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7歳の駈歩。
7歳の誕生日。
王都コリントにあるルステイン伯爵家のタウンハウス…重厚な石造りの屋敷には、早朝から召使たちが出入りし、普段より華やかに整えられていた。今日は、僕の7歳の誕生日。そして、社交シーズンのただ中である今日、上級貴族から届いた祝意は去年よりも一層盛大なものとなっていた。
「リョウ様、お誕生日おめでとうございます」
ストークが、朝食の配膳をしながら静かに頭を下げる。ストークの後ろでは、ミザーリが湯気の立つハーブティーのポットを大事そうに持っている。火の民のミザーリは、今日は侍女の服装を身にまとい、尻尾の先を慎重に隠していた。
「ありがとう、ストーク。ミザーリもありがとう。今日は何か特別な料理が出るの?」
「ええ、もちろんです。キッチンでは朝から料理番たちが奮闘中でございます。あちらのお重も、皆さまからのお届け物ですよ」
ストークが指さした先には、金銀の包み紙にくるまれた大小さまざまな贈り物の山が並んでいた。王国でも名のある貴族たち…公爵家、侯爵家、果ては王宮の高位官吏に至るまで、僕の誕生日に品物を送ってきたのだ。子供の誕生日とは思えないほどの豪奢さに、ストークは何度も「品目目録」の確認に追われていたらしい。
「それにしても、こんなに…。これ、きっとスクワンジャー侯爵家の印だ」
僕は一際目を引く赤い宝石がちりばめられた箱に目をとめた。王都屈指の宝石の産地であるスクワンジャー家の品であれば、間違いなく希少な石を用いている。まさか7歳の僕にこんな贈り物が届くとは。
「坊ちゃま、お姉さまがお着きになったようです」
扉の向こうから控えの召使が声をかけてくる。僕は思わず椅子を蹴って立ち上がった。
「ミシェ姉さんが着いたの!? ほんとに!?」
「ええ、しかも旦那様もご一緒ですよ。ラーモン・ニメイジ様が」
タウンハウスの玄関ホールまで駆け出すと、そこには淡いブルーのドレスをまとったミシェ姉さんの姿があった。以前と変わらぬ優雅な笑顔が僕に向けられ、その隣にはラーモンさんが立っていた。ラーモンさんは次期男爵で、ミシェ姉さんの夫だ。
「ミシェ姉さん!」
「リョウ!ああ、こんなに背が伸びて…お誕生日おめでとう、私の自慢の弟!」
ミシェ姉さんは僕を両手で抱きしめ頬ずりしてから花束を手渡してくれた。花束の中心には、錬金術で輝きを保つ夜明けの花アーリースターが飾られていた。
「これはね、特別な意味があるの。『変革の光』っていうのよ。今のリョウにぴったりでしょう?」
「ありがとう、ミシェ姉さん。ラーモンさんもありがとう!」
ラーモン様はにこやかに頷くと、従者が運び入れた重箱を指さして言った。
「リョウエスト君には、我が家の秘蔵の陶器を贈ろう。『安らぎの宿』が出来てから陶工たちが贅沢な材料を使い腕によりをかけて作り上げたものだ。君の料理にふさわしい陶器になったはずだ。」
うれしさがこみ上げて僕は何度もお礼を言った。
そして、応接室へと案内されると、そこにはすでにルステイン伯爵のマックスさんと、その奥方レイアムさんが待っていた。
「おお、主役の登場だな。リョウ7歳のお誕生日を心から祝おう」
「ありがとう、マックスさん!いつも色々助けてくれて…ほんとうにありがとう!」
「君には貸しもあるし、借りもある。だが今日はそういう話は抜きだ。今日は君の日だ、リョウエスト」
マックスさんは、穏やかな笑みの中にどこか大人の信頼を込めた眼差しをくれる。そして、隣のレイアムさんが柔らかく包むように僕の手を取った。
「これは私たち夫婦から。リョウのために特注した、旅用の小型書見机と、香りの変わる紙ですのよ」
「えっ、香りの変わる紙?」
「そう。リョウのようにたくさんの手紙をやり取りする方にはぴったりでしょ?書いた文字に反応して書き手の気分にあった香りがほんのり漂うのよ。エルフの香術師と相談して作ったの。商業登録してあるからスサン商会でまた扱ってね」
「すごい…ありがとうレイアムさん!」
その後も、お客様は次々にやってきて祝辞と贈り物が運び込まれていく。伯爵家の給仕たちも、目を丸くしながら応対に追われていた。
けれど僕は、その一つ一つがうれしくてたまらなかった。社交の世界は難しいことばかりだけれど、こうして気持ちのこもった贈り物や、家族の笑顔を見ると、やっぱり頑張ってきてよかったと思える。
最後に届けに来たのは、王宮からの使者だった。銀色の封筒に金の紋章。そして、王の直筆による短い手紙。
『若き才ある料理番に、王は敬意と感謝を表す……ドナハルト・ロ・コリント』
ストークがそれを読み上げたとき、僕は思わず背筋を伸ばした。
七歳の誕生日。それは、ただの祝いの日じゃない。僕にとっては、これからも人のために、自分の好きなものを作り、守り、広げていく…その責任を再確認する日だった。
僕の胸には確かな決意が芽生えていた。
「…さあ、今年はもっとすごい料理ともっと楽しい道具を作るよ。きっとね」
「リョウ様、お誕生日おめでとうございます」
ストークが、朝食の配膳をしながら静かに頭を下げる。ストークの後ろでは、ミザーリが湯気の立つハーブティーのポットを大事そうに持っている。火の民のミザーリは、今日は侍女の服装を身にまとい、尻尾の先を慎重に隠していた。
「ありがとう、ストーク。ミザーリもありがとう。今日は何か特別な料理が出るの?」
「ええ、もちろんです。キッチンでは朝から料理番たちが奮闘中でございます。あちらのお重も、皆さまからのお届け物ですよ」
ストークが指さした先には、金銀の包み紙にくるまれた大小さまざまな贈り物の山が並んでいた。王国でも名のある貴族たち…公爵家、侯爵家、果ては王宮の高位官吏に至るまで、僕の誕生日に品物を送ってきたのだ。子供の誕生日とは思えないほどの豪奢さに、ストークは何度も「品目目録」の確認に追われていたらしい。
「それにしても、こんなに…。これ、きっとスクワンジャー侯爵家の印だ」
僕は一際目を引く赤い宝石がちりばめられた箱に目をとめた。王都屈指の宝石の産地であるスクワンジャー家の品であれば、間違いなく希少な石を用いている。まさか7歳の僕にこんな贈り物が届くとは。
「坊ちゃま、お姉さまがお着きになったようです」
扉の向こうから控えの召使が声をかけてくる。僕は思わず椅子を蹴って立ち上がった。
「ミシェ姉さんが着いたの!? ほんとに!?」
「ええ、しかも旦那様もご一緒ですよ。ラーモン・ニメイジ様が」
タウンハウスの玄関ホールまで駆け出すと、そこには淡いブルーのドレスをまとったミシェ姉さんの姿があった。以前と変わらぬ優雅な笑顔が僕に向けられ、その隣にはラーモンさんが立っていた。ラーモンさんは次期男爵で、ミシェ姉さんの夫だ。
「ミシェ姉さん!」
「リョウ!ああ、こんなに背が伸びて…お誕生日おめでとう、私の自慢の弟!」
ミシェ姉さんは僕を両手で抱きしめ頬ずりしてから花束を手渡してくれた。花束の中心には、錬金術で輝きを保つ夜明けの花アーリースターが飾られていた。
「これはね、特別な意味があるの。『変革の光』っていうのよ。今のリョウにぴったりでしょう?」
「ありがとう、ミシェ姉さん。ラーモンさんもありがとう!」
ラーモン様はにこやかに頷くと、従者が運び入れた重箱を指さして言った。
「リョウエスト君には、我が家の秘蔵の陶器を贈ろう。『安らぎの宿』が出来てから陶工たちが贅沢な材料を使い腕によりをかけて作り上げたものだ。君の料理にふさわしい陶器になったはずだ。」
うれしさがこみ上げて僕は何度もお礼を言った。
そして、応接室へと案内されると、そこにはすでにルステイン伯爵のマックスさんと、その奥方レイアムさんが待っていた。
「おお、主役の登場だな。リョウ7歳のお誕生日を心から祝おう」
「ありがとう、マックスさん!いつも色々助けてくれて…ほんとうにありがとう!」
「君には貸しもあるし、借りもある。だが今日はそういう話は抜きだ。今日は君の日だ、リョウエスト」
マックスさんは、穏やかな笑みの中にどこか大人の信頼を込めた眼差しをくれる。そして、隣のレイアムさんが柔らかく包むように僕の手を取った。
「これは私たち夫婦から。リョウのために特注した、旅用の小型書見机と、香りの変わる紙ですのよ」
「えっ、香りの変わる紙?」
「そう。リョウのようにたくさんの手紙をやり取りする方にはぴったりでしょ?書いた文字に反応して書き手の気分にあった香りがほんのり漂うのよ。エルフの香術師と相談して作ったの。商業登録してあるからスサン商会でまた扱ってね」
「すごい…ありがとうレイアムさん!」
その後も、お客様は次々にやってきて祝辞と贈り物が運び込まれていく。伯爵家の給仕たちも、目を丸くしながら応対に追われていた。
けれど僕は、その一つ一つがうれしくてたまらなかった。社交の世界は難しいことばかりだけれど、こうして気持ちのこもった贈り物や、家族の笑顔を見ると、やっぱり頑張ってきてよかったと思える。
最後に届けに来たのは、王宮からの使者だった。銀色の封筒に金の紋章。そして、王の直筆による短い手紙。
『若き才ある料理番に、王は敬意と感謝を表す……ドナハルト・ロ・コリント』
ストークがそれを読み上げたとき、僕は思わず背筋を伸ばした。
七歳の誕生日。それは、ただの祝いの日じゃない。僕にとっては、これからも人のために、自分の好きなものを作り、守り、広げていく…その責任を再確認する日だった。
僕の胸には確かな決意が芽生えていた。
「…さあ、今年はもっとすごい料理ともっと楽しい道具を作るよ。きっとね」
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