【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
573 / 806
14歳の助走。

憧れと段取り。

 翌朝、鐘一つ目。針合わせを終えて広間に戻ると、ローラン、ストーク、アール、カレル、ミレイユが自然に輪を作って、それぞれが見つけた課題と手当てを手短に出し合っていた。だれも合図していないのに、舌の順番がきれいに回る。なかなかチームワークも良くなってきたなあ、と思う。

「掲示は二段だ。上段は大きい人の胸、下段は小人の目」とローラン。「色分けは税が青、住まいが緑、緊急が赤……絵札は子どもの目線に合わせる」

「長椅子と踏み台はこしらえて運ぶ手筈が要る」ストークが控帳を繰る。「小人寸の脚と継ぎ足し脚を用意して、座って話す刻の茶と水も段取りしておきます」

「誓いの文案は仕上げました」アールは羊皮紙を掲げる。「『座って交渉、二度の確認、声は一つ上げない』。読み上げ練習も今日から兵と窓口で」

「黒塔と横走り煙道の見積もりは仮で出した」カレルが短く言う。「資材の在庫、今なら押さえられる。肩章と旗の布の仕入れもまとめて手配しておく」

「風の通りと庇の影を図にした。返し板の角度は四種、現場で試す」ミレイユは図を机に広げた。「旗はぶどう色と林檎色……模様は果物の簡単な絵にして、識別を助けよう」

 それぞれが「じゃあ、行ってくる」と腰を上げる。誰に言われるでもなく散り、同じ高さで手を動かしはじめる様子が気持ちいい。

「わらわ、思いついたことがあるのじゃが」

 背後からリディアの声。振り向くと、肩にナビを乗せ、いつものスキットルではなく木の指揮棒をくるくる回している。

「学校へ行くぞ。今日この刻でやるのじゃ」

 僕はうなずき、プルックにもひと声かけて同行した。水竜人の教師が門で待っていて、状況をひと聞きで察し、林檎色の旗をすっと掲げる。鐘二つ目、読み書きの交換の刻が終わると同時に、両棟の子どもたちを同じ講堂へ誘導する段取りだ。床には青と緑、二本の誘導線。入口脇には踏み台と座布団。座って、同じ高さで、が合言葉になっている。

 ざわざわとした靴音が近づき、子どもたちが講堂に入ってくる。最初は二群に分かれ、互いに意識し合って距離が空く。リディアはその真ん中に立ち、指揮棒を軽く打った。

「今日はな……龍というものの話をしてやろう」

 わっと空気が吸い寄せられる。怖いけれど聞きたい、という顔。耳が前を向く。小さな背筋が伸びる。

「龍は強い。けれど、はじめから強いのではない。強くあろうと決めた者が、怖さを連れて歩くのじゃ」

 リディアはゆっくりと右の手を持ち上げ、肘の先を鱗に変えた。昨日よりも控えめに、光だけがわずかに散る。

「この鱗は固い。けれど、固いだけでは折れるのじゃ。しなやかさは息から生まれる。息はどこへ行く……上へ行く。ほれ」

 ナビがするりと飛び出し、薄紙の輪をくわえて吐息に乗せ、ふわりと天井へ押し上げる。輪は梁に触れる前にすうっと上へ逃げ、子どもたちの首が同じ角度で持ち上がった。講堂のどよめきが、笑いへ変わる。

「こわい、と思うか。よいのじゃ。怖いと思った者は、逃げ道を知っておる。逃げ道を知る者は、いざとなれば一番先に走れる。小人はな……怖がりじゃが勇敢じゃ。それは矛盾ではない。勇敢とは、怖さと一緒に歩くことじゃ」

 最初、互いの端に座っていた子らが、話に引かれて、少しずつ間を詰める。友だちの袖をちょんと引いて、二歩、また二歩。水竜人の教師が目配せし、誘導線の青と緑が真ん中で重なる場所に座布団を滑らせる。僕もプルックも、先生たちも、思わず息を飲んだ。合図旗や刻の設計で積み上げるはずだった距離が、憧れ一つで縮んでいく。

「龍は、歌も知っておるぞ」

 リディアが囁くように言い、低い音で短い旋律を口ずさむ。水竜人の教師がすぐ拾い、小人棟の先生が手拍子を添える。林檎色の旗が講堂の隅でゆっくり揺れ、二つの群れが一つの輪へまとまっていく。ナビは輪の外を飛び回り、ときどき子どもの頭にそっと着地して、尾で頬をくすぐっては、けらけらという笑いを増やした。

「こういうやり方も、あるのだね」

 隣でプルックがぽつりと言う。目の高さを合わせるやり方に、もう一つ、憧れで引き寄せるやり方が加わったのだ。

「段階は守る。でも、ときどき飛び石があっていい。今日は飛び石の日だ」

 僕は小声で答える。講堂の空気は、昨日までの張りつめが嘘のようにやわらいでいた。

 小一時間の講話が終わり、子どもたちは一緒に講堂の掃除を始めた。箒を持つ手が交差し、踏み台を運ぶ肩が自然に揃う。水竜人の教師が肩をすくめて笑う。

「歌は、怖くない」

「歌は、強いね」

 プルックが頷いた。僕は林檎色の旗の下に小さな札を貼る。

「『林檎色……合同の歌の刻』。週に一度、ここでやろう」

「決まりだよ」プルックがにっこり笑う。「ぼく、自信が少し出てきたんだよ」

     

 鐘三つ目の終わり。講堂を出ると、広場ではそれぞれの改革がもう回り始めていた。役所前ではローランが掲示板の下段を取り付け、子どもの目の高さで絵札を並べている。ストークは座って話す刻の長椅子を据え、茶と水の鉢を陰に置いた。アールは兵と窓口文官を相手に誓いの読み上げを合わせ、声を上げない練習をゆっくり繰り返している。カレルは職人と資材の束を点検し、黒塔の基礎に白い粉で印を打った。ミレイユは厨房の返し板を四種持ち込み、風の通りを布片で確かめながら一つずつ試している。

 誰も指示を待たない。誰も独りで走らない。自然に目線が結び合って、足がそろう。僕は胸の奥でゆっくり数を取った。

「なかなか、良いね」

「うむ、良いのじゃ」リディアが満足げに頷く。「恐れは悪ではない。知れば、手をつなげる」

 ナビが肩から飛び、ぶどう色の旗の角をちょんと引いた。旗は低い位置でやさしく揺れ、市の空気がゆっくりと同じ高さに落ち着いていく。

「午後は厨房の試作、それから役所の誓いの札を本札にして……」僕は手帳をめくる。「学校は林檎色の刻を週一で固定。講堂の座布団は増やす。今日の記録は、歌詞も含めて残そう」

「忙しいよ。でも楽しいんだよ」プルックがまた笑った。

「そうだね。忙しくて、楽しい一日になる」

 時間の柱が四つ目を打ち、街の影が少し伸びた。僕らはそれぞれの持ち場へ歩き出す。目線は同じ高さ、合図旗は子どもの目、声は低く穏やかに。憧れと段取り、その両輪で、町は今日も少し前へ進む。
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

最強魔法は生活魔法!? ~異世界ではモンスター退治も生活のうち~

gagaga
ファンタジー
神の気まぐれにより異世界へと転移した主人公田辺竜太(大学生)が生活魔法を駆使して冒険したり町の人と触れ合ったりする物語です。 なお、神が気まぐれすぎて一番最初に降り立つ地は、無人島です。 一人称視点、独り言多め、能天気となっております。 なお、作者が気ままに書くので誤字脱字は多いかもしれませんが、大目に見て頂けるとありがたいです。 ただ、敢えてそうしている部分もあり、ややこしくてすいません。(^^;A ご指摘あればどんどん仰ってください。 ※2017/8/29 連載再開しました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます! 七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。 しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。 食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。 孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。 これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。