【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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ルステイン狂想曲。

エメイラとラシェルアルテ。

 木々の間を歩く二人のエルフ。片方は、森の祝福をその身に宿したかのような女性…エメイラヒルデ。もう一人は、歳月の重みと共に練り上げられた思慮深さを湛えるラシェルアルテ。風精エルフ伯の参謀にして、その言葉はしばしばこの国の風精エルフたちの方針を決める力を持つ。
 だが今ラシェルアルテはその気配を控えめにし先を歩くエメイラを見守るように付き従っていた。

「…静かね。この林も、きっと変わっていく」

 エメイラが立ち止まり、振り返ることなくそう言った。声に威圧はなくとも、その背には確かな威厳があった。

「はい。この林も、そして我ら風精エルフも、変わりつつあります。あの少年の存在が、それほどの風を呼んでいるのでしょう」
「リョウエスト…あの子が描いている世界は、あまりにも速すぎる。けれど、私は信じている」

 エメイラが緩やかに振り返り、ラシェルに視線を向ける。その瞳には、慈しみと同時に、静かな炎が宿っていた。

「リョウはまだ幼い。人々を導く才がある。子どもたちの笑顔の意味を、獣人ビーストマンたちの能力の価値を、そして風精エルフの技の未来を、あの年齢で理解している…それは奇跡に近いわ」
「奇跡、ですか」

 ラシェルは小さく口元を緩めた。それは嘲笑ではなく、どこか懐かしむような笑みだった。

「昔、私も同じような言葉を言いました。今のエルフ伯がまだ若き領主だった頃。彼がアネーシャ神様の天啓を語り、戦よりも導きの時代が来ると言ったとき、誰もがそれを『奇跡』と呼びました。しかし、時は流れ、それが現実になった…ならば、あの少年もまた、歴史の起点なのかもしれません」

 エメイラは深く頷いた。

「私はこの国の風精エルフではない。でも、私には責任がある。彼の隣に立つと決めた以上、風精エルフとして、そしてあの子の師匠でありあの子を愛おしく思う者として、この新しい時代に対して正面から向き合わなければならない」
「…立派なお考えです」

 ラシェルの声にははっきりと敬意が滲んでいた。立場こそエメイラが上だが、彼女の言葉に耳を傾ける理由はそれだけではなかった。彼女の目に己を超えて未来を見据える覚悟が宿っていたからだ。

「ラシェルアルテ。あなたから見て風精エルフたちは今、この流れに乗れると思う?」

 問いかけは優しく、それでいて重い。ラシェルアルテは少しだけ目を伏せ、答えを探るように言葉を選ぶ。

「正直に申しますと……まだ半信半疑の者が多いかと。人の営みとエルフの時の流れはあまりに違い、今まで幾度も裏切られてきた記憶があります。ですが、エメイラヒルデ様。あなたが我々と共にある限り、風精たちはあなたを信じて動くでしょう」
「ありがとう、ラシェルアルテ。あなたのような人がいてくれて、私は本当に救われているわ」

 そう言って、エメイラは小さく微笑んだ。幼き愛しき者を想う微笑みでもあり、ルステインの民を思う誇りでもあった。

「リョウは今、いくつもの民族を結ぼうとしている。地精ドワーフ獣人ビーストマン風精エルフ。それらを運ぶ輸送路の先には、まだ見ぬ未来がある。その未来を共に歩くために私たち風精エルフも準備をしなくては」
「すでに、トッドアコック氏族が動いております。アコントッドが、魔法道具や輸送用魔術の共同開発に着手したと」
「ええ。彼の報告も受けているわ。あの人は優秀ね。必要ならば私も設計支援をするつもり」
「それは心強い」

 しばしの沈黙。風が二人の間を通り過ぎ、木々がざわめく。その音の中に、何か新しい鼓動が紛れているような気さえした。

「……リョウのことを見守ってやって。私はできる限り力になるけれど、彼が選ぶ道は時として困難も伴うでしょう」
「もちろんです。参謀としてでなく、一人の風精エルフとして彼の志を支えます。アネーシャ神様の御導きがあったとはいえそれを現実にするのは、あの子自身の意志なのですから」
「ええ。私もそれを信じてる…たとえ未来がまだ霧の中でも」

 二人は並んで歩き出す。かつて孤高を保っていた風精エルフたちが、今新たな秩序の風の中に足を踏み入れようとしていた。
 その第一歩を見守るのは未来を託された者たちの目であり、心であり、そして愛だった。
 林の小道を進むにつれ、風の香りが変わった。どこか懐かしく、そして新しい命の息吹を感じさせる空気に、ラシェルがそっと足を止めた。

「…このあたり、精霊たちが集まり始めていますね」
「ええ。きっと時代の転換を察しているのね。この辺りの木々は昔まばらにしか生えてなかったの。アネーシャ神様の意思が感じられるわ。風精エルフの国を出て精霊の存在を忘れかけてたけどここはいるかもしれないわね」

 その視線の先に、一本の樹がそびえていた。幹に蔦が絡み、枝には白い小花が咲き乱れている。ラシェルアルテはその根元に近づき、静かに膝をついた。

「…この樹は、五百年もここに立ち続けています。風の変化を知るには、うってつけの存在。私には、わかるのです。今、精霊たちは『肯定』の風を送っている」
「つまり、リョウの描く未来を、森の精霊たちも祝福している?」
「はい。それでも、まだ危うさも残ります。エメイラヒルデ様。あの少年には…あなたの導きが、きっと必要になる」

 エメイラは静かに歩み寄り、ラシェルアルテの隣に立った。そして、蔦の絡む老樹に手を添える。

「導くというより…私は、彼の隣に立ち続けたいの。肩を並べて、彼と同じ未来を見たいだけ。私は、彼のすべてを信じている。だから、あなたも信じて。ラシェルアルテ。共に行きましょう」
「…はい。喜んで」

 二人の間に吹いた風は、柔らかく、どこか温かかった。森はそれを受け入れ、そっと光を落とした。
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