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ルステイン狂想曲。
エメイラ不在の家族会議。
スサン商会の会議室、今日は特別な空気に包まれていた。
いつもは商会の幹部や現場の責任者たちが集うこの部屋に、今集っているのは家族のみ。今日はエメイラはラシェルアルテと話し合うと言って出かけている。だからこそこの場の静けさは、外の虫の声すら遠ざけているようだった。
「さて、揃ったな」
父、ハッセルエンがゆっくりと椅子に腰を下ろし、視線を部屋の全員に配った。僕の隣には兄、ロイックエン・スサン。背筋を伸ばして座るその姿は穏やかだが、時折その目に見える芯の強さは、『英傑』として王国でも有名だった。
「リョウ。今回はお前の提案を皆で聞こうと思う。運送商会の設立構想だったな?」
「うん」
僕は頷いて、席の前に置かれた簡易な地図を広げた。そこにはルステインを中心とした、獣人の自治領、地精の自治領、風精の自治領、王都までを網の目のように結ぶ物流網の案が記されている。
「これが、僕の考える『繋ぐ道』なの。物資だけじゃないね。人も想いも文化も運ぶの。それをこの商会が担えたらって思ってる」
「まぁ素敵、リョウは色々考えてるわね」
マリカ姉さんが言う。彼女はロイックの妻であり、商会の外部交渉にも強い。
「素晴らしい構想でございます、リョウ。実現のためには、相応の資金と人員、そして信頼の積み重ねが必要となりますね」
静かに補足したのはケリィ姉さん。整った口調に、数字と交渉の裏付けが見え隠れする。彼女は商会の財務部門においてロイックを支える、影の立役者だ。
「…たぶん、それだけじゃない。あの道を使う者たちが、ちゃんと『こころ』を通わせなきゃ。でないと…獣人の子たちは、また森で孤立する…」
ジェンが低い声で呟くように言う。その視線の先には、地図の端に描かれた獣人の自治領があった。
そして、その三人の嫁たちのやりとりを静かに聞いていたのが、僕たちの母…ハノン。その柔らかな微笑みと視線には、一族の母としての威厳が宿っている。
「リョウ…あなたの言う『繋ぐ』という言葉の重さ、私は感じ取っているつもりよ。でも、それはあなた一人では背負いきれない。だから、家族がいるのでしょう?」
僕はその言葉に、少し息を吐いた。そうだ。父もロイック兄さんも、そしてお姉さんたちも、母も。僕を支えてくれる人が、ちゃんとここにいる。
「ロイック兄さん。どう思う?」
僕の問いかけに、ロイック兄さんは静かに地図を見つめながら言った。
「リョウ、確かにこれは大きな構想だ。だが、リョウならやり遂げられるよ。獣人との関係も、風精との協力も、そして地精との技術連携も、すべて土台は整いつつある」
その声に嘘はなかった。ロイック兄さんは僕より遥かに経験があり、現場を知っている。そんな兄が『可能だ』と言ってくれたのが、何よりも心強かった。
「ただし…支店の拡張、人員の再配置、王都との調整。このすべてが必要になる。それを無理にやれば、商会の本体が揺らぐ。そこは慎重にいこう」
「わかった」
兄は頷いた。父も同じく、穏やかな眼差しで言った。
「商会の未来だけではなく、ルステインの未来、いや王国の形を変える一歩かもしれんぞ、これは」
僕は椅子に深く座り直した。周囲を見渡すと、そこには未来を信じてくれる人たちの顔があった。
「…やってみるの。絶対にやってみせるの。僕たちならできる」
お母さんが穏やかに微笑む。
「リョウ。あなたの願いは、単なる商いじゃないのね」
「うん、僕は『届けたい』の。ものも、想いも、人の優しさも」
「あら、リョウまるで詩人みたい」
マリカ姉さんなんかごめん。ケリィ姉さんは頷いて柔らかい声で補った。
「輸送事業はただの物流ではありません。動かすものの先に、必ず『誰か』がいる。そのことを忘れなければ、この構想はきっと成功します」
「…責任を分かち合える人が集まっている。それが一番大事だと思うわ」
ロイック兄さんが言う。
「……リョウの考えは明確だ。僕たちがすべきは、それを現実に落とし込むことだな」
父のハッセルエンも小さく頷く。
「そうだな。異種族間の契約、税制との兼ね合い、都市圏との路線調整…することは山積みだ。だが、『難しい』は『できない』ではない」
「リョウ、お前が今のうちに形にしておけば、十年、百年後に誰かがその上に更なる未来を築くだろう」
ロイック兄さんは父と視線を交わし、そして僕を真っ直ぐ見た。
「僕が王都支店の体制を見直す。オープン前だ。なんとでもなる」
「ありがとう、ロイック兄さん!」
僕が思わず立ち上がると、マリカ姉さんがふふっと笑う。
「まあ、あなたったら可愛い。感謝を言う相手が多すぎて大変ですわね」
「…お祝いの食卓、今から考えておく?」
「それなら、私、焼き菓子をたくさん用意しておきますね」
「みんな…ありがとう」
僕の声に、皆の表情が一瞬和らいだ。けれど、お母さんだけが真剣な眼差しで僕を見つめ続けていた。
「リョウ、最後に一ついい?」
「うん」
「あなたが異種族をつなごうとしていること、それ自体は素晴らしい。でも…『つなぐ』って、簡単じゃないの。信頼を築くには、時間も、痛みも、覚悟もいるのよ?」
その言葉に、僕は自然と背筋を伸ばしていた。お母さんは僕の瞳を覗き込むように語る。
「あなたはまだ六歳。でも、その目には『未来』がある。それなら、私たち大人は、その未来が倒れないように支える。ただし、その未来を守る覚悟だけは、自分で持ちなさい。いい?」
「…うん。絶対、持つよ」
いつもは商会の幹部や現場の責任者たちが集うこの部屋に、今集っているのは家族のみ。今日はエメイラはラシェルアルテと話し合うと言って出かけている。だからこそこの場の静けさは、外の虫の声すら遠ざけているようだった。
「さて、揃ったな」
父、ハッセルエンがゆっくりと椅子に腰を下ろし、視線を部屋の全員に配った。僕の隣には兄、ロイックエン・スサン。背筋を伸ばして座るその姿は穏やかだが、時折その目に見える芯の強さは、『英傑』として王国でも有名だった。
「リョウ。今回はお前の提案を皆で聞こうと思う。運送商会の設立構想だったな?」
「うん」
僕は頷いて、席の前に置かれた簡易な地図を広げた。そこにはルステインを中心とした、獣人の自治領、地精の自治領、風精の自治領、王都までを網の目のように結ぶ物流網の案が記されている。
「これが、僕の考える『繋ぐ道』なの。物資だけじゃないね。人も想いも文化も運ぶの。それをこの商会が担えたらって思ってる」
「まぁ素敵、リョウは色々考えてるわね」
マリカ姉さんが言う。彼女はロイックの妻であり、商会の外部交渉にも強い。
「素晴らしい構想でございます、リョウ。実現のためには、相応の資金と人員、そして信頼の積み重ねが必要となりますね」
静かに補足したのはケリィ姉さん。整った口調に、数字と交渉の裏付けが見え隠れする。彼女は商会の財務部門においてロイックを支える、影の立役者だ。
「…たぶん、それだけじゃない。あの道を使う者たちが、ちゃんと『こころ』を通わせなきゃ。でないと…獣人の子たちは、また森で孤立する…」
ジェンが低い声で呟くように言う。その視線の先には、地図の端に描かれた獣人の自治領があった。
そして、その三人の嫁たちのやりとりを静かに聞いていたのが、僕たちの母…ハノン。その柔らかな微笑みと視線には、一族の母としての威厳が宿っている。
「リョウ…あなたの言う『繋ぐ』という言葉の重さ、私は感じ取っているつもりよ。でも、それはあなた一人では背負いきれない。だから、家族がいるのでしょう?」
僕はその言葉に、少し息を吐いた。そうだ。父もロイック兄さんも、そしてお姉さんたちも、母も。僕を支えてくれる人が、ちゃんとここにいる。
「ロイック兄さん。どう思う?」
僕の問いかけに、ロイック兄さんは静かに地図を見つめながら言った。
「リョウ、確かにこれは大きな構想だ。だが、リョウならやり遂げられるよ。獣人との関係も、風精との協力も、そして地精との技術連携も、すべて土台は整いつつある」
その声に嘘はなかった。ロイック兄さんは僕より遥かに経験があり、現場を知っている。そんな兄が『可能だ』と言ってくれたのが、何よりも心強かった。
「ただし…支店の拡張、人員の再配置、王都との調整。このすべてが必要になる。それを無理にやれば、商会の本体が揺らぐ。そこは慎重にいこう」
「わかった」
兄は頷いた。父も同じく、穏やかな眼差しで言った。
「商会の未来だけではなく、ルステインの未来、いや王国の形を変える一歩かもしれんぞ、これは」
僕は椅子に深く座り直した。周囲を見渡すと、そこには未来を信じてくれる人たちの顔があった。
「…やってみるの。絶対にやってみせるの。僕たちならできる」
お母さんが穏やかに微笑む。
「リョウ。あなたの願いは、単なる商いじゃないのね」
「うん、僕は『届けたい』の。ものも、想いも、人の優しさも」
「あら、リョウまるで詩人みたい」
マリカ姉さんなんかごめん。ケリィ姉さんは頷いて柔らかい声で補った。
「輸送事業はただの物流ではありません。動かすものの先に、必ず『誰か』がいる。そのことを忘れなければ、この構想はきっと成功します」
「…責任を分かち合える人が集まっている。それが一番大事だと思うわ」
ロイック兄さんが言う。
「……リョウの考えは明確だ。僕たちがすべきは、それを現実に落とし込むことだな」
父のハッセルエンも小さく頷く。
「そうだな。異種族間の契約、税制との兼ね合い、都市圏との路線調整…することは山積みだ。だが、『難しい』は『できない』ではない」
「リョウ、お前が今のうちに形にしておけば、十年、百年後に誰かがその上に更なる未来を築くだろう」
ロイック兄さんは父と視線を交わし、そして僕を真っ直ぐ見た。
「僕が王都支店の体制を見直す。オープン前だ。なんとでもなる」
「ありがとう、ロイック兄さん!」
僕が思わず立ち上がると、マリカ姉さんがふふっと笑う。
「まあ、あなたったら可愛い。感謝を言う相手が多すぎて大変ですわね」
「…お祝いの食卓、今から考えておく?」
「それなら、私、焼き菓子をたくさん用意しておきますね」
「みんな…ありがとう」
僕の声に、皆の表情が一瞬和らいだ。けれど、お母さんだけが真剣な眼差しで僕を見つめ続けていた。
「リョウ、最後に一ついい?」
「うん」
「あなたが異種族をつなごうとしていること、それ自体は素晴らしい。でも…『つなぐ』って、簡単じゃないの。信頼を築くには、時間も、痛みも、覚悟もいるのよ?」
その言葉に、僕は自然と背筋を伸ばしていた。お母さんは僕の瞳を覗き込むように語る。
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