【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
596 / 689
14歳の助走。

帰路の差し替え。

しおりを挟む
 翌朝、侍従から昨夜の報せが入った。王様は夕餉のあとすぐにお休みになられたという。てっきりお呼びがかかるかと思っていたが、体を休めることを優先されたのだろう。胸のどこかが温かくなる。

 間もなくマックスさんに呼ばれ、玄関脇の小間へ。入るなり、声を落として笑う。

「王がな、ぎりぎりまでここにいたいそうだ。帰りは運河船で頼む、と。支度を急いでくれ」

「承知しました。帰路の段取りは陸路で組んでいましたが、差し替えます」

「言い出しにくかったんじゃないか? 君に追加の手間を掛けるからな」

 冗談めかす口調に、こちらも肩の力が抜ける。続けてマックスさんは、さらに声を落とした。

「それと内々に頼まれた。王族専用の運河船だ。ルステインの総力を上げて作るつもりだと王に伝えたら、良い顔をされたよ。ここが、よほど気に入られたんだろう」

「……作って良かった。本当に」

 短く答えて部屋を辞す。廊下を早足で戻りながら、頭の中で紙束が並び替わっていく。まずは王城側へ連絡、次に宿と代官所の保留指示、警備の組み替え、献立の見直し、船と桟橋の確保……順番は決まった。

 控室に戻って、ローランに速文を打つ。帰路は運河船に切り替えの可能性あり、王都側の運河停泊所の手配を前倒しで一応進めてほしい、と。返事はすぐ来た。

「了解。停泊所は二手確保の交渉を始める。出立後にも差し替え可能なよう窓口を一本化する」

 続けて、アインス、フィア、ゼクスを呼ぶ。三人が揃ったところで、要点だけ落とす。

「帰りの段取りが変わる。最短で六日後に運河船出立。本来は三日後だったが、王のご希望だ。アインスとフィアは帰りの周辺警備の組み直し。陸路から水路へ切り替えるにあたり、乗船地点と降船地点、それぞれの見張りと人払いを増やす。ゼクスは先に水路筋の宿と停泊場を回り、作法のすり合わせを頼む。静かに、目立たず」

「承知」「承りました」「行ってきやす」

 三者三様、短く頷いて散っていく。

 次に、各宿と各代官所へ。今回は貸し出し用に各所に置かせてもらっている速文の器がある。控えの文言はもう決めてある。移動方式変更の可能性があるため、現行の馬車・人馬の受け入れ段取りは一旦保留。紙と人の手配はキャンセルではなく凍結扱い。費用の扱いは後刻こちらから改めて通知。夕刻までに返答不要、という一文も添えた。紙は薄く、しかし必要な言葉はすべて載る。

 厨房に向かい、仮に滞在が延びる前提で献立の骨子を作り直す。体を重くしない小皿、温のものは薄い、香りは静か、夕は早めに。朝湯のあとに喉を潤す飲み物を増やし、昼は茶の刻に合わせて果実と軽い菓子を用意。魚は蒸し、肉は香草で炙って脂を落とす。台所頭と若い厨が素早く印を入れ、器の受け渡しの順を整える。無理のない配膳導線に組み替えるだけで、誰の顔からも緊張が消えた。

 控室へ戻ると、マックスさんからの返文が扉の上に挟まっていた。ルステインで一番大きく、推進器の音が小さい運河船を押さえた、桟橋も手配済み、とある。思わず息が出る。あとは、出立当日の周辺警備と、乗り換えの刻の整理だ。

 その足で、レウフォ叔父さんの詰所へ。

「帰路は水路に切り替え。乗船地点と降船地点の層を厚くしたい。陽炎隊と詰所の混成で、目立たぬ層を二枚追加できますか」

「できる。橋の手前と桟橋の脇に薄く置こう。合図は短く、子どもは端へ」

「お願いします」

 詰所を出ると、ちょうどゼクスが裏門から戻ってくるところだった。

「停泊場まわってきました。音の出る荷車は外で止める、夜の灯は低いままで、という話は通ってます。桟橋の板、今夜のうちに油を引いてもらいます」

「助かる。次は王都側の停泊所の窓口と合わせてほしい。ローランが押さえを始めている」

「承知」

 アインスとフィアからも一報。乗船地点の地形、風の向き、人の流れを図に起こして戻ってきた。紙は薄いのに、必要な情報がきちんと並ぶ。裏の抜け道、荷の置き場、静かな待合。目で見て、すぐ動ける。

 夕刻前、ローランから速文が届く。王都側の停泊所、第一・第二候補ともに受付。出立の刻は幅を持たせたまま確保。人の導線図は夜には仕上げる、と書かれていた。こちらからは、出立の幅は六日後を中心に二日の余白、船の名と桟橋の位置、降船後の馬の手配数を返す。

 日が傾き、庭の影が伸びる。侍従が控板に新しい紙を重ねた。帰路の変更、宿と代官所は保留、厨房は延長献立に差し替え、湯は朝と夕を薄く、見張りは橋と桟橋に薄い層を追加。どれも短い文だが、すぐに人が動ける形になっている。

 中庭で風に当たっていると、ミザーリが横に来て、肩を軽く小突いた。

「運河船、静かなやつを押さえたそうね」

「うん。桟橋も手配済みだ」

「なら大丈夫だ。水の道は、静けさが命。主の作法に向いている」

 頷く。静養の家の白い壁に、薄い夕陽がかかっている。あの壁が気に入って、王は日程を延ばされた。なら、こちらもその静けさを守るだけだ。

 夜、厨房で延長献立の最終確認。器の割り当て、温の管理、廊の通り道。紙に印を入れ、最後に一枚だけ余白を残す。「変わり目が来たら、無理なく差し替えるための余白」。料理番がそれを見て、静かに笑った。

 部屋に戻る道すがら、速文を三通だけ。王都のローランへ停泊所の図面の差し替え。ルステインの詰所へ橋上の薄い層の刻。各宿と代官所へ保留継続の礼。どれも短く、返事は要さない。

 灯がひとつ、またひとつ消え、夜気が深くなる。遠くで水の音。扉の向こうからは、湯殿の片付けが静かに進む気配。紙は飛んだ。人は動いた。あとは、出立の合図を待つだけだ。

 翌朝までに、献立表の骨子を書き直しておく。朝は喉に優しいものを少し。昼は茶と果実で軽く。夕は温のものを中心に、長くならない肩の皿で。滞在が延びても重くならない線。厨房の若い厨がうなずき、器の並びを変えていく。

 最後にもう一度、中庭で空を見上げる。ここに長くいたい、と願ってくれた人のための家だ。静けさは深まり、風はやわらかい。僕は深く息を吐き、明日の紙束の順番を頭の中で確かめた。準備は整った。あとは、静かに運ぶだけだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

イセカイセブン~僕だけ転生できなかった世界に、異世界人がなだれこんできました~

テヅカミユーキ
ファンタジー
【平凡なあらすじ】  剣道の地区大会に敗れて「もう異世界にでも転生したい……」と落ち込みつつ河原を歩いていた沢渡一二三(さわたりひふみ)は、実際そんな事故に巻き込まれてしまう。 (これが異世界――)。  意識の戻った彼の前に現れたのは『大転生者』を名乗る老人だったが、たいした説明もなく、派手に血を吐いてあっという間に寿命で死んでしまう。片隅に愛犬の『ダックス」を置き去りに――。  そんな一二三に声をかけてきたのは100均を探して彷徨う『平成ギャルのユルエ』だった。そこに現れる『徳川時代の侍・巌流』 ・『中世の女性錬金術師』 ・『戦場医師の少女』 ・『気弱な忍者』 ・『巻き込まれてしまった不運な主人公の妹』  次々に現れる、何の因縁もない人々。  とりあえず河原のテントで共同生活を始める面々。  しかし、そんなユルユルの日常が続く訳もなく、彼らの住む世界では異次元の魔物の襲来が始まる。  地球まるごとが他の惑星を包み込むように転移した場所は、なんと狂暴な魔物の住む惑星『マルズ星』だった――。  歴史上の名のある剣豪たちの襲撃を受けてなんとか勝利するものの、転生の謎を知るため、池袋に現れた大穴『ワームホール』へと突入する『導かれし7人』。ようやく、異世界での戦いが始まる。!!  どこに伏線が張ってあるか分からないので、つまらない話ばかり覚えていてください。  王道――しかし展開予測不能の『ネオ・クラシカル異世界ストーリー』。  ここに堂々と始まりを迎える!!!!! (この作品は『小説家になろう』連載作をリビルドしながら連載するものです。『なろう』よりも挿絵を多めに挿入してゆきます。

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...