【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

ナミリアの現場入り。

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「奥様達がいらっしゃってます」

 獣爪隊の伝令が去るや、僕とミザーリは鍋場から駆け出した。土の道に獣人隊商の車輪跡、風に干し肉と香草の匂いが混じる。見晴らしのいい丘の上、荷車の列の先頭でエメイラとナミリアが手を振った。

「なにしてるの?」と聞くと、エメイラはいたずらっぽく笑う。 

「みんなの食事を持ってきたの。保存の利くものを中心にね」

 幌を上げると、干し肉、乾し魚、麦、乾燥野菜、豆、香辛料、樽詰めの油や酢、そして干した薬草までぎっしりだ。

「お養父さまに用意してもらいました」とナミリアが胸を張る。「運びは隊商に頼んで、積み方は私が」

「助かる。ありがとう」

 僕は荷の内訳を目で追いながら、ミザーリに目配せする。

「小刃隊から三人、荷下ろしの護衛と手元を回して」

「了解、今つける」

 大工の親方オルベールに頼み、炊き出し場の裏手に仮設倉庫を立ててもらう。杭を打ち、床板を浮かせ、雨避けの屋根を掛ける。獣人隊商の若い者たちが汗を光らせ、豆樽を抱え、麦俵を肩に、手際よく列が進む。僕はナミリアと一緒に入り口で荷札を受け取り、ドニーズが勘定帳に記す。キースは分類棚の札をさっと書き、ミレイユが控えをとる。

「乾物は左、油と酢は奥、香草と薬草は別にね」ナミリアが指示を飛ばす。「湿り物は床から離して。袋の口、結び直して」

 声がよく通る。労志の女たちが頷いて動く。小刃隊は刃物の回収箱を置き、調理の合間に研ぎと布巻きを回し始めた。地装隊は倉庫前の地面を踏み固め、滑りやすい箇所に砂を撒く。風撃隊は粉塵が立たないよう布で覆い、風の通り道を調整する。水波隊は手洗い桶と湯沸かし場を整え、塩と酢を落とした洗い水を順繰りに替える。

「エメイラは……」

「私はこれを置いたら戻るわ。また持ってくる。次は乾燥果物と、滋養のある粉を多めに。現場に長くいると塩気に偏るでしょう?」

 エメイラは獣人隊商の頭に二言三言伝えると、軽く手を振って列を返した。蹄の音が遠のき、代わって鍋の音が近づく。

「じゃ、私はここで働くね」とナミリア。既に頭に布を巻き、前掛けを締め直していた。

「頼む。炊き出しは朝と夕、朝は握り飯と具だくさん汁にしよう。大鍋は三口、穀は交互に麦と米で回す。塩は控えめ、香草で香りを立てて」

「了解。労志の列は二本に分けるよ。子どもと年寄りを先に。水は喉が乾く前に飲ませる」

 僕は包丁を取り、乾燥野菜を戻しながら刻む。玉ねぎを湯で一度洗い、臭みを抜く。干し大根は薄切りにして油で軽く炒め、鍋に落とす。豆は朝から水に浸けていた。火の番の若者に合図し、弱火でくつくつ。香草をひとつまみ揉み砕き、鍋の縁に擦り込む。湯気に笑い声が混じる。

「領主様、自分で刻まんでも……」

「刻むのは好きなんだ。話もできるし」

 列の前で労志の男が照れ笑いをする。隣で獣人の娘が柄杓を持って言う。

「うちの親方、あんたの料理の話、もう三回目だよ。『塩ばかりが味じゃない』って」

「親方の舌は正しい」

 配膳の札を書いていると、獣爪隊の巨漢が鼻先をひくつかせた。

「油の匂いが強い。鍛場からだ。火の番、交代の刻だぞ」

「交代入れ替える」とミザーリ。短く指が動き、火の民の若者が走る。合図は短く、流れは止まらない。

 昼前、炊き出しの列がひと段落したところで、ナミリアが鍋蓋を押さえながら僕を呼ぶ。

「味、見て」

 匙で一口。干し大根と豆、少しの肉、香草。塩は薄いが旨味が深い。現場向きだ。

「いい。午後はこれに麦を足して、とろみを出そう」

「了解。夕方は干し魚の出汁で粥にして、寝る前の腹に優しくね」
「お願い」

 午後、港へ回る運搬路の補給も決める。握り飯と干し果物、塩をひと摘み。地装隊と水波隊の連絡箱に入れておく。耳役の老人が来て、配給の列の様子を報せてくれる。

「子どもの列、手前で詰まります。掲示の下の札に『小さい子は左』と追記を」

「ありがとう。すぐ書く」

 掲示板に二つの高さで札が増える。ミレイユが文字を整え、オレリーが読み上げの当番を三人付ける。声が届くと、列の流れが少し柔らかくなった。

 日が傾くころ、港から戻ったチャンシルバの伝令が鍋の前で息を整える。

「基礎、初日の検査済み。怪我なし。潮の癖、明朝も確認」

「了解。温かいの、持っていって」

 小刃隊が肩に小さな桶を提げ、通路の端をすり抜けていく。彼らの歩幅は小さいが、速い。

 夕餉の前、グラッツが倉庫の前に現れた。土埃に真っ白な髭、眼は冴えている。

「石目、明日から本打ちだ。豆の煮え、悪くないな」

「柔らかすぎないよう気をつけた。明日は石場に水場をもう一つ増やす」

「ありがてえ。喉と肺は資本だ」

 日が落ち、炊き出しの鍋が最後の一杓になったところで、ナミリアが空の柄杓を掲げた。

「終わり。片付け入るよ。刃物戻して。手元の子、布を洗ってから休んで」

 短い返事が重なる。鍋と杓が洗われ、布がすすがれ、倉庫の戸に閂が降りる。獣爪隊が外縁の見回りに散り、風撃隊の布が夜露除けに張り替えられていく。水波隊は最後の手洗い桶を替え、小刃隊は掲示の前に小さな石を二つ置く……子どもたちへの合図だ。

 星が出る。僕は火の名残で温かい手を擦りながら、ナミリアに礼を言う。

「本当に助かった。明日も頼む」

「うん。明日は干し魚でまかないを一品増やす。それと、夜半に暖かい湯だけでも回したい。働き詰めだと、眠りが浅くなるから」

「さすがだ」

 ミザーリが肩で風を切って近づく。

「巡回、異常なし。鍛場は火を落とした。明け方に一度、温かいものを回す手筈、付けといたよ」

「ありがとう。皆、よく動いてくれた」

 遠くで槌の音が一本だけ鳴り、すぐ止む。夜は静かだ。倉庫の中では麦と豆が眠り、鍋は空の腹でひっそりと光を返す。明日もまた刻んで煮て配って、働く手と守る目に燃料を入れる。街の骨が立つまで、日々の腹を満たすことが、僕らの戦だ。

 焚き火の赤が小さくなっていく。見上げれば、星が濃い。僕は息を整え、最後にもう一巡だけ倉庫と鍋場を見て回った。鍵は閉まり、刃は眠り、水は澄んでいる。よし、今日はここまで。明日の朝、また火を起こそう。
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