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14歳の助走。
第二次審査。
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朝一番、広間の机を並べ替え、紙と砂時計と小箱を置いた。第二次審査は六人。だが最初に告げることがある。
「雇うとしても、すぐに大仕事があるわけではない。任に就くまで、雑事や手伝いが続く。それでも大丈夫か」
一人の青年が深く礼をして言った。
「家族の事情で、すぐの稼ぎが要ります。辞退します」
「分かった。よく言ってくれた。次の機会が来たら、また扉を叩いてほしい」
残り五人。ローラン、ストーク、僕の三人で席を分け、短い説明だけして始める。設問は三つ。手の技、頭の働き、心の張りを、それぞれ軽く測る。長広舌は要らない。短い句で要点を出す。正解が一つでない問いも混ぜてある。僕らの仕事に要るのは、言葉少なに、しかし的確に動ける型だ。
最初は手の技。紙を三種置く。薄手、厚手、羊皮紙。題は三つ。
「公文の封。封蝋の温の具合、紐の結び方、宛名の書き出し」
「日誌の綴じ。針と糸で一束をまとめ、背を割らずに開けるか」
「地図の折り。開けば一息で全景、閉じれば角が立たない折り」
砂時計が落ちきるまでに、静かな音だけが続く。早さを競わせない。整いの方を見る。厚手の紙を乱暴に折ろうとした若者は途中で指を止め、別の折り筋を探り直した。良い躊躇だ。羊皮紙に筆を載せる前に、息を一度だけ置いた女は、封蝋の温を掌で確かめてから印を落とした。蝋はにじまず、糸は角で浮かない。
二つ目は頭の働き。雑多な報告を一枚にごった煮にした紙束を投げ、言う。
「二行で要旨。誰が読んでも同じ動きになるように」
殴り書きの地名、刻、数、固有名。声に出して読ませはしない。目で拾い、手で削り、二行に落とす。地名から書き始めた者は、次の行で刻と人数を置いた。数字を先にした者は、最後に固有名を括弧で包んだ。順はそれぞれだが、どれも二行で動ける形になっていれば良い。ローランが頷き、赤の細い印だけをつけていく。
三つ目は心の張り。これは少し工夫した。控えの小間から雇っている年配の女に入ってもらい、用意した状況で声をかける。
「代官所の札が読めない。いま急ぎで道を尋ねたい」
受験中の者にとっては外乱だ。無視しても減点にはしない。ただ、どう扱うかを見る。筆を止めず片手で札を指し示し、隣の控に案内する者。砂時計をひっくり返し、「待ってください」と短く言ってから手を止め、立ち上がって連れていく者。逆に、声を無視して自分の課題だけを終えた者もいた。それも一つの選択だ。あとで理由を尋ねる。女は家政の者に戻り、報せを耳箱に落として退く。
ここで一度、全員に小休止を促す。水と薄い菓子。室礼を足している間に、ローランとストークと小声で照らし合わせる。
「手は二人、頭は三人、心は……一人が少し固いが、理由の聞き取り次第」
「固さの原因が恐れなら時間で伸びます。慢心なら難しい」
「同意」
再開。最後にもう一つだけ、正解が一つでない問いを置く。地図と木札と粉袋を渡し、言う。
「昼過ぎ、王城に行く。街の混む筋を一本避けたい。粉で線を引け。理由は二行」
行き方は何通りもある。市場の前を薄く避ける者、橋の手前だけを太く迂回する者、裏道を使う者。粉の線の太さと、理由の二行に、人の気配が出る。理由に感情を書かず、動きだけを書く者は現場向きだ。
砂時計が落ちきり、筆を置いてもらう。全員の紙束と封蝋を揃え、最後の聞き取りに入る。外乱を無視した若者に尋ねる。
「なぜ無視した」
「任務中に指示外の声が入るのは日常です。答えた方が良い場合もありますが、今回は二行要旨の訓練中でした。まずそれを落とさぬように。終わってから見ました」
「終えてから、どうした」
「控に案内しました。遅れてすみませんと謝って」
謝り方は簡潔だったか、道は迷わせなかったか。ストークが横で目を細めた。
昼の刻が近づく。予定どおり、昼過ぎまでに収めたい。最後の札を集め、三人で短く相談する。結論は早かった。採用は二名。文官としてローランの下につく者を一人、財務としてカレルの下につく者を一人。
「文官には、二行要旨が筋の良かった女を。固有名の括りがうまい。封蝋も綺麗」
「同意。財務は、数字と道の両方で理由が短く澄んでいた青年を。地図の粉線も、太らせる場所が正確です」
ストークが手を挙げる。
「心の張りの外乱対応、二人とも悪くありません。文官の方はまず近い席で様子を見ます」
「決めよう」
広間に戻り、全員に立ってもらう。先に落ちた三人へ礼を述べ、短い助言だけ添える。折り筋の指の置き方。二行で主語を落とさぬ癖。砂時計を自分の仕事でひっくり返さないこと。どれも今日から役に立つ。深く頭を下げる三人を見送り、残った二人に向き直る。
「採用します。一人は文官としてローランの下へ。一人は財務としてカレルの下へ」
名を呼ぶ。二人の喉がわずかに鳴る。
「文官は、日々の手紙や文を二行要旨でまとめる仕事から。最初は書式を覚えてください。投げ方と受け方は、隣の席でローランが見ます」
ローランが半歩出て、穏やかに頷く。
「難しい言葉は不要だ。動ける二行に落とすことだけ考えなさい」
「財務は、カレルの補佐から。帳の写し、出納の小口、領収の札の束ね。まずは数を触れ。数字は裏切らないが、人は数字で傷つくこともある。だから、丁寧に」
カレルが帳面を持って現れ、二人の目をのぞく。
「最初の一週間は私の机の右側。声は小さく、返事は短く」
「はい」
二人の返答は短く、よく通った。合格の札を渡し、席順と初日の刻を告げる。辞退した青年の名を控えに残し、未来の扉の一枚として紙に挟んだ。
昼餉は簡単に済ませる。訓練の後は、重くないものがいい。薄いパンと魚、温の汁を少し。広間の片付けを皆で手際よく済ませ、控板に「採用二名、初日配属、二行要旨訓練、補佐開始」の紙を重ねた。
「では、王城へ」
刻はちょうど。昼過ぎの手前。僕とローランは外套を取り、馬車へ向かう。門の影でアインスが片手をあげ、フィアが街口の様子を目で報せる。ストークは新入りの二人に机の位置を示し、カレルは帳場の端で器を揃え、アールは御礼状の返しの束を受け取って走る。家の中は、音が少なくよく動く。
階段を降りる途中、エメイラが短く言う。
「王城では、言葉を惜しむこと」
「心得てる」
エメイラが微笑み、リディアが窓辺から手を振る。ナビは僕の肩にふわりと乗り、尻尾で軽く頬を叩いた。
馬車に乗り込む。扉が閉まり、車輪が柔らかく回り出す。通りの角に粉線が薄く走り、人と荷の流れがきれいに分かれる。午前の設問で見た線と同じだ、と胸の中で思う。王城へ向かう道は、何本もある。今日はこの一本。短く深く、要だけを運ぶ。
「要旨は、会合の冒頭で配る。図も一枚」
「了解。文は紙が軽いほど、よく働く」
ローランが頷く。窓の外、光が低く、街は落ち着いた顔をしている。昼過ぎまでに段取りは終わった。ここからは、王城の時間だ。僕は背を伸ばし、胸の中の紙束の順番をもう一度だけ並べ替えた。馬車は角を曲がり、王城の塀が見えてきた。
「雇うとしても、すぐに大仕事があるわけではない。任に就くまで、雑事や手伝いが続く。それでも大丈夫か」
一人の青年が深く礼をして言った。
「家族の事情で、すぐの稼ぎが要ります。辞退します」
「分かった。よく言ってくれた。次の機会が来たら、また扉を叩いてほしい」
残り五人。ローラン、ストーク、僕の三人で席を分け、短い説明だけして始める。設問は三つ。手の技、頭の働き、心の張りを、それぞれ軽く測る。長広舌は要らない。短い句で要点を出す。正解が一つでない問いも混ぜてある。僕らの仕事に要るのは、言葉少なに、しかし的確に動ける型だ。
最初は手の技。紙を三種置く。薄手、厚手、羊皮紙。題は三つ。
「公文の封。封蝋の温の具合、紐の結び方、宛名の書き出し」
「日誌の綴じ。針と糸で一束をまとめ、背を割らずに開けるか」
「地図の折り。開けば一息で全景、閉じれば角が立たない折り」
砂時計が落ちきるまでに、静かな音だけが続く。早さを競わせない。整いの方を見る。厚手の紙を乱暴に折ろうとした若者は途中で指を止め、別の折り筋を探り直した。良い躊躇だ。羊皮紙に筆を載せる前に、息を一度だけ置いた女は、封蝋の温を掌で確かめてから印を落とした。蝋はにじまず、糸は角で浮かない。
二つ目は頭の働き。雑多な報告を一枚にごった煮にした紙束を投げ、言う。
「二行で要旨。誰が読んでも同じ動きになるように」
殴り書きの地名、刻、数、固有名。声に出して読ませはしない。目で拾い、手で削り、二行に落とす。地名から書き始めた者は、次の行で刻と人数を置いた。数字を先にした者は、最後に固有名を括弧で包んだ。順はそれぞれだが、どれも二行で動ける形になっていれば良い。ローランが頷き、赤の細い印だけをつけていく。
三つ目は心の張り。これは少し工夫した。控えの小間から雇っている年配の女に入ってもらい、用意した状況で声をかける。
「代官所の札が読めない。いま急ぎで道を尋ねたい」
受験中の者にとっては外乱だ。無視しても減点にはしない。ただ、どう扱うかを見る。筆を止めず片手で札を指し示し、隣の控に案内する者。砂時計をひっくり返し、「待ってください」と短く言ってから手を止め、立ち上がって連れていく者。逆に、声を無視して自分の課題だけを終えた者もいた。それも一つの選択だ。あとで理由を尋ねる。女は家政の者に戻り、報せを耳箱に落として退く。
ここで一度、全員に小休止を促す。水と薄い菓子。室礼を足している間に、ローランとストークと小声で照らし合わせる。
「手は二人、頭は三人、心は……一人が少し固いが、理由の聞き取り次第」
「固さの原因が恐れなら時間で伸びます。慢心なら難しい」
「同意」
再開。最後にもう一つだけ、正解が一つでない問いを置く。地図と木札と粉袋を渡し、言う。
「昼過ぎ、王城に行く。街の混む筋を一本避けたい。粉で線を引け。理由は二行」
行き方は何通りもある。市場の前を薄く避ける者、橋の手前だけを太く迂回する者、裏道を使う者。粉の線の太さと、理由の二行に、人の気配が出る。理由に感情を書かず、動きだけを書く者は現場向きだ。
砂時計が落ちきり、筆を置いてもらう。全員の紙束と封蝋を揃え、最後の聞き取りに入る。外乱を無視した若者に尋ねる。
「なぜ無視した」
「任務中に指示外の声が入るのは日常です。答えた方が良い場合もありますが、今回は二行要旨の訓練中でした。まずそれを落とさぬように。終わってから見ました」
「終えてから、どうした」
「控に案内しました。遅れてすみませんと謝って」
謝り方は簡潔だったか、道は迷わせなかったか。ストークが横で目を細めた。
昼の刻が近づく。予定どおり、昼過ぎまでに収めたい。最後の札を集め、三人で短く相談する。結論は早かった。採用は二名。文官としてローランの下につく者を一人、財務としてカレルの下につく者を一人。
「文官には、二行要旨が筋の良かった女を。固有名の括りがうまい。封蝋も綺麗」
「同意。財務は、数字と道の両方で理由が短く澄んでいた青年を。地図の粉線も、太らせる場所が正確です」
ストークが手を挙げる。
「心の張りの外乱対応、二人とも悪くありません。文官の方はまず近い席で様子を見ます」
「決めよう」
広間に戻り、全員に立ってもらう。先に落ちた三人へ礼を述べ、短い助言だけ添える。折り筋の指の置き方。二行で主語を落とさぬ癖。砂時計を自分の仕事でひっくり返さないこと。どれも今日から役に立つ。深く頭を下げる三人を見送り、残った二人に向き直る。
「採用します。一人は文官としてローランの下へ。一人は財務としてカレルの下へ」
名を呼ぶ。二人の喉がわずかに鳴る。
「文官は、日々の手紙や文を二行要旨でまとめる仕事から。最初は書式を覚えてください。投げ方と受け方は、隣の席でローランが見ます」
ローランが半歩出て、穏やかに頷く。
「難しい言葉は不要だ。動ける二行に落とすことだけ考えなさい」
「財務は、カレルの補佐から。帳の写し、出納の小口、領収の札の束ね。まずは数を触れ。数字は裏切らないが、人は数字で傷つくこともある。だから、丁寧に」
カレルが帳面を持って現れ、二人の目をのぞく。
「最初の一週間は私の机の右側。声は小さく、返事は短く」
「はい」
二人の返答は短く、よく通った。合格の札を渡し、席順と初日の刻を告げる。辞退した青年の名を控えに残し、未来の扉の一枚として紙に挟んだ。
昼餉は簡単に済ませる。訓練の後は、重くないものがいい。薄いパンと魚、温の汁を少し。広間の片付けを皆で手際よく済ませ、控板に「採用二名、初日配属、二行要旨訓練、補佐開始」の紙を重ねた。
「では、王城へ」
刻はちょうど。昼過ぎの手前。僕とローランは外套を取り、馬車へ向かう。門の影でアインスが片手をあげ、フィアが街口の様子を目で報せる。ストークは新入りの二人に机の位置を示し、カレルは帳場の端で器を揃え、アールは御礼状の返しの束を受け取って走る。家の中は、音が少なくよく動く。
階段を降りる途中、エメイラが短く言う。
「王城では、言葉を惜しむこと」
「心得てる」
エメイラが微笑み、リディアが窓辺から手を振る。ナビは僕の肩にふわりと乗り、尻尾で軽く頬を叩いた。
馬車に乗り込む。扉が閉まり、車輪が柔らかく回り出す。通りの角に粉線が薄く走り、人と荷の流れがきれいに分かれる。午前の設問で見た線と同じだ、と胸の中で思う。王城へ向かう道は、何本もある。今日はこの一本。短く深く、要だけを運ぶ。
「要旨は、会合の冒頭で配る。図も一枚」
「了解。文は紙が軽いほど、よく働く」
ローランが頷く。窓の外、光が低く、街は落ち着いた顔をしている。昼過ぎまでに段取りは終わった。ここからは、王城の時間だ。僕は背を伸ばし、胸の中の紙束の順番をもう一度だけ並べ替えた。馬車は角を曲がり、王城の塀が見えてきた。
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