【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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15歳の飛翔。

船の戦闘。

 船が出て三日目。甲板に立つと風が軽い。ナミリアが作った酔い止めと、エメイラとミザーリの薬の効果で、誰一人ふらついていない。食堂の皿も戻らない。僕は初日にオビリケ軍将へ特別食は不要と伝えてあったから、献立は船の標準。皆、よく食べ、よく眠れている。

 暇を持て余すと、ミザーリと槍の稽古をする。艦首側の風が抜ける場所で、短槍の突きと返しを反復。ミザーリが「主、腰が浮いとる」と笑う。僕は苦笑いで構えを落とす。休憩すると軍将や士官達が集まってきてリバーシの盤が開く。黒白の石が海のきらめきみたいに増えては裏返る。軍将は強い。終盤の詰めで二回連続して角を取られ、アインスが「参りました」と肩をすくめた。

 ナビは船倉に行きたがる。許可を取り、一緒に降りると、影のように走ってあっという間に六匹の鼠を咥えて戻ってきた。甲板でそれを受け取った水夫が目を丸くし、すぐに艦中に広まった。ナビは一気に人気者だ。背中を撫でられ、頭をくしゃくしゃにされ、満足げに「にゃ」と鳴く。

 船を見て回ると、梁や帆柱の根元、滑車、舵輪の金具に至るまで、六種族標準度量衡の刻印が丁寧に押されていた。寸法札は二重表記。水竜人伯のドックで組まれたと聞くオシュヴァルトは、まさしく教科書のような精度で出来ている。こういう船は、海の機嫌が多少悪くても揺れ方が素直だ。安心する。

 昼過ぎ、煙草をふかす年配の水夫に話を聞く。

「海の戦はどういう段取りなの?」

「まずは遠いとこから弓の撃ち合いだな。その後、衝角で当てるか、横付けして白兵……だが、こんなでっかい船に突っ込む馬鹿はほとんどいねえよ」

 彼は笑って、舳の方を顎で示した。

 その時だ。見張り台から鐘が鳴り、甲高い号令が走る。

「第二種戦闘配備!」

 靴音が一斉に甲板を走り、弓兵が持ち場へ散る。号笛が短く三つ。水平線の向こう、帆影が二つ……片方は王国商船の旗、もう片方は黒ずんだ布切れを揚げた海賊船だ。商船が逃げ、海賊が斜めから追っている。

 オビリケ軍将が指揮台から振り向く。

「商船が襲撃されている。救助に向かう、よろしいか」

「良し。旗を見せて間合いを計って」

 舵が切られ、オシュヴァルトは風上を取りながらゆっくりと角度を詰める。弓隊が矢を番え、号令で放つ。空気を裂く音が連続し、海賊の舷側に木片が飛び散る。僕は軍将の傍に立って口を開く。

「海賊船、燃やしていい?」

「火の手を見張らせる。火薬庫に近づけるな。甲板の前方、帆綱を狙え」

「了解」

 僕は深く息を吸い、掌に光を集める。エメイラから学んだ火炎烈剣の式を短く結ぶ。刃の形に凝った炎が腕に沿って伸び、指先から放たれた。紅が弧を描き、海賊船の前甲板に突き刺さる。乾いた板が一拍置いて火を吐き、帆綱がぱちぱちと弾けた。帆がはらりと落ち、船首の動きが鈍る。

「水、用意!」と水竜人の水夫が叫び、波が甲板の縁から跳ね上がる。こちらの矢はなおも抑制的に飛ぶ。致命を避け、手足、武器、索具を狙う矢。相手の弓はまばらになり、ほどなくして白い布が、高く揚がった。

「白旗確認。射止め」

 号令が下り、弓が下がる。軍将は短く指示を出す。

「横付けはせず、距離を保って接舷準備。第一小隊、武装解除のための渡り。第二小隊は商船の保護へ。医務班、出番だ」

「行く」とミザーリ。海軍から選んだ者が鉤付きの索を投げ、距離を取ったまま相手の甲板へ滑り渡る。アインスとツヴァイは素早く武器の束を回収し、フュンフは商船側に走って状況を掴む。僕はナミリアとともに商船へ跳び移り、負傷者を寝かせる場所を確保する。

「痛いところは……ここ? すぐ終わるからね」

 ナミリアの手が柔らかい光を帯び、切り傷がふさがる。彼女は落ち着いている。エメイラの特訓の成果だ。

 海賊船側では、ミザーリの声が低く響く。

「降伏を受け入れる。暴れるな。水は渡す。船を捨てさせはしない」

 縄が手早くかけられ、男達は舷側に並べられる。恐怖と羞恥の混じった顔……その中に若い者が多いのが目に入る。ミレイユが板の上に膝をついて簡易の記録を取り、捕縛した武器、人数、怪我人の数を書き付ける。

 軍将が僕の肩に声を落とす。

「船体への延焼は抑えられた。火勢を落として近くの港へ曳航にする。港務の線でしかるべき処理だ」

「頼む。商船の方は?」

「舵に損傷。応急の木釘で持つ。護送して港まで戻す」

 海賊の頭目らしき大男がこちらを睨み、ため息を吐いた。

「殺すなら殺せ」

「殺さない。裁きを受けてもらう。それが王国のやり方だ」

 僕は水袋を差し出し、彼は驚いた顔で受け取る。隣の若者が小さく「すまなかった」と言った。僕は返事をせず、ミザーリに目で合図を出して拘束の確認へ回る。

 商船の船長は年配の男で、肩口に矢傷を負っていた。

「助かった……礼は尽くしてもしきれん」

「まずは傷を治そう。礼は港で十分だよ」

 ナミリアが頷き、治癒の光が再び灯る。船長は顔をしかめ、そしてほっと息をついた。

 火の手は水竜人の術で完全に消された。焦げた板の匂いが風に薄まり、海の塩の匂いが戻ってくる。索が渡され、双方の船体に曳航の準備が施される。オシュヴァルトの甲板で軍楽が短く鳴り、甲板長が命じる。

「全船、針路反転。帰港、隊形は護衛の陣」

 行きの風よりも、帰りの風は落ち着いていた。戦の余韻は船上のあちこちに残るが、誰も浮かれず、誰も沈みすぎない。僕は手すりにもたれ、波の合間に白い魚影が閃くのを見た。ナビが肩に跳び乗り、小さく「にゃ」と鳴く。まだどこかに鼠の匂いでもするのだろうか。甲板の向こうで水夫が手を振った。親指を立てて、笑っている。

 夕暮れ、軍将と短い打ち合わせをする。

「今日の記録は私の方でまとめる。魔術の使用は指揮下、的確。死者なし。商船員四名軽傷、海賊側八名軽傷」

「ありがとう。捕虜の扱いは?」

「港の法に則る。あなたは親善の任務だ。深入りは不要」

「了解。……それでも、助けられてよかった」

 陽が沈むと海が紫に変わり、オシュヴァルトの影が長く伸びた。夜の見張り台に灯が入る。食堂に戻ると、台所の隅で大鍋が湯気を立て、ザワークラウトの酸味がふっと香った。船員達が一斉にこちらを見て、照れくさそうに帽子を取る者もいた。

「今日の勝因は?」とアインス。
「風と、距離感と、皆の手」と僕。
「それと、ナビの鼠退治」とツヴァイが真顔で言い、笑いが広がる。ナビは胸を張って「にゃ」と鳴いた。

 海は静かだ。船底を叩く波のリズムに身を預けながら、僕は目を閉じた。明日はまた、ただの航海の一日なら良い。けれど、なにが来ても、耳を持ち、短く約し、必ず返す……それだけは、海の上でも変わらない。
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