【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

小人の都を回る。

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 翌朝。僕らは約束どおり座って目線を揃え、プルックと肩を並べてから、まずは小人の機械工房へ向かった。扉の内側は、油と磨き粉の匂いがきりりと混ざっている。低い作業台に小さな万力、刻みの浅い目盛り環、髪の毛ほどの真鍮線。親方が軽く指を鳴らすと、弟子たちが一呼吸で手を止めた。

「見ていいよ。今日は自慢があるんだよ」

 プルックが胸を張り、掌に銀色の小さな円盤を乗せてみせる。懐中時計だ。親指の先ほどの厚みの中で、歯車が朝の光をかすかに散らす。

「ようやくここまで小さくできたよ。いろいろな種族の知恵を借りて作ったのさ。あとはね……時間合わせと、狂いを起こさせない工夫ができれば完璧なんだけどね」

「動かしてもいいかい」

「もちろん」

 耳を寄せると、ちいさな心臓が胸のすぐそばで刻むみたいに、テッテッ、と等間の音が来る。僕は裏蓋を開け、緩急針と髭ぜんまいの据わりを眺めた。真面目な仕事だ。だからこそ、次の一歩が要る。

「二つ、提案があるよ。一つ目は補償輪……温度で少しだけ伸び縮みして、輪の重さのバランスが自分で変わる仕掛け。これで寒い朝と暑い昼の歩度の差を抑えられる。二つ目は、時間合わせの場を決めること。広場の『時間の柱』の鐘を標準にして、毎朝一刻目に全員で針を合わせる。合わせる時刻が揺れなければ、狂いに気づくのも速い」

「補償輪……うん、聞いたことはあるよ。できるかな」

 親方が眉を上げる。プルックがすかさず笑った。

「できるよ。だってぼくらは小人だよ」

 周りの弟子たちがくすっと笑う。僕は続ける。

「香箱も少しだけいじろう。巻き上げた直後と終わり際で力が変わりすぎないよう、滑り座金を入れてトルクを均す。緩急はあまり触りたくないけど、外端の形をほんの少し持ち上げれば、等時が安定するはずだ」

 親方が目を細め、板書台に簡単な図を引いた。ローランが隣で寸法を取り、ミレイユが横から見やすい断面を描き足す。プルックが指をとんとんと机に当てた。

「じゃあ、鐘の刻限を決めようよ。毎朝、鐘一つ目……針合わせ。鐘二つ目……検査帳に歩度を書き込む。どうだい」

「いいね。歩度は僕らの『舌触り』になる。違いが舌に残れば、故障の芽が見える」

「ほらね、真面目だろう?」と、プルックが得意そうに言う。

 工房の次は工場だ。ここはラインができあがっていて、細かな加工は小人、重量物や大仕掛けは他種族、小人の準検を通ったものが流れ、最後に小人の最終検で印が押される。流れそのものが目に気持ちいい。

「ここは成功例だね」とプルック。「いろいろ試してみたら、こうなった感じかなあ」

「理想的だよ。小人親方と他種族の小組、準検から最終検までの通し……現場の舌と目が一本に揃っている」

 ライン脇で、アールが小声で職人たちに声をかけた。

「昨日の約束のご挨拶、少しだけ練習しましょう。外来の護衛の者が通る時に……こうです。『ただいま巡回中です……驚かせぬよう、ゆっくり参ります』」

 小組長が復唱し、周りも続く。声を落として、間を置く。小さく始まった練習が、列の端まで波のように伝わっていった。

 外へ出ると、人だかり。真ん中でリディアが小人と子どもたちに囲まれている。

「龍様。本当に龍様?」

「本当に、じゃ」リディアがにやりと笑う。「ちいとだけ、見せるのじゃ」

 右の肘から先が、するりと鱗に変わり、指は鉤のようにしなやかに曲がる。陽を砕く玉のような鱗の光に、子どもたちの目がいっせいにきらりと裏返った。

「すごいすごい!」

「ふふ……触るでないぞ。鋭いでな」

 ナビはといえば、頭に紙帽子をちょこんと載せられ、得意げに胸を張っている。尾で子らの頬をくすぐり、笑い声がはじけた。

 午後。僕らは街回りに移る。最初は兵の巡回だ。陽炎隊と人間の護衛を前に、プルックと並んで座って話す。

「驚かせない工夫……槍の穂に布袋、音を抑えるための歩幅の調整、巡回時刻の『兜を外す刻』を定める。それからね、通りに入る前に合図旗を子どもの目線の高さに出す」

 アールが例の挨拶をもう一度通し、兵たちが声を揃える。兜を外した額に風が抜け、顔が見えるだけで、通りの足音が少し軽くなるのが分かった。

「それ、いい!」プルックが膝を叩く。「旗はぼくが用意するよ。色は……子どもの好きな果物の色がいいんだよ」

「ぶどう色と林檎色、だね」とミレイユ。家臣がすぐ控えに書きつける。仕事が速い。

 次に役所。入口には大きい人用の卓と小人用の卓が並び、紙も大小二種がきちんと用意されている。すでに工夫はある。けれど、掲示板は大きい方に合わせた高さで、端の方は子どもの目からするりと逃げる。

「掲示は二段にしよう。上段は大きい人の胸の高さ、下段は小人の目の高さ。二本の床の誘導線で、それぞれの窓口へ導く。踏み台を窓口ごとに二つずつ。絵札の枠は色で揃えて……青は税、緑は住まい、赤は緊急」

「時間の柱の刻を、ここにも書こうよ」とプルック。「鐘一つ目……針合わせ。鐘三つ目……役所の混む刻。外の人が来やすい刻も描こうよ」

「良いね。来客の流れが読める」

 窓口の奥で、ストークが静かに頷き、出入りの幅と待合の椅子の高さを測っていく。ローランは掲示板の位置を確かめ、ミレイユが庇の影の落ち方を図に起こす。役所の書記が「なるほど」と唸った。

「机と紙は揃ったと思っていたが……高さが、まだ届いていなかったのだな」

「届くようにすればいい。届けば、声も届く」

 外に出る頃には、兵たちの槍の穂は布袋でやわらかく包まれ、歩幅は半身分ほどに整えられていた。合図旗はまだ手書きだが、子どもの目線にひらひらと揺れ、先ほどよりずっと穏やかに通りが呼吸をしている。

「次は客館の厨房だね」と僕は手帳をめくる。「煙の抜け道と火の位置……低い屋根に煙が溜まらない工夫を、夕刻の仕込み前に試そう。明かりの高さも合わせたい」

「うん、忙しいよ。でも楽しいんだよ」プルックが笑う。

「忙しくて、楽しい一日だ」

 ナビが肩に移り、小さく鳴いた。遠くで時間の柱が一つ、澄んだ音を打つ。僕らは足並みを合わせ、掲示の高さ、旗の色、歩度の数字、そして明日の針合わせの刻を胸の中でそっと反芻しながら、夕方の街へ歩き出した。
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