【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

読むなよ、と王様は言った。

 翌朝、扉が二度軽く叩かれ、レラサンスが腕いっぱいの手紙束を胸に抱えて入ってきた。封蝋の色が幾重にも重なり、香の違いが薄く漂う。揃った?と聞くと、彼は束を机にそっと置き、指を二本立てて微笑む。

「あと二家です。文を出すとは聞いておりますので、今日明日には届くと思います」

「助かる。封蝋は崩さずに、この順で箱に。差出人目録は二行で添えておいて」

「承知しました」

 手紙を収める木箱を閉じたところで、速文板が小さく震えた。王城から来るように、の一行。僕は外套を肩に引っかけ、ナミリアに一声かけてからタウンハウスを出る。王城の石畳はよく乾いて、朝の光を静かに反射していた。

 侍従の案内でサイスさんの執務室へ。短い挨拶ののち、すぐ王妃様の御前に通される。王妃様は窓辺で薄い手紙を一枚読了し、顔を上げた。

「ルディス宛の手紙を集めてるそうね」

 思わず、なんで知ってるの、という顔をしたのだろう。王妃様は唇の端を上げて笑う。

「ふふふ。女には秘密があるのよ」

「参りました」

「いいの。若い友を思って書く言葉は、国境を越えるわ。これを預けるわね」

 白い封蝋の手紙を一通。続いて王妃様は侍女に目で合図を送り、王様と王太子様、そしてルマーニ王子様の手紙も取り次がれた。王家の封蝋はそれぞれ色が違い、重みがある。僕は両手で受け取り、首を垂れて礼を尽くす。

「必ず、お手元に届くようお運びします」

「頼んだわ」

 退出の折、サイスさんに袖口で呼び止められる。「もう一件、陛下へ」と小声。小走りで王様の執務室へ向かうと、王様は椅子に深く腰掛け、机上の紙端を軽く指で揃えた。

「よく来たな、リョウエスト。これを婿殿、ハミル殿に直接渡してくれ」

 飾り気のない封筒。王家の印は最小限。指先に載せると、中の紙が少し厚いのがわかる。

「読むなよ」

「畏まりました」

 密書、という言葉が頭に浮かぶ。僕は返事の間も、視線を封に落とさないようにして、すぐ収納へ収めた。王様はそれを見て満足げに頷く。

「道中、気をつけよ。帰ったら、米と湯の話の続きだ」

「必ず」

 城を辞して石段を降りる頃には陽が高く、城門前の衛兵の槍先が白く光っていた。タウンハウスへ戻ると、出発式の予行の時刻。僕は外套を掛け直し、儀典用のサーコートへ着替える。待ち受ける典礼官はいつもの厳しい顔だが、口調は意外に柔らかい。

「今日は流れを体に入れるだけです。足は六歩で礼、三歩で半歩詰め、目は正面。声は短く。……よろしいですね」

「短く、確かに」

「のちほど誓詞の抑揚を。では、隊列」

 中庭へ出ると、アインス、ツヴァイ、フュンフと特務部隊が既に整列していた。儀仗槍と礼装の軍服がよく似合う。普段の影の仕事の顔が、今日は陽のもとにある。

「おや、旦那。今日は堂々と歩けやすね」

「転ぶなよ」

「へい」

 ミザーリは女性軍服に身を包み、腰の剣帯を一度締め直す。いつもの陽炎隊の軽やかさを残しつつ、式典の重さを嫌がらず受け止める姿が頼もしい。ナミリアは白地の上衣に赤い腕章。侍医の証だ。腕章の位置を気にしているので、肩の縫い目に指を添えて高さを揃える。

「いい。目立つより、見つけてもらえる位置で」

「うん。緊張するけど、やる」

 ミレイユは端正な紺のスーツ。手帳を胸の内側に入れ、筆記具の位置を二度確かめる。

「議事録は二行で要旨、詳細は航海日誌へ」

「頼んだ」

 予行は、入場、王家への礼、親善大使団の紹介、僕の挨拶、返礼、隊列退場までを一通り。典礼官の木靴が石を叩く音が、合図になった。

「入場……一、二、三、四、五、六。礼」

 右足の踵をやや開く。視線は胸の高さへ。体の中で数を刻み、次の位置取りへ。背後でアインスたちの儀仗の柄が肩に当たる微かな音。揃っている。王家の椅子を想定した紋章屏風の前で僕は止まり、挨拶の文句を短く心で反芻する。

「本日は、我らが友のもとへ――」

 典礼官の咳払いが鋭く飛ぶ。

「“我らが”は主語が大きい。あなたは遣わされる側であり、結ぶ側。『王命を奉じ、友へ』」

「王命を奉じ、友へ。……なるほど」

 語尾の角度、抑えるべき息の長さ、目線の置き場。短い言葉の中に、背負うものの形を整えていく作業だ。何度か繰り返すうち、典礼官の手元の棒がようやく下りた。

「よろしい。次、隊列退場」

 庭を半周して退場の折、アインスが囁いた。

「旦那、型があるってのはええもんで。迷わねえ」

「枠は、人を守るためにもある……らしい」

 ツヴァイが肩で笑い、フュンフが「了解」と短く返す。ミザーリは行進の歩幅を半歩だけ小さくし、ナミリアの歩調にさりげなく合わせた。ミレイユは後列で手帳に要点を走り書きする。

 小休止。典礼官が水を勧め、僕らは日陰でひと息つく。そこへ、レラサンスが息を弾ませて駆け込んできた。

「リョウ様、残る二家からの便が届きました!」

「よし。封を確かめて箱に。王家の分はこの列から動かさないように」

「はい。出発式までに一覧を清書します」

 再開。国旗と王旗の角度、風がある日の扱い、合図の太鼓が一拍遅れたときの間の取り方。典礼官は現実的な「もしも」を淡々と並べ、僕らにそれを体で覚えさせた。ナミリアの腕章が日差しで赤く光る。彼女は深呼吸を一つ置いて、医箱の取っ手を握り直した。

 最後の確認。僕の挨拶は三十数える前に終えること、礼は肩より深くしないこと、王旗に背を見せないこと。典礼官が一礼し、解散が告げられると、アインスたちは儀仗を肩から外し、緊張を軽く解く。ミザーリが僕の胸元の留め具を指先で整えた。

「主、いい顔だ。やること、やった」

「まだ始まってもいないよ」

「始める顔、ってやつ」

 タウンハウスへ戻る馬車の中、膝の上には小さな革の箱。中には、今朝受け取った手紙の束。王様、王妃様、王太子様、ルマーニ王子様……そして皇太子ハミル様への密書。封に触れる指先の温度が、少しだけ自分を落ち着かせてくれる。僕はそっと箱を閉じ、収納へ戻した。

 門前で馬車を降りると、レラサンスが玄関で待っていた。すでに差出人一覧の清書が出来ている。

「王家の四通のほか、旧友から二十七、贈り物の小包が四」

「よくやった。贈り物は割れ物だけ別箱に、緩衝材を厚めに」

「はい」

 そのまま食堂へ向かうと、アールが席から立ち上がった。

「予行はどうでした?」

「型の中で息を整える訓練、だね。短く話す。短く礼を返す」

「大丈夫です。リョウ様は短い言葉がいちばん強い」

 ミザーリは肩を軽く回し、ナミリアは医箱の中をもう一度点検する。ミレイユは書類の端を揃えて、「航海日誌、第一分冊を起こします」と言った。

 窓の外には、王都の夕暮れ。塔の影が長く伸び、屋根の群れの向こうへ陽が落ちていく。明日、出発式の本番。しあさって、出航の朝。僕は静かに息を吸い、心の中でひとつだけ確かめた。

王命を奉じ、友へ。
短く、確かに。
そして、必ず、約束を返す。
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