【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
734 / 810
15歳の飛翔。

読書と狩猟。

 フィアとツヴァイが動いている間、タウンハウスの空気は落ち着かないのに静かだった。皆それぞれ準備を進め、言葉を研いで待つ。待っているだけでも、やることは山ほどある。次の日の夕方前、フィアが先に戻った。影の仕事帰りの顔で、目だけが冴えている。

「拾ってきたよ、リョウ様」

差し出された覚書を読む。

 姫フィブリンは水の神マデリエネを篤く信奉している。祭礼や祈りの作法を大切にし、日々の暮らしの中で水と清めの習慣が深い。趣味は読書で、歴史や魔術、諸国の文化まで幅広く吸収するタイプ。知識欲が強く、議論も嫌いじゃないらしい。そして国王ワーアップ三世の趣味は狩猟。季節ごとの狩りを欠かさず、近衛や側近を伴って野に出るのを大事にしている。

「狩猟か」

 僕が呟くと、ミザーリが横で小さく息を吐いた。

「父の遊びってやつだね。そこに“父の顔”が出る」

 エメイラがうなずく。

「儀礼の場じゃなく、野の空気の中でなら、王は父として喋るかもしれない」

 フィアは肩をすくめた。

「狩り場に顔を出せる導線、作れるなら作るといい。王は狩猟仲間に弱い」

 僕は覚書の端に丸を打った。狩猟は“偶然の縁”の候補になる。アインスの仕込みどころだ。

「姫の信仰は水の神マデリエネ。趣味は読書と知の吸収。つまり、こちらが示すべき安心は二つだ」

 僕は言葉にする。

「信仰の尊重と、学びの場の保証」

「その二つを“王が納得する形”にするのが鍵ね」

 エメイラがまとめる。フィアが続けた。

「王の裁定は厳しいけど情がある。弱者への配慮、家族への思い、部下の忠義への報い…そういう話が多い。だから“娘の幸福を守る政治”には理解を示すはず」

「情のある厳格さ…」

 僕は王の像を、少し鮮明に頭の中で組み直した。そこへツヴァイから速文が入る。

 政治面の情報はまだ追跡中。ただ、ワーアップ三世は短気な独裁ではなく、厳格さの中に人心の機微を織り込む裁定をしている。諸外国の評価が高いのは、その“筋と情の両立”ゆえだ、という報告だった。

「よし」

 ローランが短く言った。

「王が“情に寄りつつ筋を立てられる論理”があれば動く。土台は十分です」

 筋と情。狩猟。信仰。学び。

 材料が揃い始めたところで、僕は別の材料を確保しに行くことにした。

     

 王城の一角、ウルリッヒ王太子の執務室を訪ねた。執事に名を告げるとすぐ通された。王太子は手を止め、僕を迎える。

「来たか、リョウ」

「はい。少し、姫君のことを聞きたくて」

 王太子は椅子を勧め、僕は向かいに座る。表情は落ち着いているが、どこか緊張の影が薄い。話題が話題だからだ。

「フィブリン姫の印象を、改めて教えてください」

「印象か」

 王太子は少しだけ遠い目になった。

「初めて会ったのは十一の時だ。王都に来た使節の随員としてな」

 ふっと口元が緩む。

「正直、うれしかった。こんな子がお嫁さんになるんだ、と」

「……うん」

 その言葉は飾りがない。政治の婚約であっても、少年の胸の柔らかい部分がそこに残っている。

「姫の趣味や宗教、文化的な習慣を尊重する気はありますか」

 僕がまっすぐ問うと、王太子は即答した。

「もちろんだ。姫の信仰は姫の誇りだ。読書が好きなら図書館を整える。文化が違うならこちらが学ぶ。私は、彼女の国の王ではない。彼女と共に国を作る者だ」

 言葉が確かで、僕は胸の奥でうなずいた。

「それなら安心です」

 少し間を置いて、僕は次の鍵へ移る。

「ワーアップ三世の趣味が狩猟だと分かりました。殿下、狩猟は?」
「……う」

 王太子は珍しく歯切れが悪くなった。

「私は弓が下手なのだ」
「え、弓が?」

 僕が思わず聞き返すと、王太子は苦笑した。

「馬上でも地上でも、当てられん。剣はまだましだが、狩りは弓が主だろう」

「なるほど」

 狩猟の場で王の心を動かすなら、王太子が“狩りの仲間”として立てることは大きい。しかし弓が下手では、場が作れないどころか、逆に不安材料になる可能性がある。

(そこは僕がなんとかしないとな)

 僕は腹を決めて言った。

「フェリシア使節団の出立まで、弓の特訓をしましょう」 

「……特訓?」

「はい。狩り場で王と並ぶためです。殿下が父王に“頼れる婿”として映る場を作る。そのための基礎は必要です」

 王太子は一瞬驚いた顔をして、それから真面目にうなずいた。

「分かった。頼む」

「任せてください。僕も弓は得意ってほどじゃないけど、当て方の理屈なら教えられます。あと、練習の段取りはエメイラにも相談します」

「助かる」

 王太子の声に、ほんの少し軽さが戻る。

「それと」

 僕は座ったまま言葉を添える。

「姫の前では、殿下の気持ちを隠さないでください。恋慕と守る覚悟、その両方を見せるのが、父王への一番の材料になります」

「……心得ている」

 王太子は深く頷いた。

「だが、私は言葉が堅くなりがちだ。お前の方が、柔らかく言えるだろう」

「必要なら隣で背中を押します。でも、押すのは僕じゃなくて殿下の気持ちです」

 王太子は少しだけ笑った。

「相変わらず、言い切るな」

「最近、短く答える訓練をしてますから」

 そう返すと、王太子はふっと肩の力を抜いた。

「よし。弓の訓練から始めよう。狩り場で父王に笑わせてやる」

 その言葉を聞いて、僕の中の作戦の線が一本太くなった。

 儀礼の場では理を。
 狩猟の場では父を。
 姫の場では恋と安心を。

 王太子が“狩りの仲間”として立てるなら、ワーアップ三世が決断するための出口は、確かに開くだろう。

 僕は立ち上がって礼をした。

「では、明朝から。矢を握る手の形からやりましょう」

「頼むぞ、リョウ」

 執務室を出る時、王太子の背中が少しだけ軽く見えた。

 弓の弦は、強く引けばいいわけじゃない。芯に沿って、静かに引く。

 今回の外交も同じだ。

 僕はそう思いながら、弓場の段取りを頭の中で組み始めた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜

グリゴリ
ファンタジー
 木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。  SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。  祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。  恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。  蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。  そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。  隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり
ファンタジー
 異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。  そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。  それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。  そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。  異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。  山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。 現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。 感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです! ※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています

転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら、訳アリの女性たちが迷い込んできました。

山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。 異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。 その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。 攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。 そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。 前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。 そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。 偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。 チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。