目を二度確かめ、トーマスは見張りの立ち位置を短く伝える。カレルは積荷の一覧に目を走らせ、ミレイユは甲板の端に腰を下ろして、光に濡れる水面を描いていた。ナビは帆柱の影で丸くなり、尻尾を小さく揺らしている。

 見送りの列は運河の縁に長く伸び、鰭を持つ手が波のように揺れた。伯が前に出る。次の瞬間、水竜人たちが一斉に膝をつく。

「龍様に感謝を」

 低い声が重なり、運河の壁に柔らかく返る。リディアは肩をすくめて笑い、腰に手を当てて言った。

「よう働いたの。わらわはただの客人ぞ。だが……また来るぞ。美味い酒も持ってな」

 どっと笑いが起き、鰭がもう一度揺れた。伯は僕の方を向き、短く握手を求める。

「波を分ける者、未来を記す者。次はお前の頁だ」

「はい。小人伯の頁を、借りに行きます」

 舫い綱が外れ、舵が静かに切られた。船が運河の流れに乗る。岸がゆっくり後ろへ滑っていき、耳箱の立つ役所の軒や、朝いちの海市の屋台が小さくなる。見送りの群れの先頭で、子ども達が両手を振っている。先生が後ろで笑っていた。

 甲板に出る風は、潮の香りに甘い焼きものの匂いがまだ少し混じっていた。ローランが横に立ち、静かに言う。

「……計画書、帰ったら写しをもらって、保存します」

「うん。二つとも、どちらになっても道になる」

「ところで、伯は『返すと思うな』と言ったが……君はどう受け取る」

「恩は返すものじゃなくて、次へ渡すもの。伯はそれを言いたいのだと思う」

「だろうな」

 ストークが笑って肩を叩いた。

「ではリョウ様、次は小人伯領。耳箱の札、きっと細かいですよ」

「覚悟しておこう」

 リディアが欄干に肘をつき、運河の先を眺める。

「小人の街は、飯がうまい。酒も」

「動機が明快で助かるよ」

 皆で笑う。大きな運河船は水門をひとつ抜け、次の鏡のような水面へと滑り込んだ。波紋が船腹から幾筋も広がり、朝の光を砕く。手帳の角に、新しい頁の折り目をつける。次は運河沿いの小人伯領だ。どんな声が待っているだろう。
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