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ルステイン狂想曲。
子供達とのおやつの時間。
クッキーの香ばしい匂いが中庭を吹き抜ける風に混じって広がっていった。
僕が小さな籠を手にして戻るとツヴァイがもう子どもたちを何人か連れてきてくれていた。両脇には地精の双子と、ふわふわの耳を揺らす獣人の女の子。みんな泥だらけだった。
「ツヴァイ、ありがと。でも手を洗ってからじゃないと」
「フィアのところに連れていきます。あ、うさ耳ちゃんは葉っぱを食べてました」
「葉っぱ……?ああそういう癖なのかな。あとで家族に聞いてみるの」
種族が違えば、常識も違う。それが面白くて僕はたまらなく好きになった。
広場の反対側ではフィアが桶の前で手洗いを指導していて、ドライとゼクスが追いかけっこに興じる子たちの面倒を見ていた。アインスは登っていた荷車のそばで、転びそうな子をさりげなく支えていた。
「おやつの時間ですよー! 手を洗った子は集まってくださーい!」
フュンフが声を張り上げると、子どもたちは一斉に僕のほうを見て歓声を上げた。
「やったー!」
「クッキー! おかわりあるかな!?」
わあっと走ってくる足音と、種族の違う笑い声。ヒトの子、地精の子、獣人の子。それが混じり合って輪を作る。
この光景こそ僕が夢に描いていたものだった。
「こっちがくるみ入り、こっちは蜂蜜味だよ。大きいからひとり一枚ずつ、おかわりは一回までね」
僕は丁寧に配りながらみんなの顔を一人ずつ見ていく。知らないはずの言葉で笑い合い違う耳の形や皮膚の色に今は誰も驚いていない。
「こりゃあ祭りみたいですねえ、リョウ様」
アインスがぽつりとつぶやいた。
「うん、僕もそう思うの。これが僕の『実験』なのね。異なる種族が自然と交われる小さな世界をまず一つ作ってみたかったよ」
「実験にしちゃ、すごい規模で……」
ゼクスがクッキーをかじりながら苦笑する。
「でも長くは続かねえかもしれないっすよ? いつかぶつかることもある。親同士が反対するかもしれない」
「わかってるよ。でもだからこそ今のうちに形にするの。無理だって言われる前にやってしまう。そのあとで対処すればいいね」
僕がそう言うと、フィアが微笑んだ。
「あなたはそういう人ですね。見えない未来を先に信じて動いてしまう」
「信じることしかできないの。でも、道をつくることはできるね。種族と種族を繋ぐ『交易の道』を」
「我々もその道の一部として役に立ちやしょう」
アインスが胸に手を当てる。
「さておやつが終わったら、少しお昼寝の時間にしようか。ストークが簡易テントを用意してくれてるよ」
「わーい!」
「うたた寝するー!」
子どもたちがパタパタと走っていくのを見送っていたときだった。ストークが静かに僕のもとへと近づいてきた。
「リョウ様、大旦那様から伝言です。ロイック様が明日ルステインに戻られるとのこと」
「わかった。じゃあ、すぐに会議の予定を立てなきゃね」
ストークは懐の手帳を開いて、ぱらぱらとスケジュールを確認する。
「明日は…午前中が風精の森路設計の会議でございます。それから午後は地精工房の視察、夜に家族会議ですね。学校は…お休みの届出をいたします。必要があれば我々が分担いたしますので遠慮なくお申し付けを」
ストークのその言葉に、青の技のみんなも軽く頷いてくれた。
そして、風がふわりと吹いた。
その風に乗るように、ラシェルアルテが姿を現した。
「いい風が吹いていますわ。子どもたちの笑い声が森の精霊を誘っています」
ラシェルアルテは静かに僕のそばに歩み寄り、目を細める。
「アコントッドも、明日の会議に魔法道具の試作を持参されます。魔力の『道標』を森に設置し、獣や獣人たちが安全に通れるようにする案もまとまってきました」
「ありがと。トッドアコック氏族の技術が加われば、輸送は森を越えられるの。これは大きな一歩」
「でも、忘れないで。風は気まぐれ。あなたの想いが、真に森と調和するものであるかどうか、それを私たちは見定めています」
「見定めてくれてかまわないよ。僕は、人と人を繋ぎたいの。その先に、人の『進化』があると信じてるからね」
ラシェルアルテは、ふっと口元に微笑を浮かべた。
「…風は、あなたに味方している。そう、風精伯も言っていた。『この子の背に宿る気は、争いよりも秩序を求めている』と」
「やっぱりそれは…たぶん、ナビのせいだよ」
「にゃにゃっ」
僕の肩のそばで飛んでいたナビが小さく鳴いた。それだけで、ラシェルの厳しい表情も少し緩んだ。
この世界の未来は、僕一人の力で変えられるわけじゃない。だけど今、この場には僕の想いに応えてくれる人がたくさんいる。
僕の家族。地精。風精。そして獣人。
異なる種族が集い、笑い、力を合わせる拠点。それが、ここルステインに築かれようとしている。物流の中心にして、多種族の橋となる町。
これは、きっと始まりなんだ。
「…よし、じゃあ明日の準備、みんなよろしくね!」
僕が小さな籠を手にして戻るとツヴァイがもう子どもたちを何人か連れてきてくれていた。両脇には地精の双子と、ふわふわの耳を揺らす獣人の女の子。みんな泥だらけだった。
「ツヴァイ、ありがと。でも手を洗ってからじゃないと」
「フィアのところに連れていきます。あ、うさ耳ちゃんは葉っぱを食べてました」
「葉っぱ……?ああそういう癖なのかな。あとで家族に聞いてみるの」
種族が違えば、常識も違う。それが面白くて僕はたまらなく好きになった。
広場の反対側ではフィアが桶の前で手洗いを指導していて、ドライとゼクスが追いかけっこに興じる子たちの面倒を見ていた。アインスは登っていた荷車のそばで、転びそうな子をさりげなく支えていた。
「おやつの時間ですよー! 手を洗った子は集まってくださーい!」
フュンフが声を張り上げると、子どもたちは一斉に僕のほうを見て歓声を上げた。
「やったー!」
「クッキー! おかわりあるかな!?」
わあっと走ってくる足音と、種族の違う笑い声。ヒトの子、地精の子、獣人の子。それが混じり合って輪を作る。
この光景こそ僕が夢に描いていたものだった。
「こっちがくるみ入り、こっちは蜂蜜味だよ。大きいからひとり一枚ずつ、おかわりは一回までね」
僕は丁寧に配りながらみんなの顔を一人ずつ見ていく。知らないはずの言葉で笑い合い違う耳の形や皮膚の色に今は誰も驚いていない。
「こりゃあ祭りみたいですねえ、リョウ様」
アインスがぽつりとつぶやいた。
「うん、僕もそう思うの。これが僕の『実験』なのね。異なる種族が自然と交われる小さな世界をまず一つ作ってみたかったよ」
「実験にしちゃ、すごい規模で……」
ゼクスがクッキーをかじりながら苦笑する。
「でも長くは続かねえかもしれないっすよ? いつかぶつかることもある。親同士が反対するかもしれない」
「わかってるよ。でもだからこそ今のうちに形にするの。無理だって言われる前にやってしまう。そのあとで対処すればいいね」
僕がそう言うと、フィアが微笑んだ。
「あなたはそういう人ですね。見えない未来を先に信じて動いてしまう」
「信じることしかできないの。でも、道をつくることはできるね。種族と種族を繋ぐ『交易の道』を」
「我々もその道の一部として役に立ちやしょう」
アインスが胸に手を当てる。
「さておやつが終わったら、少しお昼寝の時間にしようか。ストークが簡易テントを用意してくれてるよ」
「わーい!」
「うたた寝するー!」
子どもたちがパタパタと走っていくのを見送っていたときだった。ストークが静かに僕のもとへと近づいてきた。
「リョウ様、大旦那様から伝言です。ロイック様が明日ルステインに戻られるとのこと」
「わかった。じゃあ、すぐに会議の予定を立てなきゃね」
ストークは懐の手帳を開いて、ぱらぱらとスケジュールを確認する。
「明日は…午前中が風精の森路設計の会議でございます。それから午後は地精工房の視察、夜に家族会議ですね。学校は…お休みの届出をいたします。必要があれば我々が分担いたしますので遠慮なくお申し付けを」
ストークのその言葉に、青の技のみんなも軽く頷いてくれた。
そして、風がふわりと吹いた。
その風に乗るように、ラシェルアルテが姿を現した。
「いい風が吹いていますわ。子どもたちの笑い声が森の精霊を誘っています」
ラシェルアルテは静かに僕のそばに歩み寄り、目を細める。
「アコントッドも、明日の会議に魔法道具の試作を持参されます。魔力の『道標』を森に設置し、獣や獣人たちが安全に通れるようにする案もまとまってきました」
「ありがと。トッドアコック氏族の技術が加われば、輸送は森を越えられるの。これは大きな一歩」
「でも、忘れないで。風は気まぐれ。あなたの想いが、真に森と調和するものであるかどうか、それを私たちは見定めています」
「見定めてくれてかまわないよ。僕は、人と人を繋ぎたいの。その先に、人の『進化』があると信じてるからね」
ラシェルアルテは、ふっと口元に微笑を浮かべた。
「…風は、あなたに味方している。そう、風精伯も言っていた。『この子の背に宿る気は、争いよりも秩序を求めている』と」
「やっぱりそれは…たぶん、ナビのせいだよ」
「にゃにゃっ」
僕の肩のそばで飛んでいたナビが小さく鳴いた。それだけで、ラシェルの厳しい表情も少し緩んだ。
この世界の未来は、僕一人の力で変えられるわけじゃない。だけど今、この場には僕の想いに応えてくれる人がたくさんいる。
僕の家族。地精。風精。そして獣人。
異なる種族が集い、笑い、力を合わせる拠点。それが、ここルステインに築かれようとしている。物流の中心にして、多種族の橋となる町。
これは、きっと始まりなんだ。
「…よし、じゃあ明日の準備、みんなよろしくね!」
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