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幼少時代。
閑話・歌に導かれる者たち。
各地で新しい歌が流行りはじめていた。その歌は『スサン兄弟の歌』。両親を助け、力を合わせて貴族の横暴を跳ね除ける兄弟の話だ。長兄は義侠心にあふれ、父の仕事を継ごうと頑張る俊英の『英傑』。次兄は一を聞いて十を知り、知識で父を助ける『神童』。末の弟は神の舌を持ち、街の人に好かれ、幼いながらその才覚を発揮する『天使』。その三人が貴族の手の者をばったばったとやっつけて、貴族の横暴に苦しむ父母と人々を救うストーリーは、王国人のハートを鷲掴みし今日もまた各地の吟遊詩人の糊口をしのいでいる。
「ふう」
日付が変わる少し前、男は今日はじめての食事にありつこうと酒場に入った。男は激務で疲れ果てていた。
彼は平民出身であるが、王宮勤めの文官をしている。だがその出自故、先輩達に仕事を山ほど押し付けられブラックな働き方をしているのだ。
先月は過労で倒れた。やっとのことで仕事復帰したら「たるんでいる」と言われ更に仕事が激増した。
もう限界だ。そう思っていたところに酒場の吟遊詩人が『スサン兄弟の歌』を歌いはじめる。
「こんな方々に仕えてみたい。仕事辞めてこの方々を探そうかな……」
男は酒場で一人呟いた。
とある商人と領主が宴会をしていた。それを守る一人の女は自分の人生を回想していた。女は寒村の出身で生きる為に奴隷となった。幸い、斧の才能に恵まれていた為慰み者にならずに済んだが、剣闘士として数多の闘いを繰り広げる羽目になった。飼い主の商人は食事の不自由はさせなかったが、常に勝つ事を強いられ辛い毎日を送った。毎日のように続けられるトレーニング、厳しい戦闘指導。絶えぬ生傷と人の命を奪う焦燥感。
そんな女にも年季が来て、もうすぐ自由となる日が来る。女の耳元に芸妓が歌う『スサンの歌』が聞こえる。女は三人に憧れた。自由になったら雇ってくれないかな。女はそう願った。
「ご苦労さま。明日からの君の人生に幸せがあるように祈るよ」
そう声をかけられた女は旅装で、片手に鞄、背中にリュックを背負い旅にでる格好をしていた。女は長年過ごした屋敷を出ると、何度も何度も振り返り乗り合い馬車の乗降場を目指した。
女は昨日までメイドで、若くしてある貴族のメイド頭として働いていた。有能な女は主人の手足となって辣腕をふるっていたが、次期当主である息子に目をつけられなぶりものにされそうになった。それに抵抗したが、その息子に傷を負わせてしまう。手打ちにされなかったのは長年の忠勤に対する主人の温情があったからで、女は宿下がりを余儀なくされた。
女の両親はすでにこの世になく、一人だ。女は目のついた乗合馬車に乗り込み旅に出た。途中、泊まった宿屋で女は『スサン兄弟の歌』を聞く。素晴らしい物語だった。
「私のお仕えしたい方々だわ」
女は呟き、行き先を変え、旅を始めた。
「スサン兄弟。調べれば調べるほど面白い」
男は商業ギルドの資料室で独りごちた。男は若くして商業ギルドの役職付きの職員で、最近『スサン兄弟の歌』を聞いてファンになったものの一人だ。調べてみるとルステインの有力な商会の息子達で最近その商会が色々な意味で注目の的になっていると知った。
「大規模な盗賊を退けてその次の日店を開ける胆力のある商会。その息子たちはそれぞれ得意分野があり、商業ギルドBランクの長男と王都学園が優秀生徒として招聘するほどの天才の次男はあの『商売の魔女』を失脚させ王国最年少で商業登録を実現させた。三男は最年少料理ギルドAランクで伯爵息女のご学友。貴族の横暴を跳ね除けたのも事実。面白い。実に面白い」
男は資料室を出て、ギルド長室、と書かれたドアをノックする。返事があり男はその部屋に入る。
「どうしたのかね?」
「はい。お願いがあります。ルステイン支部への転属を希望します。叶えられなかったら職を辞するつもりです」
「それで、わかったかしら?」
「はい。ルステインにあるスサン商会という商会の息子たちです。長男が17才、次男が14歳、三男が4歳。それぞれ面立ちが整っていると評判です」
「そう、実際見たいわね。お父様に言って許可をとりましょう。次男の『神童』様の進路は決まっているの?」
「はい。学園から生徒になってくれとの招聘が来ております」
「それなら同級生になる可能性があるわけね。陰ながら学園に通う事を応援する事は可能かしら?」
「可能ですがそれほどまでにご執心を?」
「そうね。私は優秀な子を産みたいもの」
「でしたらこの爺が陰ながら応援させて頂きます」
「頼むわね。お父様、早くこちらに戻ってこないかしら。私、『神童』様のお顔が見てみたいの」
「なるべく急ぐように伝えておきます」
「くそっ。ここでもスサン兄弟の歌を聞くとは」
私は憎々しげな顔で酒をあおった。
歌を聴きたくなくて、いつもの酒場を避け、痛む体を引きずりながらやっとのことで辿り着いた別の酒場で、また私はスサンの歌を聞く羽目になり、イラついていた。
脳裏に浮かぶのは悪辣な長男に狡猾な次男、そして何より無邪気さを装う邪悪な三男。そんな三人にやり込められた自分が許せなくて毎夜酒を呑むようになった。
どうにかしてやり返したい。この苦しみを味あわせたい。ギリギリと歯を食いしばりながら酒をまたあおる。
ふと見ると横に女が立っている。
「何があったんだい?」
と声をかけてくる女に私は知らず知らずのうちに私にあった事を喋っていた。
「そうかい。復讐したいんだね。なら私について来な」
女はそう言う。私にはもう失うものはない。一縷の望みをかけて女の後ろについていった。
「ふう」
日付が変わる少し前、男は今日はじめての食事にありつこうと酒場に入った。男は激務で疲れ果てていた。
彼は平民出身であるが、王宮勤めの文官をしている。だがその出自故、先輩達に仕事を山ほど押し付けられブラックな働き方をしているのだ。
先月は過労で倒れた。やっとのことで仕事復帰したら「たるんでいる」と言われ更に仕事が激増した。
もう限界だ。そう思っていたところに酒場の吟遊詩人が『スサン兄弟の歌』を歌いはじめる。
「こんな方々に仕えてみたい。仕事辞めてこの方々を探そうかな……」
男は酒場で一人呟いた。
とある商人と領主が宴会をしていた。それを守る一人の女は自分の人生を回想していた。女は寒村の出身で生きる為に奴隷となった。幸い、斧の才能に恵まれていた為慰み者にならずに済んだが、剣闘士として数多の闘いを繰り広げる羽目になった。飼い主の商人は食事の不自由はさせなかったが、常に勝つ事を強いられ辛い毎日を送った。毎日のように続けられるトレーニング、厳しい戦闘指導。絶えぬ生傷と人の命を奪う焦燥感。
そんな女にも年季が来て、もうすぐ自由となる日が来る。女の耳元に芸妓が歌う『スサンの歌』が聞こえる。女は三人に憧れた。自由になったら雇ってくれないかな。女はそう願った。
「ご苦労さま。明日からの君の人生に幸せがあるように祈るよ」
そう声をかけられた女は旅装で、片手に鞄、背中にリュックを背負い旅にでる格好をしていた。女は長年過ごした屋敷を出ると、何度も何度も振り返り乗り合い馬車の乗降場を目指した。
女は昨日までメイドで、若くしてある貴族のメイド頭として働いていた。有能な女は主人の手足となって辣腕をふるっていたが、次期当主である息子に目をつけられなぶりものにされそうになった。それに抵抗したが、その息子に傷を負わせてしまう。手打ちにされなかったのは長年の忠勤に対する主人の温情があったからで、女は宿下がりを余儀なくされた。
女の両親はすでにこの世になく、一人だ。女は目のついた乗合馬車に乗り込み旅に出た。途中、泊まった宿屋で女は『スサン兄弟の歌』を聞く。素晴らしい物語だった。
「私のお仕えしたい方々だわ」
女は呟き、行き先を変え、旅を始めた。
「スサン兄弟。調べれば調べるほど面白い」
男は商業ギルドの資料室で独りごちた。男は若くして商業ギルドの役職付きの職員で、最近『スサン兄弟の歌』を聞いてファンになったものの一人だ。調べてみるとルステインの有力な商会の息子達で最近その商会が色々な意味で注目の的になっていると知った。
「大規模な盗賊を退けてその次の日店を開ける胆力のある商会。その息子たちはそれぞれ得意分野があり、商業ギルドBランクの長男と王都学園が優秀生徒として招聘するほどの天才の次男はあの『商売の魔女』を失脚させ王国最年少で商業登録を実現させた。三男は最年少料理ギルドAランクで伯爵息女のご学友。貴族の横暴を跳ね除けたのも事実。面白い。実に面白い」
男は資料室を出て、ギルド長室、と書かれたドアをノックする。返事があり男はその部屋に入る。
「どうしたのかね?」
「はい。お願いがあります。ルステイン支部への転属を希望します。叶えられなかったら職を辞するつもりです」
「それで、わかったかしら?」
「はい。ルステインにあるスサン商会という商会の息子たちです。長男が17才、次男が14歳、三男が4歳。それぞれ面立ちが整っていると評判です」
「そう、実際見たいわね。お父様に言って許可をとりましょう。次男の『神童』様の進路は決まっているの?」
「はい。学園から生徒になってくれとの招聘が来ております」
「それなら同級生になる可能性があるわけね。陰ながら学園に通う事を応援する事は可能かしら?」
「可能ですがそれほどまでにご執心を?」
「そうね。私は優秀な子を産みたいもの」
「でしたらこの爺が陰ながら応援させて頂きます」
「頼むわね。お父様、早くこちらに戻ってこないかしら。私、『神童』様のお顔が見てみたいの」
「なるべく急ぐように伝えておきます」
「くそっ。ここでもスサン兄弟の歌を聞くとは」
私は憎々しげな顔で酒をあおった。
歌を聴きたくなくて、いつもの酒場を避け、痛む体を引きずりながらやっとのことで辿り着いた別の酒場で、また私はスサンの歌を聞く羽目になり、イラついていた。
脳裏に浮かぶのは悪辣な長男に狡猾な次男、そして何より無邪気さを装う邪悪な三男。そんな三人にやり込められた自分が許せなくて毎夜酒を呑むようになった。
どうにかしてやり返したい。この苦しみを味あわせたい。ギリギリと歯を食いしばりながら酒をまたあおる。
ふと見ると横に女が立っている。
「何があったんだい?」
と声をかけてくる女に私は知らず知らずのうちに私にあった事を喋っていた。
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