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ルステイン狂想曲。
獣人隊商の初実装試験。
獣人たちによる、運送路の実装試験がはじまる。地精たちが作った荷車に、風精たちが魔法の印を刻み魔法道具化し、そこへ獣人たちが獣を導いていく。種族を越えて作り上げたこの『道』が、本当に世界を変えるものになるのか…その一歩目が、今始まろうとしていた。
僕は小さな木笛を取り出し、ひと息、吹いた。
キュイーーという甲高い音が森に響く。すぐに、木立の奥から大きな影が現れた。斑模様のヤクに似た獣がゆっくりと現れ、その背には灰色の毛並みをした獣人の青年が乗っていた。大狼がその横で警護についている。
「出発します!」
力強い彼の声に周囲の空気が震える。合図と共に隊列が動き出した。獣人たちの指示で獣たちは見事な統制のもと森の中を進み始めた。手綱はない。あるのは声と笛そして心のつながりだけ。大狼達は油断なく周りを見て、ヤク牛は獣人達の心に寄り添っている。
見ていた僕の胸の奥がじんと熱くなる。まるで、獣たちが森の一部になったかのようだった。
「…見事だな」
ロイック兄さんの低い声が聞こえた。いつも穏やかな彼の目が、今日ばかりは本気で光っていた。
その隣にはお父さん。さらに、兄さんの三人の奥さんたち…マリカ姉さん、ケリィ姉さん、そしてジェンがそれぞれの感想を口にしていた。
「すごいわ! まるで舞踏会の騎士たちの行進です!」
「静粛で、かつ統制された動き…運送の理想形に近いです」
「…すごい。獣、苦しんでない。…優しい」
みんなが見守る中、獣人たちの隊列は、森の斜面を登っていった。そこには、風精のアコンキットが刻んだ魔法道具の道標がいくつも配置されている。彼らの技術によって、森の中でも迷わぬ道が整えられていた。
問題の地点…ぬかるんだ小渓谷にさしかかったとき、カレグがすぐに隊を止めた。何も言わずとも獣たちは停止し、静かに立ち尽くす。続いて、ブルッグとボリビエ率いるドワーフ技師たちが前に出て橋を敷き始める。
「何度も練習してきた工程だ。お前達しっかりやれよ」
「あたしの計算通りならうまくいくはずだ。ちゃんとやりな」
「「おう」」
地精達は手早く作業していく。
「橋、完成しました!」
その声を受けて、隊が再び動き出す。ぬかるみの上にかかる簡素な木材の道…それでも、獣たちはまったく乱れることなく、荷車を引いて渡っていった。
「…これで、成功だな」
兄さんの言葉に、僕は小さく頷いた。けれど、胸の中にはまだほんの少しの緊張が残っていた。
午後、運送隊は無事にルステインのドワーヴンベースへ戻ってきた。
運ばれたのは、食料や薬草、織物や金属部品…すべて、森を通れば従来よりも2日は早く届けられる計算だった。
ミザーリが腕を組みながら呟いた。
「主よ、これが継続できれば…新しい商流が本当に動き出す」
獣人たちは、誇らしげな顔をしていた。彼らにとっても、ルステインに来てから初めての大きな仕事だった。そしてそれは、しっかりと結果を出した。
「リョウ、お前…」
兄さんが言葉に詰まったあと、そっと僕の頭を撫でた。
「よくやったな。お前のやっていることが本当に未来を変えるかもしれない」
「ありがと、ロイック兄さん。でも、僕一人の力じゃないの。獣人の皆が、『この道を使いたい』って思ってくれた。それが、何より嬉しいんだ」
兄さんは黙って僕を見ていた。そして、小さく息をついて、こう言った。
「…お前は本当に、俺たちが思っている以上に遠くを見てる。今回のルートもそうだが、これが終わりじゃないだろう?」
「うん。たとえば、雨の時は? 夜間走行は? 魔物への対策、補給拠点の整備…課題は山ほどあるの。でも、それでも僕は『進む』って決めたんだ」
「なら、俺も手伝う。これは、もうお前一人の夢じゃない。商会全体の方針として動かすよ」
その晩、工房のサロンでは、ささやかな祝賀と次の課題の検討が並行して行われていた。長机には森で採れた果実を錬金術でワインにしたものや、僕とフィグさんが作った香草焼きが並べられていたが、皆の目は資料と地図に釘付けだった。
「夜間走行については、風精の道標魔法道具を改良できます」
と、アコントッドが丁寧な口調で話す。
「光源ではなく『方向の気配』を送る印があれば、獣もそれに従って動けます。光で目を眩ませることなく、魔物も刺激しません」
「それはありがたいの」
と僕は言った。
「でも魔物の出現率は夜に高くなるから、護衛体制も強化する必要がある」
「大狼を更に増やすか」
とジレイガが言う。
「人間顔負けだな」
皆が軽く笑ったが、空気は真剣だった。地精のヂョウギは、補給地点について紙に鉛筆で線を引きながら言った。
「現状一晩で運びきれる距離は限られている。だったら途中に『森の補給小屋』を建てるべきですな。水と飼料の備蓄庫、それに仮眠所が必要です」
「許可は?」
と兄さんが聞いた。
「私が風精に交渉してみましょう…この道を持続可能にするには、そういう『中継の知恵』が要ります」
僕はその言葉に、力強く頷いた。
異種族の知恵と力が、少しずつ『ひとつの未来』に向かって重なり始めている。それをこの目で見て、肌で感じることができた。
「…ありがとう、みんな」
自然と口から出たその言葉に、誰もが応えるように微笑んだ。僕たちの挑戦はまだ始まったばかりだ。
僕は小さな木笛を取り出し、ひと息、吹いた。
キュイーーという甲高い音が森に響く。すぐに、木立の奥から大きな影が現れた。斑模様のヤクに似た獣がゆっくりと現れ、その背には灰色の毛並みをした獣人の青年が乗っていた。大狼がその横で警護についている。
「出発します!」
力強い彼の声に周囲の空気が震える。合図と共に隊列が動き出した。獣人たちの指示で獣たちは見事な統制のもと森の中を進み始めた。手綱はない。あるのは声と笛そして心のつながりだけ。大狼達は油断なく周りを見て、ヤク牛は獣人達の心に寄り添っている。
見ていた僕の胸の奥がじんと熱くなる。まるで、獣たちが森の一部になったかのようだった。
「…見事だな」
ロイック兄さんの低い声が聞こえた。いつも穏やかな彼の目が、今日ばかりは本気で光っていた。
その隣にはお父さん。さらに、兄さんの三人の奥さんたち…マリカ姉さん、ケリィ姉さん、そしてジェンがそれぞれの感想を口にしていた。
「すごいわ! まるで舞踏会の騎士たちの行進です!」
「静粛で、かつ統制された動き…運送の理想形に近いです」
「…すごい。獣、苦しんでない。…優しい」
みんなが見守る中、獣人たちの隊列は、森の斜面を登っていった。そこには、風精のアコンキットが刻んだ魔法道具の道標がいくつも配置されている。彼らの技術によって、森の中でも迷わぬ道が整えられていた。
問題の地点…ぬかるんだ小渓谷にさしかかったとき、カレグがすぐに隊を止めた。何も言わずとも獣たちは停止し、静かに立ち尽くす。続いて、ブルッグとボリビエ率いるドワーフ技師たちが前に出て橋を敷き始める。
「何度も練習してきた工程だ。お前達しっかりやれよ」
「あたしの計算通りならうまくいくはずだ。ちゃんとやりな」
「「おう」」
地精達は手早く作業していく。
「橋、完成しました!」
その声を受けて、隊が再び動き出す。ぬかるみの上にかかる簡素な木材の道…それでも、獣たちはまったく乱れることなく、荷車を引いて渡っていった。
「…これで、成功だな」
兄さんの言葉に、僕は小さく頷いた。けれど、胸の中にはまだほんの少しの緊張が残っていた。
午後、運送隊は無事にルステインのドワーヴンベースへ戻ってきた。
運ばれたのは、食料や薬草、織物や金属部品…すべて、森を通れば従来よりも2日は早く届けられる計算だった。
ミザーリが腕を組みながら呟いた。
「主よ、これが継続できれば…新しい商流が本当に動き出す」
獣人たちは、誇らしげな顔をしていた。彼らにとっても、ルステインに来てから初めての大きな仕事だった。そしてそれは、しっかりと結果を出した。
「リョウ、お前…」
兄さんが言葉に詰まったあと、そっと僕の頭を撫でた。
「よくやったな。お前のやっていることが本当に未来を変えるかもしれない」
「ありがと、ロイック兄さん。でも、僕一人の力じゃないの。獣人の皆が、『この道を使いたい』って思ってくれた。それが、何より嬉しいんだ」
兄さんは黙って僕を見ていた。そして、小さく息をついて、こう言った。
「…お前は本当に、俺たちが思っている以上に遠くを見てる。今回のルートもそうだが、これが終わりじゃないだろう?」
「うん。たとえば、雨の時は? 夜間走行は? 魔物への対策、補給拠点の整備…課題は山ほどあるの。でも、それでも僕は『進む』って決めたんだ」
「なら、俺も手伝う。これは、もうお前一人の夢じゃない。商会全体の方針として動かすよ」
その晩、工房のサロンでは、ささやかな祝賀と次の課題の検討が並行して行われていた。長机には森で採れた果実を錬金術でワインにしたものや、僕とフィグさんが作った香草焼きが並べられていたが、皆の目は資料と地図に釘付けだった。
「夜間走行については、風精の道標魔法道具を改良できます」
と、アコントッドが丁寧な口調で話す。
「光源ではなく『方向の気配』を送る印があれば、獣もそれに従って動けます。光で目を眩ませることなく、魔物も刺激しません」
「それはありがたいの」
と僕は言った。
「でも魔物の出現率は夜に高くなるから、護衛体制も強化する必要がある」
「大狼を更に増やすか」
とジレイガが言う。
「人間顔負けだな」
皆が軽く笑ったが、空気は真剣だった。地精のヂョウギは、補給地点について紙に鉛筆で線を引きながら言った。
「現状一晩で運びきれる距離は限られている。だったら途中に『森の補給小屋』を建てるべきですな。水と飼料の備蓄庫、それに仮眠所が必要です」
「許可は?」
と兄さんが聞いた。
「私が風精に交渉してみましょう…この道を持続可能にするには、そういう『中継の知恵』が要ります」
僕はその言葉に、力強く頷いた。
異種族の知恵と力が、少しずつ『ひとつの未来』に向かって重なり始めている。それをこの目で見て、肌で感じることができた。
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自然と口から出たその言葉に、誰もが応えるように微笑んだ。僕たちの挑戦はまだ始まったばかりだ。
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